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物質主義と一線を画すVince Staplesのパーティーソングを解読する。(Vince Staples - "Party People")

今回は、Vince Staplesが今年発売したアルバム「Big Fish Theory」から「Party People」を考察してみたいと思います。Vince Staplesの曲を解読するのは初めてなので、まずはVince Staplesについて少し説明します。

Wikipediaによると、Vince Staplesは、Dr.DreやKendrick Lamarを生み出したカリフォルニア州のコンプトンという街で生まれました。その後、コンプトンの犯罪率の高さに嫌気がさしたVince Staplesの母親は子どもたちを連れて、North Long Beachに引っ越します。Vince Staplesは、その後、様々な学校を転々としたようですが、小学4年生〜小学6年生のときに通った「Optimal Christian Academy」ではポジティブな影響を受けたようです。

また、Vince Staplesは子どもの頃にギャングの活動にも関わっており、自分のコミュニティの若者にギャングのライフスタイルは危なさも伝えています。

ミュージシャンとしては、Odd Future周りにいた時期に注目を集めはじめ、Mac Millerとのコラボ・ミックステープや、自身のEPなどを通じて、知名度を獲得していきます。2015年にはXXL誌のFreshmanにも選出されています。

Vince Staplesの人間的な特徴としては、ハイプや見栄を張ることを嫌い、一般の人間であり、職業ミュージシャンであるというスタンスで活動を行なっています。

このことは、Playatuner誌に詳しいので、そちらをご参照ください。

Vince Staples「メディアや世間のイメージがラッパーたちにプレッシャーを与えている」彼の超リアルトーク。

それでは、いよいよ曲を解読・考察していきたいと思います。

1バース目

I been fucked since my early days
I been stuck in my worldly ways

【意訳】
俺は幼い頃から、全部が終わってた。
俺は自分の世界の中で行き詰まってた。

1行目は、ゲットーに生まれて貧しく育ったVince Staplesの正直な気持ちでしょう。2行目のstuck in my worldly waysは、彼の過去の楽曲「Stuck in My Way」を参照していると考えられます。「Stuck in My Way」は憎しみ等の感情やストリートの生き様に囚われていることを歌った楽曲です。

普通であれば、そこから成功を納め、マテリアルな快楽・裕福さを誇るというのがヒップホップのあり方に思えますが、Vince Staplesは少し違います。

Propaganda, press pan the camera
Please don't look at me in my face
Everybody might see my pain
Off the rail, might off myself

【意訳】
プロパガンダ、カメラのボタンを押して、俺の顔を覗き込まないでくれる?
みんなが俺の痛みを見ることになるかもしれない。
道を外れて、自分自身を殺してしまうかもしれない。

Vince Staplesは、成功だけを極端に賞賛する社会やメディアのあり方に疑問を呈しています。なぜなら、彼はラップを通じて成功を納めたけれど、幸せを手にすることはできなかったと感じているからです。

同じく、自殺してしまうかもしれないという内容を歌った「Smile」という曲では、以下のようなフレーズが見られます。

I know that money come and go so money not my motive no mo’
I made enough to know Ill never make enough for my soul
俺は、金なんて稼いでも消えてしまうってことを知っているから、金はもう俺のモチベーションを高めない。
俺は金が自分の魂を満たすことは決してないと分かってしまうくらいには十分に金を稼いだ。

お金だけでは幸せになれないという「Smile」で歌われた内容は、今回の曲でも語られています。

Bored with life as I board this plane
Stewardess ask if I need help
Maybe baby, what's your last name
Hopefully it still ain't been changed
Somethin' 'bout ya make me not doubt ya
Awkward silence, my brain scream louder
Askin' when I'm gon' blast myself

【意訳】
この飛行機に乗り込むとき、もう俺は人生に飽きている。
スチュアーデスが俺に「何かお困りのことはありませんか?」と尋ねる。
「えっとそうだね、ベイビー、君の姓は何ていうの?
願わくば、まだ一度も変わっていなければいいな、なんてね。
何がそうさせるのか分からないけれど、俺は君なら信用できるんだ。」
間抜けな沈黙が流れる。俺の脳が声を大きくして叫ぶ。
「お前はいつ自分を爆発させるんだい?」

ここでは人との距離感も上手く取れない自分を描いてみせることで、自分がイケてるラッパーなんかではなくて、単なる一般人に過ぎないことを表現しているのでしょう。

Couple problems my cash can't help
Human issues, too strong for tissues
False bravado all masked by wealth

【意訳】
俺の現金が解決できない、いくつかの問題がある。
人間関係の問題、ティッシュにとっては強すぎる。
裕福さで覆われた、偽りの虚勢。

いくらラッパーとして虚勢を張っても、現実の自分はお金で解決できない人間関係の問題に悩まされている1人の人間に過ぎないのです。人間関係の問題を抱えている自分という存在は、ティッシュなんかでは覆いきれないため、裕福さで覆っているのです。

コーラス前

Move your body if you came here to party
If not then pardon me
How I'm supposed to have a good time
When death and destruction's all I see?

