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葉室麟/蜩ノ記

人が影響を受けるものは何だろう。
書籍だろうか。映画か。
スポーツか。芸術だろうか。
それとも日常のほんの些細な事か。
ありとあらゆるものに、人は影響を受け得る。
ただ何より人が影響を受けるのは、
人なのかもしれない。
書籍にしても、映画にしても、
スポーツも芸術も日常も。
そこにある人の気配に、
人の物語に影響を受けるのではと思う。

冤罪と思われる裁きによって、
切腹の時を待つ戸田秋谷。
城下から離れた村に幽閉される彼と交わると、
すべての人が変わるという。
清廉にして潔白。
切腹の日を待つ十年の時を、
黙々淡々、自身に課せられた使命をこなす。

あまりの正しさは、時に人を白けさせる。
彼は浮かんでるか浮かんでないかの微笑みで、
人を遠ざけない。
近隣の農民に慕われ、人に愛される。
あまりの真っすぐさは、
時に人に疚しさを感じさせる。
彼は人に寄り添い、受け止めようとする。

江戸時代の清らかな生き方に魅了されるとともに、
藩が抱える闇、過去の企みを明らかにする、
ミステリの魅力も持つ。
何が隠され、どんな秘密がそこにあるのか。
彼が冤罪となったこととどんな関わりがあるのか。
すべてが大きなうねりとなって物語を動かす。

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