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道標

賞与の中に特別手当がある。
所属部長が推薦し、会議で承認されれば付与される。
夏の賞与、その手当がついていた。

手当を貰うのは2回目。
1回目は入職したての頃。
転職した年の冬の賞与。
右も左もわからないことだらけで、がむしゃらに、ただ目の前の仕事を必死にこなしていた。
その愚直さが、仕事への姿勢が、評価されたと解釈していた。
周りの顔色を伺って、やったほうがいいだろうと感じた仕事をかき集めていた。
自分の意思ではあったが、自分が本当にやりたいかどうかまでは考えが及んでいなかった。
ただの、よく動くひと
中身が伴っていたとは言い切れない。
利用者さんのことをどれだけ見れていたかは自信がない。
キャパオーバーして上司や周りのスタッフに助けられることが多かったように思う。

今回はそのときと違う。

3月に新しい施設長が異動してきた。
そのひとに認められたことに、ただただ驚いた。
認められることを目的に仕事をしていたわけではないが、一定の評価をされた事実が素直に嬉しかった。
それ以上に、安心した。

異動の前はあまり良い噂を聞かないひとだった。
他部署にとても厳しい。
気に入らないスタッフには風当たりが強くなる。
そんな噂ばかり耳に入ってきた。
気難しい、厳しいひとが来ると思っていた。
会うまではそんな覚悟をしつつ、一緒に働いてみないとわからないとも思っていた。

実際に一緒に働いてみて、その印象は覆った。
とても仕事がしやすくなった。
管理職らしい管理職。
部署全体を驚くほど見ていて、スタッフひとりひとりの動きを把握している。
指示が端的で的確。
相談の返答がとてもわかりやすく、相談した側の理解度に合わせて返答している。
それでいてユーモアを忘れない。
たまに滑っているけれど、それはご愛嬌。
自分とは違う職種だからこそ、勉強になることばかりだ。

たしかに厳しさはある。
理にかなっているため、異論はない。
こちらの意見に耳を傾けてくれているし、相談することで考えがより深まるので有難い。
もっともっと吸収したいと思う。

4年前といま。
自分の働き方が変化している。
人員が大きく変わったことも変化の一助となった。
いまでは部署に長くいるスタッフのひとりとなり、質問や相談をされることが多くなった。
利用者さんだけでなくスタッフとの関わり方も更に意識するようになった。

少しの表現や解釈の違いで誤認を招くことがある。

何を伝えるか
何を伝えないか

試行錯誤を繰り返していた。
その中で今回の賞与を迎えた。

ここ数ヶ月の自分に一定の評価が下されて安心した。
安心していることに気付いて、不安だったことを思い出した。
ひとの評価を求めなくなった。
しかし、一定の評価を与えられることで、進むべき方向を見極めることができる。
自分だけでは決められないことや気付けないことはたくさんある。

ひとりひとりと向き合っている。
それは自分を知ろうとすることに由来している。
自分を知ることではじめて相手が見えてくる。



恩師の言葉を思い出した。

「自分の特性を活かして治療を展開しなさい」
「精神科の治療は自分を知ることからはじまるのです」

他者分析を使用した授業が展開された。
模擬面接をし、相手の特性を分析した。
自己開示を苦手としていたわたしには苦痛でしかなかった。
面接では当たり障りない返答しかしなかった。
自分を深く知りたいとも、知られたいとも思っていなかった。


当時はよくわからなかった言葉。
けれど、強く印象に残っていた言葉。
この重要性を改めて感じている。


精神科領域には、明確な答えがない。
こうすれば間違いない、というものはない。
かつては、短絡的に正解ばかりを追い求めて、視野が狭くなっていた。
すぐに効果の出るものはない。
当然、支援者の力だけでどうにかなるものでもない。

他職種の考えを学べる今の環境は、とても面白い。

転職して、いまに至る。
ひとつの区切りを迎えている。

この先何がしたいのか
行き詰まりを感じている。

まだまだだなぁと思うことはたくさんある。
何年経っても日々勉強だ。
多職種の中にいるからこそ、もっと自分の職種の色を出したいとも思う。

何のために何を勉強する?

具体的なものが見えてこない。
ふわふわとしたイメージが漂っている。

どんな治療者になりたい?

目指していた先輩がいた。
その人だからできる支援があることに気付いた。
わたしがそのままコピーしてもその人のようにはならない。

自己特性を活かした支援
わたしがやりたいことは何だろう。
漂っているイメージを具体化したい。

ただひとつ言えることは、いまの仕事が楽しいということ。
環境が変わっても、楽しいという気持ちは変わらなかった。
その事実がわたしを安心させる。
ゆっくりでも、回り道でも構わない。
この道を歩いていこうと思えるのだ。

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