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楽園マップ3 ボンダイビーチ(シドニー・オーストラリア)

ボンダイビーチとボンダイブルー

今日はオーストラリアの最大都市、シドニーの郊外にあるボンダイビーチを取り上げたい。ボンダイはBONDIと書く。もしもこれがアメリカやイギリスにあったらボンディビーチと呼ばれていたかもしれない。でも、オーストラリアはボンダイ。オーストラリア英語は少し訛っていて、Today(トゥデイ)はカタカナにするとトゥダイと聞こえる。だから、ボンダイビーチと心の中でつぶやくごとに、ああ、オーストラリアっぽい名前だなあと思い、心の中に強い日差しと、明るく優しい住人たちが浮かび上がってくるのだ。まだオーストラリアに行ったことのない人なら、ぜひとも渡航先の候補に加えて欲しい。カンガルーの肉も美味しいし、人は優しいし、素晴らしい国だ。

ボンダイビーチと私には因縁がある。今から25年前の1998年。私は17歳。アップルコンピューターはiMacというかっこいいパソコンを売りに出していた。当時私は貧乏で、だけどパソコンには興味があって、Widowsのデスクトップ型パソコンを大阪の中古パソコン屋で買った。これだって当時の自分にとっては大きな買い物ではあった。必死でアルバイトをして得た月収10万円のうち、家賃3.5万円、その他もろもろ出費6万円で残った5000円。それを10ヶ月分ぐらい費やして4、5万円で買った大切なものである。いわば当時の労働の全てがこのパソコンだった。

一方、デザインの専門学校に通う彼女は実家住まいでお金に余裕があり、家にMacintosh(マッキントッシュ)のiMacがあった。今調べたところ、17万8000円だ。もしも私が当時このパソコンを買おうとすれば36ヶ月=3年かかることになる。17歳の若者にとっての3年がどれだけ長いか知ってるだろ? つまり、当時の私にとっては全く手に届かない代物で、豊かさ、余裕のある親に愛されてる家庭の象徴だった。

iMacにはカラフルなバリエーションがあり、そのなかの一色が、ボンダイブルーと名付けられていた。そう、ボンダイビーチのボンダイである。私は、トランペットを眺める黒人のように、青いスケルトンのiMacを食い入るように眺めていた。私がどれだけ欲しくても買えなかったもの。当時オーストラリアの海のことなんか知らない私は、ボンダイという不思議なイントネーションだけ覚えていた。

これがiMacのボンダイブルー。当時のパソコンとしては画期的なカラーバリエーションだった。

時は流れて30代中盤、オーストラリアに初めて訪れた私は、ボンダイビーチという名前を聞いて、あの17歳の時の記憶が突然蘇ってきたのだ。そこにあった海は、確かにあのパソコンのようにエメラルドに近い青色で、透き通っていた。

ビーチは三日月のような形をしていて、人々の視点はあの時のiMacのような色の海に注がれていた。雲ひとつない晴天。あの苦しい青春時代を生き残って、とうとうここに辿り着いた。当時付き合っていた彼女はその後の人生でこの海を見たのだろうか? この海も素晴らしいけど、当時あなたが持っていたiMacもすごくうらやましかったよ。

ボンダイビーチ


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