自律型金融の未来と変化する生活①
はじめに
本記事では「自律型金融の未来と変化する生活」と称して、「自律型金融」とは何かを解説し、自律型金融サービスが普及した未来における金融サービスと変化する生活について整理いたします。流れとしては「自律型金融とは何か」を前段で整理し、後段で「自律型金融の普及で変化する生活」について考察いたします。今回は「自律型金融」というあまり聞き慣れないテーマに関する考察であり、現時点において用語の定義も充分に定まっていない状態であることから必ずしも記載した通りの未来が訪れるわけではないことにご留意ください。本投稿の理解には以下の記事が参考となります。
自律型金融とは何か(自動運転レベル5を用いた理解)
最初に「自律型金融」とは何かを簡単に説明いたします。英語では「Autonomous finance」と表記され日本語では「自律型金融」と訳されることが多い概念ですが、人によって解釈に幅がある用語であるため確定的なものではなく参考程度に留めていただければと思います。大枠の理解のため物凄く簡略化すると“自動車における自動運転レベル5に相当する金融サービスを実現するもの”と言えます。
グローバルな動向をみると自動車業界では自動車大手(トヨタなどの従来メーカー)・新興メーカー(テスラ等)・IT大手(アップルやグーグルなど)等の勢力が次世代の自動車、もう少し概念を広げると「モビリティサービス」の覇権・標準化を巡って熾烈な競争を繰り広げております。「モビリティサービス」という用語は自動車を単なる移動手段として評価するのではなく、これからの社会に求められる存在意義の再定義を通じて移動産業が提示した概念です。MaaS(Mobility as a Service)という単語を直訳すると「サービスとしての移動」という意味になります。モビリティを単なる交通手段ではなく、自動運転やAIなどのさまざまなテクノロジーを掛け合わせた、次世代の交通サービスとして捉えた言葉です。自動運転はXaaSと称される形態・シェアリングエコノミー・ビッグデータ・AI・ソフトウェア化・環境問題など様々な要素が相互に影響しあう領域となります。自動運転は以下のように定義されております。
現状はレベル3程度の開発状況かと思いますが、将来的にレベル5の到達を目指し業界全体で検討が進められております。自動運転で先行するテスラでは完全自動運転(FSD:Full Self-Driving)のβ版を開発・配布しておりますが、現時点では安全性は十分とは言えないようです。将来的にはより一層のソフトウェアの高度化によって実用化も近づいてくるものと思われます。ここでの注目点は車体の高度化ではなく「ソフトウェアの高度化」であるという点です。自動車では競争軸の変化によりシフトチェンジが進んでおりソフトウェア化が加速し、売切りから継続的なアップデート・シェアリングへとシフトしつつあります。図によるとレベル5(完全自動運転)では“全ての操作を代替する状態”とあります。金融サービスにおいても“全ての操作を代替する状態”を目指すのが「自律型金融」と言えます。当然ながら自動車と金融では求めたれる機能・規制等が異なりますので細部における差異はありますが、大枠において自動運転と自律型金融には共通点も見られます。
自律型金融とは何か(a16zブログとの出会い)
自動運転から話を戻し自律型金融とは何かを考えてみます。私が自律型金融という概念に初めて出会ったのは下記のブログを読んだことがきっかけです。
Andreessen Horowitz(以下a16zと称す)は米国の有力ベンチャーキャピタルです。記事はAngela Strangeさんというパートナーの方が執筆されたようです。タイトルは「The ‘Google Maps for Money」となっており、冒頭で以下のようなメッセージで問いかけがされております。
グーグルマップのように目的地(経済的目標)を入力するだけで、ソフトウェアが最適な答えを導き出してくれるツールが金融の世界でも存在したらどうでしょうか?
少し昔になりますが初めてこの記事に読んだ際のわくわく感を今でも覚えております。長い間、金融業界に身を置いていると刺激的なサービスに出会うことは滅多にありません。2014年に仮想通貨とブロックチェーン技術に夢中となったとき以来のわくわく感でした。金融という無味乾燥した世界に新しいおもちゃが投入されたような気分です。
ブログの後段には「The future: Fully autonomous finance」という見出しがありました。a16zのパートナーがどのような未来を描いているか興味津々です。記事は米国の金融事情に基づいた例示なので少し違和感を感じましたが、データとAIをバックボーンに金融サービスがソフトウェア化することで最適化が加速され金融取引の自動化に繋がる、ということを示唆しておりました。最後は以下のような言葉で締められております。
執筆者によると、我々はまだ自律型金融の入り口に立っているに過ぎず、本当の自律型金融の到来はこれからということです。このブログをきっかけに金融の未来における1つの答えとしての「自律型金融」を意識するようになりました。そう考えると先程紹介した自動運転と自律型金融には多くの共通点が見られます。ここでの重要なポイントは個別事象として現れる変化(自動運転や自律型金融)の裏に存在する大きなトレンドだと感じております。テクノロジーの進化によって「自動化」という手法が実用レベルに高まったことにより、それぞれの産業の本来の目的(ミッション)達成のアプローチが変化しつつあるということです。金融や自動車だけではなく全産業において「自動化」は大きなトレンドであり、業界ごとにその特性に応じアレンジが異なる理解です。
自律型金融とゴールデンサークル
