インセイン「心中」

マルチジャンルホラーRPG・インセインのフリーシナリオです。
人間と人間が一緒に死のうとするシナリオです。

2018.3.10:公開
2018.5.11:シナリオ背景に関する説明を追加、ハンドアウトの表記を微修正
2018.9.1:狂気カードに関する項目を改訂

「心中」
シナリオタイプ:特殊型
セッティング:本当は怖い現代日本
PL人数:2
リミット:4
使用ルールブック「インセイン」「インセイン2デッドループ」

 慌ただしく人の行き交う駅の構内——事前に決めた待ち合わせ場所で、あなたたちはお互いの姿を認める。
 衣服の隙間から染み込むような冬の寒さは、人間をどこか無関心にさせるようだ。ゆっくりと互いに歩み寄るあなたたちに関心を払うものは、どこにもいない。
 もしもどちらかが約束を破れば、あなたたちはどこにも行かなかったかもしれない。そのまま家に帰って、また昨日の続きを始めたかもしれない。
 だが、そうはならなかった。
 足元だけを見つめて行き過ぎていく人びとはだれも知らないことだが、

 ……あなたたちは今日、死にに行くのだ。

●ハンドアウト
PC1
あなたは何もかもが嫌になってしまった。
だが、ひとりで死ぬのはどうしようもなく怖い。
あなたの【使命】はPC2と一緒に死ぬことだ。
あなたは、PC2に対して任意のプラスの【感情】を取得している。

PC2
あなたはある日、PC1に「一緒に死のう」と持ちかけられた。
別に死ぬ気はなかったが、PC1とならそれもいいかもしれない。
あなたの【使命】はPC1と一緒に死ぬことだ。
あなたは、PC1に対して任意のプラスの【感情】を取得している。

 【感情】の内容についてはセッションの開始前に自由決定し、PL間で共有してください。
 PC間の関係性に制限はありません。恋人、家族、友人、ただの顔見知り、それ以外等、なんでも構いません。ただ一緒に死ぬことさえできれば。





———以下GM情報———






●シナリオ背景
 この世界は昏睡状態に陥っているPC2が見ている夢です。PC2はもう何年も同様の状態であり、身体的にかなり衰弱しています。本シナリオにおいて夢から覚めることができなければ、遠からず死を迎えることでしょう。そうなれば、PC2の命もろとも世界は終焉を迎えることになります。
 PC1はシナリオの開始前にシナリオ内と同一の理由で自殺を図り、PC2と同じく昏睡状態で入院しています。PC1の意識は同じ病院にいるPC2の夢と接続し、溶け合っていますが、PC1はそれを認識しておらず、自殺未遂についても覚えていません。
 クライマックスフェイズで生命力が0になったPCは死亡します。すなわち、精神の死とともに現実における肉体が限界を迎え、生命活動が停止したことを意味します。

 シナリオの舞台となる世界はすべて虚構であり、生還のための手がかりは存在しません。ハンドアウトの調査によってPCが得られるのは、死ぬためのものだけです。PC2の【秘密】に最初から記載されているとおり、この世界は互いの存在以外無意味なまぼろしなのです。
 【使命】の衝突を起こすことなく生還するための手段は、PCたちが最初からすでに手にしています。ですが、互いの抱える【秘密】に踏み込まずにただ一緒にいるだけでは、この世界から生きて帰ることはできません。
 まぼろしに気を取られたばかりに救いたかったものを失うか、それともこぼれ落ちる前に手を伸ばすことができるか——それがこのシナリオの要となります。

●難易度について
 このシナリオでは毎サイクル時限ハンドアウトが公開されます。この状態で生還の鍵となるPCHOに手を伸ばす心理的難易度は非常に高くなります。
 PLのプレイスタイルによっては生還難易度の上昇が理不尽に感じられるレベルになるかもしれません。そこで、いくつかの難易度緩和のための方法を提示しておきます。必要に応じて取り入れてください。

