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XXXテンタシオンのボーカルを用いた、リル・ウェインの死生観を読む。(Lil Wayne - "Don't Cry" feat. XXX TENTACION)

Writer:@raq_reezy

今回は、先日ついにリリースされたリル・ウェインの最新アルバム『Tha Carter V』から、「Don't Cry」という曲を解読したいと思います。

この曲では、今年、強盗にあって亡くなったXXXテンタシオンのボーカルがサビに用いられています。

XXXテンタシオンのボーカルは元々、リル・ウェインとのコラボを意図して録音されたものではありませんでしたが、XXXテンタシオンとレコーディングをしていたZ3Nというプロデューサーが彼の死後にリル・ウェインのレーベル「ヤングマネー」の関係者に聴かせたことにより、リル・ウェインの元へと届き、今回のアルバムに用いられることとなりました。

XXXテンタシオンは生前、リル・ウェインから大きく影響を受けていることを公言しています。

それでは、内容を見ていきましょう。

サビ(XXXテンタシオン)

Don't cry, don’t go
Won't lie, I fuckin' love you, woah!

【意訳】
泣かないで、行かないで
俺は嘘をつかないぜ、俺はお前を愛してるんだ!

*この歌詞は、もともとXXXテンタシオンのガールフレンドであったジェネヴァ・アヤラに向けて歌われたものではないかと推測されています。

XXXテンタシオンとジェネヴァ・アヤラの関係は、テンタシオンが暴力を奮ったり、ジェネヴァが浮気をしたりと、難しい関係でしたが、テンタシオンは度々ジェネヴァへの愛を歌っています。

しかし、その後テンタシオン自身がこの世を去ってしまったため、別の意味を生じさせるコーラスとなりました。

また、この曲に入る前のイントロでは、リル・ウェインの母親が泣いている音声が用いられており、このサビの「泣かないで」へと繋がっています。

1バース目(リル・ウェイン)

リル・ウェインは自身を主人公にラップを進めていますが、その描写は、まるでXXXテンタシオンの死後を描いているようでもあります。

Staring into the clouds
Am I rising or they comin’ down?
I see death around the corner
And the U-turn sign's lookin' like a smile

【意訳】
雲を眺めている
俺が上っているんだろうか、それとも雲が降りてきたのか
俺は曲がり角に、死の存在を感じる
そして、Uターンの標識はスマイルみたいだ

*ここでは、リル・ウェインが亡くなった後のことを想像しているような歌詞となっています。

まずは、自分が天の上の国に近づいている描写から始まります。

すぐそこの曲がり角にも死が潜んでおり、ここで引き返せという標識は不気味に笑っているように感じられます。

What do I do now? Who gon' find me, how?
Nowhere to turn but around and round
Just another nigga that done lost his head
No, a fucking king that forgot his crown

【意訳】
俺は今、何をするべきなのか?
誰がどうやって俺を見つけてくれるんだろうか?
向かう場所はどこにもなく、ぐるぐると回ってばかり
亡くなった、ありきたりの黒人の一人さ
いや、王冠を忘れた王様かもしれない

*リル・ウェインは、自分が生存している中で最高のラッパーだと自称してきました。

しかし、死後の世界では「王冠を忘れた王」として、一人の人間に戻っているようです。

I am not number one, it's true
I'm number 9-27-82
Color blind even if I may be blue
A lot on my plate, ain't my favorite food

【意訳】
俺はナンバーワンなんかじゃない、これは本当さ
俺のナンバーは9-27-82
俺はブルーなときでも、色盲だ
皿にはたくさん食事が乗ってるけど、俺の好きな食事じゃない

*9-27-82は、リルウェインの誕生日である1982年9月27日を収監番号のように表現したものです。

But I'm hungry, so hungry
Need my family tree next to a money tree
With a bunch of leaves in the Garden of Eden
With a bunch of Eves, no fruit punch for me

【意訳】
だけど、俺は腹が減っている、めちゃくちゃ腹が減っている
金のなる木の横に家系図が必要だ
たくさんの枝葉が付いたものがな、エデンの園の中で
イヴもたくさん居てくれよ、俺のためのフルーツパンチはない

*リル・ウェインが「家系図(=家族の木)」と「金のなる木」という二つの木を欲していることが歌われています。それも、たくさんの枝葉がついたものということなので、大勢の家族と、豊富なお金で楽しく暮らしたいということでしょう。

エデンの園というのは、アダムとイヴが暮らしていた場所です。彼らは蛇に唆されて知恵の実を食べたうえに、神に嘘をついたことで、地上に飛ばされてしまいます。

I sip from the Fountain of Youth
So if I die young, blame the juice
Bury me in New Orleans
Tombstone reads: "Don’t cry, stay tuned."

