2023年、空想と地図と人生を振り返る

年の瀬を実家で過ごしています。家を出てはや3年弱、わたしの居室だった場所は物置と呼ぶべき空間にじりじり近づきつつあり、家具も何もない部屋にはいても特にやることもできることもないので、今日の昼間は駅前の空いているカフェでのんびりしつつ、今年の積読を消費する活動をしていました。

家の中で集中して本を読むのがあまり得意でない(そのくせ思い立ったらかなり軽率に本を買う)ので、積読ばかり増える2023年でした。暇な時間が増える帰省は今年中に読み終え片付けるチャンスと思い、4冊ほど実家に持ち込んだのですが、持ち出したそれらをカフェでひとしきり読んだあと、その足は自宅でなく駅ビルの書店に向いており、新しい未読本としてジェーン・スーのエッセイを一冊、湊かなえの小説を一冊、増やして帰ってくる始末でした。

ところで、わたしは書店が好きで、新しい本を迎えるのも好きなのですが、それにしては文学やそれを書く人のことにそこまで詳しくなく、好きな作家の読んだことのない本などは探しやすいのですが、そうした作家以外の本であるとかで何か読みたいなと思っても実は迷うことが多いです。普段読むのは山内マリコ、村田沙耶香、辻村深月、万城目学、たまに伊坂幸太郎、筒井康隆あたりでして、しかし同じ作家の本ばかり読んでいても世界広がらないよなと思い、開拓したいなあと漠然と思っておりました。そんな矢先、この週末は他の人と本にまつわる話をする機会が立て続けにあり、最近どんな本を読んでますかと聞いて返ってきた2冊が、前段落で言及した本たちという訳です。

これに限らず、何かを開拓したり世界を広げたいな〜と漠然と考えたとき、自分で大海原をさまようようにあてどなく彷徨うのは一つのやり方ですが、他人が勧めたり興味を示したものに(敢えて言えば安易に)乗っかってみると、自分ひとりで探すよりはるかに簡単に、そして良い意味で思いもよらないものに出会えるんだなあと、とみに最近になって思うのでした。

2023年、今年も一年いろいろありました。駆け込み気味なタイミングですが、たまには振り返り記事みたいなのをやってみましょう。

作品制作と「企画室」の2軸に|空想地図関連

わたしのライフワークである空想地図関連の活動について。これまで「多奈崎市」などを制作する「空想地図作家」としてメインにやってきましたが、今年に入って「空想と地図の企画室」という団体を始めました。TwitterもといXでちょこちょこ情報は出していたので、ご覧になっている方もいるかと思います。

企画室のそれは後述するとして、わたし自身の作品である多奈崎市の制作は、昨年同様にものすごくスローペースで進めるときに進めるという状態でした。2019年に「マニアフェスタ」に初出展した際にエイヤで完成させたものが現在公開している地図なのですが、ちゃんと見返してみると自分の中で納得できない部分が多く、それらを解消するための描き直しというのを2021年の秋に始めていました。それから2年も経ってしまいましたが、すでにある地図の一部を修正するというのが実はそれなりに大変な作業で、その大変さを乗り越えるほどの熱量を持って作業できるタイミングはかなり限られており、ここのところは平均して半年に一度ぐらいのペースで着手しては1〜2週間ほどでまた離れて、を繰り返していました。

描き直す前(2020)
2年経っての進捗(2023)

作品制作は特にこれ以上の進捗はなく、ただ2024年はそろそろある程度の形にして発表できたら良いなと思っています。昨年同様に5月にマニアフェスタが開かれるようであれば、そのタイミングに合わせようかなと考え中です。

また多奈崎市とは別に、空想地図作家6名でゲームの舞台となる地図を共作するという初めての経験をさせてもいただきました。これまでの経験や知見を持ち寄りながら、空想地図という共通言語がある人同士で一つのものを作り上げるという体験はなかなか刺激的でした。

