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オルタナティブ投資と景気循環の相関性

はじめに 

 2008年のリーマンショック以降、世界的な金融緩和の影響で株式市場だけではなく様々な資産が大きな値上がりを見せてきました。直近では米国の金融緩和政策の終了・世界的な利上げ・インフレの加速、軍事的行動の影響などもあり、資金の逆回転が加速し株式・債券・仮想通貨など様々な資産が下落傾向にあります。今回は非伝統的資産を焦点に景気循環との関連性を整理し伝統的資産との差異や特徴の把握に努めます。 

1. オルタナティブアセットの拡大

 以前はオルタナティブ投資というと不動産・コモディティなどが主流でしたが、最近では裾野が大きく広がった印象を受けます。一番象徴的なアセットが仮想通貨(暗号資産)ですが、他にもプライベートエクイティ・デリバティブ・各種ファンドなどがあります。本記事では不動産・コモディティ・プライベートエクイティ・デリバティブなどを便宜的に従来型オルタナティブアセット、トークン化された資産を新興オルタナティブアセットとして扱います。

 近年の資産バブルの影響で本来は投資対象に該当しないものまでセカンダリー市場が形成され売買されている事例もあります。(ここでは本来の用途ではなく疑似的な金融商品化を意味します)分かりやすい事例でいうとNFTです。これは以前の記事で解説しましたがバブルなので避けた方が良いです。絵画やワインなどの実物資産も本来の用途ではなく、値上がりを見込んで取引される傾向が一部で見られます。

 これらの現象は金融緩和の影響で金余りが加速し株式市場を中心の相場が上昇し、様々な資産の上昇を促していると整理できます。オルタナティブ投資の拡大が継続的なトレンドなのか、それとも一過性の事象なのか、景気循環・金融政策とどのような相関を有するのか考察します。 

2. オルタナティブアセットの性質とトレンド

 オルタナティブアセットは一般的に株式や国債と比較して流動性が低くボラティリティが高い傾向にあります。これは参加者が少ないこともありますがペーパーアセットとは限らないため、管理・保管などの手間が発生することも理由の1つです。

 過去であれば証券化の手法で流動化し金融機関等に売却する形が一般的でしたが、最近はトークン化という名の錬金術が一部で流行っています。トークン化は一般に仮想通貨・ブロックチェーン絡みで用いられる手法ですが、慎重な見極めが必要です。 

 時々、不動産トークンなどというものが紹介されますが、トークン自体に不動産の権利をONするのは実質的には不可能です。一般事業会社(民間企業)の発行するトークンと国が管理する不動産登記は連動しません。このような事例は多く存在します。●●トークンと呼ばれるものが本当にその実態を表しているのか、法律上の権利を保障出来ているのかは慎重に判断する必要があります。 

 脱線しましたが個別の●●トークンが重要ではなく、この手法を用いることで本来は流動性が低いアセットに対して流動性を付与することが可能である点が一部アセットの活発な売買を促進していると思われる点が重要です。技術の進化によりアクセスが容易になったとも評価できますが、売買されるもの(電子データ)と実質的な価値・権利が連動しているかどうか、といった問題も新たに浮上しております。

 権利がきちんと担保されている例としてはSTOがあります。STは金商法で定義されており、証券会社が取り扱うことによってトークン化された電子テータに確かな権利と価値が付随したものとなっています。このような強制力を持った仕組みが存在しないトークンの場合には慎重な判断が必要です。 

3. オルタナティブアセットと相関・信仰

 次にオルタナティブ資産と景気循環・他のアセットクラスとの相関について整理します。一般にオルタナティブアセットは株式や債券等の伝統アセットとの相関が低いと認識されておりますが、必ずしもそうとは限りません。近年は株式と同じような動きをするアセットが増加傾向になります。

 オルタナティブアセットは株式と逆相関かというと必ずしもそうではなく、伝統的な金融アセットよりも景気循環の影響を強く受ける傾向にあります。要因の1つとして資産価値を測定する基準となるファンダメンタルズが不明確であり尺度が統一されていないためトレンドに左右されやすいという実態があります。