・「闇からの祝福」
 デッドループ選択ルール「狂気の調整」を使用し、「闇からの祝福」を山札の上部に設置します。
 難易度は大幅に緩和されますが、予定調和的な生還になりかねないことに留意してください。

・補助判定
 第3サイクルに入ってもお互いのPCHOに手を伸ばす気配が感じられないならば、《情景》で補助判定を行わせてください。
 どちらかが成功したならば、「景色が書割のように感じられる」「こんな場所に意味などあるのだろうか?」等の情報を出します。《夢》で恐怖判定を行わせるのもよいかもしれません。

●狂気カード
「暴露」「望郷」+他8枚
 このシナリオでは、「暴露」のトリガーを「自分がスペシャルかファンブルになる」に変更してください。
※上記の難易度緩和を取り入れない場合は、「闇からの祝福」を山札に入れないことを推奨します。このシナリオでは、相手の【秘密】に自分から手を伸ばすという行為を重要視しているためです。

●駅命名表
 各サイクルの開始時に1D6を2回振って駅名を決定し(2回で1セット扱い)、駅名ハンドアウトに書き込んで公開します。すでに出たものと同じ結果が出た場合は新しいものが出るまで振り直してください。
 また、行為判定ではありませんが、お守りを使用することで振り直しが可能です。
 PLに振ってもらうことを推奨します。
(以下非公開情報)
 この駅命名表はプレイヤーがすぐに参照できる形で常に公開しておいてください。
 「プライズ:キティの鍵」で駅名決定ダイスロールの結果を変更することで、能動的にPC1の【本当の使命】を更新することができます。「お守りを使用することで振り直しができる」というルールは駅名決定の結果を変更可能であるということへのヒントになっています。
 ただし、何もしていないのにPC1の【本当の使命】が変更されてしまう可能性は常にあります。奇跡が起きても慌てないように心の準備だけはしておきましょう。
 所詮1/36なので結構出ます。10×10くらいまで水増しするとそうそう出なくなるので慌てたくない場合は各自で増やしてください。

[駅命名表1]
1:潮
2:海
3:凪
4:波
5:大
6:魚

[駅命名表2]
1:浜
2:ヶ丘
3:崎
4:守
5:田
6:島

●導入フェイズ
 PCたちは自宅の最寄駅で待ち合わせて電車に乗り込みます。
 最寄駅であるにもかかわらず一度も利用したことのない路線、行ったことのない駅。PCたちが知っているのは、終着駅は海の近くだということだけです。
 「大学ノート」「音楽プレイヤー」および最初の駅のハンドアウトを公開します。
 PCはお互いの【居所】を獲得します。

●メインフェイズ
 PCたちの乗った電車はサイクルの始めに駅に到着し、終了時に発車します。
 駅のハンドアウトはそのサイクルに対応したものか調査の対象にできません。

・ゾーキング
 シナリオで規定するゾーキング情報はありません。
 夢の中ですから、なにか不条理なできごとを起こしてみるのもよいでしょう。
 運転士や駅員に話しかけた場合、人間味の薄い無感動な対応をします。彼らが夢の世界の背景に過ぎない存在だからです。

・マスターシーン
「止まる電車」
発生条件:PC1が「大学ノート」の【秘密】を獲得する(第4サイクルでは発生しない)
タイミング:第2サイクルまではそのサイクルの終了時、第3サイクルの場合はそのシーンの終了時
登場人物:全員
 PC1が「大学ノート」の【秘密】を獲得したサイクル(第3サイクルの場合は獲得したシーン)の終了時に発生するマスターシーンです。同時にマスターシーン「諦め」が発生する場合は「諦め」を優先し、このマスターシーンは発生しません。
 走行している列車が突然緊急停止し(第3サイクルの場合は車内放送が流れ)、「線路内への立ち入りが確認されたため、現在安全確認を行っております。運転再開までいましばらくお待ちください」とアナウンスが流れます。
 PC1の脳裏には、かつて自殺をはかった記憶が蘇ります。しかし、それがいつのことだったのか、そのあと自分がどうなったのかはどうしても思い出すことができません。
 PC全員に《驚き》で恐怖判定を行うように指示してください。
 PC1は、「プライズ:一度目の記憶」を手に入れます。
 しばらくののち、安全が確認されたとアナウンスが流れ、電車は再び動き始めます。