前置きが長くなりましたが「自律型金融」を通じてどのような金融サービスがデザイン可能か整理していきたいと思います。私たちはビジネスを考える際に目に見える機能に着目しがちです。提供される商品・サービスに着目することは重要ですが、ゼロベースでビジネスを考える際はwhy(なぜ)に着目することが重要です。この考え方はTEDの人気講義「WHYから始めよ!」のサイモン・シネック氏がゴールデンサークル理論として紹介しております。ビジネスを考える際は必ず「Why・How・What」の順番で検討する必要がある、ということを解説したものです。
なぜ「WHYから始めよ!」の例を持ち出したかですが、それは起業家ごとに自身の「Why」が異なるからに他なりません。「Why-なぜその事業を行うのか(目的)」が起業家毎に異なる以上、「How-どのように行うのか(手段)」もそれぞれ異なり、必然的に「What-何を行うのか(商品・機能)」も異なります。前述のa16zブログに記載されている内容もシナリオの1つですが当然ながら別のシナリオも無数に存在します。冒頭にまだ用語の定義も充分に定まっていないと言ったのはここに由来します。私の理解では「自律型金融」という用語は、特定の機能を示すものではなく「一定の幅を有する概念」です。別の表現をするとHowに相当するアプローチ・手段だと考えております。
ではそもそも「自律型金融」という手法を用いて私たちは何を実現したいのでしょうか?この問いの答えはそれぞれ異なりますが、私は以下のように整理いたしました。
まず私は解決すべき課題を「お金に関する不安の解消」・「金融取引に要する時間の節約」と定義しました。この論点を掘り下げ本質を検討した結果、スライド記載の通り「個人の自由な生き方の選択」という実現したい目的が見えてきました。なぜ、「個人の自由な生き方の選択」をWhyに掲げたかと言うと、以下の通りです。
金融は人生における手段であり目的ではない
人生においてはお金より優先すべき事項がありそれは各人異なる
しかしながら、経済的・時間的自由が達成されないと優先度に応じた人生を歩めない
上記の背景から、個人がそれぞれ自由な生き方を選択し価値ある人生を歩むためには「経済的・時間的自由」が必要不可欠という結論に至りました。当然ながら経済的自由・時間的自由は必要条件であり十分条件ではありません。(人生には他にも健康や人間関係など色々な要素があります)とはいえ、金融事業家として私の知識・能力で解決できる社会課題は限られており、経済・時間にフォーカスいたしました。この2つの自由が「お金に関する不安の解消」・「金融取引に要する時間の節約(時短)」とリンクします。
続いてどのように「経済的・時間的自由」≒「お金に関する不安の解消」・「金融取引に要する時間の節約」を実現するかですが、ここで「自律型金融」という手法を用いることで問題が解決するのではないかと想像しました。具体的には以下の通りです。
ビッグデータとAIを駆使した金融データの可視化・資金管理
ビッグデータとAIを駆使した最適提案
ビッグデータとAIを駆使した取引の自動化・意思決定の効率化
ビッグデータとAIを駆使した高度なパーソナライズ化・自動学習
ビッグデータとAIの活用を前提として「データの可視化・資金管理、最適提案、取引の自動化・意思決定の効率化、パーソナライズ化・自動学習」等のアプローチを採用することで前述のwhyの実現を目指す形です。これらはアプローチ方法であり具体的な機能(what)ではありません。What(機能)をいくつか例示すると以下の通りです。
ライフプランニング
PFM(可視化ツール)
決済・送金
資産運用・管理
余剰時間の収益化(副業マッチング含む)
保険契約・管理
ローンプランニング・管理
節税機能
金融教育・リテラシー向上コンテンツ
PDCA改善機能・自動学習機能
レコメンド・プッシュ型要素
コミュニケーション・ゲーミフィケーション要素
尚、これらの機能はWhyに対する解決策であるため時代・社会・顧客ニーズに応じて柔軟に修正され、変化し続けるものと考えております。
まとめ
少し長くなりましたが「自律型金融の未来と変化する生活①」では自律型金融とは何かを自動運転レベル5の事例・a16zのブログ記事を引用しながら解説し、後段に「自律型金融」の具体像を私なりの解釈を元にゴールデンサークル理論に沿ってWhy-How-Whatを意識する形で示しました。本記事でのポイントは以下となります。
技術進化により大きな変化が各業界に迫っておりその形態は産業毎に異なり不可逆的(自動車であれば自動運転・金融であれば自律型金融など)
自律型金融の到達点は“全ての操作を代替する状態”かもしれない
現在はまだまだ自律型金融の入り口に過ぎない
自律型金融自体は目的(Why)ではなく、手法(How)に過ぎない
特に最後の目的ではなく手段に過ぎない、という点が重要だと感じております。これまでも新しい概念・技術が登場するとバズワード化し本質を見失った表面的な議論が溢れることを目にしてきました。ブロックチェーン・STO・DeFi・NFT・メタバースなどは本業との関係で独自にその意義や本質について検討したことがあります。私なりに得た結論とメディアを通じて宣伝される各技術・新サービスの意義・メリットは必ずしも一致しませんでした。今懸念していることは「自律型金融」という概念もバズワード化することで本質が理解されないまま、「見せかけの自律型金融ブーム」によって消費されることです。これはDeFiで現在進行形で起きている事象です。一般に特定の事象が多くの人々に広がる際にはきっかけがあります。1つは象徴的な人物がロールモデルとなったとき。もう1つはキャッチーでわかりやすい言葉に置き換わったときです。
次回は自律型金融サービスが浸透した世の中で私たちの生活はどのように変化するかについて整理したいと思います。未来の社会がどれだけ便利になるか・個人がどれだけの選択肢を持てるかが自律型金融の価値を示すのではないかと私は考えております。
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