 株式の場合PER・PBRなどの指標があり、債券は政策金利と国債がベンチマークとなります。従来型のオルタナティブアセットはこれらをベンチマークに需給や利回りが調整される傾向があります。対して新興オルタナティブアセットには尺度・ベンチマークが存在せず、トレンドに影響される度合いが高い状況です。

 分かりやすい事例はNFTです。価格根拠となるファンダメンタルズは存在しないので価格はトレンドに左右され乱高下します。NFTの問題については過去の記事で解説していますので参照ください。

 投資家は特定のアセットクラスだけに投資する層もおりますが複数のアセットクラスに資産を分散させる方が一般的かもしれません。株をポートフォリオの中心としつつ、債券・不動産・金も含めてという形です。一般にコア・サテライト戦略と呼ばれる手法です。オルタナティブアセットはこのサテライト部分を構成する資産となります。 

 投資家は相場変動時にポートフォリオの構成見直しを迫られる場合があります。(まさに今年の相場状況のように!)修正内容は個々で異なりますが一般的には流動性が低く・ボラティリティが高く・市場規模の小さな資産から処分・見直しされることが多いです。これが冒頭で景気循環の影響を受けやすいという内容と繋がります。もちろん逆張り投資家も一定おりますので全体的な傾向に留まります。 

 資産価格が上昇を続ける相場では多くの投資家はアップサイドのリターン値の大きさをベースに判断を下します。逆に下落相場では最大損失・ボラティリティの大きさを基準に処分の判断を下します。よってオルタナティブアセットは上昇・下落のどちらの局面においても変動値が大きくなる傾向になります。 

変動幅は以下の通りです。

 伝統的金融資産<従来型オルタナティブ資産<新興オルタナティブ資産

 伝統的金融資産の中では債券が安定的で株式が続きます。従来型オルタナティブアセットの中では有価証券に分類されるアセットが安定的で現物資産は流動性の観点から偏差が大きくなります。新興オルタナティブアセットはどれも似たようなものですが規模の小さなアセットほど大きな影響を受けます。(BTCと草コインをイメージしてください)

 先ほど新興オルタナティブアセットはファンダメンタルズ評価が困難でベンチマークが存在しないと言いましたが、代わりに宗教のような信仰が存在します。ブロックチェーン信仰・分散主義・トークンエコノミーです。

はい、要するにWeb3そのものですね。

 Web3を宗教と言うと一部の層(信者)からお𠮟りを受けそうですが、実用的なプロダクトや根拠が示されないまま、膨大な資金が流れている状況を見ると単なる技術に対する期待値だけでは説明が付かず、背後には思想的なバイアスが見え隠れします。(反権力的な分散主義をブロックチェーン技術で実装し搾取されないトークンエコノミーを実現する、という合言葉は確かに気持ちいいかもしれません) 

 以前の記事でWeb2.0とWeb3は「実利とイデオロギー」の対立に似ていると言いましたがこちらも同様かと思います。伝統的金融資産は実利の世界の資産であり、新興オルタナティブアセット(トークン系資産)はイデオロギーの世界の資産なのかもしれません。Web3に関する考察は以下を参照ください。

 なぜ宗教の話を持ち出したかというと信仰は心の問題であり合理性とは異なる判断基準で動くという点にあります。先程の変動率の説明の通り、新興オルタナティブアセットの変動値が最も高いのは事実ですが、私はここに信仰の歪みが生じることで一時的な乖離が生じることがあると考えています。

 機関投資家は合理的な投資家なので事前に決められたルールに沿って撤退する・しないを判断しますが、多くのトークン投資家の判断基準は「トレンドと信仰」であり、この信仰が歪みを生じさせる原因となります。信仰は一定レベルまでの下落を防御するダムの役割を果たしますが、どこかのタイミングでダムが破壊されるとそれまで堰き止められていた水が一気に流れるように暴発します。 