「混線する虚実」
発生条件:PC2が「音楽プレイヤー」の【秘密】を獲得する(第4サイクルでは発生しない)
タイミング:そのサイクルの終了時
登場人物:全員
 PC2が「音楽プレイヤー」の【秘密】を獲得したサイクルの終了時に発生するマスターシーンです。同時にマスターシーン「諦め」が発生する場合は「諦め」を優先し、このマスターシーンは発生しません。
 まだ発車して間もないというのに、どこからかひどく雑音混じりのアナウンスが流れ始めます。
「…………不明……いつまで…………」
「もう……年…………このままでは……」
「諦め………………」
「もう時間がありません」
 ほとんど聞き取れないようなアナウンスは、最後に奇妙なほどはっきりとした言葉を残して唐突に沈黙します。
 普通に考えればただの機器の不具合か何かでしょうが、PCたちはそれがまるで自分に対して語りかけられた言葉であるかのように感じます。
 PC全員に《時間》で恐怖判定を行うよう指示してください。

「諦め」
発生条件:第3サイクルの終了までにPC2がPC1の【秘密】を獲得していない
タイミング:第3サイクルの終了時
登場人物:全員
「次は終点——駅です。どなた様もお忘れ物のないように……」
 なんの変哲もない車内放送にふと雑音が混じります。がりがりとノイズに塗りつぶされたアナウンスは一度完全に聞こえなくなった後、何事もなかったかのように復旧します。ただし、その声は先ほどまでの声とは明らかに違う人物になっています。
「…………が大変多くなっております。もう、諦めてください」
 哀れみと慈しみの混ざったような声がPCたちにそう語りかけ、沈黙します。
 PC全員に《愛》で恐怖判定を行うよう指示してください。
 PC2は、「プライズ:諦念」を手に入れます。

●クライマックスフェイズ
 第4サイクルが終了するとクライマックスフェイズに移行します。
 電車の発車ベルが鳴り、PCたちの乗ってきた電車が元来た方向へと発車しようとします。
 ふと線路のほうを見ると、終着駅の先へ雑草に覆われた廃線が続いているのが見えます。マスターシーン「混線する虚実」または「諦め」が発生していた場合、PC2には、それが世界の果て——夢の終わりへ続いていることがわかります。
 PCたちが取りうる行動としてGMから提示することができるのは、「海へ向かう」「電車に乗り込み元来た場所へ戻る」「廃線の先へ向かう」の三つです。
 PC1とPC2の【使命】が初期状態から変更されていない場合は、選択をPCに委ねずシーンの場所を海へ移してください。

▼海へ向かう
 終着駅の外に出たPCたちの耳に、どこからか潮騒が届きます。誘われるように足を踏み出せば、ほんの数歩のうちに眼前には灰色の海が広がり、駅舎ははるか彼方に遠ざかっています。
 足元の断崖から身を投じれば、確実に命を絶つことができるでしょう。
 「儀式シート:心中」を公開し、エネミー【灰色の海】との戦闘を開始します。この戦闘で生命力が0点になったPCは海に投げ出され、死亡します。
 戦闘の終了条件は「儀式の完遂」または「PC全員の脱落」です。
 エネミーは基本攻撃を使用せず、錯乱や狂気の濁流を狙って行動します。また、エネミーが戦闘からの脱落を妨害することはありません。PCが脱落の妨害を宣言する場合のみ、【引き止める海風】を使用して補助を行うことを推奨します。
 PCの片方のみが自発的な脱落に成功し、もう片方が残ることを選択した場合は、残ったほうのPCの同意があればそのまま戦闘を終了させても構いません。

