青かびチーズ2

【ポーランドでバルキーな青かびチーズを食べた話】

大家好!中国・深圳に研究留学中のらまおです。一昨日の晩のことだが、突然研究室の中国の友人や先輩たちにCongratulations!と言われた。一瞬なんのことかと戸惑ったが、吉野彰先生ノーベル化学賞を受賞されたことに対して、同じ日本人である私にそういった声をかけてくれたのだ。日本人として、また電気化学を学ぶ一学生としても確かにとても嬉しいニュースである。でも何よりもそれを知り、わざわざ伝えてくれたのが一番嬉しい。今や論文数は日本を遥かに凌ぎ、優れた研究も多く出ている中国。

上記のグラフは全米科学財団(NSF)のSCIENCE&ENGINEERING INDICATORS 2018>Chapter 5 | Academic Research and Development>Share of S&E publications in the top 1% of most cited publications, by selected region, country, or economy: 2004–14から引用。

上記のグラフは上位1パーセントの高被引用論文の割合を縦軸に、横軸は西暦を取ったグラフであるが、こうしてみると中国の学術論文は数だけではなく、その質も飛躍的に伸びていることが窺える。

他国の研究成果やそれに伴う名誉に対しても尊敬の心を持つ姿、同じアジア人として見習いたい。中国からノーベル化学賞を受賞する人が出る日はそう遠くないように思う。

さて、前置きはこれくらいにして、今回は回顧録として書いた、チーズにまつわるちょっとした小噺をお話させていただけたらと思う。長くなっちゃったので、すす―っと読んでくださいまし。

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ポーランドで青かびチーズを食すなど

ちょうど3年程前の9月、当時学部の4年生だった頃にポーランドの首都ワルシャワを訪れる機会があった。毎年春と秋に開催される世界規模の材料系国際学会Eurpean-Material Reseach Society(E-MRS)に参加するためである。

秋の学会はワルシャワ工科大学で行われるのだが、この大学の建築ははっと息を呑む美しさがある。ポーランド出身で、ここにも所縁のある女性初のノーベル賞受賞者マリ・キュリーの銅像も学内にあったりと歴史と趣を感じることができる大学だ。

この滞在期間中は5人くらいでウィークリーのアパートを借りて自炊などをしながら過ごしたので近隣のスーパーに行く機会が多くあった。そのため、なんとなくポーランドの生活の感覚が掴めたのだが、日本に比較して物価が安く、体感としては日本の1/3~1/4程度で、食料自給率が高いからかなのか食材の質はよく、種類が豊富だった。とりわけ、チーズ、ソーセージの種類が非常に多く、私はそんな多くの食材の中でもとりわけ青かびチーズ(ブルーチーズ)に強く惹かれたのだ。

さて、皆さんはこのブルーチーズを口にしたことはあるだろうか?好みは分かれると思うが、鼻の奥に何とも表現しがたい風味が残り、癖になるそんなブルーチーズ。日本のスーパーでも見かけることがあるが、そこそこいいお値段がするので、貧乏性の私からすると、幾分か高級なイメージがあるわけだ。

しかし、ここポーランドではブルーチーズも例のごとくお手頃価格で、新しい味覚を味わいたい好奇心と、ブルジョワな気持ちになるべく、友人たちと共に晩酌のおつまみや朝食として結構な量を購入したのであった。ほぼ毎日買い足すぐらいにはみんながみんななかなかにハマっていたように思う。それはもう毎日毎日ぱくぱくぱくぱく。

ポーランドのことがよくまとまっているので「どこいく編集部」の記事はおすすめ!

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らまお、奇妙な夢を見る。

滞在中の当時、睡眠の質は悪くなく、むしろ普段よりしっかりとれるぐらいだった。しかし、ワルシャワに来てからというもの連日連夜、奇妙な夢を見るようになったのだ。

例えば、《パンツ1枚で建て替え前の国立競技場内を無人の観客席に手を振りながら走る》だとか、《椎名林檎のライブで使う手旗みたいなのを持ちながら空飛ぶカバに乗って地元の住宅街を鳥瞰する》だとか、まあとにかく意味の分からん変態さながらの夢ばかりをみるのだ。

ただ、気分は決して悪くはなく、そこそこ心地が良かったのであるからもう救いようがない。夢は願望やその時の精神状態を表したりするなんて目にしたことがあったので、私はこんな破廉恥であほくさい願望を持っているのかとおのれの潜在意識を恨んだ。何にせよ、普段はっきりした夢を見ることが多くはない私にとってまさにアブノーマルな事態であった。

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あの夢は何だったのか?

ところがワルシャワに数日滞在した後ドイツに移動したのだが、その後めっきり奇妙な夢を見なくなったのだ。毎夜そんなことが続いていたのでなんだか狐につままれたような気分になった。一体何だったのだあの夢は。半ば自分の変態性に呆れつつも、初めての国際学会で緊張していたからなのかなあと無理矢理に結論付けたのだが、当時は今一つ釈然としなかった。

帰国後、ワルシャワでの生活で普段と大きく異なることは何だったか思い返してみると、一つだけ大きく異なる点があった。皆さんはもうお気づきであろう。そう、拳大のブルーチーズを狂ったように貪り食っていたということだ。


