スクリーンショット_2018-12-22_10

ニプシー・ハッスルがYGらに授けたストリートの知恵を読む(Nipsey Hussle - "Last Time That I Checc'd" feat. YG)

Writer: @vegashokuda

第61回グラミー賞のノミネーションが発表されましたね。最優秀ラップ・アルバムには、ニプシー・ハッスル(Nipsey Hussle)が今年2月にリリースした『Victory Lap』がノミネートされています!

2011年頃からニプシーを聴いてきた身として、待望のデビュー・アルバムのリリースは感慨深いものがありました。グラミー云々関係なく素晴らしい作品ですが、どうせならこの勢いでグラミーも獲ってほしいと個人的には思っています。ニプシー・ハッスルがどんなラッパーなのか、彼がこれまで歩んできたキャリア、そして彼が同作で何を語っているかについては、手前味噌で恐縮ですが拙ブログのこの記事をお読みいただければと思います。

さて、今回解読するのは、そんな『Victory Lap』収録の「Last Time That I Checc'd」です。

同曲にはニプシーと同じく西海岸を代表するギャングスタ・ラッパーのYGが参加していて、各々の視点から強気なヴァースをスピットしています。早速内容を見てみましょう。

サビ

Last time that I checked, it was 5 chains on my neck
It was no smut on my rep
Last time that I checked, I was sellin' zones in the set
Make a quarter mill no sweat
Last time that I checked, I'm the street's voice out west
Legendary self-made progress
Last time that I checked, first get the money then respect
Then the power, and the hoes come next
Last time that I checked

【意訳】
そういや俺は、首に5本のチェーンを掛けて
俺の名を汚す奴はいなかったな
そういや俺は、縄張りでウィードを捌いてて
苦労なく25万ドルを稼いだな
そういや俺は、西を代表するストリートの声で
自分の力で伝説的な進歩を遂げたな
そういや俺は、最初に金を、次にリスペクトを得た
そして力を得れば、女は後からついてくる
そういや俺は

*"Last time that I checked"は訳出が難しいのですが、直訳すれば「最後に私がチェックした時は」、転じて「この前は」「私の知るかぎり」などとなります。ただ、ニュアンスとしては、わざわざ確認するまでもないような、当たり前のことを言うときに使われることも多いです。なお、曲名では"check"の綴りが"checc"となっていますが、これはニプシーの所属する、青をシンボル・カラーとするギャング=クリップス(Crips)において、"c"を多用するしきたりがあるためです。

*ニプシーはこのサビにおいて、自らがストリートで稼いできたお金、獲得してきたリスペクトの大きさを誇示しています。

1バース目(Nipsey Hussle)

I been self-made from the dribble
I was been sayin' I'm a killer
Playin' no games with you niggas
Pop clutch, switch lanes on you niggas

【意訳】
俺は最初から全部自分でやってきた
殺し屋だと言われてきた
お前らとお遊びなんかしねぇ
クラッチを効かせてお前らとはレーンを変える

*ニプシーは中途半端な気持ちでストリート・ライフを送る人々とは一線を画すのだと強調します。

I laid down the game for you niggas
Taught you how to charge more than what they pay for you niggas
Own the whole thing for you niggas
Re-invest, double up, then explain for you niggas

【意訳】
お前らに知恵を授けた
支払われる額以上を請求し
全てを自分のものにする方法を教えた
再投資して2倍にし、お前らに説明した

*ミックステープ時代のニプシーはどこのメジャー・レーベルとも契約せず、自らのブランドを築くことに強く拘ってきました。彼のミックステープはDatPiff等のサイトで無料で聴くことができますが、一方で #proud2pay というキャンペーンを展開し、ライブ・チケット等の特典が付いたCDを1000枚限定で直接先行販売するなど、ファンのロイヤルティを高める工夫をしてきました[1]。単に目先の利益を求めるだけでなく、戦略的にブランドを築く姿勢なくして、今のニプシーはいないでしょう。さらに、彼はそうした自身の成功体験をストリートの仲間に共有したのだそうです。

