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投資信託の選別加速

 先日の日経で下記の投信に関する記事が掲載されました。

 投資信託はNISAの開始以来、注目が高まり・手数料の競争も加速し、バリエーションが増えました。一方で消費者=投資家は膨大な数のファンドの中から自身の投資目的に沿った投信を適切に選択することが求められます。
 
 投信を取り巻く環境は間違いなく、ここ10年で各段に進歩しました。NISAやイデコなどの制度の拡充に加え、低コストインデックスファンドの普及、販売手数料無料化など投資家にとって恩恵のある方向に進みました。
 
 一方で投信本数のスリム化はなかなか進みませんでした。様々な前提を無視して経済合理性だけで評価するならば、約6,000本もの投信は不要です。(2023年3月の投信協会データを参照)
 
 実際のところ投資家の安定的な資産形成には多く見積もっても100本程度のファンドがあれば十分です。金融商品は経済合理性が何より重視されますので同じカテゴリ・同じベンチマークの商品が複数あっても理論的には一番コストが安いファンドが1つあれば十分です。
 
 日経の記事では運用各社が既存ファンドの見直しと言及されておりました。この動きは投資家としては基本的には歓迎です。償還対象のファンドを保有している投資家は出口戦略を考える必要がありますが、償還対象ファンドは純資産額が小さな手数料が高いファンドになるので乗り換えメリットは存在します。
 
 注意点としては含み益の確定を迫られる場合です。別の商品の売買で損益通算が可能であれば損益がゼロになるように調整するのも手です。同じ指数を対象とした投信でも10年前のファンドは信託報酬が0.4~0.5%で現在は0.09~0.11%程度まで引き下げられている場合もあるので場合によっては、譲渡益を確定させても乗り換えるメリットが生じる場合もあります。 
 
 米国では巨大ファンドがいくつも存在しますが、日本ではこれまで大型ファンドが育ちませんでした。流行りのテーマファンドなどを証券会社が売り込み、投資家がそれに喰いつく形が繰り返し行われてきました。このようなことを繰り返していると息の長い商品とはなりにくく、ブームが廃れると資金も流出します。
 
 最近はようやく1兆円を超える規模のファンドが出てくるようになりました。投信の運用にも若干ながら規模の経済が働きます。純資産額(運用金額)が大きくなると経費率の低下効果が働きます。
 
 具体的には効率的なポートフォリオを組みやすくなります。他にも諸経費(監査費用・印刷費用・その他雑費)は運用額の大小に関わらず、ほぼ固定額で発生しますので運用額が大きな場合、相対的に負担率は低下します。
 
 資産運用は趣味のようにエンタメ性を求めるわけではなく、実利を求めるので論理的には最適解と思われるファンドのみが存在すれば問題ありません。前提が変わると最適解自体も変化することがあることから現実的には1本に絞ることは難しいですが、6,000本は供給多寡であり、100本もあれば様々な前提を持つ投資家のニーズは満たされるはずです。
 
 とはいえファンドの設定・償還自体は運用各社の経営判断なので外部からどうこう言えるものではありませんが、これから投資文化が成熟していく中で「経済合理性」の観点から投資家によるファンドの選別は加速していきます。
 
 選別の結果はファンドの純資産額として如実に表れます。初年度で50億円程度の資金を集められなかったファンドは将来的にも厳しいかもしれません。同じく5年で500億円程度を集められなかった厳しいかもしれません。
 
 運用会社の視点で合理性を追求すると(運用残高×利益率)-経費がプラスのファンドを長期視点で育てていくことになります。昨今の手数料競争の結果、ファンドの利益率は低下傾向にありますので収益を確保するには、①残高の積み上げ、②経費の削減、のどちらかしかありません。
 
 正攻法で攻めるのであれば商品性を磨き、魅力的な手数料で残高を集め、カテゴリ一位の獲得を目指します。一位になるまではマーケティング費用も投下します。一位を維持できるフェーズになったらマーケティング費用を抑えて利益率の向上を目指します。

 この方法を実践しているのが三菱UFJ国際投信の「eMAXIS Slim」シリーズです。この戦略は大資本が有利なので三菱UFJ国際投信と相性が良かったのかもしれません。一旦序列が形成されると覆すには大きなコストが伴いますので現時点で5,000億を超える規模のファンドは先行者優位性を享受可能です。
 
 投信がより身近な金融商品になるにつれ運用会社はより高度な商品の提供を求められるようになります。今はまだ総合デパートのような運用会社が多い状況ですが、今後はマーケットニーズと自社の能力を勘案して細分化されると考えます。
 
 大きく分けると4つに分類されます。大分類としては「アクティブ・パッシブ」の分類です。アクティブは「絶対収益型・低コスト型」に分かれます。絶対収益型はヘッジや先物なども活用しマーケット環境がどうあれ収益を目指すタイプで手数料も割高です。
 
 低コストアクティブはベンチマークとなるインデックス指数に似た運用ながらそれを上回ることを目標とするファンドです。目安としては信託報酬0.3~0.6%位になると思われます。今後は信託報酬1%~1.5%といった標準的な手数料率のファンドはどちらの道を進むか選択を迫られることになります。
 
 次にパッシブですが「ETF型・直接運用型」に分類されます。この2つは投資家の収益的には大差ありませんが、運用会社のスタンスとしては大きな違いが存在します。

 ETF型の代表はSBIアセットマネジメントでありSBI Vシリーズが分かりやすいと思います。直接運用型の代表は三菱UFJ国際投信の「eMAXIS Slim」シリーズです。
 
 ETF型のアセマネには基本的に高度な運用ノウハウは存在しません。新興アセマネ会社が手早く格安インデックスファンドを組成する手段としてETFスキームが利用されます。

 S&P500連動ファンドと言ってもETF型の場合には現物株を保有するのではなくVOOというETFを購入することで間接的にS&P500のポジションを保有することになります。
 
 ETF型のメリットはお手軽さです。500銘柄の現物を日々の値動きに応じて加重平均を保つように売買する必要はありません。インデックスをトレースするのは簡単なように見えて実は結構な手間がかかる作業です。
 
 EFT型の場合、この手間を省くことが出来ます。VOOを購入することで疑似的なS&P500のポジションを簡単に構築できます。ETF分の追加コストが発生しますが、運用能力がないアセマネ会社としては若干の追加コスト(年0.03%)でポートフォリオの構築が出来るのであれば安いものです。

 逆に直接運用型は伝統的な運用会社の多くが採用する手法です。三菱UFJ国際投信以外にもアセマネワン・ニッセイアセットなどが運用する「たわらシリーズ・ニッセイ-<購入・換金手数料なし>」は現物保有型です。
 
 現物保有型はETFを介することなく運用しますので原理的には間接コストが抑えられますが、手間のかかる運用手法となります。スケールメリットが出ない場合、運用負荷を考えるとコスト割れする可能性があります。逆に純資産が拡大すると現物保有の手間をペイするメリットを享受できます。
 
 現状は投資家目線で大差が無いように見えますが、構造的に有利なのは現物保有型のファンドです。仮にS&P500や全世界株式ファンドが10兆円の規模まで拡大した場合、現物保有型は手数料引き下げの余地が生じますが、ETF型の場合はコスト構造的に難しいと思われます。この点を考慮すると僅かな差ですが10年・20年先まで見据えると現物保有型に優位性があると言えます。

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