虚無感の中にも前向きさが垣間見える、Juice WRLDのエモ・ラップを読む。(Juice WRLD - "Empty")

Writer:@raq_reezy

今回は、Juice WRLDのアルバム『Death Race for Love』から「Empty」を解読したいと思います。

Juice WRLDは、オートチューンをかけたメロディアスなラップを、感情を乗せたようにフロウするラッパーで「エモ・ラッパー」と括られることもあります。昨年亡くなったXXX TENTACIONなどにも通ずるスタイルです。

さて、Juice WRLDは1998年にシカゴで生まれました。彼が3歳のときに両親が離婚して父親が家を出ていったため、兄弟とともにシングルマザーの家庭に育ちました。

4歳のときにピアノを弾き始め、ギターやドラム、トランペットと様々な楽器に触れていきます。また、母親は保守的な人間だったようで、息子にヒップホップを聴かせなかったそうです。Juice WRLDは、代わりにロックやポップを聴いて育ちます。こうした生い立ちも、彼のスタイルに繋がっているのでしょう。

また、Juice WRLDは小学6年生のときにリーン(コデイン)を摂取し始めたのをきっかけに、ドラッグの沼にどっぷりと浸かっていきます。2013年には鎮痛剤パーコセットや精神安定剤ザナックスにも手を出します。最終的には、健康を害したために、高校を最終学年で中退しています。

Juice WRLDがラップを始めたのは2015年の高校1年生のときで、SoundCloudという音楽投稿SNSに曲を投稿し始めました。いまアメリカを賑わせている若手ラッパーの多くは、SoundCloudへの投稿からキャリアをスタートさせていることから「サウンドクラウド・ラッパー」と呼ばれたりもします。

多少乱暴にまとめてしまうと、カニエやトラヴィス・スコットなどの音楽性と、チーフ・キーフなどの荒んだストリートの世界観に影響を受けているのが、この世代の特徴でしょう。Juice WRLDも、ここら辺のラッパーの影響を自らあげています。

さて、Juice WRLDは、2017年にリリースしたEPに収録されていた「Lucid Dreams」がバイラルヒット。

その後は、インタースコープというレーベルと契約して、順調にキャリアを歩んでいます。

それでは「Empty」の中身をみていきましょう。

コーラス

From the unknown
I ran away, I don't think I'm coming back home
Whoa-whoa-whoa-whoa-whoa-whoa
Like a crawlspace, it's a dark place I roam

【意訳】
誰にも知られていないところから
俺は逃げ去った、俺は家には戻ってこないだろう
ウォウ、ウォウ
『クロールスペース』みたい、この暗い場所で俺は歩き回る

*『クロールスペース』は、カルト映画のタイトルです。(比喩表現ですが)暗闇の中をうろつく自分の姿を、『クロールスペース』に登場する、通気口を移動するアパートオーナーに重ね合わせています。

通気口を自由に移動し間借人の美女たちを覗き見るアパートのオーナー。だがその欲望は見ているだけではおさまらなかった……。「デビルズ・ゾーン」のD・シュモーラー監督による異色サスペンス。K・キンスキーが怪演。(Yahoo!映画より
Ain't no right way, just the wrong way I know
I problem solve with Styrofoam
My world revolves around a black hole
The same black hole that's in place of my soul, uh

【意訳】
正しい道なんてない、間違った道しか俺は知らない
俺は発泡スチロールで問題を解決する
俺の世界は、ブラックホールを中心に回転する
俺の魂の代わりに存在しているブラックホールと同じやつさ

*発泡スチロールというのは、発泡スチロール製のコップを指します。発泡スチロール製のコップで、どうやって問題を解決するのかと思われるかもしれませんが、アメリカのユースは発泡スチロール製のコップに入れてコデインを飲みます。つまり、コデインによって現実逃避するということです。

*コデインというのは、咳止めシロップなどにも含まれるメチルモルヒネという成分のことで、鎮痛効果などがあります。鎮痛剤の過剰摂取は、アメリカで社会問題化しています。

Empty, I feel so goddamn empty
I may go rogue
Don't tempt me, big bullet holes
Tote semi-autos

【意訳】
空っぽ、俺はめちゃくちゃ空っぽな気分
俺は悪い道に進むかもしれない
俺を誘惑するんじゃねえ、大きな銃弾の跡
半自動小銃を持ち歩く

1バース目

Huh, yeah
I'm keepin' it real, real
I'm keepin' it real, uh, yeah
Life gets tough, shit is getting real (Yeah)

【意訳】
はぁ、そうさ
俺はリアルに保ってるんだ
俺はリアルに保ってる、そうさ
人生はタフになっていく、現実が押し寄せてくる(そうさ)

*父親が家を出て行くなど、厳しい現実に襲われる中で、自分をリアルに保つことが難しく、ドラッグに逃げてしまう様子が描かれます。

I don't know how to feel
Swallowing all these pills
Not my real feels, uh

【意訳】
俺は感情を忘れてしまった
片っ端から錠剤を飲み込む
俺の本当の気持ちじゃないんだ

*錠剤もドラッグのことです。MDMAなどが錠剤型のドラッグです。

Devil standing here
Tryna' make a deal, uh
It ain't no deals
Feel like I'm going crazy but still took a lot to get me here

【意訳】
悪魔がここに立っている
俺は契約を交そうとしてるのさ
それは契約なんかじゃねえ
俺はどんどん狂っていく気がする、だけどここまで来るのは大変だった

Losing my sanity up in a house in the hills, hills, hills
I ain't have anything then and I still don't have anything still, still, still, uh

【意訳】
ヒルズの家の中で、俺は正気を失う
俺は何も持ってなかった、まだ今も何も持っていないまま

*2019年にロサンゼルスに引っ越しているので、「ヒルズ」はハリウッドの横にあるビバリーヒルズを指しています。

Bein' me, I rock, PnB
These hoes actin' like gossip, TMZ
These drugs acting like
Mosh pits squishing me
Oh my, oh me, how they kill me slowly

【意訳】
俺は自分でいるから、ロックなんだ、PnBさ
みんなゴシップみたいに振舞ってる、TMZさ
このドラッグは、モッシュピットが俺を押し潰すみたいな気分にさせる
ああ、あいつらはどうやって俺を少しづつ殺すんだ

*PnB Rockというラッパーの名前を使って、言葉遊びをしています。

*TMZというのは、エンタメ業界などのゴシップを取り扱うメディアです。

Lonely, I been gettin' no peace
OD, feel like overdosing
Low key I been looking for the signs
But all I can find is a sign of the times

【意訳】
孤独だ、俺には平和が訪れない
オーバードーズしてる気分さ
俺は目立たないサインを探してた
だけど俺が見つけられるのは、時代の趨勢だけ

*オーバードーズとは、薬物の過剰摂取によって、身体に有害な状態が発生することを指します。2017年にはリル・ピープという若きエモ・ラッパーが、2018年にはマック・ミラーという才能あるラッパーが薬物のオーバードーズによって亡くなるなど、オーバードーズはヒップホップ業界を悩ませる問題となっています。

2バース目

I ain't suicidal
Only thing suicide is suicide doors
Fight for survival
Gotta keep hope up, rolling good dope up (Uh)

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