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キャッシュフローと税負担:高配当株とインデックス売却戦略の評価


1. はじめに 

 資産形成期の運用方法として格安インデックス投信への積立が主流となりつつありますが、高配当株(ETF含む)も一定の支持者が存在します。本稿では出口戦略におけるインデックス投信(分配金を出さないタイプ)の元本売却と高配当株(半期or四半期配当)の投資効率を考察します。 

2. 投資効率を高める税金の戦略的繰り延べ

 最初に結論を示すと、生活資金として利用する場合、投資元本の定期的な売却が精神的に苦痛ではない方はインデックス投信の定期売却の方が高配当より投資効率に優れているという結果となります。 

 理由は税金のかかり方です。配当金の場合、配当額の100%に20%の税金が発生します。元本売却の場合、売却金額のうち超過リターンに対して20%の税金が発生します。(計算が面倒なので復興所得税は割愛しています) 

 一般に年金生活やFIREには定期的なキャッシュフローが確保できる高配当株が推奨されますが、税効率だけを考えた場合には投信の定期売却の方が効率的です。配当も投信の売却も利益確定には違いありませんが、性質が異なります。 

 配当の場合、純粋な利益なので100%課税されますが、元本を含む売却の場合、利益部分にしか課税されないため、手元に残る金額を同一にしようとした場合には元本売却の方が少ない税金で済むことになります。 

 最終的に全額を売却した場合には差はほとんど発生しませんが、運用しながら切り崩す期間が長期になるほど、少しずつ元本売却を続けた方が税の繰り延べ効果が期待できます。 

 投資における最大の障害はしばしば税金です。投資家は合法的な方法で可能な限り節税を心掛けるべきです。節税に加え、繰り延べを意識することも重要です。利益確定を先延ばしにするほど、残された資産に複利効果が期待できます。 

 税の繰り延べに関しては最終的には死亡時の相続税で清算されますが、生前に複利効果を最大限に活用できることから可能であれば利用すべきです。 

 NISA制度をきっかけに投信積立や高配当株投資をスタートされた方も多いかと思います。インデックス積立の方は出口戦略に悩んでいるかもしれませんが、心配はいりません。論理的には高配当株より税制的に有利な形で取り崩しが可能です。 

 注意点は「元本売却が苦痛ではないこと」です。地道にインデックス積立を続けてきた人は資産売却の経験がほとんどありません。投資初心者にありがちな点として、資産売却の精神的プレッシャーがあります。 

 資産運用は購入より売却の方が精神的なストレスを感じる場合はあります。これは経験者であれば理解いただける心情かと思います。売却はたとえ大きな含み益が乗っている状態であっても、意識的な決断が伴う行為であり一種のストレスとなります。個別株を頻繁に売買している方は全く問題ないでしょうが、投信のみを保有し続けてきた投資家にとってはチャレンジとなります。 

 この精神的負荷を軽減する仕組みとして投信の定期売却サービスがあります。これは毎月決まった額or率の投信を売却し現金化するサービスです。SBI証券や楽天証券などのネット証券で提供されています。 

 この仕組みを活用することで資産形成時の積立と同様に決断力(意志力)をすり減らすことなく、資産売却が可能となります。20年後には資産運用におけるキャッシュフロー収入の主流が高配当から定期売却にシフトしているかもしれません。 

 なぜなら現在、現役世代で積立で資産形成を進めている層が20年後には資産売却によるキャッシュフロー生活へとシフトしてくことになるからです。そのころには資産運用・取り崩しの常識も今とは大きく変化しているはずです。 

 高配当株投資には避けられない個別株リスクが伴います。一方でインデックスの定期売却の場合、対象が仮にオルカンの場合には市場リスクのみを負っているに過ぎず、個別リスクは排除できます。 

 加えて、適切に分散されたインデックスの場合には個別株のような個別銘柄の分析・継続的な調査は不要です。定期的なポートフォリオの入れ替えも原則発生しませんのでメンテナンスにかかる時間を圧倒的に節約できます。 

 上記を考慮すると定年後の生活やFIREなど、給与という定期的な収入が期待できない状況におけるキャッシュフローの確保という観点から整理すると元本の定期売却の方が投資効率が良い、と結論付けることが出来ます。 

 インデックス積立を継続している現役世代の方はあまり出口戦略を心配せず、このまま積立を継続することが重要です。資産形成期は再投資で複利効果の影響を受けつつ、取崩し期も税の繰り延べ効果を活用し、税の支払いを先延ばしにすることで長期的により効率的な運用が可能です。 