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さて、もうひとつの軸「空想と地図の企画室」。ことし10月に、これまでお世話になった空想地図作家の3名(地理人さん、ますばさん、うねおかさん)を巻き込み、ZINE「空想と地図」を作ったりイベント(空想地図学会)をやったり、とにかく空想地図全般を盛り上げる活動を行うために設立しました。活動については、企画室のnoteでもう少し詳しく紹介しています。

2023年は、空想地図関連のトピックが多い一年でした。下記Xのスレッドでの地理人さんの言及にも詳しいですが、空想地図界のひろがりを感じられる一年になったのを実感しています。

「空想と地図の企画室」で今年のうちに既にスタートしている活動は2つありますが、まず「空想地図学会」は2019年12月に、そしてZINE「空想と地図」の刊行は立ち上げの半年前にあたる2023年4月に、わたしが個人的に細々と始めたものでした。

ネットだけでなくオフラインの「場」をつくるために|空想地図学会

まず「空想地図学会」については、シンプルに「空想地図をテーマにしたオフラインの交流会」というのが東京近郊で開催されていない!(2019年当時)じゃあ私がやるか、的なモチベーションで始めたものでした。……正確に言うと、2013年ごろから「架空地図学会」という、首都圏を中心に空想地図(架空地図)作者同士で集まる会合が不定期で開催されていたのですが、2015年を最後に開催が途絶えていました。一方で、空想地図作者はその後もじわじわとですが増加しており、また2019年には空想地図作者の複数がメディアで取り上げられるなど、空想地図界隈とも言うべき、この趣味の拡大が少しずつ見られている頃でした。人は増えているし、もう一度作者同士で交流する機会を作りたい……とあり、2019年12月に八王子市内の貸し会議室を貸し切って、エイヤと開催してみました。

当日は28名の参加があり、終了後も北海道でスピンオフ的に「空想地図学会 in北海道」が開かれるなど、何か少し空想地図界に作用できたのではないかなと手応えを感じているところでした。これに味を占め、2020年3月に早速第2回の開催を企てますが、ちょうど新型ウイルスの蔓延が爆発的に拡大し始めた時期と重なってしまい、あえなく断念。しばらくの我慢の時期を経て、2022年の12月、満を持して3年ぶりに「第2回」を開催。そして翌年の同時期に当たる今年12月に「空想地図学会2023」として第3回を開催するに至りました。

空想地図の楽しみ方を発信するメディア|ZINE「空想と地図」

一方、ZINE「空想と地図」。こちらは今年3月のこと、それまで毎回出展していた「マニアフェスタ vol.7」の開催を5月に控え、もちろん今回も出よう!さて申し込んだけど何を作ろうか……となった際に、後述するいろいろがあり刊行を決めたものえした。

「タモリ倶楽部」で空想地図が取り上げられてから10年、当時と比べると空想地図作者や作品は大きく増え、空想地図の世界はだいぶ広がってきていました。それに伴って、空想地図のメディアへの露出も前述したとおり増えつつありましたが、その取り上げ方は「実在しない地図」というのがそもそもまず珍しい、という切り口で、なぜこれを作ろうと思ったのかであるとか、そうした「空想地図」という営み自体の珍しさをネタにしたものが多く、もう一段階踏み込んだ視点での言及や記録はまだ少ない状態でした。しかし、一口に空想地図作家といっても、一人ひとりのアウトプットの志向性や考えは千差万別で、その作者個人個人が何を考えているのか、作品そのものを細かく読解するとどういったことが見えてくるのか、といったところまで踏み込んで空想地図を細かく取り上げる「キュレーター」的な存在はまだまだ少ない趣味だと感じていました。ちょうど商業誌で「空想地図帳」という本が出版されたのも2023年のことでしたが、そのように空想地図の世界に細かく切り込んだり、いま起きている空想地図界の出来事を継続的に記録・発信していくメディアの必要性を感じ、このZINEの創刊に至ったものでした。

