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全ての小さな夢追い人たちへ—アンダーソン・パークとタリブ・クウェリからのエールを読む。(Anderson .Paak – "The Dreamer " feat. Talib Kweli)

Writer: @vegashokuda

いよいよ来週末に開催が迫ったFUJI ROCK FESTIVAL ‘18。今回は、同フェスへの出演と単独公演が予定されているアンダーソン・パーク(Anderson .Paak。以下「アンディ」)のアルバム『Malibu』に収録されている“The Dreamer”のリリックを解読します。手前味噌でたいへん恐縮ですが、アンディの人となりを知るには、拙ブログのこちらの記事がオススメですので、ぜひお読みください。

では、早速リリック解読に入っていきます。

スキット

I enjoy some of the old and I enjoy the new
And if I can find a balance between it, that’s where I find my satisfaction

【意訳】
俺は古いものも新しいものも少しずつ好きで
その間でバランスを見つけられるとき、楽しみを見出せるんだ

Geniusいわく、これはあるサーファーのドキュメンタリーからサンプルしたもののようです。余談ですが、この台詞、個人的にアンディの音楽と向き合う姿勢をとてもよく表していると感じます。

イントロ

Don’t stop now, keep dreaming

【意訳】
止まらないで、夢を見続けて

本曲の核となるメッセージは、アンディの姪たちからなる聖歌隊によって歌われています。

1バース目

I’m on my fifth brew and my rent’s due
Sixth and west roof, I can see it all

【意訳】
5杯目のビール、家賃は支払期限
6階西の屋根、俺には全部見える

アンディは貧しかった頃の生活を追憶します。家賃の支払期限が来ているというのに、アルコールで現実から逃れようとしていた日々です。

“Sixth and west roof”は上記の訳としましたが、当時住んでいた家が位置する交差点を表しているのかもしれません。ただ、米国のストリートでRoofと呼ばれるものや、比較的発音の近いRuthが見当たらなかったため、一旦上記の訳でご理解いただければと思います。

Hold on to my hand, that’s my little dude
Look at Kenzo, swagging like his paw

【意訳】
俺の手に掴まってるのは、うちのチビ
KENZOを見ろよ、(虎の)足みたいなスワッグだ

1行目で言及している「チビ」は、もちろんアンディの息子です。

2行目では、KENZOのアイコニックな虎の足をかたどったデザインに言及しています。これが「貧しかった頃もKENZOを着るくらいファッションには気を遣っていた」という意味なのか「貧しかったけど今は息子がKENZOを着れるくらい稼いでるぜ」という意味なのかは分かりかねます。

One for the occasion and get ya good suit
Fuck your reservation, bitch, I brought ‘em all

【意訳】
まずはチャンスのため、それからいいスーツのため
心配なんてクソくらえ、ビッチ、全部持ってきたぜ

1行目は、よく聞く“One for the money, two for the show”の変形と考えてよいでしょう。

Look at where you came from, Californication
Since a little baby skating in boogie boards

【意訳】
どこからやってきたかって、カリフォルニア育ちさ
ブギーボードでスケートしてたガキの頃から

海で使うはずのブギーボードで「スケート」するとはどういう意味かと思ったら、以下の動画が見つかりました。

お金が無いなりに工夫を凝らして遊ぶ、健気なアンディ少年の姿が浮かびます。

And raiding your cookie jar, my radio analog
I wanted them Nike’s, Mama got me Lugz

【意訳】
お前のクッキーの瓶を奪って、アナログのラジオを聴いてた
ナイキが欲しい俺に母さんはLugzをくれた

Lugzはリンクのとおり、ティンバーランドの少し安い版です。ナイキのスニーカーがなかなか手に入らなくとも、アンディはクッキーを食べ、ラジオを聴くなかで、日々の生活に楽しみを見出していたのかもしれません。

サビ

This one’s for all the little dreamers
And the ones who never gave a fuck
I’m a product of the tube and the free lunch
Living room, watching old reruns
And who cares your daddy couldn’t be here?
Mama always kept the cable on
I’m a product of the tube and the free lunch
Living room, watching old reruns

【意訳】
全ての小さな夢追い人に捧ぐ
何も気にしない奴らの歌
俺はテレビとフリー・ランチで育った子
リビングで観た再放送
パパがいないからって誰が気にしようか
ママがテレビを繋いでくれてた
俺はテレビとフリー・ランチで育った子
リビングで観た再放送

「フリー・ランチ」は文字どおり無料の昼食で、低所得の世帯を対象に支給されるものです。父親が不在のなか、テレビがいつでも見られるように稼ぎ続けた母親に言及するあたりから、アンディの、痛みからポジティビティを抽出する前向きな姿勢が感じられます。そして、その姿勢をもって、同じ境遇にいる「小さな夢追い人」たちにエールを送ります。

2バース目

One for the occasion, fuck your reservation
Call up all the haters, it’s official