▼電車に乗り込む
 滞りなく電車は発車します。戦闘は発生せず、エンディングへ移行します。

▼廃線の先へ進む
 PCたちは夢から醒めることになります。戦闘は発生せず、エンディングへ移行します。

 「▼電車に乗り込む」「▼廃線の先へ進む」で戦闘が発生しないことを物足りなく感じる場合や、PCのどちらかの【秘密】が明らかになっておらず、本人が回想を使う機会を必要としている場合、エネミー【崩れ落ちる夢】、「儀式シート:手を繋ぐ」を使用しても構いません。その場合、戦闘の終了条件は「儀式の完遂」です。

●結末
▼「儀式:心中」を完遂した
 PCたちはひとりの右手首とひとりの左手首をあわせてくくり、崖から眼下の海へと飛び降ります。
 冷たい水がふたりを押し包み、果てのない水底へと呑み込んでいきます。くくられた手首のおかげで離れることはなく、ただどこまでも、ただふたりきりで沈んでゆくことができるでしょう。
 どこか遠い世界で、ふたりの心臓が止まるまでの間は。

▼クライマックスフェイズで狂気の濁流が起こった
 なんの前触れもなく突然足元の地面が消え、PCたちは空中へと投げ出されます。やがて灰色の海がふたりを迎えるでしょう。
 逆巻く波に呑まれ、互いがどこにいるのかもわからぬまま、PCたちは沈んでゆきます。
 沈んでゆくのはPCたちばかりではありません。電車が、駅が、空が、地面が、すべてがだまし絵のようにちぎれてほどけ、もろともに海中へと没していきます。
 夢の世界は狂気の濁流によって押し流され、PCたちの命もろとも終わりを迎えます。

▼電車に乗り込んだ
 PCたちは冷たい海に呑まれることはなく、電車に乗って元来た場所へと帰ります。いつのまにか窓の外はしろく曖昧に溶けて崩れ、電車は何もない空間をゆるゆると走っています。
 けれど、何も心配することはありません。PCたちは望んだ日常へと帰ることができるでしょう。その結末が、おだやかな死であったとしても。

▼ひとりで廃線の先へ進んだ
 PCは病院のベッドの上で目を覚まします。自由に動かない体の重みが、これが夢ではなく現実なのだと突きつけてきます。
 夢の中で誰かと一緒だった気もしますが、それももう今では定かではありません。

▼ふたりで廃線の先へ進んだ
 PCたちは病院のベッドの上で目を覚まします。自由に動かない体の重みが、これは夢ではなく現実なのだと突きつけてきます。
 PC1が死を選ぶに至った理由は何も解決していませんし、現実の世界は灰色の揺籃よりもずっとつめたく厳しいでしょう。ですが、PCたちは生きることを選びました。
 電車も海も互いの姿もまぼろしと消え、やさしい夢は二度と戻ってはきません。ただ、抱いた【感情】だけが確かなものです。

●【使命】の達成
PC1
「PC2と一緒に死ぬ」
 ├「儀式:心中」を完遂する
 └PC2とともに電車に乗る
「PC2とともに帰還する」
 ├PC2とともに電車に乗る
 └PC2ともに廃線の先へ進む

PC2
「PC1と一緒に死ぬ」
 ├「儀式:心中」を完遂する
 └PC1とともに電車に乗る
「PC1と一緒に夢から醒める」
 └PC1とともに廃線の先へ進む
「夢から醒める」
 └廃線の先へ進む(PC1が同行するかどうかは問わない)

