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タカラヅカ日記⑦ジャックとジャンヌ〜ピガール狂騒曲の楽しさ

シェークスピアと言えば誰もが知ってる(教科書に載ってる程度)ハムレットやリア王、真夏の夜の夢、ロミオとジュリエットとタイトルだけは直ぐに思い出せるけれど…中学時代に読んだ古典の様な物語はあらすじを覚えている程度です(笑)名作なのでひと通りは読みましたが全作品を読んでる訳ではありません^^;
ピガール狂騒曲』のベースは「十二夜」と云うことですが戯曲なので題名を聞いた事がある程度で詳しくは知りませんでした。この記事を読んで下さっている貴方が…もしも私と同じ様にご存知なければ上記のWikipediaにあらすじが載っていますので御一読下されば劇中の人間関係が分かりやすくなると思います。

主演の珠城りょうさんの二役と言う情報は目にしていましたが…まさかの女役からの男装女子に転じて双子の様にソックリな異母兄妹と3パターンだとは思ってもいませんでしたので驚きました。(実際には2役)最初の登場シーンの表情がとても柔らかく感じたのは女役だったからなのですね。男役としての凛とした笑顔とはどこか違う柔和な雰囲気が声音にも現れていて作品の予備知識を持たないままにBlu-rayを見始めた私にはどこか不思議でした。
途中で挟まれる回想シーンにより男装をする経緯などが明かされてガブリエル(美園さくら)に対する不思議な拒否反応や挙動不審(笑)な態度になる理由も観客に説明されて「そうだったのかぁ~」と私も納得することができました(最初に十二夜を調べてから見始めれば良かったのデス💦)

物語ストーリーの舞台は万博で湧く1900年のパリの街
冒頭ピガール広場で街中の人々がアルルカンやアコーディオン弾きと愉しくラ・ベル・エポックド・パリを高らかに歌われながら始まります。
ムーラン・ルージュのダンサーたちが銀橋に並びトリコロールカラーの衣装に身を包みフレンチカンカンのショーです。

ムーラン・ルージュ】に【ロートレック】…なんて考えただけで愉しくなります。しかも、客席のテーブルで彼が酔い潰れているなんてユーモアセンスに溢れています。劇中にロートレックの絵画の世界がそこかしこに満ち溢れていて、まるで絵画が舞台上で動き出して居るように思えました。


ムーラン・ルージュは万博景気で盛り上がっている世間からは取り残されていて毎日閑古鳥…客にまでバカにされて支配人のシャルル(月城かなと)は一念発起します。ショーの話題作りに人気作家の美人妻を出演させて客を呼ぼうと思い付いたのは良いけれど…一体誰に誘わせたら上手くいくか思案します。そこへ働きたいとやって来たジャック(男装したジャンヌ)に雇う条件として出演交渉に行かせる事にしました。言われるままに意気揚々とガブリエルのもとを訪れますが、あの手この手で誘うも断られてしまいます。しかしガブリエルが逆に慌てるぐらいアッサリと引き下がってしまうジャックなのです。店に帰り「断られました!」と報告するジャックに粘れ!引き下がるんじゃない!とハッパを掛けるシャルルに女心の駆け引きだと説明します。憤慨しながら自ら出向こうとしたその時にガブリエルが現れるのでした。ジャックとのデュエットダンスを条件に引き受けると言うのです。(全身でイヤだと身振りするジャックの姿がとても可愛いです♥)
ダンスをすれば男装がバレてしまうと頑なに断りますが抵抗虚しく人情に絆されて両手以外には触れない事を条件に渋々承知しました。(このシーンでのシャルルの独唱が素晴らしい!)経験の無いド素人2人を交えての新しい出し物のレッスンやジャックに見惚れる女の子たちにそれが面白くない男の子たちの掛け合いも楽しいです。そんなある日シャルルが新しい衣装の仮縫いに立ち会う事を聞いて驚いたジャンヌですがムーラン・ルージュに対する想いや彼の過去の話しをするシャルルに女としての気持ちが揺れ動き始めます。


