『男ともだち』感想(2023/03/27)

千早茜式”スパダリ”小説

2023年3月、千早茜さんの『男ともだち』を読了しました。
直木賞を受賞されたことをきっかけに思い出し、もう一度読みたくなり、この二冊を借りました。
この作品は直木賞の候補作に選ばれています。千早茜らしいやわらかく、どことなく性を匂わせるタイトルに惹かれました。

その一週間くらいあと、2023年3月27日。『ガーデン』の再読を終えました。『男ともだち』の感想と二作の軽い比較をメモがてら書いていきたいと思います。

個人的には『ガーデン』が最高傑作です。ただ、入門には『男ともだち』がわかりやすく、おススメです。

厄介オタクと危険な香り

帯を見た時、嫌な予感が走りました。女性書店員3人による『男ともだち』を絶賛する内容のコメント。「ハセオみたいな人がいたらいいのに」など、千早茜の静謐さとは真逆のとても姦しく騒がしい帯でした。

直木賞というのは押しも押されぬブランドを持つ大衆文芸の賞。
今では本屋大賞の方が影響力が大きいかもしれませんが、その候補になるということは、この本もエンタメとしても認められたということでしょう。

純文学が好きな私にとって、”話の筋”とは心理の動き。単純で浅い”エンタメ”要素は好むところではないといった部分があります。

また、千早茜の登場人物は、皆どこか欠陥を抱えていて「〇〇みたいなひとがいたらいいのに」という言葉に強い違和感を持ちました。これはなにかおかしい。そんな気がしてなりません。

(昔は〇〇大賞と言うものをすごく参考にしていました。
CDショップ大賞は初代大賞に1st Albumの『シフォン主義』をリリースしたばかりの相対性理論。二回目はTHE BAWDIES、三回目はandymoriとブレイク前の優れたバンドを発掘しています。ショップ店員の嗅覚は素晴らしい。
同じように、本屋大賞も当時好きだった伊坂幸太郎さんがノミネートしていたことからも好きでした。ただ、回を追うにつれて参加する店員数が多くなり、ありふれた、ごくつまらないものになっていきました。当たり前ですが書店員も面白い本を常に探している人、そうでもない人がそれぞれいて、後者の方が圧倒的に多いことを実感しました)

理想の男性(スーパーダーリン)

物語のあらすじですが、
夫と愛人を持ち、家庭と刺激的な生活を両立している主人公。そんな中、大学時代の友人”ハセオ”と再会する。家族でも異性でもない「男ともだち」という距離、いつでも変わらないハセオの姿に影響を受け、少しずつ生活が変わっていく……。

といった感じ。
タイトルにもある「男ともだち」である”ハセオ”は、品がなく、ものすごい才能があるわけでも、お金があるわけでもありません。ただ、ずけずけと踏み込みながらも相手に干渉せず、一緒にいて苦にならない。そんな適切な距離感を持っていました。

「ガーデン」の男性的・論理的、世界を自己を完全に隔離する感覚——ではなく、感情のノイズが混じった女性的な部分が目立ちます。
だから、女性からの共感があるんですね。

そして、読み進めているうちに気付きます。

ああ、なるほど。
これは千早茜の”スーパーダーリン”像なんだ。
理想と願望の砂糖&砂糖漬けのスパダリは子供騙し。
現実に即した形、精神的な充足と言う意味での完璧さ。それが”ハセオ”の大人の魅力なのでしょう。

そう思うと、書店員からの人気も、直木賞候補もすべてが腑に落ちました。
なんと面白い工夫でしょう。さすがと言わざるを得ません。

まとめ

「ガーデン」に描かれた「人と人の相互不理解」「それでもなお、人と人は交流を持つべきである」という究極のメッセージを踏襲しつつ、
よりエンタメ性・共感性を持たせたのが「男ともだち」なのでしょう。

”空手”は僕の理想の一つでもあります。
空手道ではなく、「手に何も持たない」という意味で。
形に限定されず、あらゆる状況下において戦うことができる。
どんなときでも、常に”自分”が最大の武器。

「男ともだち」もそうですし絵本や尾崎世界観さんとの共作など、幅広い作品を作っている千早茜さん。「千早茜」はそのままに、様々なスタイルを自在に取り入れている姿はまさに”空手”

今回は、究極よりも広範をという形。これもこれで一つ千早茜なんだなあ。改めてすごい作家だと思いました。

そんなわけで、ぜひ千早茜を読んでみてください。
間違いなく素晴らしい作家です。繊細かつ澄んだ文章から一つ一つ紐解いてみてほしいです。キラキラ光る何かが見つかるはずです。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?