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チーズと夢の不思議な関係

帰国してから、泣く子も黙る一流総合学術雑誌Natureの運営するblogで「Sweet Dreams Are Made of Cheese」というタイトルの記事を見つけた。ちょっと面白いことが書いてあって、イギリスのチーズの啓蒙活動をする団体 British Cheese Board が200人の被験者を対象に就寝の30分前にチーズを摂取してもらい行った調査において、寝る前にチーズを食べることで人々の睡眠を助けることがわかったと報告していたのだ。

ただし、一連の実験で対照となる例(何も摂取しないといったブランクの例がない。)やプラシーボ効果の影響の記述がないので学術的に信頼できない部分も多いことに注意。

彼らの主張だとチーズ中には、体内においてメラトニン(およびセロトニン)の生成に関与するアミノ酸の一種、トリプトファンの含有量が多いからではないかと考察している。

確かに、メラトニンやセロトニンは体内のリズム、昼夜のリズムに関与することは広く知られているのでその主張は頷けなくもない。さらに、おもしろいのが、摂取するチーズの種類によって夢の状態が変わるのいうのだ。その中にはブルーチーズに関する記述もあり

From their conclusions, blue Stilton resulted in the most bizarre trips, affecting about 80% of participants and resulting in visions of talking animals, vegetarian crocodiles and warrior kittens. (blue stiltonを摂取した80%の人が影響を受け、話す動物やベジタリアンのワニ、子猫の戦士の夢を見るなどの奇妙な冒険をした。)

という結果が得られたらしい。blue stiltonはイギリス産ブルーチーズの一種で、フランスのロックフォール、イタリアのゴルゴンゾーラの3種が世界三大ブルーチーズである。これはたしかに有名っすね。詳細は記憶していないがかびの種類も違ったような…。(ここは自信ないので各自調べることをおすすめする。)

奇妙な夢を見させるその原因に関してさらに興味深い記述もあった。

As for the dream link, there is only one academic paper that mentions the cheese-dream phenomenon, and that is only anecdotally. However, one Internet theory I found proposed that the bacteria and fungal content in cheese, and in potent blue cheeses in particular, might be at the root of the increase in dream vividness. This is due to the potential psychoactive effects different compounds found in fungi, like tryptamine or tyramine, might have, influencing our brains' chemical systems and thus our state of mind.(夢との関係について言及している学術論文が1つだけあったがそれは逸話的なものに過ぎなかった。しかし、インターネット上で、チーズ、特に強力なブルーチーズにおけるバクテリアと真菌の含有量夢の鮮やかさを増加させる原因である可能性があると提唱している説を見つけた。これは菌類に見られるトリプタミンチラミンなどの化合物が、脳の化学系、さらには心の状態など、精神への活性効果を与える可能性があるからである、と。)

なるほどなるほど。確かに例にある物質は神経系に作用することがよく知られている生体活物質であるから、微量でも含まれているとするなら奇妙な夢を見た説明がつくかもしれない。とは言えネットの説であるし、彼らもこれらの説の裏付けは取れていないと言っている。え、まじかよ。

すなわち、私の変態性に対する疑念が晴れていないではないか。変な夢はぜひチーズが原因であってほしい…。いや、絶対チーズのせいだろ。もうそうしようぜ。

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らまお氏、変態の疑いを晴らせず

blog記事が2013年と古いのと、変態の疑念を晴らせないのが心苦しいこともあり、実験の合間にGoogle scholar, ACS, RSC, SCIENCEなどで論拠になりそうなリファレンスを探し回ったのだが有力な手掛かりを得ることができず。チーズの市場調査とか消費量とかそんな論文ばっかり出てきてもう嫌になっちゃう。

友人のファザーが畜産関係が専門の大学の先生らしいから、日本に帰国次第アポイントメントとるしかねえな、こりゃ。

結局、チーズと夢の関係性について筋の通った説を見つけることができなった。しかし、ここに1日のいくらかの時間を割いてしまったなんて、確かに変態なのかもしれない。

今思えば、あれは変態への戒めだったのだろうか。ドイツからさらにオーストリアに移動し、何日か滞在するなどして全ての旅程を終えて帰国したわけなのだが、共に帰国したはずのお土産ぱんぱんキャリーバッグちゃんが一向に荷物受け取りのコンベアから姿を見せないのだ。あれれ、突然恥ずかしがり屋さんになっちゃったかなー?

んなわけもなく、人生初のロストバゲージで、ANAのグランドスタッフさんたちがその特徴を元に、本当に一生懸命探してくれたんだが、肝心のバッグはハブ空港であるドイツのフランクフルト空港で宿泊を続けていることが明らかとなった。(要するに、手違いによる貨物載せ忘れ)

くっそー俺は未だにルフトハンザ航空が憎いぞ。チーズと夢の研究をして、相関性を見つけてくれないともう許さん。

チーズと夢の関係性についてどなたか有力の手掛かりを見つけたらぜひご一報いただきたい。

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今回も結局長くなってしまったが、毎度のこと貴重なお時間を頂戴してここまでお読みいただき誠に感謝である。noteやっていない方からも様々なレスポンスを多くいただき、とても励みとなっておりまする。今後ともどうぞご贔屓に。次回以降のテーマは以下のいずれかになる予定です。今度こそ短め笑

「僕と自転車と、時々気絶。」~君は気を失ったことがあるか~

「だじゃれと自慰」

「踏みゆく者、また踏まれゆくモノ」

「ハンティングジャケットの魅力に溺れて」

「じいちゃんと博士課程」

ではでは皆様、下次見!
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【おすすめの一曲 】No.4:Name of song :Wait for the moment, Artist : Vulfpeck

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