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辞めずにできる、ことをする―浅生鴨さんインタビュー(前編)

このnoteは、浅生鴨さんのエッセイ集『どこでもない場所』(左右社) 刊行記念インタビュー企画により書かれたものです。
9月末、雨上がりの空のもと、都心にある浅生鴨さんのオフィスにて。あたたかみのある木のテーブルをはさみ、浅生さんが淹れてくださったコーヒーを飲みながら、のびのびとお話を聞かせていただきました。
*浅生鴨さんのプロフィール、『どこでもない場所』についてはこちら

僕を動かす力は、締め切り

―『どこでもない場所』、拝読しました。浅生さん自身の「失敗談」と呼んでいいのかわかりませんが、そういう話がたくさん出てきます。読者、特に若い人をそっと応援しているように感じました。

編集者には、ちょっと疲れている人が読んで脱力するものにしたい、みたいなことを言われて。若い人かどうかはわかりませんが、なんとなく、転職を考えている人や就活している人が、適当でいいんだ!ぐらいの気持ちになったら面白いなとは思っていました。

―なかなか、自分の失敗をさらけ出してくれる人っていないような気がして。それに勇気づけられます。

誰かを励ましたいときって、絶対「がんばれ」って言わないほうがいいと思っていて。僕は言われた瞬間にやる気がなくなるので。むしろ、「自分はこうです」という姿だけ見せて、「あれでもいいんだ」とわかれば、それが一番伝わるかなと。特にメッセージとかないんですけどね。

―メッセージ、ない(笑)。

ノーメッセージです(笑)。僕は別に何も示していませんが、色々な受け取り方をできるようにはしていて、あとは自由に解釈してくださいというような。世の作家の多くは書きたい何かがあって書いていると思いますが、僕は特に書きたいテーマもないんですよね。

―そもそもですが、この本がたくさんの人に届くようにとは、思っていらっしゃるわけですよね(笑)?

それは、ひとつには、売れるといっぱいお金がもらえるっていう(笑顔)すごくべたな理由があって。・・・でも本当は、何十人でもいいから、「ああ、いまこれを読んでよかった」という人がいたら、それだけでいいのかもしれない。でもそれだと、僕も左右社も次ができないので。

―浅生さんは他にも、番組制作や広告など多様なお仕事をされていますが、スイッチの切り替えとか、今日はそういう気分じゃない、という時にはどうされているんですか?

僕は、基本的にずうっとそういう気分じゃないんですよ。だけど、一番、僕を動かす力は締め切り。たぶん一生僕は、夏休みの最後の、宿題に追われるあの日を送り続けるんだろうなあ。締め切りがないと、きっと何もしないと思います。

しょうがなしに、職人

―何もしないときはなにを?

本を読むか、映画を観るか、海外ドラマを見るか。生活できて本が買えて、ときどき映画が観に行ければ、それで十分なんです。

―その時に感じたことをどこかに書くことは?

ありますね。感想とかも含めてちょこちょこと(ほぼ日手帳を手にとり、ぱらぱらめくって見せる)。

―航空券の半券を貼ったり、けっこうまめですね。猫の絵も上手い!

まめですよ!けっこうまめなほうです(笑)。

―丁寧ですよね。小説も、おそらく他のお仕事も。でもよく、「断れずに・・・」みたいなことをおっしゃっている。

引き受けてやらざるを得ないから、しょうがなしにやっていることですよね・・・。きほん僕の仕事は全部、発注を受けてやる仕事なので、自分から書いてどこかに持ち込むとか、そういうことはなくて。

―ご自身で「受注体質」と表現されていますね。

はい。だからこそ、雑なものは出せないというか。クライアントがいる仕事なので。やっぱり、ちゃんと仕上げてお渡しするのが、職人としては当たり前というか。そうしないと、せっかく声かけてくれた人に申し訳ないなと。

―職人、なるほど。

後編はこちら。
「僕は辞めるということをやらないんですよ。始める時に覚悟するので…」

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