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解読 ボウヤ書店の使命 ㉚-16

長編小説『ポワゾン☆アフロディテ№X』読み直し続き。

《第六章

 八田一之介は携帯が鳴る音で目が覚めた。金指翔太からだ。
「八田さん、先日、持って来てしまったこの赤い傘はどうしましょうか」
 半分身体を起こし、時計を見ると九時過ぎ。
「どうしようかって、好きにすればいいんじゃないか」
 ――傘をどうしようかなんて、翔太のやつ、電話を掛けてきてまで相談することなのか?
 窓のカーテンをわずかに開けると白い光が差し込んで、同時に沈香が香った。気のせいか、それに伽羅が混じる。
「八田さん、あの時は気付かなかったのだけど、この傘――」
 翔太は途中で言い淀んだ。
「傘がどうかしたの? 今はまだ、あの時何が起きたのか明確ではないけれど、要は次元間を移動させる傘なのではないかな。メリーポピンズでもあるまいしとは思うけど。そう言えば、遠野美咲から買った次元間移動なんとかという書籍に何か書いてありませんか?」
 翔太の様子が真面目そのものなので、気を楽にさせようと冗談めかして言った。
「そちらはどうですか。香りませんか? 僕の方では伽羅が立ち込めていて」
 ジョークの効果がなかったのか、翔太の真剣そうな口調は変わらない。
「翔太君の方もそうですか。こっちもそう。沈香と、そして伽羅が混じった」
 一之介が言うと、翔太はしばらく沈黙した。
「傘のせいでしょうか」
「考えすぎでしょう。何か事件のお知らせかもしれないけれど、その傘が原因かどうかわからない。気になるのだったら、傘は僕の知り合いのところでお焚き上げをしてもらいましょうか」
「それもいいですけど――」
 翔太はまた言いかけて、黙る。
「それもいいけど?」
「これ、この傘、あの時は気付かなかったのだけど、――」
「何?」
「名前が書いてあります」
「何と?」
「それは――。いずれにしても、場合によってはオタキアゲするのかもしれないなら、これからそっちに持って行きます」
 そこで電話は切れた。
 ――今日は特に用事もないが、いきなり来ると言われても。
 切れてしまった携帯を見つめて戸惑っていると、二階の出入り口の鍵がカチャリと回る音がした。
 ――翔太のやつ、もう来たのか? まさか。あの時作った合鍵は返して貰ったはずだけど。
 八田一之介が慌てて起き上がり、リビングを抜けて二階の出入り口の前まで行くと、ちょうど扉が開き始めるところだった。

 (第六章 了)》

《参考文献》
  参考文献はこれからも整理して掲載していきます。
 
『ヨハネの黙示録を読む』今道瑤子著 女子パウロ会
『新約聖書物語』犬養道子著 新潮社
 新潮講座

これで長編小説『ポワゾン☆アフロディテ№X』の読み直し掲載を終わります。

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