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RNIB(イギリス王立盲人協会)に行ってきた その3

社会福祉士であり視覚障害リハビリテーションワーカーでもある筆者がイギリスの視覚障害者支援について2018年に視察研修したことを書いています。4回目も前回に引き続きRNIBロンドン本部の紹介ですが、今回はLow Vision Clinic(LVC)についてです。日本とひと味違うロービジョンケアの実施機関について、少しでもご紹介できたら・・・。
ちなみにトップ画像はRNIBの地下にある社員食堂の壁に掛けられている目の形のオブジェです。

Low Vision Clinic(LVC) 

RNIBの1Fには併設のLow Vision Clinic(以下LVC)があり、そこには診察室が2つあります。イギリスのLVCは「Clinic」と表記されますが日本の眼科とは少し違い、日本語で検眼士または検眼医と訳されるOptometristが働いています。今回案内してくれたZahra Jessaさんは博士号を持つOptometristです。

※Optometristについては以下のサイトが詳しいです。
 アジョック共栄会 世界のビジョンケア
 http://www.vc-p.jp/vcd/world_vc/index.html

さてRNIBのLVCですが、サービスの対象者はRNIB本部の周辺自治区(カムデン、イズリントン、ケンジントン、チェルシー)に居住している16歳以上で、眼科やソーシャルワーカー、役所、眼鏡店等から紹介された目が見えにくい人や学習障害のある人です。

え、学習障害のある人がなぜLVCに?と思いませんか。

Jessaさんによると、学習障害のある人が目の見えにくさを訴える確率は一般に比べると10倍は高いと言います。学習障害のある人は視力検査の結果は問題なくてもうまく対象物を見ることができなかったり、図を見てもそれが何を意味しているのかを判断することが難しかったりする場合があるようです。そのためLVCで適切な補助具を選定したり、目の動かし方のトレーニングといった視覚的なケアを行うことで発達が促され、日常生活の不便さが軽減することが期待されています。

Optometristは患者の目の状態を評価するために詳細な検査を行います。検査は視覚機能の確認、コントラスト感度測定などだいたい1時間半程度行われ、検査結果はOptometristが関係者全員に報告し共有します。

ちなみに眼科の検査というと、日本では視力検査や眼圧測定など、数値的な結果を出すことを目的に行われることが主ですが、このLVCではホリスティックな観点で対象者を診ているとの説明を受けました。ホリスティック(Holistic)とは、英和辞書を引くと「全体論の、全体論的な、(局部ではなく)全身用の」とあり、目の疾患のケアだけではなく生活や精神面も含めて患者そのものを診ている、ということです。

JessaさんはRNIBだけではなくムーアフィールド眼科病院でも週2日勤務しており、多忙な中、幸運にもお会いすることができました。一日に対応する患者の平均人数はRNIBのLVC内では4名、カムデンとイズリントン地区限定で患者の自宅訪問も実施しておりその場合は2名、ムーアフィールド眼科病院では午前と午後で3名ずつの計6名で「ムーアフィールドのような大きな病院では患者数が多いので一人一人に手厚い支援は難しく、RNIBのLVCで眼疾患やケアについてじっくり説明を受けたほうが患者の生活の質は上がる」とJessaさん。自宅訪問で検査をする場合、患者の生活が見えるのでよりホリスティックな支援が可能になるともお話しされていました。

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写真はLVC内の様子です。さすがいろいろ揃っています!うらやましい。
左下にチラリと写るキャリーバッグは患者さん宅の訪問用だそうで。

眼科とLVCとの連携はどうなっているのかと尋ねると、一般的に眼科医は患者に対して病気や治療に関する事以外の説明はしないため、Optometristが視覚機能を検査した上で眼鏡やコンタクトレンズを処方したり拡大鏡等の補助具の選定をしたりと役割分担がきちっとされているとのこと。まぁ、これはイギリスだけではなく眼科専門医とOptometristという職種が分かれている国では当然のことのようです。

見えにくさをケアするスペシャリストであるOptometrist、日本にはその資格はありませんが、目の疾患だけにとらわれずにホリスティックな観点で患者さんに対応している点は学ぶべき点だなと思いました。


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