It gotta be love, who run the city? It gotta be cuz
This for the pieces I took off the Monopoly board
And ya'll niggas false claims, it gotta be fraud
Just keep the hood up out your mouth, and you gotta be charged

【意訳】
それも全部愛だ 誰がこの街を支配してる?クリップスだろ
モノポリーのボードから取った駒のためだ
お前らは虚偽の申告をしやがって、詐欺師め
フッドのことは口にするな、金を払え

*ニプシーは、自身のラップ・ゲームにおける動きを、ボード・ゲームのモノポリーに喩えています。

I doubled up, tripled up, nigga what?
Banged on the whole game, I ain't give a fuck
Nobody trippin', had no business, got my digits up
And when I drop, you know I'm 'bout to fuck the city up

【意訳】
俺は2倍にも、3倍にもデカくなった どうだ?
ゲームをかき回して何も気にしなかった
もう誰も何とも言えない、俺は数字を上げた
俺がドロップすれば、街をひっくり返すことになるぜ

*2行目の"bang"には「ヤる」という意味があるため、後に出てくる"fuck"と縁語になっています。

2バース目(Nipsey Hussle)

And I come through fly, no co-sign
I ain't need radio to do mine, I done fine
And I take my time, and take my tribe
Every level that I crossed in this game like state lines

【意訳】
コサインなしでイケてる俺がやってきた
ラジオにも俺の曲をかけてもらう必要は無いぜ
俺はじっくり、州境を横切るかのように
仲間をこのゲームの全てのレベルに連れてく

*ここでもニプシーは、誰に頼るでもなく、自らの力で自分というブランドの価値を高めてきたことを強調しています。同時に、共に走ってきた仲間も一緒に高みを目指すという義理堅さを見せます。

It was visionary, either I'm genius or you niggas scary
Maybe it's both and this balance I deliver daily
For every nigga in the streets tryna feed the babies
The single mamas workin' hard not to miss a payment

【意訳】
ビジョンがあったんだ 俺が天才なのか、お前らがビビってんのか
たぶんどっちもで、俺はこの残高を日々届けてる
ガキに食わせようとストリートにいる奴らと
支払いに遅れないように必死でやってるシングル・マザーたちに

*ここでもストリートの人々への義理堅さを見せるとともに、ストリートの厳しい現状を描写しています。

And dirty money get washed on royalty statements
Black owners in this game are powerful racists
Young niggas in the set that's doin' it makeshift
Out the garage is how you end up in charge

【意訳】
そして汚い金はロイヤルティー報告書で流されちまう
このゲームの黒人オーナーは強力なレイシスト
その日暮らししてるセットの若い奴らは
車庫から出れば起訴されちまう

*この4行も前に続き、ストリートの人々を取り巻く環境の厳しさを描写したラインです。

It's how you end up in penthouses, end up in cars
It's how you start off a curb servin', end up a boss
It's how you win the whole thing and lift up a cigar
With sweat drippin' down your face 'cause the mission was hard

【意訳】
そうやってペントハウスと車を手に入れる
そうやって道端で売り始め、ボスまで上り詰める
そうやって全てを勝ち得てシガーを燻らせるんだ
汗水垂らしながらな、ミッションはハードだからな

*ペントハウスや高級車や地位を手に入れるには、相応の努力が必要であることを説いています。

3バース目(YG)

Last time that I checked, I got the front end and the back
We on the way and that's a fact
This real, this ain't rap, where everybody wanna act pro-black
The last lie you heard, this ain't that

【意訳】
そういや俺は、前から後ろまで抑えてる
俺らは確かに上に向かってるんだ
これはリアルだ、ラップじゃない、みんなプロブラックに振る舞いたがるけど
お前が最後に聞いた嘘とは違うぜ

*"pro-black"は「黒人の味方をする」という意味の形容詞です。ストリートには、プロブラックに振る舞っているように見せながらも、裏切りを働く人間(スニッチ)もいます。YGは、自分は彼らとは違うのだと主張します。

This that, "I done made it out the gutter" shit
Nip told you "Fuck the middle man", I told you "Fuck a bitch"
Fuck wearin' their clothes, I wear my own shit
Ya'll can own ya'll label, I own my own, bitch!

