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GPUの効率的な活用:マイニングよりAI

 海外メディアの記事でNVIDIAのCTOが「仮想通貨は社会の何の役にも立たない」と述べ話題となりました。 

原文と日本語抜粋記事は以下を参照ください。

 NVIDIAはゲーム・暗号資産・AIなど様々な用途で用いられるGPUを製造するグローバル企業で業績も急拡大を続ける成長企業です。世界的に影響力を有する企業のCTOがこのような発言(一部業界を敵に回しかねない)をしたことには少し驚きましたが、一方で真実とも感じました。 

 実際、昨年末に登場したChatGPTなどのAI処理には膨大な処理能力が必要であり、NVIDIAのGPUはこの分野でも大きな需要が存在します。発言の趣旨は「GPUは仮想通貨のマイニングよりもChatGPTなどのAIの処理などに使用したほうが価値がある」とのことで、これには100%同意です。 

 そもそもマイニングは本質的に無駄な行為です。PoWは無駄な作業をさせることで安全性を確保する仕組みですが、行為自体は社会的に有益な価値を何一つ有無出しておりません。端的に言うとGPUリソースの無駄遣いです。 

 対してChatGPTの演算処理のようなAI分野における活用の場合、GPUのリソースは社会的価値が存在する行為に投下されていることから、NVIDIAのCTOの発言は的を得ています。 

 NVIDIAはこれまで仮想通貨のGPU特需で儲けていた経緯もあるので、ここまではっきりと見解を示すのは少し意外でした。とはいえ、業界関係者を含め誰しもがマイニング自体に社会的な価値は存在せず、報酬稼ぎのための“つまらない行為”であることは認めることでしょう。 

 近年はGPU処理性能が要求されないPoS方式への移行、仮想通貨価格の上昇の一服などがあり仮想通貨のGPU需要はバブル期から停滞しつつあります。この発言はNVIDIAの中で仮想通貨向けの収益が業績全体に与える影響が軽微であることの示唆かもしれません。 

 GPUの需要は2010年代以降、急速に拡大してきました。今後もGPUの需要は拡大が見込めることから、どうせなら社会的に有意義な用途で利用して欲しいというのは製造メーカとしての本心なのかもしれません。 

 十数年前に仮想通貨が登場した当時、仮想通貨は「次世代の通貨」として法定通貨に代わる「新しい決済手段」としての可能性を秘めていました。しかしながら現在(2023年において)このような見解を示す有識者はほとんどおりません。 

 十数年に及ぶ壮大な社会実験の結果、仮想通貨が決済手段として有益でないことが証明されました。2015年頃に店舗等で決済手段として採用した企業も多くは撤退しています。決済需要が小さいこと、価格が安定しないこと、手間がかかることなど理由は様々ですが、一言でいうと「実用性の欠如」でした。 

 実用性の観点からの決済手段としての本命はCBDC(中央銀行発行のデジタル通貨)です。こちらは2020年代のうちに一部の国家で導入され、2030年代には比較的多数の国家で新しい決済手段として活用されることになるでしょう。 

 CBDCではGPU需要はほとんど無いと思いますが、どうせなら社会的に有益な行為に活用できればと願います。仮想通貨及び派生プロジェクトで有益そうな事例はCBDCとグローバルステーブルコインくらいですが、グローバルステーブルコインはLibra(リブラ)が各国当局の圧力によって潰されて以降、有力なプロジェクトが登場しておりません。 

 逆に捉えるとLibra(リブラ)は各国当局が本気で圧力をかけなければならないほど、国家主権(通貨発行)・金融政策の本質に迫っていたと言えます。GPUがこのようなプロジェクトに用いられるのであれば冒頭のNVIDIA CTOの評価も変わるかもしれません。

 

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