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クラシック音楽からみたPianoteq その1

この夏はたくさんの音源制作系のメーカーによる格安バージョンアップセール期間になっておりどれを優先するのか悩むところです。ブラックフライデーのときよりも積極的にセールをやっているように思います。その一つとしてPianoteqの格安バージョンアップがありました。今ならサウンドパックを付けますぜという宣伝文句、それとデモ音源を聴いてバージョン7になってかなり音質がよくなったと思い購入しておきました。サウンドパックについてはクラシック室内楽においての最高ピアノであるペトロフがほしかったのですが、バージョンアップでは、サウンドパックは付属しないのですよね。ああ、読み間違った。

ちなみにペトロフってこの世界では有名なんですけども、白金高輪にPiano Prepというお店にいってびっくり仰天しました。やはり超一流の調律師さんが調整・調律したピアノは凄いです。国内有名ホールにおいてあるキンキン音のスタインウェイと真逆であり音質的に完全に凌駕してましたね。ただ私の場合、弦楽器と合うピアノを至高としているので、基準がかなり特殊ですけれども。

さて、本題といきますか。最近あるピアノ教師さんのサイトで平均律で調律してあっても調性格を感じるように演奏するようにとの指導が書いてありました。調性格というのは調による色彩感覚のことのようです。オカルトチックなんですが、昔からあるとかないとかたまに話題になりますけども。サイトにまとめたものがあって面白いですよね。

調性の性格論
指揮者の福井さんのサイトから

そもそも古楽のチューニングでは半音下になったりするのでこれって意味があるのかとも思うのですが、ここでは数学での虚数のようにあるものとしてと考えてます。今回の話題は、調性格を平均律で感じられるものなのか?ということです。

さて、Pianoteqに興味があるクラシックファーンはおそらく古典調律に興味がある方と思いますが、この本はご存知ですかね。私はこの本の存在をあるプロの古楽奏者から教えていただきました。108種類の音律の調律の仕方が掲載されている貴重な本です。

音律図録「小さくってもドデカゴン」加屋野木山著

この本の図解によると平均律はこのような美しい図形になります。

平均律

この図形の見方ですけど、一見難しく見えるけれども実はとてもわかりやすいです。まず外側、C、G、Dと完全5度づつ書かれていますが、弦楽器をやっている人は調弦だと思ってくれてよいです。チェロやビオラでC線とG線をきっちりとあわせると702セントになりますが、この図の三角形は-2セント低める700セントにするということを意味しております。つまりこれがピアノの調律になります。

真ん中の太陽コロナのような図形ですが、この12角形の一片は純正長3度(386セント)を意味しており、コロナの部分はこれよりも14高い400(=386+14)セントということを示しています。つまりピアノで長3度、たとえばドとミやソとシを弾くと少し濁って聴こえるのはこのように調律されているからです。
でも人によっては、この長3度を美しいと思う人もいるでしょう。それは調律師さんの腕によるもので、3本のピアノワイヤーの音の高さをほんの僅かにずらしていることとそもそも平均律よりもほんの少しずらして調律しているからです。

さて、調性格を知る上で有利な調律としては有名なヴェルクマイスター第三音律があります。

ベルクマイスター第三音律

平均律と違って、5度のC-G、G-D、D-A、H-Fisの音程を-6セント縮め696セントにしています。このことにより調性格が誕生します。

まず、F-Durですがトニック和音(F-B-C)とドミナント和音(C-E-G)の長3度がほとんど純正なので、F-Durは穏やかな感じになると考えられます。D-Durだとトニック和音とドミナント和音の3度が異なりドミナント和音であるA-Cis-Eが平均律と変わらなくなり、より緊張から弛緩への幅が増えます。
さらにH-Durだとより緊張感のあるピュタゴラス3度がドミナントに加わり、Fis-Dur、Cis-Durだと緊張度がピークになります。かなりわかりやすい調性の変化になるので、初心者のピアノの生徒さんでも調性格の違いがわかると思います。なので調性格の違いを知るにはこの調律に変えるのが有効かと思いますが、生ピアノでは難しいので電子ピアノかPianoteqで試してみるのがよいでしょうかね。

ちなみにヴェルクマイスター調律のピアノとバイオリンを合わせる場合、調弦を-6セント狭める必要があるので、平均律ピアノよりも違和感があります。

ということで弦楽器と合わせるのにいい感じの調律はないかなあと眺めているとまずはこれですかね。

『モーツアルトにはヴァロティ音律』とは格言のように言われているようですが、これでも調弦を-4セント縮めることになるので若干違和感が。聴いている分には良い感じなのですが、弾く方は慣れが必要でしょうかね。

ヴァロティ音律

さらにドデカゴンを眺めていると、調性格を感じることができてバランスが良さげなのはこれですかね。これだと平均律ピアノに慣れている方でもそれほど違和感がないでしょうね。

Yokota音律

調弦よりも3セント低くするだけなので違和感はだいぶん解消されるのと穏やかに調が変化していくので良いかもです。ただ調律師に頼む場合は結構難しい調律になりますね。ちなみにYokotaは、チェンバロ製作家の横田誠三さんのことでしょうかね。本には書いてなかったです。

さて、平均律で調性格を感じることができるのかという疑問ですけども、
よく考えてみると調律師さんは平均律で調律を頼んでも、機械的に調律しているわけではなく、「調律曲線」によって音程間隔を狭めたり広げたりしているし、純粋な平均律では汚い音になるので、多少アレンジしていると思いますので、そのことによって調性格を感じることできるという理屈ですかね。結果的にピアノの先生は間違ったことは言っていないのですが、その結論に導くプロセスを無視した精神論は、どうなのかなと思ったりもしております。
 ちなみに弦楽器では、5度をきっちり合わせておけば、長3度の音程はある程度自由。通常は純正3度で合わせますが緊張感を持たせる場合は高めにという感じで音色作りをしていくという感じでしょうか。バイオリンはよく純正律楽器といわれますけども自由音律楽器と呼ぶ方がしっくりきますね。そしてそのお手本は、オペラ歌手ということですかね。

補足
古典調律には、ピタゴラスコンマ(略語:PC)、シントニックコンマ(略語:SC)という用語が出てきますが、それぞれこの単位を使って、純正5度(701.955セント)を縮めて音律を作っていきます。上記の図表ではピタゴラスコンマを24セント、シントニックコンマを22セントとして記載していますが、実際の数値をエクセル関数で計算すると以下になります。

PC=1200*log(531441/524288,2)=23.46001038cent
SC=1200*log(81/80,2)=21.5062896cent

実際のピアノの調律では、小数点以下2桁までの値を使います。「小さくってもドデカゴン」では小数点以下2桁の値が記載されております。

PC=23.46cent
SC=21.51cent
上記、ヴァロティ音律の説明では4セント縮めるとしていますが、正確には純正5度(701.955セント)から1/6 PC=3.91セント縮めるのが正確な値です。

Pianoteqだと計算値によるPCとSCが使えるので他のサンプリング音源よりも正確に音律を作成することができます。大抵の場合、他のサンプリング音源では小数点以下の値を扱えず、できても小数点以下1桁までです。



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