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ファンド分析 SBIラップ

1. はじめに

 SBI証券が昨年スタートした投資一任サービス「SBIラップ」の残高が好調に推移しております。2023年3月の300億円突破のプレスリリースが公表され、2023年5月には「SBIラップ×SBI新生銀行」の残高100億円越えが公表されました。 

 他社のロボアドと比較しても順調なスタートと評価できます。今回は「SBIラップ」を分析します。私は過去に実験として2年程、WealthNaviとTHEOを利用しておりましたが件論として「ロボアドは不要」と評価しましたSBIラップはこの結論を覆すことが出来るかを検証します。 

 過去のロボアドに関する考察は下記を参照ください。

2. 結論

 最初に結論です。個人投資家の長期目的の資産運用においてSBIラップが必要かどうかというと、「不要」です。商品紹介ページには色々とここが凄い!的なことが書かれていますが、SBIラップも他のロボアド同様の欠陥を抱えています。 

3. 理由

 不要と判断した理由を列挙します。まずSBIラップの割高な信託報酬が挙げられます。SBIのロボアドだから安いはずと判断するのは危ないです。全米株式を対象としたファンドの例を取るとSBIラップでは0.1906%程度の手数料がかかります。

 これを通常の方法で自分で買い付ける場合、0.0938%程度で済みます。VTIに投資するファンドの場合は倍のコストが発生することになります。ファンドによって手数料の差はバラバラですがSBIラップ専用ファンドは割高ファンドという理解で間違いありません。

https://go.sbisec.co.jp/prd/swrap/swrap_service.html

 同じ指数インデックスに投資するファンドを自分で選べばコストは1/2~1/3で済みます。この時点でコストメリットはありません。ファンドの手数料に加えて一任手数料がかかりますのでトータルの手数料は約1%となります。 

https://go.sbisec.co.jp/prd/swrap/swrap_price.html

 日本のロボアドは各社ともに諸々の手数料を合算すると年間で1%程度の手数料を徴収される仕組みとなっています。投資初心者の方ほど1%というと”たかが1%でしょw”と思うかもしれませんが、投資の世界ではこの1%で重要であり、複利で20年も経てば信じられないほどの差が生じます。
 
 ロボアド先進国の米国ではロボアドの手数料は0.25%程度に抑えられており、日本のロボアドのコストが高いことが分かります。ロボアドの多くは事前に決めた運用方針に従って機械的に運用します。

 本来、それほど多くの手数料を徴収するに見合う作業を担っているわけではありません。基礎となるポートフォリオに従って機械的に購入・売却を繰り返しているに過ぎません。
 
 ではなぜコストパフォーマンスが悪いロボアドに資産が集まるのか?それは投資家の無知と証券会社のマーケティングの結果です。投資家に一定レベルの知識と判断能力があれば日本国内に存在するロボアドがどれも自身の資金を預けるに足るサービスではないことが判断できます。
 
 金融庁の2000万円レポート以降、老後不安から投資を始める方も増えました。しかしながら基本的な知識がない方は何から手を付けていいか分かりません。そこに付け入るのがロボアドです。初心者の味方を装い手数料1%契約を迫るのです。
 
 加えて、証券会社・運用会社のプロモーションによる初心者の誘導もあります。1%という手数料は安いように見えて十分高額な手数料率です。加えてロボアドは継続利用(積立)が基本となるので長期のサービス利用が期待できます。証券会社の立場からするとサブスクで長期契約を締結したようなものです。投資家が契約を忘れてくれたら儲けものです。
 
 SBIラップを不要と判断した理由は手数料以外にも「運用方針とパフォーマンス」も挙げられます。SBIラップはアクティブ運用のロボアドです。これは珍しい部類です。国内最大手のWealthNaviはリスク許容度に応じたポートフォリオ方針に従ったパッシブ運用です。一方のSBIラップはダイナミックにポートフォリオを入れ替えます。

https://go.sbisec.co.jp/prd/swrap/swrap_report/post/3uJnx129L4V8kFUx02YK3M.html

 4月時点のポートフォリオにおける新興国株比率が48%というのは正直いって異常です。他社のロボアドではこんなに極端なアロケーションはしません。資産運用ではアセットアロケーションが何よりも重要と言われております。

 確かに米株には米地銀の破綻の影響、利上げによる景気後退の観測、債務上限問題など様々な懸念がありますが米株比率が約2%というのも問題です。世界の株式市場全体を網羅しているオールカントリーにおける米国の比重は約60%で新興国は約10%ちょいです。
 
 SBIラップのポートフォリオがいかに偏った予測に基づき構成されているかが分かります。SBIラップはダイナミックにポートフォリオを入れ替えることを売りにしていますが、別の見方をすると目先のシグナルに踊らされ長期投資のスタンスを見失った素人同然のトレードを繰り返す運用、と言えるかもしれません。
 
 個人的にはここが一番引っ掛かります。頻繁にポートフォリオを入れ替えるには市場で売買を繰り返す必要があります。良かれと思って入れ替えた売買が裏目に出ることもあります。バンガードの創設者のジョン・ボーグル氏は書籍を通じて投資家は「航路を守れ」と示しています。
 
 本来ロボアドは投資初心者の羅針盤となり、長期投資の航路を示すべきサービスのはずです。しかしながらSBIラップの運用方針を見る限り、相場に振り回される素人投資家のそれにしか見えません。実際にパフォーマンスが他社と比較して優れているわけではありません。逆にただのインデックス運用に負けています。(←ここ重要)
 
 アクティブにがちゃがちゃとポジションを動かすロボアドは絶対収益を狙うヘッジファンドのようにリターン追求を目指すべきです。最低限、インデックス運用には勝たなければなりません。それが出来なければ存在意義はありません。SBIラップに投資している投資家は今一度、なぜSBIラップに資金を預けているのかを確認すべきでしょう。
 
 当然ながら1年程度では判断できない部分はありますが、コストが割高であること・運用方針がパフォーマンスに貢献していないことは分かりました。

 現状、順調なスタートダッシュが切れているのはSBI証券のブランド力・顧客基盤による恩恵と言うしかありません。今後、既存顧客の刈り取りが一巡後は厳しい展開になることが予測されます。
 
 仮説として現時点においてSBIラップに実装されているAIがお馬鹿なモデルであり、将来的には本当に市場を先読みしアウトパフォーム出来るAIモデルに進化するという可能性もあります。とはいえ、何時になるのか・本当に訪れるのかは誰にも分かりません。
 
 アクティブな運用をするならロボアドではなく自身で銘柄選択をすればコストはかかりません。90%をオールカントリー、10%を自身でアクティブに個別銘柄に投資、という配分であれば仮に個別銘柄の選択に失敗しても大きな損失にはならないでしょう。

 ロボアドを利用する投資家は今一度、何のためにロボアドを利用するのかを考える必要があります。その結果、ロボアドがベストなアプローチであれば継続すれば良いし、他にもっと効率的な手段(商品・サービス)が存在すれば乗り換えることをお勧めします。

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