3. 資産取り崩しの戦略的拡張:次世代サービスへの展望

 近年はNISAやイデコなど資産形成に関する制度が充実していますが、2030年・2040年以降には資産取り崩しの需要が高まることから定期売却などの取り崩しサービスや税の繰り延べ効果が期待できるサービスが伸びると予測します。 

 政府が社会保証ではなく「自助」に舵を切っているのは政策的に明白であり、個人はこれまで以上に経済的な備えが必要となります。自助を促進する制度としてNISAやイデコは存在します。 

 よって資産形成期が終了し、資産取り崩し期に入る人が増加する頃に、取り崩しニーズを合わせて制度改正や新サービスの登場が期待できます。日本はまだ資産形成が広がり始めたばかりなので、現役世代が資産取り崩し問題に直面するのは20年~30年先の話かもしれません。 

 とはいえ、資産取り崩しは人生の後半戦で誰もが直面する課題です。金融機関は今後、資産取り崩し系サービスの拡充に力を入れるはずです。特に富裕層のニーズは強いと思います。金融機関は取り崩しながらも一定の資産を自社で運用してもらうことで報酬や手数料を確保しつつ、投資家と長期的な関係を築いていく道を模索することになります。 

 資産の取り崩しはライフプランと連動します。これからはライフプランとファイナンシャルプランニングの連動がより求められることになります。何のためにいくら取り崩すかを明確にするためにはライフプランの精度を高め、どのような生活を望んでいるのかをクリアにする必要があります。 

 その過程において資産運用は単なる残高積上げゲームから、人生を豊かにするための資本へと変化します。若年期の資産形成フェーズではあまり目的を意識する必要はありませんが、40歳を超えた辺りから、積上げた資産の有意義な活用を意識することが重要です。 

 この辺りの考察はFIRE民の方が先行しているような気がします。既にラットレースから抜け出したFIRE民は前述の税の繰り延べや、ライフプランとファイナンシャルプランニングの連動を意識しているはずです。 

 証券口座の残高はそのままでは価値を生みません。自身の価値観に従って適切に「投資・消費・浪費」することで価値を生みます。投資家は投資と節約が習慣になり、あまり消費や浪費に資金を投じることは少ないと思いますが、意図的に経験や趣味に消費、時には浪費することで価値を発揮します。 

資産を経験や趣味に消費し、人生を謳歌する投資家を示す図

 この辺りはDie with zeroを参考にしていただければと思いますが「金融資産を価値ある別の何かに交換する作業」が人生の後半戦、取崩し期に重要となります。特に運用益>生活費で時間経過とともに資産が増加する方は資産を消費することを意識する必要があります。 

 近年は経済格差の拡大が注目を集めています。これからは現役時代に同じような所得の方でも運用次第で人生の後半生の財産額には大きな差が生じる時代となります。NISAやイデコなどの制度を上手に活用するか否か、運用の継続次第でリタイア時に数千万円程度の差が生じる可能性が高いです。 

 自助が強く求められる時代、必要な情報を収集し適切に行動できるかどうかで将来、大きな差が生じます。本稿が長期に渡る資産形成の旅における一助になれば幸いです。 

4. まとめ

 本稿では資産運用の効率化と税の最適化、さらにはリタイアメントにおける資産取り崩し戦略について詳述しました。現代の経済環境下では、同じ所得層の中でも賢明な運用戦略と税効率の良い出口戦略の選択が、将来的な財務安定性と生活品質に大きな影響を及ぼすことが明らかです。 

 特にNISAやイデコなどの制度を活用することにより、投資の成果を最大限に引き出すことが可能です。これらの制度を適切に利用することで、税負担を軽減し、長期的に資産を成長させることができます。ただし、これらの戦略を実行するには、適切な情報と賢明な判断が必要です。 

 将来への展望として、金融教育の普及とともに個々の投資家が適切な情報に基づいた決定を行えるようになることが望まれます。投資の知識と戦略が、経済格差を縮小し、より多くの人々が金融的に安定した未来を築く基盤となり得ると考えます。 

 最終的にこの論考が皆様の資産形成と運用の知識を深め、より効果的な資産管理へと導く一助となることを願っています。長期的な視点を持ち、戦略的に資産を運用・管理することで、リタイアメントの自由と安心を手に入れましょう。

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