見出し画像

アセットクラスとしてのクリプトの評価


1. はじめに 

 米国でビットコインETFの上場が話題となっています。仮想通貨も誕生から約15年が経ちました。その間に様々な出来事がありましたが、今日では無数のコインが生み出され取引されています。本稿ではクリプトは資産運用のおけるアセットクラスとして成立するか、というテーマで整理いたします。 

2. 規制の限界:本質的価値への道

 クリプト業界は当初の無法地帯から整理が進み、多くの国で取引所などのサービスを提供する場合にはライセンスが必要となりました。またグローバルでは金融活動作業部会(FATF)がガイダンスを公表し、マネロン・テロ対策が求められるようになりました。 

 このような枠組みによって取引所などを経由した取引の多くは当局に捕捉されることになります。当初は権力からの独立、という要素が強かった仮想通貨ですが現状では規制された取引がメインであり、レギュレーションの外に位置する取引は少数となります。 

 個人が秘密鍵を管理するウォレットで取引をすることで規制を避けて取引することは可能ですが、法定通貨に交換するタイミングで規制された取引所を利用しなければならない場面に直面します。現状、相当ダークな取引でもない限り、どこかで取引の足跡が残ります。 

 仮想通貨が生み出された当初のコンセプトとは異なるかもしれませんが、規制自体は悪いものではありません。仮想通貨規制は詐欺を防止し、業界の健全性の向上に貢献します。しかしながら規制は不正の抑止には貢献しますが、仮想通貨の本質的価値とは関係なく、規制を強化することで仮想通貨の価値が向上するわけではない点には注意が必要です。 

 ここでの本質的価値とは「決済性・資産性・実用性」などを指します。資産運用のアセットクラスとしてはいずれかの要素を備えている必要があります。

 株式・債券などの有価証券は資産性を備えています。円・ドルなどの通貨は決済性を備えています。金・原油などのコモディティは実用性(実需)を備えています。主要な資産クラスはそれぞれいずれかの機能を備えています。 

 仮想通貨は当初は決済性に期待されましたが、実生活において決済に利用されることはほぼありません。ボラティリティが大きく価値が安定しない点やファイナリティ・決済時間などが課題です。 

 資産性に関しては一見すると成立するように見えます。なぜなら取引所で値段が付いて取引されているからです。しなしながら資産という言葉には裏付けとなる価値が含まれるところ、仮想通貨には裏付けとなる価値が存在しません。 

 裏付け価値は株式であれば企業収益であり、債券であればクーポンです。どちらも資本主義というフレームワークにおいて継続的に価値の向上が求められる法的エンティティの活動を背景にしたものであり、資産に該当します。 

 一方で仮想通貨の場合、裏付けとなる価値は存在しません。一部でマイニングが裏付け価値と主張する方がいるかもしれませんが誤りです。マイニングは単なる発行ルールに過ぎません。マイニングのハッシュ計算は企業活動による利益追求とは異なります。 

 実用性に関しては皆無です。貴金属は宝飾や産業用途の需要があり、原油などのエネルギーは生活インフラとして不可欠です。仮想通貨にはこのような実生活に組込まれた用途が存在しません。(何かを生産する原料になったり、食べたり、利用することが出来ない) 

 よって決済性・資産性・実用性のいずれも持ち合わせていないことになります。仮想通貨は値段が付いて取引可能な電子データであり、それ以上でもそれ以下でもありません。 

決済性・資産性・実用性という本質価値を欠き、投機需要に振り回される様子を示した図

3. 仮想通貨の資産クラスとしての脆弱性とリスクレベル

 ポートフォリオ構築には各資産のリスクレベルを考慮します。株式・債券・不動産・コモディティはそれぞれリスクの大きさが異なり、相関具合が異なります。仮想通貨のリスクを伝統的資産の中に位置付けると以下となります。 

・リスクレベル(仮)
国債<社債<株式(上場)<株式(非上場)<BTC<草コイン

 BTCでさえ非上場株以上のリスクと考えられます。前述の通り裏付けとなる価値(決済性・資産性・実用性)を有していないため、価格は投機需要によって変動します。短期的なFX取引やバイナリーオプションに近いイメージです。 

 価格の基礎となる価値が存在しないので価格は完全に需給に依存します。よって数年で数十倍にも、1/100にもなり得ます。金や原油などのコモディティもボラティリティが高いですが実需が価格形成のベースになるという点は仮想通貨と異なる点です。 