ガブリエルとジャックのお披露目の日です。
離婚を阻止する為に夫に雇われた弁護士のボリス(風間柚乃)は掃除婦に変装して店に潜入偵察を命じられたり…女の方から離婚を切り出されているのに納得出来なくて逆に浮気を心配してやって来たウィリー(鳳月杏)…しつこくジャンヌを探しまわる女衒(輝月ゆうま)たち…そこに万博の視察でパリを訪れる傍らに異母妹を探してるヴィクトール(男役)がロートレックに連れられてムーランルージュに全員集合してしまいました!
楽屋ではドキドキに緊張してるガブリエルの手を握って緊張をほぐしてあげる優しいジャックでしたが、熱で踊り子(天紫珠李)が倒れてしまいます。変更は許さない完璧主義の振付師(光月るう)にボリスは無理やり代役を命じられ舞台に立つことになってしまいます。
練習中のハチャメチャ感からは想像も付かない仕上がりの女の子のカンカンはロートレックの世界そのままの衣装で再現されて命が吹き込まれています。舞台イッパイに拡がりステージを回転させながら踊るシーンは圧巻です。ラインダンスでは男性ダンサーも混じって迫力を添えます。その中に女装して紛れている弁護士のボリスがデコボコに良い味出して笑いを誘います。中でも一番の見どころと言っても過言ではないのがレオ(暁千星)の連続のフェッテです。本当に何回廻ってる?と数えたくなるくらい静止せずに回転しています。
ところが支配人シャルルが一世一代の起死回生を狙った舞台ステージもボリスのカツラが取れてしまって大騒ぎに…停電と思いがけない観客の闖入により台無しになってしまいます。探している妹がこの店に居ることも何も知らぬままに美しいガブリエルに恋をしたヴィクトールは夫のウィリーに手袋を投げ付けられ果たし合いを挑まれてしまいます。(ガブリエルにその手袋さえ拾われて捨てさられると言う情けなさ)舞台もお話しもジェンヌを追い掛ける女衒ぜげんたちが突拍子もなく登場しては引っ掻き回して増々複雑にして笑わせてくれます。

騒ぎの途中で逃げ出していたジェンヌは決闘なんて知らずに母親の墓地にお参りに来てましたが、内心ビビりながらも果し合いにやって来たウィリーたちに銃を手渡されます。ヴィクトールの決闘を心配して墓地までやって来たロートレックに間違われて制止されることで複雑に絡まった人間関係が少しづつ解れそうになって来るのですが…そうなると観客が心配になるのは二役をどうやって同じステージに立たせるのか?ムーランルージュの舞台ではドタバタとする事でやり過ごしましたがいよいよ大詰めになったらそうは行きません。ジャンヌとシャルル、ガブリエルとヴィクトールの2つの恋が進行しているのですから。物語の結末も気になりますが、演出方法の方が興味を増していました。 

……とここまでネタバレの如くストーリーを話して来ましたが(笑)ここから先だけは見てからのお楽しみで止めておこうと思います( ꈍᴗꈍ) ムーラン・ルージュのダンスシーンは其々のキャラクターも際立っていてとても楽しいのでじっくりとご覧頂きたいです。最高にホッコリする結末とともに登場人物の一人ひとりがとても魅力的なので何度も繰り返し観たくなる舞台です。当時リアルタイムで舞台を鑑賞された方が羨ましいです。
そして何よりもこの作品で珠城りょうさんが女役に挑戦されて…その女役が男装して男性に恋をする!二役で男役として男性を演じる。
男装と男性を演じ分けていて身体のチカラの入る場所が違って立ち姿に現れている事を感じて欲しいです。女役と言っても男装していますから娘役に見える様な女性ではなくて内面的な女性の心理を表情や仕草で表現されていて、とても細やかなお芝居に取り組まれているなぁ!と感心しました。何度も見返す度に小さな発見のある、全員が全力で小芝居をしていてとても面白いです。

笑って元気になれるお話しなので未見の方には是非オススメしたいです。

作品の魅力を微力ながらお伝え出来ていたら嬉しいです。


2年前…日本列島を襲った突然のコロナウイルス、形を変えて今もまだ先が見えていません。
2020年の4月に予定されていたこの舞台はコロナ禍の緊急事態宣言によりありとあらゆる予定が未定となり、ようやく幕が上がったのは5ヶ月後の9月でした。昨日、幕が上がっても明日にはこの幕が上がらないかもしれない…そんな不安と闘いながら、この作品と半年間も向き合いながら上演してくれました。(舞台稽古に入ったのは3月10日だったそうです)その頃のわたしは、まだ宝塚ファンとして見ていた訳ではありませんでしたが…Twitter上で呟かれる不安や応援の言葉や劇場から発せられる広報も目にしていましたので深く印象に残っています。それは宝塚の舞台に限ったことではなくて…ありとあらゆる劇場で起っていたまさに非常事態でした。
そんな時に上演演目が喜劇であった事は素晴らしい偶然とも言えます。無観客配信などの紆余曲折を経て実際に有観客で公演出来て…更にこの公演でやっと106期生のお披露目口上が叶いました。
とっても沢山のものが山積みになってしまった1年でした。そんな1年の後半になってやっと日常が戻り始めた時に上演された『ピガール狂騒曲』に朗らかに笑う事を思い出させて貰えたと思います。奇しくも月組の前に上演された花組の『はいからさんが通る』も少女漫画が原作の楽しい作品でした。全てがコメディーではありませんが元気を与える作品であった事は間違いありませんので観劇して楽しい気持ちになられたと思います。舞台から笑顔を発信出来る作品が2作続いた事はこんな時期にとても良かったと思います。また明日も頑張ろう!と想えたことでしょう……


#ありがとう宝塚歌劇団

拙い文章への共感やサポートありがとうございますm(_ _)m