 ちなみにここでの信仰は「技術的無知・バズワード化・意図的な相場形成」などをベースに形成されます。尚、信仰心が強い方を諭そうとしても無駄です。合理性ではなく心の問題なので。(経験談) 

4. オルタナティブアセットと景気循環

 好況(好景気)・不況(不景気)、インフレ・デフレ・スタグフレーション、金融相場・業績相場・逆金融相場・逆業績相場など、景気や経済の状況を示す言葉は色々とあります。視点としては経済学とマーケットの目線があります。伝統的なアセットは実態経済の影響を素直に受けやすい傾向が強く、GPD成長率やインフレ率・金利水準などに割と素直に反応します。 

 逆にオルタナティブアセットの場合は複雑です。完全に逆相関とは言えませんがマイナス相関の動きをする場合もあれば、株と同様の動きを見せる場合もあります。オルタナティブアセットに統一性があるかと言うと微妙でグループ毎の傾向が存在するくらいです。 

 分類としては3つに整理出来ます。①金融派生商品タイプは証券化商品などが該当し、伝統的資産と相関関係が強いです。②実物資産タイプは大枠では伝統資産と同一の方向に動きますが、ややタイムラグがあります。実物資産の特徴として流動性の問題があり、証券化商品のような瞬発力はありません。また市場自体が小さかったり・整備不十分なケースが多く大きく動くこともしばしばあります。③トークン化資産タイプは個体差個々の差が大きく一括して論ずることが極めて難しいですが、マクロ経済動向へのリンクは弱く相場トレンドの影響を強く受けます。

 実物資産に関しては更に2つに分類され(1)経済活動に必須の資産(原油や小麦など)と(2)必須ではない資産(絵画・ワイン・時計など)に分けられます。前者は伝統的なコモディティに分類され、後者は金余りが生んだ本来用途を逸脱した金融化の結果です。(疑似的な金融商品化)最近では日経でもロレックス投資に関する記事が掲載されておりました。

 色々なオルタナティブアセットが存在しますが、投資家としてはどのアセットをどのようにポートフォリオに組み込むべきかについて最後に整理いたします。 

 伝統的金融の延長で投資をする場合には①のタイプと必須実物資産を中心にポートフォリオを構築するのが良いです。これらの資産はマクロ経済や伝統的資産についての理解があれば価格変動の原理原則が理解しやすいタイプの資産です。 

 逆に③のタイプと必須ではない実物資産は特定分野の専門知識と高度なトレンドフォロー能力が必要になります。絵画でもワインでも通常の金融資産とは異なる目利きが必要であり一点物の評価はコモディティである金融商品の評価とは異なる能力が必要です。またトークン化アセットはトレンドの変化が激しく1か月程度で大きく流れが変わることがあります。(最近だとアルゴリズム型ステーブルコインやSTEPNの崩壊など)

 別の視点だと税金の取扱いが異なります。①タイプの税金の扱いは明確ですが③に関しては不透明な部分も存在します。確定申告の手間や税率を考えると③は難易度が高いと思われます。期待値(変動幅)で判断すると③>②>①であり、トークン化アセットのボラティリティが断トツです。宝くじを買う気分であれば③ですし、純粋に分散効果とポートフォリオの安定を狙うのであれば①と②の組み合わせだと考えます。

 私自身は過去に①~③全て試しました。投資家としての経験は約17年で現在はほぼ①にポートフォリオを集約させつつあります。③に関しては現物は保有せず税制を考慮しコインベース株で代用し、コモディティ・不動産はトレンドを加味し流動性を確保できる手段(現物ではない)で代用しています。とはいえ現在は②と③は合算しても5%以内にコントロールしています。

 今年は米国を中心に数年ぶりに金利が復活しました。先週はFRBが0.75%の利上げを発表しましたが、これからもしばらくはサプライズが続くかと思います。金利が存在する世界においてはオルタナティブアセットもこれまでとは異なる動きをする可能性がありますので、金利との関係性で面白い動きがあれば続編記事を投稿しようと思います。

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