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同性愛をカミングアウトしたのではと憶測を呼んでいるタイラーの新曲を読み解く。(Tyler the Creator - Garden Shed)

Tyler the Creator(以下:タイラー)の4thアルバム『Flower Boy』がリリースされました!アルバムカバーのアート、本当に綺麗ですよね。

今回はこちらからリリックを解読していきたいと思います。

まずは、タイラーおよび『Flower Boy』について簡単に触れておきます。

タイラーは、西海岸のクリエイティブチーム、「Odd Future Wolf Gang Kill Them All」(意訳:不思議な未来の狼の群れが皆殺し、以下:OFWGKTA)を率いるリーダーであり、ラップや音楽プロデュースに留まらず、ファッションブランド「Golf Wang」のプロデュース、映像、コメディ番組(ロイター・スクアッド)の制作、アプリ制作など、幅広く活躍している若手クリエイターです。ちなみに、the Internetのボーカルを務める女性シンガーのSydや、人気R&B歌手のFrank OceanもOFWGKTAのメンバーです。

タイラーは、19歳のときに発表したミックステープ『Bastard』やOFWGKTA名義で発表した各種の作品で、その過激な歌詞および世界観が注目を浴びました。音楽面ではPharrellやNeptunesの影響を強く受けており、シンプルながら美しいシンセのコードが病み付きになります。

1stアルバムの『Goblin』では、ゴキブリを食べて首を吊るという「Yonkers」の衝撃的なPVが話題になり、カニエ・ウェストが「今年一番のPVだ」とコメント、その後も精力的に『WOLF』や『CHERRY BOMB』とアルバムを発表しており、ヒップホップ業界の異端児として活躍してきました。

そんなタイラーの4枚目のアルバム『Flower Boy』は、彼が同性愛者、もしくはバイセクシュアルであることをカミングアウトしているのではないかという憶測も相まって注目を浴びています。一方で、タイラーのつくる作品は、何がリアルで何がフィクションかということが混沌としており、本人からのコメントも特に出ていないため、真意は分かりません。

ただ、タイラーは、1枚目のアルバム『Goblin』では200回以上も同性愛者に差別的な用語が用いられていたり、人権活動家と揉めたり、イギリスに入国禁止になったりと、様々な物議を醸してきた人物だけに、注目を浴びる展開となっています。

誤解のないように書いておくと、タイラーの同性愛者に対する攻撃的な表現は、クリエイティブ面でだけ現れていたものであり、彼自身は多様な価値観に寛容な優しい人物だと想像されます。OFWGKTAに所属するSydもFrank Oceanも同性愛者であることをカミングアウトしていますし、タイラーとの関係性はとても良好です。

さて、今回は、そんなアルバムから一曲、「Garden Shed」を解読していきたいと思いますが、

(1)このような解釈が成り立つのではないかという話に過ぎないということ
(2)タイラーのセクシュアリティについて批判をするものではないこと

の2点について、はじめに強調しておきたいと思います。

サビ

【英語】
Don’t kill a rose. Before, it could bloom.
Fly, baby, fly. Out the cocoon.

【日本語】
咲く前に薔薇を殺さないで。
さあ、飛び立って。蛹の外に。

薔薇や蝶は、その最も美しい姿です。その美しい姿になる前に殺さないでと訴えています。蛹の中から出てきて、本来の美しい姿になろうとしているのでしょう。

蛹から出てきて蝶になるというコンセプトだと、ケンドリック・ラマーが2015年にリリースした2ndアルバム『To Pimp a Butterfly』が思い浮かびます。

本作とは、直接は関係がないですが、売れてカリスマ的なラッパーになったにも関わらず、友だちや妹といった身の回りの人たちも救えない自分に自己嫌悪に陥り、しかし自分を愛することの大切さに気付いて立ち直るという過程を描いた作品で、サウンド面でもジャズのテイストを大きく取り入れて話題になりました。

ありのままの自分を愛するという意味では、この曲にも影響を与えているのかもしれません。

1バース目

【英語】
You don’t have to hide.
I can smell it in your eyes.
That there’s something more to say, baby.
Them words, Damn run me back, yeah.