【意訳】
まずはチャンスのため、不安なんてクソくらえ
ヘイターを全員呼ぼう、もう公式だ

貧しい時代から一転、ヘイターがつくほどまでに成長したアンディは、もはや「公式」に人気者への仲間入りを果たしたといえるでしょう。

ここで“reservation”を「予約」と捉えれば、「ヘイターにわざわざ予約させたイベントをキャンセルする」という、性格の悪い行為にも読み取れます(笑)。

Californication, ever since a baby
Radio and the cable, I got the dish, too

【意訳】
カリフォルニア育ち、ガキの頃から
ラジオとテレビ、それに料理もあるぜ

1バース目やサビで出てきた「ラジオ」「テレビ」に、ここでは別の意味を持たせているようにも思えます。

ブリッジ

This is the music that you gotta feel
Gave you the truth before I got a deal
No rabbit in a hat, it ain’t no magic, ain’t no Copperfield
More like a panther, Huey Newton, Bobby Seale
Word to the free lunch, who knew what we would become?
Who would be defunct? Which rumors would be debunked?

【意訳】
これはきっとお前の心に響く音楽
契約を手に入れる前に真実を与えた
帽子に兎なんていない、カッパーフィールドのマジックじゃない
むしろパンサーヒューイ・ニュートンボビー・シール
フリー・ランチに万歳、俺らがどうなるか誰が知っていた?
誰が死ぬって? どんな噂が嘘だと暴かれるって?

このブリッジは、リリシストとして名高いタリブ・クウェリ(Talib Kweli)によって2度繰り返されます。タリブは自らの音楽をマジックではなく、黒人の地位向上を目指し地に足を着けて活動してきた、ブラックパンサー党に喩えます。

3バース目

Used to be scared of all my fears
‘Till I woke up from this nightmare

【意訳】
俺の抱く恐怖すべてに怯えていた
この悪夢から目覚めるまではな

3バース目もタリブ・クウェリによって蹴られます。「悪夢」から目覚めた今、タリブに怖いものなどありません。

Now what become of a dream deferred
Now until we leave this earth
The music make your speakers burst
I always put my people first

【意訳】
さて、延期された夢はどうなった?
俺らがこの地球を去るまで
この音楽がお前らのスピーカーから轟き
俺はいつも仲間を第一に考える

1行目はラングストン・ヒューズの詩「ハーレム」からの引用だそうです。ここで詩の全体を引用することはしませんが、同作において、ヒューズは「延期された夢は乾きも腐りもせず、ただ重くのしかかるだろう」というようなことを言っています。夢は消えず、それを抱いた年月とともに、重く自分にのしかかる—だからこそ、タリブはその夢を叶えるため、生きているうちにできる限りのことをします。その方法は音楽であり、全ては同じ苦しみを共有する仲間のためです。

It’s deep how when I speak they say
I’m preaching like I lead a church
No proper opposition, competition gonna need a nurse

【意訳】
俺が口を開けばみんなは言う
俺は教会を導くかのように説教するって、ディープだよな
敵なんていない、競争相手は看護師が必要だ

タリブのリリカルさに、競争相手たちはただ打ちのめされるのみです。

My job as an artist is making miracles
To show you how to struggle poetic and make it lyrical

【意訳】
アーティストとしての俺の仕事は奇跡を起こすこと
いかに詩的な苦労をリリカルに昇華できるか示すんだ

前述の「夢」を叶えるために、タリブは音楽という手段を選びます。その音楽への真摯な姿勢をこのように表現しています。

Crystallize the thought to make it clear to you
And make the revolution irresistible

【意訳】
俺はこの考えをクリアに伝えるべく磨く
そして革命を抗えないものにするんだ

タリブは自らのラップをもって仲間たちを良い方向へ導こうとしています。そのためには理解してもらうことが必要です。だからこそ、彼は自らの考えを磨いて“clear”(透き通った/明確な)にします。そして、本人が言うところの「革命」を起こすのです。

アウトロ

Now evolution: Where it all going? Is it coming to an end or is it just beginning? There was one fellow who know’d Malibu quite well at a certain time in history. And I doubt if very few people are able to find these types of conditions again due to crowds and controls and much bureaucracy. But there are other areas which are magnificent, treasures of this world. And for somebody with adventure and excitement in their lives, and they have a lot of excitement and adventure, they can find this way of living

【意訳】
さて、革命はどこに向かってるかな?もう終わるか、それとも始まったばかりか? 歴史上のある時点でマリブのことをよく知る奴がいたけど、どれだけの人がまたそういう状態を見つけられるだろう、この群衆と規制と官僚制のなかで。でも壮大で宝のような場所が、この世界にはまだあるんだ。人生で冒険心と興奮を忘れない奴には、そういう生き方が見つかるはずさ。

というわけで

アンダーソン・パークとタリブ・クウェリからのエールを読み解いてきました。冒頭に紹介したアンディのインタビューを踏まえると、苦労人の彼がこうして自身の経験を語り、過去の自分と同じ境遇にいる人々をインスパイアする姿は感動的でさえありますね。一方のタリブは高い視座でメッセージを発しており、さすがは社会派リリシストといったところです。

フジロック、そして単独公演でこの曲を聴けるのを楽しみに待ちたいですね!

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