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ChatGPTに編曲を尋ねてみた

 私がバイオリンをやってみることにした理由を尋ねられた時、一般の人には「美人なコンミスさんに誘われたから」と回答しておりますが、本当のところは作曲する上で一番わかりにくい楽器であるバイオリンについて、その仕組みを知りたかったからです。とにかく奏法が豊富で自然ハーモニックス、技巧ハーモニックス、ピチカート、左手のピチカート、バルトークピチカート、スルポンティチェリ、ポルタメント、グリサンド、スピカート、マルテラート、Sul-G、Sul-D、Sul-A、重音などなど。ミュートをつければまたまた音色バリエーションが増えますよね。特にどんな重音が取れるのかと技巧ハーモニックスがわからなかったです。
 とりあえずクライスラー、ハイフェッツ、JSバッハ、イザイ、バルトーク、パガニーニ、モーツアルト他のバイオリン曲や編曲をたくさん聴いて楽譜も手に入れてみたのですが、それでもわかないことだらけ。バイオリンを演奏するようになってからバイオリン曲としてどのように編曲すればよいのか少しはわかるようになってきました。
 なのでバイオリン曲の編曲にはちょっとうるさいとても嫌なおじさんになってしまったのですが、ヴィオラについてはぜんぜんわからないのでとりあえずドレミ出版のヴィオラ名曲31選という楽譜を買ってきました。このバイオリン版であるバイオリン名曲31選は結構よい楽譜だったからです。

同じ曲数なのに厚みが違うのはなぜ?

さて、厚みがバイオリン名曲よりも薄いのが気になっておりましたが、この厚さは編曲レベルに比例しているのかもしれませんね。

Mozart Ave Verum Corpus
 ピアノ伴奏が寂しい編曲。静寂で美しい曲なんですけども音が足らない気がします。

J.S Bach Arioso BWV.1056
 弾いてものすごい違和感。こんな曲だったかなあと思い、原曲のチェンバロ協奏曲版とバイオリン協奏曲版で聴き直してみたところ、装飾音がすべて省かれているので違和感をもったのですよね。初心者でも弾けるようにという意図なんでしょうけど。すべて省略されているのはやりすぎな感じがします。

J.S Bach Arioso G線上のアリア
これは悪くはないのですが、左手伴奏はオクターブで動かした方が雰囲気がでるかと。海外の編曲版もそうなっておりますね。ヴィオラだとG線だけで弾くよりもポジション移動をせずにD線、A線の開放弦を生かした方が良い感じになりますね。これは勉強になりました。

Tchaikovsky  感傷的なワルツ
和音配置の問題で強烈な違和感。具体にはヴィオラパートとピアノ伴奏の音がぶつかっていて不快。この曲はチェロ版がIMSLPにあるのでこちらの伴奏を使った方がよいかも。チャイコフスキーは二度や半音でぶつける音が多いので編曲では音の配置に気をつけた方がよいですね。ヴィオラは中低域の楽器なので伴奏とぶつかりやすく、バイオリン編曲と違った配慮が必要ですよね。

ロンドンデリーの歌
 これは日頃クライスラーの編曲版をバイオリンで弾いているので特に思うのですが、ピアノ伴奏が学校唱歌な感じでなさけなく感じます。対位法的に少しは動かさないとね。メロディがもつ情感が死んでしまっていますね。

この曲集、残念ながら全体的に編曲にセンスを感じないですね。和声的に正しければすべてOKみたいな感じで遊びとか冒険がないのでぜんぜん面白くないです。逆にいうと藝大和声を使った分析教材としてはよいかもです。バッハ、モーツアルト、ベートーヴェンも結構冒険していてこう来るのかというところがあるのですが。まあクラシック音楽だけでなくてジャズとか他ジャンルの音楽も少しは齧っていれば少しは違ってくるのでしょうけどね。センスは学べないので場数を踏むしかないですよね。ただドビュッシーの小組曲だけはなんか気合いが入っているのが不思議な感じなんですけども。

まあせっかく買った楽譜だからピアノ伴奏部分をクラシック音楽にそうようにアレンジしながら使っていくことにします。

ところで最近流行っているChatGPTに「クラシック音楽におけるよい編曲」というのを尋ねてみると以下のようです。完璧な模範解答ですごいなあと思いましたよ。

ChatGPTによる模範解答

これにプラスしていうならクラシック音楽に対する愛情や情熱、そして原曲に対する敬意がなければ良い編曲はできないと思います。

お口直しに良い編曲の一例を。原曲を超えてこその編曲ですよね。

ドビュッシーの月の光
バイオリンに対する細かな指示がたくさん書いてあり、重音がないが旋律線が美しい。
https://www.henry-lemoine.com/fr/catalogue/fiche/JJ11309

ロンドンデリーの歌
バイオリンとピアノの編曲はこのレベルを目指したいですね。ピアノがバイオリンの旋律線をなぞるようなことをせず、常に寄り添い、バイオリンが自由に歌う。バイオリンの音域をうまく生かしソリストとしてもやりがいのある編曲です。この編曲と演奏ならキース・ジャレットの演奏にも負けませんね。

ラフマニノフ ピアノ協奏曲第2番 第2楽章から 祈り
クレーメルさんが発掘してきたクライスラー編曲の楽譜。残念ながら楽譜は販売されていないですが、こっそりとIMSLPに掲載しておきましたよ。表紙はカトリック赤羽教会のマリア像です。他の人も演奏するようになって嬉しいです。

こちらはご本人様の別バージョン。ヴィブラフォンを加えた20世紀の幽玄な響きがモダンなのとヴィオラが良い仕事をしてますよね。この曲はヴィオラ編曲だと更によいかもと直感。弦楽器がうねうねやっていて原曲から変更されているけれども単なる編曲を超えたラフマニノフに対するリスペクトを感じさせる作品になってますね。

こちらはクライスラーご本人による演奏です。探すのに苦労したので貼っておきます。オーケストラ版の方では中間部ではバイオリンの刻み、ピアノ伴奏版だとピチカートになっておりますが、クレーメルさん編曲ではどちらも取り入れているというクライスラー編曲に対してもリスペクトがあるんですよね。オシャレに編曲すればよいというものではなくオリジナルへの限りないリスペクトとオリジナルを超えていこうとする魂の融合。これぞクラシック音楽の編曲の醍醐味のようなものです。ラフマニノフからクライスラーそしてクレーメルさんへの魂の系譜、そして歴史に残っていくというのがクラシック音楽の本筋ですね。


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