●ハンドアウト
PC1
あなたは何もかもが嫌になってしまった。
だが、ひとりで死ぬのはどうしようもなく怖い。
あなたの【使命】はPC2と一緒に死ぬことだ。
あなたは、PC2に対して任意のプラスの【感情】を取得している。
【秘密】
ショック:なし
あなたはひとつ、賭けをした。
もしも死出の旅路の途中、いままで乗ったこともない路線で、あの駅と同じ名前の駅を見つけたら、そのときは……。
1D6を2回振って駅名を決定する。
セッション中、決定したものと同じ駅名を目にしたとき、あなたの【本当の使命】はPC2とともに帰還することになる。
あなたは「プライズ:紙片」を所持している。

「プライズ:紙片」
あなたのした賭け。その答え。
所有者は自由に【秘密】を見ることができる。
【秘密】
ショック:なし
あなたの字で「(事前決定した駅名)」と書かれている。

PC2
あなたはある日、PC1に「一緒に死のう」と持ちかけられた。
別に死ぬ気はなかったが、PC1とならそれもいいかもしれない。
あなたの【使命】はPC1と一緒に死ぬことだ。
あなたは、PC1に対して任意のプラスの【感情】を取得している。
【秘密】
ショック:PC1
この世界はあなたの夢だ。あなたはずっと醒めない夢の中にいる。
すべてはあなたの作り出したまぼろしで、ここではきっとあなたに都合のいいことしか起こりはしない。
けれど、PC1だけは違うのかもしれない。
そう持ちかけられるまで、あなたは死のうだなんて思ったことはなかったのだから。
あなたの【本当の使命】は、この夢から醒めることだ。
ただし、プラスの【感情】を取得しているキャラクターがいる場合は、あなたの【本当の使命】はそのキャラクターとともにこの夢から醒めることになる。
この【秘密】を獲得したキャラクターは、《夢》で恐怖判定を行う。
あなたは「プライズ:キティの鍵」を所持している。

「プライズ:キティの鍵」
アンティーク調の小さな鍵。黒い子猫のモチーフがついている。
所有者は自由に【秘密】を見ることができる。
【秘密】
ショック:なし
このプライズをPC2が所有している場合、セッション中に一度だけあらゆるダイスの目を望む出目に変更できる。この効果によって決定された出目は、以降いかなる効果によっても覆されない。
このプライズを使用した際、所有者の正気度が正気度の現在値と同じだけ減少する。

「  駅」
終着駅まではまだ遠い。列車のすれ違いの関係で5分ほど停車するようだ。
ホームにも駅舎にも人影はない。
このハンドアウトは、第1サイクルの間のみ調査することができる。
【秘密】
ショック:なし
拡散情報。
駅舎の壁には色あせた張り紙がされている。
「当路線の列車はすべてワンマン運行です。一両目前側のドアからの乗降にご協力ください。落し物等については停車中にお問い合わせください」
ハンドアウト「運転士」を公開する。

「  駅」
寂しい雰囲気の駅舎の軒下に、帽子を被った人影が立っているように見える。
このハンドアウトは、第2サイクルの間のみ調査することができる。
【秘密】
ショック:なし
拡散情報。
近づいてみると、人影に見えたのはあなたの背丈ほどのマガジンラックと、それにひっかけられた子供用らしき帽子だった。
マガジンラックにはよれた観光案内の小冊子が入っている。終着駅のすぐ近くには眺めのいい崖があるようだ……。
この【秘密】を獲得したキャラクターは、クライマックスフェイズで「儀式:心中」に挑戦することができる。

「  駅」
もうすぐ終着駅だ。
ドアのすぐ近くに自販機がある。少しならホームに出ても戻ってこられそうだが……。
このハンドアウトは、第3サイクルの間のみ調査することができる。
【秘密】
ショック:なし
自動販売機で飲み物を買うと、取り出し口に畳んだ画用紙のようなものが挟まっていた。
広げてみると、クレヨンで描かれた電車の絵だ。電車の外は黒いクレヨンで執拗に塗りつぶされている。
この【秘密】を調査したキャラクターは、鎮痛剤を1つ獲得する。