【日本語】
隠れなくていいんだよ。
君の目を見れば分かるんだ。
何かまだ言いたいことがあるんだろう。
その言葉、くそっ、俺を戻してくれ。

ここでは、言うべきか、言わないべきか、タイラーが葛藤している様子が描かれています。この後に、曲の主題である「庭の小屋」が出てきますが、1バース目では、そこから出てこようとしたタイラーは、恐怖から小屋の中に逃げ帰ってしまいます。

ブリッジ

【英語】
If I could, if I could.
If you could
Find the words to say
Find the words to say
Find the words in the garden shed go.

【日本語】
もし私が、もし私が、
言うべき言葉を見つけられたなら
言うべき言葉を見つけられたなら
庭の小屋の中に、言葉を見つけられたなら

ここではタイトルである「庭の小屋」が出てきます。タイラーはその中に隠れて、どのように話すべきか、その言葉を見つけようとしています。

2バース目

【英語】
Ayo, Garden shed, garden shed, garden shed, garden shed.
For the garden, that is where I was hidin’
That is what love I was I in
Ain’t no reason to pretend
Garden shed, garden shed, garden shed.
Garden shed for the garcons
Them feelings that I was guardin’
Heavy on my mind

【日本語】
エイヨー、庭の小屋、庭の小屋、庭の小屋、庭の小屋。
庭の小屋、俺はそこに隠れてたんだ。
俺の愛はそこに存在した。偽る必要なんてないんだ。
庭の小屋、庭の小屋、庭の小屋。
少年たちのための庭の小屋。
あいつらは俺が守ってると思っていた。
俺は強く悩んでいた。

庭の小屋は、彼の隠されたセクシュアリティ(同性愛)のメタファーではないかと考えられます。そこはタイラーの隠れ家でもあり、少年たちのための小屋でもあると歌われています。

タイラーが隠れ家から出てくるという表現については、以前のタイラーのツイートとの親和性が話題になっています。

それは、タイラーが「クローゼットから出ても安全か?」と問いかけるような絵をツイッターに投稿したときのことです。

このときは、結局、クローゼットから出よう(COMING OUT)と思ったけれど、誰も気にしなかったと、ジョークとして笑い飛ばしています。

一連のツイートの真意は分かりません。

【英語】
All my friends lost. They couldn’t read the signs
I didn’t wanna talk and tell’em my location
And they ain’t wanna walk
Truth is, since a youth kid, thought it was a phase
Thought it’d be like the phrase; “poof,” gone
But, it’s still goin’ on

【日本語】
俺は友だちをみんな失った。あいつらは(俺の出す)サインを読めなかったんだ。
俺は話したくなかったし、俺の居場所を教えたくなかった。
それにあいつらは歩きたくなかったんだ。
真実を教えよう、小さな子どもだった頃から、俺はそれがあるフェーズだと思ってた。
「女々しい男(poof)」ってフレーズの意味通り、パッと(poof)消えるもんだと思っていた。
でも、それはまだ続いてるんだ。

poofという言葉には2つの意味があります。1つは「パッと」という擬態語です。もう一つは「女々しい男」といったような、同性愛者への差別的な意味合いを含む言葉です。これはウンチを意味する「pooh」から派生して生じた意味合いです。なので、ダブルミーニング(ひとつの言葉を二つの意味合いで解釈させる言葉遊び)になっています。

タイラーが同性愛をカミングアウトしているのだと仮定すると、彼は小さい頃からその傾向を認識していたものの、自分が同性愛者なのだとは思っておらず、まだ成長していないので一時的にそういう考えや傾向が生じているだけで、やがて大人になると消えるものだろうと思っていたようです。

子どもだから、他の男の子たちと親密になって戯れたいと思っているだけで、大人になったら女性を好きになるのだろうと考えていたということでしょうか。しかし、女性と遊ぶようになってからも、男性と親密になりたい感情が消えないので、自分は同性愛者なのではないかと気付いた、或いは戸惑っている様子が伺えます。

『Flower』の1曲目「Foreword」でも、ある女性がタイラーをストレート(異性愛)に保とうとしている様子を「ときどきフェラチオをしてくれて、俺のベッドを温めておいてくれて、俺をストレートに保とうと出来る限りの努力をしてくれる女の子にシャウトアウトを送りたい(尊敬の意を示したい)」とラップしています。

