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他者と働く「わかりあえなさ」から始める組織論


▼対話と関係性について

殊に最近、対話の重要性というものを、其処彼処と耳にするようになりました。社内に於いても、社外に於いてもです。書店に行くと、対話や関係性というもの謳う本が増えていることに気がつきます。

何故、対話というものの重要性が改めて認識されているのか、考えてみるとネットワーク型に発達したコミュニケーションの形が、必然的に関係性を持つ人間を増やすことになり、そのような人間関係を如何に保っていくのかが、重要になっているからではないかと思います。それは、私的な関係性であっても、公的な関係性であってもです。

我々が所属する、会社においては、組織という名前で関係性の枠を把握しています。組織とはそもそも「関係性」です。
そして、その関係性の中で生じる問題を「適応課題」と呼びます。このような、適応課題を解決するために重要なことが、この本で語られる「対話」になります。

▼「私とそれ」の関係_「私とあなた」の関係

人間同士の関係性は大きく2つに別けられることが出来ると、著者は哲学者マルティン・ブーバーの言葉を借りてこう説明しています。

①「私とそれ」の関係

私とそれの関係というのは、向き合う相手を道具のように扱う関係になります。
例えば、レストランに行くと、当然のように水が出てきて、料理が出てくる。一定の礼儀や機能を要求しているのです。このような関係性を「私とそれ」の関係と呼びます。
道具というと聞こえは悪いですが、合理的に物事を進めるプロセスに於いては、この関係性に徹するということも、重要になります。

②「私とあなた」の関係

私とあなたの関係というものは、相手の存在の代えが効かない固有の関係です。 
「対話」とは、「私とそれ」の関係の中から、自分の中に相手を見出し、相手の中に自分を見出すことで、双方向にお互いを受け入れ合い、「私とあなた」の関係性へ移行するために必要な行為となります。

▼ナラティブとは何か?

適応課題にぶつかった時、私たちはその関係性を改める必要が生じていると考えることが出来ます。その際に著者は「相手を変えるのではなく、こちら側が少し変わる必要があります」と述べています。
では、「こちら側」の何が変わる必要があるのか、それは「其々の立場におけるナラティブに自覚的になり、そのナラティブの溝に橋を架けることだと述べられています。
つまり、ナラティブとは、視点の違いにとどまらず、その人たちが置かれている環境における「一般常識」のようなものです。敷衍して言えば、ナラティブとはそもそも物語を意味する言葉ですが、文字通りその物語を生み出す「解釈の枠組み」をナラティブと呼びます。

▼仕事というナラティブ

『NEW TYPE』山口周著という本があります、その中でオールドタイプと呼ばれるこれまでの考え方と、ニュータイプと呼ぶこれから重要になる考え方の対比があります。

【オールドタイプ】→【ニュータイプ】
「正解を探す」→「問題を探す」
「予測する」→「構想する」
「KPIで管理する」→「意味を与える」
「生産性を上げる」→「遊びを盛り込む」
「ルールに従う」→「自らの道徳観に従う」
「一つの組織に留まる」→「組織間を越境する」
「綿密に計画し実行する」→「とりあえず試す」
「奪い、独占する」→「与え、共有する」
「経験に頼る」→「学習能力に頼る」

その中で、「KPIで管理する」→「意味を与える」ということに関する著述があるのですが、とても興味深かったです。

昨今の就職活動の学生たちが仕事に求めるものというランキングを眺めても、どうも「意味」というものに人は飢えている気がします。
モノが溢れている時代ですが、次は「意味」に飢えているということになります。
マズローの欲求階層説で言えば、非常に高次元の欲求に至るようになったということです。

この前、社内で新入社員に仕事をどのように教えるのか?ということについて話している時に、面白いことを聞きました。先輩に対して新入社員がこう語ったとのことです。

「仕事を教えてくれるのはありがたいが、それだけでなく自分の行なっている仕事が全体の流れの中で何を意味しているのか?最終的にどんな成果になるのか、教えて欲しい」

昔、世界史の教科書で武器工場で働く子供達という写真を見たことがあります。子供達は、日銭を稼ぐために労働しており、目の前のものが何なのかよく分からない様子です。それが中東から輸出されて、紛争などの人殺しのために使われているとは思いもしないでしょう。

過激な例ですが、同じことです。ここで重要なことは、目の前の仕事のナラティブを知りたいという欲求が、あるかどうかということ、そしてそのナラティブは仕事のモチベーションや会社へのエンゲージメントに対して大きな影響力があると、私は考えています。

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