 原油は中東情勢や経済状況によって需給が大きく変動し価格も上下しますが、現代生活を営むうえで必要不可欠な資源であり、景気影響は受けつつも一定の需要が存在します。上記を考慮すると仮想通貨は最もリスクレベルが大きな資産クラスと評価できます。 

4. 実世界への貢献:AIに学ぶ仮想通貨の課題

 仮想通貨には本質的価値が存在せず、リスクレベルが大きなアセットクラスである点を説明しました。次は仮想通貨・ブロックチェーンプロジェクトの現在価値に関して整理します。

 仮想通貨・ブロックチェーンプロジェクト(Web3など)は現実世界での価値提供を無視して、閉ざされた価値観と物語を信じる少数のプレイヤーに支えられています。 

 昨年末からChatGPTに代表される高度なAIが注目を集めていますが、仮想通貨と生成AIは大きく異なります。生成AIは日常生活やビジネスの現場で大いに役立つ(実用性を有する)一方で仮想通貨には実用性が存在しません。 

 株価の上昇率やメディアでの取り上げ方を見るとバブルのように見えますが、実態を伴ったバブルというのが現時点の評価です。株価にAIプレミアムが付いているのは否定しませんし、AIに過剰な期待が集まっていることも否定しませんが、1年の間に生成AIは驚くほど進化し実用性を高めました。 

 この点を加味すると生成AIはブームであることは間違いありませんが、仮想通貨やブロックチェーンプロジェクトと異なり実態を伴った大きなトレンドと言えます。 

 ブロックチェーンのビジネス応用は2015年頃から検討されてきましたが、8年経っても優れた実用性を有したプロダクトは誕生していません。一方で生成AIは2022年末の登場以来、様々な形で既存サービスに組込まれ、新規サービスとしてリリースされています。実用性という単語を因数分解してみると「時短・効率性・生産性」などのキーワードに分解できます。 

ChatGPTのようなツールを利用することで時間効率が各段に向上し、生産性が大きく向上します。これを生産性のレバレッジ効果と言いますが、生成AIはツールとしての役割を見事に果たしてビジネス・私生活の両面において多大な影響を与える存在となりつつあります。 

 他方で仮想通貨やブロックチェーンプロジェクトにはこのようなメリットは存在しません。分散化やWeb2の打倒という特定の物語(ストーリー)は存在しますが、それ以上のものが存在しないため限られたプレイヤーの支持しか得ることが出来ないのが現状です。 

実用的なAIと本質的な価値に欠ける仮想通貨を対比させた図

 どこかのタイミングで新規参入者が途絶えて自転車操業が立ち行かなくなる日が来るのではないかと思います。求められているのはイデオロギー的に素晴らしいものではなく、実際に素晴らしいサービスです。 

 手段の目的化から抜け出し、現実世界での価値の追求に目を向けることが出来ればブロックチェーンプロジェクトの中からも評価されるサービスが登場するはずです。

 今後、仮想通貨やブロックチェーンプロジェクトに紐づく各種トークンが資産クラスとして成立するかは正しい方向にピボット出来るかどうかにかかっています。 

 クリプト業界はこの10年で優秀な方が多数参入しました。ゴール設定とアプローチさえ間違わなければ挽回の可能性は大いにあると思います。技術は目的を達成するための手段に過ぎず、おまけです。 

5. まとめ

 本論考では、仮想通貨が資産運用におけるアセットクラスとしての役割を果たす上で直面している諸問題について考察してきました。その本質的価値の欠如、潜在的リスクの存在、そして規制に関する不確実性が、その成熟度を問われている理由です。 

 クリプト業界が過去10年間で多くの才能を引き寄せ、多大な進歩を遂げたことは確かですが、技術そのものが目的ではなく手段であることを忘れてはなりません。技術は、それを利用して何を達成しようとしているのか、その目的を明確にすることが重要です。 

 この視点から見れば、仮想通貨とブロックチェーン技術は、まだそのポテンシャルを完全に発揮していないと言えるでしょう。資産運用のアセットクラスとしての仮想通貨の位置付けは、現在のところ、多くの挑戦に直面しています。本質価値の不透明さ、市場のボラティリティ、そして未成熟な規制環境は、投資家にとって大きなリスク要因です。 

 最終的に、仮想通貨が金融業界で持続可能なアセットクラスとして認識されるためには、本質価値の明確化、リスク管理の徹底、そして適切な規制フレームワークの構築が不可欠です。技術は、これらの目標を達成するための手段にすぎません。未来に向けてクリプト業界がこれらの課題にどのように対応し、その真の価値を実現するかが注目されています。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?