「  駅」
終着駅だ。折り返し運転を行うため、あなたたちが乗ってきた電車はホームに停車している。
周囲に人影はないが、駅員室には明かりがついている。駅員が常駐しているようだ。
このハンドアウトは、「プライズ:預り証」を所持していないと調査判定の対象にできない。
【秘密】
ショック:なし
愛想のない駅員が、あなたの持つ預り証を一瞥して奥からなにかを取り出してきた。
それにしてもこの駅員、運転士とふたごのようによく似ている。
このハンドアウトを調査したPCは、「プライズ:身代わり人形」を獲得する。

「プライズ:身代わり人形」
手のひらサイズの人形。頭部にボールチェーンがついている。
まじまじと見ていると、なんだか自分自身に似ているような気がして不気味だ。
所有者は自由に【秘密】を見ることができるが、情動分野のランダムな特技で恐怖判定を行う必要がある。
【秘密】
ショック:なし
このプライズの所有者が生命力または正気度が2点以上減少するとき、一度だけその値を1D6点軽減してもよい。ただし、この効果によって減少値を0点以下にすることはできない。

「大学ノート」
網棚の上に載せられた大学ノート。
誰かの忘れ物だろうか?
【秘密】
ショック:全員
これは遺書だ。
死へと向かう誰かの意志が書き連ねられている。署名はなく、誰のものかはわからない。
……本当に?
この【秘密】を獲得したキャラクターは、《死》で恐怖判定を行う。

「音楽プレイヤー」
座席に落ちていた音楽プレイヤー。
誰かの忘れ物だろうか?
【秘密】
ショック:全員
ずっとなにかの曲が再生され続けている。好奇心からイヤホンを耳に近づけてみると、音が聞こえてくる。
一定間隔で鳴り続ける、電子的な単音。なんだか薄気味が悪い。
やがて唐突にぶつりと音が途切れた。電池切れのようだ。
……そういえばさっきの音は、あなたの心音とまったく同じ間隔で鳴ってはいなかっただろうか?
この【秘密】を調査したキャラクターは、《電子機器》で恐怖判定を行う。

「運転士」
制帽を目深にかぶった運転士。
停車中は運転席の外へ出てくる。少しなら話ができそうだ。
【秘密】
ショック:なし
運転士はあなたに「落し物でしたら——駅の駅員室でお預かりしています」と無愛想に言う。駅名はよく聞き取れなかったが、おそらく終着駅のことだろう。
落し物……そう言われると、何か落としたような……?
この【秘密】を調査したPCは「プライズ:預かり証」を獲得する。

「プライズ:預かり証」
(「運転士」を調査したPCの名前)と名前が書かれた預かり証。
特定のハンドアウトを調査した際にこのプライズを所持していると、落とし物を受け取ることができる。
このプライズに【秘密】はない。

「プライズ:一度目の記憶」
不意に蘇ったあなたの記憶。
このプライズは譲渡できず、戦果の対象として選択することもできない。
所有者は自由に【秘密】を見ることができる。
【秘密】
ショック:全員
あなたはかつて自殺を図った。
それがいつだったか、どういう結果に終わったのかはどうしても思い出せない。……だが、いまこうしているということは、きっと失敗したのだろう。
だが、あなたは思い出した。今度こそきっと、うまくやれるはずだ。
このプライズの所持者は、クライマックスフェイズの儀式判定を一度だけ自動成功させることができる。
この【秘密】に対して感情による情報共有を行うことはできない。

「プライズ:諦念」
病室で交わされる会話。あなたの周りに停滞するもの。
このプライズは譲渡できず、戦果の対象として選択することもできない。
所有者は自由に【秘密】を見ることができる。
【秘密】
ショック:PC2
現実世界の人々は本当に自分が目覚めることを望んでいるのだろうか?
もう誰もかれも諦めてしまって、自分を待つことをやめてしまっているのではないだろうか?
……自分も、諦めてしまったほうが楽になれるのではないだろうか?
どうしようもない諦念があなたの心を蝕み始める。
このプライズの所有者は、【本当の使命】を達成することを諦めてもよい。
その場合、あなたの【本当の使命】は消失する。
この【秘密】に対して感情による情報共有を行うことはできない。