【意訳】
これは「底辺から這い上がった」っていうシットだ
ニップは「ミドルマンなんてクソくらえ」と言い、俺は「女とヤれ」と言った
あいつらの服なんて着るか、俺は自分のを着るぜ
お前らはそのレーベルをやってな、俺には自分のがあんだよ、ビッチ!

*"Fuck the middle man"は、ミックステープの直接供給に拘ったニプシーの言葉です。同じFワードを用いて、YGはシンプルなメッセージを伝えます。理知的なニプシーと本能むき出しのYGの、対比が面白いですね。

*YGは実際に自分のレーベル=4Hunnidを持っており、同レーベルはアパレル・ラインも展開しています。

Aye Nip, I remember all that game you taught me
Don't fuck around and get played by these label owners
Talk that shit to these niggas, Adrien Broner
But secure the win though, don't let that game fold you

【意訳】
エイ、ニップ、あんたが授けてくれた知恵を全部覚えてるぜ
このレーベル・オーナーたちに弄ばれるなって言ってたよな
エイドリアン・ブローナーみたいにこいつらにも教えてやんよ
でも勝ちには拘れ、ゲームの餌食になるな

*1、2バース目でニプシーが仲間たちに知恵を授けたことが語られていましたが、YGもその恩恵に与った一人です。「レーベル・オーナーの言いなりになるな」などのアドバイスを受けたようです。

*エイドリアン・ブローナーはボクシングの元世界王者で、歯に衣着せぬ発言で有名です。彼が悪口を言う(talk shit)のと同じように、YGはニプシーから教わったことを話します(talk that shit)。

'Cause when this game over, it's really game over
And all they do is play the game till this game over
And you be givin' game like a big brother
Mission; never let 'em take it from us

【意訳】
だって、このゲームが終わったら、マジで終わりだからな
奴らはゲーム・オーバーまでゲームし続けるだけ
でもあんたはビッグ・ブラザーみたいに知恵を授けてる
ミッション;奴らにそれを奪われるな

*自らの得たものをストリートの人々に還元しようとするニプシーへの感謝を口にするとともに、得たものを手放すまいとする強い姿勢を見せています。

ということで

以上が「Last Time That I Checc'd」のリリック解読です。ギャングスタな強気のアティチュードのみならず、彼らのビジネスへの姿勢や、ストリートに生きる人々への思いやりも窺えるあたり、かっこいいなと思いますがいかがでしょうか?『Victory Lap』は個人的に2018年のベスト3に入る作品です。誰か優秀な人、ニプシーをWWW Xあたりに呼んでー!笑

おわりに

『洋楽ラップを10倍楽しむマガジン』への寄稿は、本記事をもって今年最後となります。お読みいただいた方々、ありがとうございました。最近では日本語で読める素晴らしいヒップホップ・メディアもいろいろありますが、ここまで歌詞に着目して掘り下げているのは『洋楽ラップを10倍楽しむマガジン』だけだと思いますし、私自身『洋楽ラップを10倍楽しむマガジン』のファンです。こういう場で身内同士で褒め合うのも気持ち悪いですが、運営のRAqくんには改めて感謝です。気に入っていただけたのであれば、年末にクラブで乾杯するお友達やご家族にも、ぜひ広めてあげてください。少し早いですが、よいお年を!

[1] Nipsey Hussle Talks 'Crenshaw' Mixtape & 'Proud2Pay' Campaign | Billboard

ここから先は

0字

¥ 300

「洋楽ラップを10倍楽しむマガジン」を読んでいただき、ありがとうございます! フォローやSNSでのシェアなどしていただけると、励みになります!