【意訳】
パーティーのために来たのなら、体を動かせ。
もしそうでないなら、俺の話を聞いてくれ。
俺の目に入るものは死と破壊ばかりなのに、
どうやって俺は良い時間を過ごせばいいっていうんだい?

Vince Staplesが、パーティーで馬鹿騒ぎできずに、1バース目で述べたような憂鬱や問題を抱えているのは、死や破壊といった社会のネガティブなものを幼い頃から見て来たからなのでしょう。

Out of sight, I'm out of my mind
The sound of sunshine is callin' me
Good vibrations is all I need
All I need, all I need

【意訳】
視界を失い、俺は我を忘れる。
日光の音が俺を呼んでいる。
良いバイブスだけが必要なんだ。
それだけあればいい。それだけあれば。

サビ

Party people, yeah
Party people I like to see you dance
Party people, yeah
Party people I like to see you dance
Party people, move
Party people I like to see you groove
This is how we do, this is how we do

【意訳】
パーティー・ピープル、イエイ。
パーティー・ピープル、お前たちが踊るのを見せてくれ。
パーティー・ピープル、イエイ。
パーティー・ピープル、お前たちが踊るのを見せてくれ。
パーティー・ピープル、動け。
パーティー・ピープル、お前たちがグルーヴするのを見せてくれ。
これが俺たちのやり方、これが俺たちのやり方。

2バース目

Deja vu from my bayside view
I see black cats in the daytime too
I see black cats on the daytime news
With handcuffed wrists and their skin turned blue

【意訳】
湾岸沿いの景色を眺めていても、デジャヴを見ることがある。
俺は日中に、黒猫を見ることもある。日中のニュースでも黒猫を見るんだ。
手錠を掛けられた腕と青く色塗られた毛皮。

ここのラインは解読が難しいので、正解は分かりませんが、いくつかの予想を書いてみます。

まず、ひとつめは黒猫を「不吉の前兆」として読むと、湾岸沿いの景色を眺めるほどに成功した今でも、不吉の前兆を見ることがあるという内容になります。

続いて、黒猫を自分たちの人種だと解読すると、手錠をかけられた黒猫を、警察に不当に扱われている黒人に例えていると読むこともできます。日中に黒猫を見ること自体は珍しくないことなのに、その黒猫がニュースになり、手錠を掛けられるというところから、いかに不当に扱われているとVince Staplesが感じているかが読み取れます。

I met God once at a rendezvous and felt star-struck
"Vince, the car's out front"
Got things to do, got to make my moves

【意訳】
俺は一度、溜まり場で愛を知って、夢中になった。
「 Vince、車は表に止めてあるよ」
そうだ、やらないといけないことがある。動かなきゃ。

同じアルバムの曲「745」で、「This thing called love is a God to me(この愛と呼ばれるものは、俺にとっては神のようだ)」と歌っていることから、ここのGodは愛と訳しています。

I can't miss my flight and miss you too, boo
First class seats is overrated
Won't go 'less they overpay us

【意訳】
俺は飛行機を逃せない。しばらく寂しくなるよ。
ファーストクラス席は過大評価されている。
あいつらが俺らに過剰に支払うのでなければ、座らないよ。

飛行機に乗るのはツアーで全米を回るためでしょう。仕事にデートにと、忙しく過ごしている様子が描かれています。

また、「ファーストクラスの席は過大評価されている」と、ここでもVince Staplesらしい、マテリアリズムに懐疑的なラインが記されています。

Nowadays I'm over datin'
My dick is strict for procreation
Her lips, my lips stay well acquainted
Her morning moanings is callin' me
Good vibrations is all I need
All I need, all I need

【意訳】
今では、デートにも飽きている。
俺のちんこは厳格に生殖のためだけに使われる。
彼女の唇と俺の唇は、お互いをとてもよく知っている。
彼女の朝のうめき声が俺を呼んでいる。
良いバイブスだけが必要だ。
それだけあればいい。それだけあれば。

ここでは、落ち着いた関係とありきたりの幸せを求めるVince Staplesの心情が現れています。

コンプトンで生まれ、貧しく育ち、ギャングでも活動もした。

ラップを通じて、お金を稼いでパッと使っても、幸せを得ることができなかった。

そうして、大人になり精神も落ち着いたVince Staplesは、本当に欲しかったものに辿り着こうとしているところなのかもしれません。

ということで

バウンシーなチューンで、フロア向けの音楽ですが、歌詞の内容は一般的なパーティーソングとは一線を画した「Party People」の解読と考察でした。

この曲も、多くの物事に絶望して憂鬱になりつつも、良いバイブスだけを求めてつくられたパーティーソングなのでしょう。

いかがだったでしょうか。


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