●エネミー
【灰色の海】※ダムド
脅威度:5
属性:現象
生命力:20
好奇心:知覚
特技:《憂い》《哀しみ》《情景》《深海》
アビリティ:【基本攻撃】攻撃/《深海》
【海鳥の聲】攻撃/《哀しみ》/目標ひとりを選び、命中判定を行う。目標が回避判定に失敗すると、正気度に1D6から目標の顕在狂気の数を引いた値だけダメージを与える(最低0)。
【憂鬱な潮騒】サポート/《憂い》/支援行動。目標ひとりを選ぶ。目標は指定特技で判定を行い、失敗した場合潜在狂気からランダムで1枚選んで顕在化させる。潜在狂気を持っていない場合は、情動分野のランダムな特技で恐怖判定を行う。
【引き止める海風】装備/なし/逃走判定に判定妨害を行うことができる。
解説:精神の底に広がる無意識の大海。呑み込んだものに心地よい眠りを与える灰色の揺籃。

【崩れ落ちる夢】※ダムド
脅威度:3
属性:現象
生命力:18
好奇心:怪異
特技:《愛》《死》《夢》
アビリティ:【基本攻撃】攻撃/《夢》
【■■の■】攻撃/《哀しみ》/目標ひとりを選び、命中判定を行う。目標が回避判定に失敗すると、正気度に1D6から目標の顕在狂気の数を引いた値だけダメージを与える(最低0)。
【■■■■■】サポート/《憂い》/目標ひとりを選ぶ。目標は指定特技で判定を行い、失敗した場合潜在狂気からランダムで1枚選んで顕在化させる。潜在狂気を持っていない場合は、情動分野のランダムな特技で恐怖判定を行う。
解説:崩壊する世界。夢の終わり。曖昧なすがた。

●儀式
「儀式:心中」
段階1:靴を脱ぐ
 参加条件:全員
 指定特技:《整理》
 ペナルティ:なし
段階2:手首をくくる
 参加条件:全員
 指定特技:《緊縛》
 ペナルティ:失敗時、生命力-1
※この段階に成功すると、PCはお互いからの攻撃に対して回避判定を行えなくなる。エネミーからの攻撃には有効
段階3:崖から飛び降りる
 参加条件:全員
 指定特技:《死》
 ペナルティ:正気度-1

「儀式:手を繋ぐ」
段階1:手を握る
 参加条件:全員
 指定特技:《手触り》
 ペナルティ:なし

●シーン表
海へ向かう電車シーン表(2D6)
2:なかなか電車のドアが開かないと思ったら、開閉ボタンを押し忘れていた。シーンプレイヤーは《恥じらい》で恐怖判定を行う。
3:こうして電車に乗っていると、昔のことを思い出すような気がする……。
4:暖房が直に当たってふくらはぎが熱い。効きすぎじゃないだろうか?
5:ポケットの中で携帯電話が震えた気がする。
6:なんとなく窓を開けてみた。暖房で火照った頬に風が心地よい……いや、普通に寒い。
7:座席の下に缶コーヒーが置いてある。マナーの悪いやつもいたものだ。
8:手すりに引っかけられた持ち主不明のビニール傘。天気予報はどうだったっけ……?
9:窓の桟の中で蜻蛉が死んでいる。
10:カンカンカンカン——遠くからかすかに踏切の警報音が聞こえる。
11:憂鬱な曇天から、綿ぼこりのようなものがちらほらと舞い落ちてくる。雪だ。
12:網棚から何か落ちてきた。これは……お守りだ。シーンプレイヤーはお守りを1つ獲得する。

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