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あなたは誰ですか?

職場の異動を繰り返していると、以前同じ課だったり、近くの課だったりして、仕事上の関わりがあった人と、再度巡り会うことも珍しくなく。

今のフロアにも、そういう人が少なからずいて、そのうちの一人は、今から20年ほど前に同じ課、さらに今から4年前に隣の課にいた同期の男性で、かつて、同じ課だったときに、何か仕事の押し付け合いのようなことになったんだったかどうだったか、すでにディティールの記憶はないのですが、いずれにせよ、それで険悪な雰囲気になってしまって、関係の修復ができないまま、今に至っているという人。

ちなみに、私にはこういう人(険悪な雰囲気になって関係修復ができないまま放置している人)が何人かいて、そもそも、関係修復ができないということ自体は、ひとえに自分の意固地な性格ゆえなのですが、ただ、異動というシステムがあると、修復しないままにサヨウナラができてしまうんですよね(とはいえ、今回のように、「はい、宿題まだ片付けてないでショ」とばかりに、再会の機会が与えられることもままあるわけで…)。

さて、その彼、4年前と同じく、今回も課が別なので、業務で直接的に関わることがないのが幸いだな、と思って安心していたのですが、先日、フロア内にある、複数課が共用しているコピー機の前で、私がプリントアウトした資料の出力を待っていたら、件の彼がコピーをしにやってきました。

うわ、嫌だなー、気まずいなー、早々に立ち去ろう、と頭の中でグルグルと独り言をつぶやいていたら、なんと、向こうから「ふふふ」と笑いかけてくるではないですか!

え。何これ。どういうこと? と、今度は別の意味で頭の中がグルグル。

どうやら「お久しぶり!」みたいな意思表示らしいのですが、まぁ、意地を張り続けることにかけては右に出る者なしのツワモノであるところの私(笑)、ここで日和ってなるものかとばかりに、「…お疲れさま(うつむきがちに小声で)」とボソッとつぶやいて、とっとと自席に戻ったものの、うーん、せっかく笑顔を向けてきてくれてたのに、ガッカリさせただろうか… きちんと相手するべきだったか… どうしてこうも子どもじみたことをしてしまうんだろうか… などと、盛大な一人反省会開始。

まぁでも、無理に愛想よくしても、結局うまくいかないのが常だし、あれでよかったんだ、ということにしておこう! と無理やり結論づけて、早々に反省会終了。

そしてその数日後、今度は、会議室の使用予約の件で、どうしてもその彼と話をせざるを得ない事態が生じてしまい、かつ、向こうが先に予約を入れている会議室の使用権を、こっちに譲ってもらえないかという交渉が必要という難易度の高さ。

20年前の意地の張り合いが頭をかすめ、うわー、絶対「こっちが先に予約してるんだから、譲るいわれはない!」とかいって断られるんだろうなぁ、うー、憂鬱だ… でも他に道はないし… とグズグズしていたのですが、えいや!と一念発起、険悪な雰囲気になっても、平常心を保てるように努力しようと心に決めて、恐る恐る声をかけてみました。

私「あの… 申し訳ないけど、この会議室のこの枠、うちの課に譲ってもらえることってできるかな…」
彼「(めちゃめちゃ優しい声で)あっ、えぇっと、うんうん、たぶん大丈夫。ちょっと待って…(と言いながら、後輩の男子に確認しに行く)」

え。何これ。どういうこと? と、再度頭の中がグルグル。
あなたは一体誰ですか?

結局、何ひとつもめることなく、その場ですんなりと譲ってもらえました。

私の記憶の中の彼は、「相当な意地っ張りのケチな利かん坊」だったので、こんな人だったっけ?と軽くパニック(笑)
確かに、当時から子どもみたいに無邪気なところがあったので、コピー機前での「ふふふ」も、今回の応対も、うん、まぁそうかもな、という感じではありましたが…

最初にもめてから、すでに20年も経っていますし、私が意識しすぎていただけで、向こうとしては、何とも思っていなかったというだけのことなんでしょうけれども、なんというか、自分の切り替えの悪さというか、こだわりの強さというか、そういうものを目の当たりにした感じで、今さら親のことを持ち出しても仕方がないのですが、これは、「今泣いたカラスがもう笑った」的な感情の切り替えをよしとしなかった母の影響だなー、と。

私の幼少期、気持ちの切り替えが早い父のことを、母は心底毛嫌いしていて、たとえば、二人で大ゲンカをしていても、父は長く引きずらない一方で、母は執念深くいつまでも恨んでいるんですよね(私も、母のこの性格には本当に悩まされました)。
それはたぶん、自分(母)の怒りがきちんと受けとめられないまま、父だけさっさと機嫌がよくなるのは許せない、という気持ちと、自分ができないこと(スムーズな気持ちの切り替え)を父が簡単にやってのけているのが許せない、という気持ち、そして、すぐに気持ちを切り替えることのばつの悪さ、などが絡み合ってのことだったのではないかなと。

こういう母の複雑な怒りというか、恨みみたいなものを間近で見ていたので、「気持ちの切り替えが早い=悪」みたいな図式が自分の中に出来上がってしまったんですよね。

私の「絶対に許すもんか」という意地は、「(『許す』などという人をバカにしたことを)私は絶対に許さない」という母の呪いからきていたんだなと思います。
その結果、相手が誰だかわからなくなるほどに、相手の極々一部分だけに執着し続けるような偏りを身に付けてしまった…

意地を張って、相手の本質を見逃したくないなと、いつまでもファイティングポーズを取り続けて、人生の貴重な時間を無駄にしたくないなと、そう思いました。

母の呪いを解かなくては。
もう「あなたは誰ですか?」なんて驚くことがないように。

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