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金融サービスの変遷と未来予測①

はじめに

 本記事では金融サービスの変遷と未来予測と称して、過去20年の金融サービスの動向とこれからの金融サービスの在り方を解説したします。流れとしては「過去・現在・未来」の3つの時間軸に分け、金融サービスがどのように変化しつつあるのかを俯瞰いたします。

 

バンドリングされた金融サービスの時代

 最初は「バンドリングされた金融サービスの時代」です。この時代は90年代からリーマンショック前までをイメージしていただければ良いかと思います。90年代から2000年代にかけインターネットが普及し、金融サービスにおいてもインターネットを駆使したネット専業が生まれネット金融という事業形態が誕生した時代です。

 ”バンドリング”という言葉からもわかるようこの頃の金融サービスはパッケージングされた金融サービスが主流でした。大きく銀行業界・証券業界・保険業界、●●業界というような分類はありましたが個別事業者において扱うサービスの本質に大きな違いはなく、顧客は対面・ネット、商品数、手数料の安さなどを基準に取引を選択していました。顧客はどの金融機関でも標準的な商品・機能・ユーザービリティのサービスが受けられた時代ともいえます。(必ずしも質が高いとは言えませんが・・・)

 この頃はネット事業者の台頭による新旧対決の側面に注目されますが、”事業者目線で顧客に画一的なサービスを提供していた”、という観点からは対面もネットも同一であり、昔から続く金融機関におけるある種の特権的な意識が残っていたのではないかと感じています。悪く言ってしまうと”よく理解していない一般顧客でも利用できるよう、プロである我々(金融機関)が事前にサービスを選別しておくので、これを利用していればいい”というような感覚です。要するに主体が金融機関にある状態です。

  ご存じの通り現在は大きなパワーシフトが起きており主体は金融機関ではなく利用者たる”個人”です。この変化にはリーマンショックによって誕生・加速した各種のFintechサービスの浸透や暗号資産・ブロックチェーン技術をベースとする金融分野への応用(DeFiやP2P金融)など様々な要因が挙げられます。様々な変化が重なり合い、これまでの金融ビジネスを支えてきたキーファクターが変化してきたことが「バンドリングされた金融サービスの時代」の終焉へと繋がっていきます。

 

アンバンドリングされた金融サービスの到来

 2008年はご承知の通り「リーマンショック」が起こった年でもあります。まだ社会人になりたての私は某ネット証券に在籍しており、当時の出来事はとても鮮明に記憶に残っております。幸いネット証券と言うこともあり、当時はブローカー業務(東証などへの個人投資家の株式の売買注文の媒介)が主流であり、問題となっていた証券化商品を抱え込むようなビジネスモデルではありませんでしたが、東証の売買代金・出来高は大きく落ち込み、為替の動きは荒い日々が続き、少し前まで隆盛を誇っていた不動産ファンド系の事業者が軒並み崩れ去る状況には唖然とした思いを抱いておりました。

  リーマンショックを簡単に纏めると、米国を中心に不動産証券化商品(一般にサブプライムローンと呼ばれる)市場が崩壊したことをきっかけに、住宅バブル崩壊・焦げ付きにより、安全と思われていた不動産証券化商品の化けの皮が剥がれ崩壊したと整理できます。個別のローン債権を複数寄せ集め、それらの債権をパッケージ化・証券化し、自己のバランスシートから切り離す(オフバラ)が加速し様々な金融機関を点々流通した結果、投資家(金融機関)は格付会社の示す記号(AAAとかAAといった指標)を鵜吞みにし、自ら原資産のリスク評価を怠り取引を加速させていき、行きつく先としてリーマンショックが発生いたしました。まぁ、中身を確認せず目隠しで取引をしているような状態でしたからどのようなリスクが潜んでいるか当事者も認識していなかったのです。彼の有名なウォーレン・バフェットもデリバティブは「金融市場の大量破壊兵器」と称しております。