【英語】
Big fan of the pale tan
Polka dot nose, how it goes
Had to keep it on the subwoofer
A couple butterfies wanna float
But I was always like, “Eh”
Barely interested, but bagged just to brag to my boys like, “Bruh”

【日本語】
俺は淡黄色の大ファンだ、水玉模様の鼻、その在り方
サブウーファーに保存しておいたくらいにファンだった
数匹の蝶が飛びたがったけれど、俺はいつも「え?」って感じだった
興味はかろうじてある程度だったけれど、仲間のやつらに「よう、聞けよ!」って感じで自慢するためだけに酔っ払った

ここの前半は、よく分からない部分が多いのですが、「pale tan」というのは、白人の日焼けした肌のことを言うようです。ここではタイラーの見た目の好みについてラップされていると予想されます。

文字どおりに受け取ると、タイラーはどうやら白人の男の子が好きなようで、同じく『Flower Boy』に収録されている「Ain’t Got No Time」では、「次のライン(文)は、あいつらをあっと驚かせるだろうな。俺は2004年から白人の男の子たちにキスをしてる。」とラップしています。また、過去のインタビューでは「ゲイなの?」と聞かれた際に、「ゲイではないけど、96年のレオナルド・デカプリオがいたら、絶対にゲイになるだろうな」という趣旨の受け答えをしています。このアルバムでも「95年のLeo」を探し求める表現が出て来ます。

後半は、「数匹の蝶」が何を意味しているのかによって解釈が分かれると思います。蝶が女性を意味しているとしたら、あまり興味がないけれど仲間の男たちに自慢するためだけに女性と関係を持ったという話なのかもしれません。もしくは、サビとの関係性から、蝶が本当の姿になった人(他のカミングアウトした同性愛の人)を表しているなら、それらに「え?」と驚きながらも、話のネタになりそうだと思って関係を持ったということを言っているのかもしれません。

いずれにせよ、タイラーが何かしら正直な態度を取れないでいたことが表現されています。

【英語】
This is a crucial subject matter
Sensitive like cookin’ batter
‘Til the temperature that’s risin’
Steppin’ on that ladder, tryna grab the rings of Saturn
I’ma planet by the time you hear this
Shit and chatter ‘bout the heat It will not fuckin’ matter

【日本語】
これは極めて重大な問題だ
温度が上がる前の生地みたいにセンシティブな話だ
はしごに登って、土星の輪に手を伸ばす
お前がこのラップを聴く頃には、俺は星になっている
この熱さについての戯言とおしゃべり、そんなの俺には関係ない

この問題は、タイラー自身にとって、とても重大な問題だと歌われています。でも、もう言ってしまったので、この話題について、誰が何を言おうと、俺はもう知ったこっちゃないと開き直ってバースを締めくくっています。

思えば、これまでの同性愛嫌悪的と批判されてきたタイラーの表現も、同性愛的な傾向が認められる自分自身への反発から、歌詞の中では過激に男らしく振舞おうとしていたのかもしれません。

まとめ

繰り返しますが、ここまでの解釈は、そういう解釈が出来るのではないかという話にすぎず、読み方によっては、単に好きな女の子に告白ができない女々しさを持ったタイラーが悩んだけれど告白したというだけの話にも読めると思います。

ただ、同性愛に攻撃的な表現が多いと人権活動家からも批判される立場にあったタイラー自身が同性愛あるいはバイセクシュアルをカミングアウトしたのだとしたら、トランプ現象など一部で揺り戻しがあるものの、世界的にそれだけカミングアウトしやすい環境(多様性や違いに対して、寛容でリベラルな環境)が整ってきたということだと思われ、多くの人に勇気を与える内容なのではないかと思います。

ということで、ヒップホップ業界の中でも、どこか異端児でクリエイター気質なタイラーの曲だけあって、いわゆるヒップホップのイメージとはだいぶ遠いかと思いますが、今回は、Tyler the Creatorの4枚目のアルバム『Flower Boy』から「Garden Shed」の解読をお送りしました。

気になった方は、ぜひ『Flower Boy』の他の曲もチェックしてみてください。

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