見出し画像

ロジックが手に入れた独自の「ソース」と成功を読む(Logic - "Keanu Reeves")

Writer:@imamole_

今回は、1/18に公開されたラッパー・ロジックの新曲『Keanu Reeves』を解読していこうと思います!

若手実力派とも言われているロジックは、メリーランド出身、現在29歳のラッパーです。

黒人の父と白人の母親の血を受け継ぐ彼は、そのマイノリティとしての自身の苦悩、人種問差別問題、自殺問題など、アメリカの現実をリリックに反映させたラッパーとして広く知れ渡っています。

人種問題、富や名声に関する彼の哲学、次世代に向けた啓発的なメッセージまで、ロジックの巧妙なワードプレイを、攻撃的なトラックと共に楽しめる1曲です。

では内容を読んでみましょう。

Keanu Reeves / Logic
Produced by A.G.(Producer) & 6ix

イントロ

Yeah

イェー

コーラス

I'm the one, bitch, I am the one, like Keanu Reeves
Get it done, yeah, I get it done, no blood on the leaves
They can't leave us hangin', no, no, not no more, best believe
Yeah, that shit is banging, Bobby killed it with no time to grieve, ayy

【意訳】
俺は救世主さ、ビッチ、俺はキアヌ・リーヴスのような救世主だ
やっちまえ、イェー、やっちまおう、これ以上、黒人の血を見たくはない
俺たちをこのままにはさせないさ、ノー、ノー、これ以上はもう、本当さ
イェー、あの曲はかなりヤバイ、ボビーは嘆きもせずにやり遂げた、エイー

*『マトリックス』:哲学的に人間の本質に焦点を当てた、仮想現実アクション映画。1999年に公開。キアヌ・リーヴスは主人公トーマス(ネオ・天才ハッカーとしてのもう1人の自分)を演じる。作中でトーマスは、サイバー・ヒーローのモーフィアスから『You are the one』(君が救世主だ)と告げられます。ロジックは、ヒップホップの世界では自分こそが救世主のようなラッパーだと自負しています。

*『Blood On The Leaves』:ビリー・ホリデイの『Strange Fruits』をニーナ・シモンがカバーしたものを、2013年にカニエ・ウェストが、サンプリングした楽曲。『Srange Fruits』で両者は「アメリカ南部の美しい夏の気候」と「虐殺されたアフリカ系アメリカ人の体が木から吊るされる様」を対照的に描写することで、コーカサス人とアフリカ系アメリカ人の当時の奴隷関係を表現しています。(原曲では、木からぶら下がる黒人を”奇妙な果物”と謳っている。歌詞はAbel Meeropolのポエム)

*ロジックは、白人と黒人の血を受け継ぐマイノリティ。彼は自身の人種を理由に経験した苦悩や黒人差別に対する訴えを度々ラップしていますね。過去3行目と2行目での対句で、過去の歴史を踏まえつつ、人種差別の現状が酷くならないようにと訴えています。

1バース目

At the Garden, sitting courtside, look around like, "oh my God"
I just sold this motherfucker out, I ain't even try
I ain't one to floss, but I got plaques, run it back

【意訳】
ガーデンのコートサイドに座ってて、辺りを見回しみてさ、”ヤバイな” って
このガーデンでチケットを完売させたんだぜ、小細工もぜずに
自慢するわけじゃないけど、賞の盾ならある、振り返ってみるとな

*ロジックは2017年の11月に、バスケットボールチーム、ニューヨークニックスとサクラメントキングスの試合をガーデンで観賞していました。

その翌年の6月には、同所でのアリーナライブチケットを完売させています。自身が実際にライブするビッグな会場を目の当たりにして、圧倒されたのでしょう。それを達成するのに何か特別なことをしたわけでもなく、自分が好きなことを、ただやり続けた結果だと言っています。

*「ガーデン(マディソン・スクエア・ガーデン)」は、ニューヨークにある名高いアリーナ施設の略称。主にミュージシャンのライブ、スポーツの試合に使用されています。収容人数はおよそ2万人。

*floss:歯のケアをする為のデンタルフロス、高価な物を自慢する
*plaque:歯垢、(賞・記念)盾

歯科用語を使って自分のキャリアの成功を比喩しています。ロジックは以前にも、Dead Presidents IIIとMidnightでも、歯科用語でワードプレイをしています。

Once I touch down, I go deep like a running back
Just jumped on the private jet and rolled a joint
Played the beat then wrote that joint

【意訳】
タッチダウンすると、ランニング・バックみたいに突進する
自家用ジェットに飛び乗ってジョイントを巻いた
ビートだけ流してあの歌詞を書いたのさ

*タッチダウン:アメリカンフットボールの得点方法の1つ(6点)

*ランニングバック:地上戦の主役、司令塔・クゥオーターバックの前に立って攻撃を進めるポジション。”touch down”は飛行機の離陸も意味するため、後のジェット機のラインと繋げています。

*2行目のジョイントは葉巻もしくはウィードを意味します。同時に、ジョイントは文脈によって様々な意味に変わって適切な名詞として扱われる場合もある為、ここでは前のラインを考慮して、ジョイント=歌詞として捉えられます。

Wrote a whole movie, then I sold that joint
Fuck Illuminati, that boy 6ix got my back
6ix made this beat, 6ix bring the heat you got on repeat

【意訳】
映画の脚本も書いて、あのコラボに乗ったんだ
イルミナティなんてクソだ、俺には6iXがついてる
奴がこの曲を作ったのさ、何度も聴ききたくなるビートだろ

*ロジックは去年の11月に、J.J.Abramsが監督する映画『Everything Must Go』で、ライター・Lisa McQuillanと脚本を共同執筆、さらに同作品の主演を務めることを公表しました。ラッパーのみならず、彼のストーリーライティングの能力を活かして、次のステージでの成功を納めようと試みています。

*6iX=2010年以降、ロジックの右腕として音楽制作をしているヒップホッププロデューサー。余談ですが、彼は自身の父親のように医者になることを目指して、メリーランド大学で医科大学に進む為の単位をほぼ取得していました。ですが、レコードレーベル・Visionary Music Groupと契約が決まったロジックから、「レーベルがLAに来て欲しいって言ってて、お前にも来て欲しいんだ。一緒に引っ越そうぜ!」との電話を受けると悩むことなく、ロジックと共にプロのプロデューサーとしてのキャリアに専念するために、全財産を持って3日後にはLAに引っ越します。素敵なエピソードですね。

*この2行目と3行目は対句になっており、6iXの名前を3回挙げていることから、キリスト教の間で”悪魔の数字”とされ、イルミナティを意味する”666”を意味しています。巧妙なラインです。

*イルミナティ=ラテン語で啓蒙、開化。悪魔を崇拝し、この世を闇で仕切っていると言われてる啓蒙主義者、秘密結社。エリートな人間たちによる世界統一政府を実現させることが、彼らのゴールと言われています。代表的に、エリザベス女王やロッカフェラーなどが支持者として知られています。

Word on the street
Can't no one compete, I'm spectacular
That boy got the sauce on the RAGÚ-lar

ここから先は

4,751字

¥ 300

「洋楽ラップを10倍楽しむマガジン」を読んでいただき、ありがとうございます! フォローやSNSでのシェアなどしていただけると、励みになります!