  リーマンショックは多方面に影響を与えました。1つにデリバティブ取引の強化の流れです。リーマンショックの反省から世界の金融当局は店頭デリバティブ取引の規制強化に舵を切りました。清算機関の利用義務付けや金融機関各社でのリスク管理の強化、バーゼル規制等々です。2つめに”too big to fail”と呼ばれる問題が表面化しました。特定企業が破綻した場合に社会全体に与える影響が大きすぎて潰せない、という趣旨です。当時は世界でも名だたる金融機関の多くが危機に瀕しておりました。リスク管理が出来ていない民間企業の救済のために公的資金を注入することに関しては当然ながら慎重にならざるを得ず、安易な資金投入はモラルハザードを生むことに繋がります。

  リーマンショックから数年、金融機関は徐々に立ち直りますがそこで巨額の報酬が問題視されるようになりました。公的資金等の救済措置を受けた金融業界(ウォール街)がすぐに復活し、他業種と比較し高額な報酬を受け取っていることに一部の市民がデモを起こし抗議している様子もありました。FintechはFinance(金融)とTechnology(技術)の造語なのでテクノロジーを駆使した金融サービスですが、2010年以降に様々なサービスが急速に誕生した背景にはこのような伝統的な金融機関の態度・サービスへの反発がありました。よってFintechは既存の金融機関を反面教師に、一般ユーザーを対象により利便性の高いサービスを目指す傾向にあります。2010年代は同時にスマートフォンが普及した時代でもあり、Fintechはスマートフォンという武器を得てこれまでよりも簡便な手続きで・使いやすく、スマホアプリという形であっという間に普及いたしました。

  急速に拡大したFintechサービスはこれまでの金融機関が総合スーパーだとすると専門店・カテゴリーキラーのような立ち位置で特定の機能・サービスに特化し、その代わり既存の金融機関と比較して痒い所に手が届くような細かなサービスや優れたUI/UX、シンプルな料金などで差別化を図り、顧客の支持を獲得しつつ成長を続けてきました。以前、ビル・ゲイツは”銀行機能は必要だが、今ある銀行は必要なくなる”と発言したと言われています。この発言が徐々に現実となりつつあるのが現在です。一般に言われる銀行機能のアンバンドリングです。銀行の主要業務として「預金・為替・融資」がありますがFintechサービスはこれらの特定の機能に着目し、銀行よりもより便利な形でサービス提供しております。証券業界でも2015年頃からロボアドと呼ばれる資産運用サービスが成長してきていますが、これらのFintechサービスは専門店のような位置付けゆえに網羅的・包括的なサービスには至らないという弱点もあります。多くのFintechサービスはベンチャー企業が立ち上げているため資本金・金融ライセンス等の都合もあり広範なビジネス展開が難しいことが想定されますが、ここで1つ問題が生じます。

  金融サービスが高度化・専門化することで機能分化が発生し、個々のサービスとしては質の高いサービスが増加したにも関わらず、複数の金融サービスの契約が必要になり、ユーザーは本人確認の手間やアカウント管理など煩雑さも高まってしまいました。従来は良くも悪くも大手の金融機関であればそれなりのレベルの幅広なサービスを受けられましたが、現在は個々のFintechサービスを駆使して個別最適を追求すると逆にサイロ化状態に陥るという課題が発生しているようにも見えます。良質な金融サービスが増えたことは純粋に喜ばしいことですが、逆に金融リテラシーが高くない一般的なユーザーはどのサービスが自分に相応しいか判断に悩む状態と言えます。

  この状態を解決する動きが「リバンドリングされた金融サービスへの移行」であり、これまで語った過去・現在の先に存在する「未来」であり、本投稿で示したかった未来予測でもあります。とはいえ少し分量が長くなってしまったので、バンドリング(過去)→アンバンドリング(現在)→リバンドリング(未来)における未来予測は次回の投稿に譲ることといたします。

 


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