持続的に活動を続けるために|「企画室」の立ち上げ

ZINEは全16ページほどのものでしたが、それでも一人で執筆から編集から発行まで行うのはなかなか労力が求められるものでした。「学会」の開催もそうですが、やるからには質の高いものを出したいし、一度や二度で終わらせるのではなく持続的に行っていきたいという思いがあり、人を巻き込んで複数人で回していく体制を作るに至りました。幸いにして、地理人さんやますばさん、うねおかさんという、これまで空想地図をきっかけにお世話になってきた強力なメンバーと共に「空想と地図の企画室」を立ち上げることができました。ZINEの第2号の刊行は編集段階から会議を重ね、今後も継続的に出せそうな体制が整いつつあります。また空想地図学会も同様に進行し、当日はこれまでよりスムースに運営できたなと思います。

空想地図の世界は今後も少しずつですが拡大していくのではないかと読んでいます。そんな中で、ZINEもイベントも今後の拡大を見越せば、間違いなく一人で行うより複数人で回していったほうが良いものができると思っていますし、2023年はそのための地固めを行うことができたのではないかと、少し手応えを感じています。今年を種まきの年だとすると、来年は更にそれを育てていければ良いなと思っています。

これまでよりちょっとだけ「他人と関わる」一年だったかもしれない

代々木上原に引っ越して半年経った。富ヶ谷歩道橋の景色は何度見ても好き。

ここから少しわたし個人の話になります。

わたしはもともと一人耐性がかなりあり、むしろ一人の時間を意地でも確保しないと済まないぐらいの人物でしたし、休みの日は誰とも話さないみたいな日も珍しくなく、一人旅ともあれば家を出てから自宅に帰るまでほとんど人と話さないようなこともありました。そもそもわたしはかなりがつく程には人見知りしいでしたし、かなり最近までそのように自覚していました。

翻って今年、というかここ最近は、旅行にせっかく行くなら旅先で誰か知り合いの一人ぐらい作って帰りたいな、みたいなことをいっちょ前に思うようにもなり、今年でいうと3月に大阪へ行った際には名張のコワーキングスペースの人と仲良くなって、7月にそこでイベントを一緒にやらせてもらったり、11月に訪れた函館では(少し勇気を出して)パブに入店してみるとたまたま話し好きの人がいて、しかもたまたま翌月に東京に来る用事があるとのことで、その人の知り合いも呼んでいただいて都内で飲み会をする、などのイベントがありました。また今年は特に下旬になって、これまで以上に親しくなったり、一緒に会って話をするようになった人も増え、そうした満足感も感じた年でした。

わたしの中のこうした外向性ともいうべきなのか、一人もいいけど他人と関わりたいなみたいな部分が現れてきたのは、覚えている限りでは2021年の中ごろ(社会人になり一人暮らしを続けて徐々に孤独だなあの念を感じてきた頃)から徐々に、という感じでしたが、前述したようなイベントとか、あとは空想と地図の企画室立ち上げもある種「他人を巻き込む」活動を実行に移すことができたうちの一つですし、志向性の変化に徐々に行動が追いついてきた一年だったのかなと思うと、本当に些細で小さな一歩ですが、わたしの人生としてはある種大きな一歩なのかな、と少しの自画自賛もしてやりたくなる気持ちがあります。

もちろん人間そう大きくすぐに変化するものでもなく、今でも人見知りの部分はわたしの中に飼われ続けているし、入ったことのない店やコミュニティに飛び込むのは依然として少し勇気が要るなあと思う場面も多いのですが、しかし、一人でいること(気楽ではあるが自分が起こせない変化は起こせないし、自分だけで得られない刺激は絶対に得られない)と他人と交わること(コミュニケーションは調整の連続で疲れる部分もあるが、自分の知らない景色をいともたやすく見せてくれたりする)を比べた際に、メリデメあわせて後者を志向するようになり、少しずつそっちに行動も寄せていき始められたのかなあと、ぼんやり考えてみたところでした。

2024年は、今年のうちに少しずつ巻いた種(企画室とかね)を引き続き丁寧に続けていって、少しずつ大きくしていければ良いなと思います。

来年も、何卒お付き合いのほど(?)よろしくお願いします。


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