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セゾン投信の大きな誤算

1. はじめに 

 セゾン投信の中野会長の解任が注目されています。解任自体は親会社によって子会社の代表が交代させられるだけなのでよくある事例です。今回の解任の鍵となったのが販売戦略の相違です。 

 直販VS外販の争いは親会社の意向により外販に軍配が上がりました。今回はセゾン投信の騒動を題材に私が感じた違和感を共有します。 

2. すれ違いと誤算 

 直販・外販にはそれぞれメリットが存在します。直販はコアファンを獲得しやすく投資家の長期投資が見込めます。また販社を介さないのでコスト面でも有利に働きます。

 外販は営業にレバレッジを掛けることができるので残高を集めやすい点が特徴です。どちらの手法もメリット・デメリットが存在します。 

 今回の騒動では現場の中野会長は直販派、親会社のクレディセゾンは外販派で販売戦略が真っ向から対立しました。結果は資本の理論に従い親会社であるクレディセゾンの意向に従い中野氏の解任となりました。 

 今回の一件ではどちらも損をした結果となりました。引き際を見誤り、決裂したように見えます。妥協点としてこれまでの直販を維持しつつ、外販ルートも拡大するというアプローチが考えられます。

 直販ルートを残しつつ、外販にも着手するのであれば中野氏の直販への拘りも残しつつ、親会社の残高拡大の経営目的も果たせたはずです。もちろんセゾンとしてもこれまでの中野氏の功績を配慮し妥協案の提示はあったのではないかと思います。

 結果として決裂したということは中野氏が直販・外販の両面戦略を拒んだのではないか?と推察されます。直販・外販の併用は「ひふみ投信」が分かりやすい事例かと思います。

 ひふみは元々は直販のみでしたが途中からネット証券等でも購入できるようになりました。ひふみは自社の窓口を残しつつ外部チャネルを拡大することで残高を増やしました。セゾンが狙ったのはこのような形ではないでしょうか? 

 米国では直販の割合が日本よりも大きく、販売シェアの一角を占めています。しかしながら日本と米国では前提や構造が異なるため、直販会社が大きなシェアを獲得できる見込みが薄いのが現状です。 

 親会社であり株主であるセゾンとしては「早く・大きく」成長させたいと願い、現場責任者である中野氏は「ファンと共に着実に」成長させたいと願ったのではないかと思います。どちらが正しいかには触れませんが、経営と現場で目線が食い違うことは頻繁に生じます。 

 そのような場合、通常は親会社の意向に従って子会社の経営方針が修正されることになります。今回も結果としてはそのようになりましたが、過程において対立がメディアによって表面化しました。これはセゾンにとってもマイナスでした。 

 というよりも、中野氏の強硬ぶりが少し意外でした。将来的に直販ルートの廃止についても議論されていたかもしれませんが、現状の顧客が存在する限りしばらくの間は直販ルートを廃止することはあり得ないはずです。 

 事業譲渡などでどこかの証券会社に顧客を引き渡すことは考えられますが今すぐというわけではないと思いますので時間稼ぎは出来たはずです。その間に直販で結果を出すなり、別案を検討できたかと思います。

 想像以上に中野氏・セゾンの双方が自己の主張を譲らず頑固だった、というのが今回の騒動の実態ではないでしょうか? 

3. 根本的問題の把握 

 今回の騒動のトリガーは親会社であるセゾンの残高拡大の要請にあります。日本では直販に限界があることは事実であり、兆単位の残高を集めるのは非常に難しいと思います。今よりも一桁大きな資産の獲得を目指すのであれば外販は必要不可欠であり、合理的な判断のように思えます。 

 しかしながら今回の騒動は直販・外販という議論では根本的な問題は解決しないと考えます。直販であれ外販であれミックスであれ、どのような手法を用いてもセゾンが目指す兆単位の残高獲得は無理、というのが私の抱いた感想です。

 今から約15年前、セゾン投信は設定された当初は革新的なファンドでした。販売手数料が無料で信託報酬も低いファンドであり、コンセプトも尖っていたと思います。しかしながらこの15年の変化に付いていけず「化石化」してしまったファンドです。 

 この15年で投信の手数料無料化はネットを中心に当たり前になりました。信託報酬も0.1%程度まで引き下がりました。セゾン投信が当初ウリにしていた点は現在では当たり前になりました。 

当然、セゾン投信もこの変化に応じて手数料の引き下げやサービスの向上を進めてきましたが、中小独立系の限界がありました。セゾン・グローバルバランスファンドは年0.56% ± 0.02%程度のコストがかかります。 

 この水準は昨今の格安インデックスファンドの分類では極めて高い水準であり、合理的な投資家であれば間違いなく購入しません。セゾン投信の残高が期待通り集まらないのは直販が原因ではなく、ファンドが時代に追いつけなかったのが原因です。 

 商品設計とコスト構造を見直さない限り、外販チャネルを拡大しようと大きく残高を増やすことは不可能です。親会社であるセゾンはこの点を過小評価し、外販すれば残高が伸びると思い込んでいたのではないかと思います。

 セゾンがやるべきことは外販の推進に加えて、時代にキャッチアップした新しいファンドの設定です。今回の騒動では外販に向け、新しく格安インデックスファンドを設定するというような話はありませんでした。であれば直販・外販のどちらでも残高の獲得は困難であったことが分かります。 

 外販は魔法の杖ではありません。元となるファンドに競争力が無ければレバレッジを掛けても思うように残高は積み上がりません。この基本原則をセゾンは見誤ったのではないかと思います。 

 今回の解任劇は直販・外販と言う販売手法に注目が集まりましたが、本質は時代に取り残されたファンドの取扱い、であったように思います。良いファンドは直販でも売れますが、外販も組み合わせればもっと売れます。ただそれだけです。 

 現実的な評価をするとセゾン投信は財務基盤・運用能力で大手アセマネに劣ります。15年前の投信業界はまだ競争がほとんどなく、ぼったくりファンドが横行していました。そのような中でセゾン投信は投資家に向き合った真っ当なファンドを生み出したことに大きな価値がありました。

 しかしながらNISAなどの制度が整備される過程で投信業界は猛烈な勢いで進化し、逆にセゾン投信が時代遅れになりました。昨今のインデックス競争では資本力が不可欠です。また利益率も低く消耗戦を強いられます。

 更に勝者総取りの傾向が強いインデックス市場では上位の数銘柄になれない場合はコスト割れのリスクが存在します。このような環境下でセゾン投信が勝てるかというと厳しい、というのが実情です。

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