扉を開けると、室内の明るさと暖房の熱が一瞬にさえぎられめまいがしました。

バタン。

　いつもは軽く聞こえるドアを閉める音が刑務所に入れられたような、もう出られないような音に聞こえました。（きっと、囚人が感じると思われる感覚）

バサッ。

ドアを閉めようとした瞬間、体の軸がなくなったような感覚に襲われ、床に倒れてしまいました。でも、手を貸してくれる人は誰1人としていないので、自力で這い上がろうとしました。

　私が隔離されたのは、学内のカウンセリングルーム。（キッチン、シャワー、トイレなどが整備されている）消毒液や薬、マスク、エネルギードリンクを持たされていたが、めまいで、全て、床に落としてしまいました。保健室の看護師には、私が触った・使用した物や通った場所は消毒するようにと指示をされていたので、床にたくさん消毒スプレーをかけました。うつ伏せになり半泣きで消毒スプレーをかけていた自分の姿は、無惨な姿でした。

　それから、熱もあり、ふらふらしていましたが、靴を脱ぎ、すぐさまトイレに向かい、手を３回ほど洗い、ソファに倒れ込み、パソコンを開け、（指は震えていましたが）両親に連絡をしました。手が重く、無理やり片方の手を使った私でしたが、一つの作業をするだけなのに息があがり連続して物事をすることが不可能でした。座っている体勢から横になろうと思いましたが、それすら出来ませんでした。

病原体のように扱われる

　私が、隔離場所に移動し、約10分。学校のスタッフの方々が、布団、枕、シーツを運んできてくれました。ノックの後、「投げて！！投げて！！」というスタッフの怒声が聞こえました。ノックが聞こえても、首を動かすことすら出来なかったのですが、その声の後に、　がさっ　という音が聞こえ、布団が投げ入れられたことに気づきました。1時間前までは、保健室でベッドで病人として扱われていたのに、気づいたら自分は、病原体。

濃厚接触者の友人たち

　それから、時間は覚えていませんが、聞き覚えのある友人たちの声がガラス越しでしたが聞こえました。彼らは、いわゆる濃厚接触者。隔離される前に、看護師の方からは、濃厚接触者の名前を書き出すように言われていたので、google documentに、[名前・寮/部屋名・日にち・時間帯・行動内容・マスクありか無しか・場所名]などと具体的に書きました。その濃厚接触者の彼らの声が聞こえてきて、私は申し訳ない気持ちでいっぱいでした。彼らも動揺や戸惑いなどと現状把握に時間がかかったと思います。どのようにして呼び出されたのかは聞いてみないと分かりませんが、いきなり保健室の外に立たされて、抗原検査を受けさせられたと思うと、不安は絶対あったはず…陰性だったとしても、濃厚接触者という理由から10日間隔離をしなくてはいけない運命の彼らの声を聞いていて、涙が出てきました。

死を意識した3時間

　それから、濃厚接触者の友人たちが陽性だったか陰性だったかは知らされませんでした。しかし、私は、申し訳ない気持ちと共に、高熱がありました。看護師から貸してもらった体温計で熱を測ると、38.4度。エネルギードリンクを飲んだり、水をこまめに飲んだりはしていましたが、その後1時間経った時、38.7度が出ました。朝9時に飲んだカロナールが切れたのでしょうか。その時の様子は、正直覚えていません。死の間際かと思いました。寒気が止まらず、倦怠感、頭痛、息切れとどこかのコロナのホームページで見たような内容が連続で私の精神と肉体を襲いました。そして、精神的に狂ってしまった私は、パニック症状を起こし、酸素が体に入ってこない状態でした。看護師は、1時間に1回google hangoutでビデオ電話をするのですが、応答もできなかったり、応答できたとしても、何度も「気を確かに。」と言われました。死の世界に引き摺り込まれるように、何度も何度も、意識を失うような感覚があり、自分の16年の人生の中で、死を意識するとは思ってもいませんでした。母には、「死ぬの…？」とチャットで送り、母がすぐに連絡しても、私は、返信を読むことも出来ず、母へのチャットは既読無視状態でした。その間の母はどのような気持ちだったのでしょう。

食欲があるのかないのか分からない

　それから、時間が経ち、正午過ぎ、12時30分頃でしょうか、昼ごはんが届きました。「ランチだよー。」と看護師の声。ドアを開ける前に必ずキュッとドアを消毒する音が聞こえます。昼ご飯も床に置かれ、囚人のような気分でした。玄関に行くまで3メートルもありませんが、私にとって30メートルの道のようでした。2時間前までは、朝ご飯も食べていなかったので、空腹を感じていた私でしたが、昼ごはんを見て、食欲が一瞬にしてなくなってしまったのです。(食堂のスタッフさんには申し訳ないです…)普段だったらデザートのキャロットケーキを３つガブリと食べてしまいますが、それも食べれず、食卓ロールを一つを30分かけて食べました…悲しくて涙が出てきそうでした。

それから30分後、午後1時、あるSkype電話がかかってきました。

JK、陽性になる。　[隔離編]   #2 に続