【意訳】
俺は若者の泉から飲ませてもらう
だから、俺が若くして亡くなったら、俺への尊敬を恨んでくれ
俺をニューオーリンズに埋葬してくれ
墓石には「泣かないで、聴き続けろ」と書かれている

*「juice」というのは、ストリートで得られる本当の尊敬のことを表しています。

ニューオーリンズは、リル・ウェインの生まれた土地です。

そして、最後の行は、アーティストが音楽を通じて、現世に生き続けられることへの希望が描かれているのではないでしょうか。

Bring me back to life
Got to lose a life just to have a life
But if heaven’s as good as advertised
I want a triple extension on my motherfuckin' afterlife
Rest in paradise

【意訳】
俺を生き返らせてくれ
人生を手に入れるためだけに、人生を失わなければならない
だけど、天国が世で喧伝されているほど素晴らしいのなら
俺は死後の人生を3回延長したいぜ
理想郷で静かに休みたい

*音楽を流して、自分を生き返らせてほしいとお願いしています。

「死後の人生を3回延長したい」という部分は言葉遊びになっています。

「延長を3回したい」という「triple extension」が、「triple x tension」つまりXXX TENTACIONを連想させるという形です。

2バース目

続いて、2バース目では、長くシーンの中で過ごしてきたリル・ウェインならではの達観したリリックが書き綴られています。

Talent is God-given, be grateful
Fame is not a given, be humble
And conceit is self-driven, drive carefully
Stay in your own lane, seat buckled

【意訳】
才能は神から与えられる、常に感謝しろ
名声は与えられたものではない、常に謙虚でいろ
自惚れは自分でドライブするものだ、注意深く運転しろ
自分の道を行け、シートベルトをして

*ヒップホップシーンで長く大活躍してきたリル・ウェイン。しかし、ここではジョン・ウッデンという人物の言葉を借りて、謙虚な姿勢の重要性が歌われています。

才能が与えられたことを神に感謝して、謙虚に過ごし、自分を自惚れさせないように注意して、自らの進むべき道を進むようにと。

これは、先輩として、いま旬を迎えている若いラッパーたちに贈る言葉のようでもあります。

And sometimes when there is no music
We toot our own horns, rum-bum-bum-bum
That woman carried the future
And Tunechi was born like, "dun-dun-dun-dun-dun"

【意訳】
そして、ときどき音楽がないときには
俺たちは自分のラッパを吹き鳴らす、ランバンバンバン
あの女性は未来を持ち運んでいた
そして、俺は「ダンダンダンダンダン」ってふうに生まれたのさ

*「ザ・リトル・ドラマーボーイ」の歌詞をアレンジして用いています。

Don't call it a comeback
It was dark, now the sun back
Hit me hard, but I punched back
The wheels fell off, I rode the hubcap

【意訳】
これを復活だなんて呼ぶんじゃねえぞ
そこは暗い場所だったんだ、今は太陽が戻ってきた
俺は強く打たれたけれど、拳を返してやった
タイヤが落ちるまで走って、俺はホイールキャップにまで乗った

*リル・ウェインは、2009年頃からしばらくの間、ラップすればチャートの上位を独占するという怖いものなしといえる時期を過ごしました。

しかし、2014年から2018年まで、レーベル内の揉め事により、彼は今回の『Tha Carter V』をリリースできない日々が続きます。暗い場所とは、この期間のことを歌っているのではないかと思われます。

「タイヤが落ちるまで」というのは、出来る限りのことを全てやりきるということを意味します。リル・ウェインは、タイヤが落ちるまで、不遇の状況を解決するために頑張っただけでなく、タイヤが落ちたあとも、ホイールキャップに乗ってでも前進してきたのだと歌っています。

Is it suicide or it's do or die?
It's newer days and it's bluer skies
I told myself, "It's just you and I."
Then the breeze came and it blew my mind

【意訳】
これは自殺だろうか、それとも殺るか殺られるかだろうか
新しい日々であり、前よりも青い空がある
俺は自分に言った、「あとはお前と俺だけだな」
そして風が吹いて、俺の心を打ち砕いた

*リル・ウェインは、12歳の頃に学校を辞めてラップをすることを親が認めず、自殺を試みたことがあります。

しかし、自殺未遂を経て、彼の人生は好転しました。決死の覚悟でやりきる重要性を訴えているように思えます。

Lord knows who I'm there for
I give my last breath of air for
Mama tell me to be careful
Voice in my head give me an earful

【意訳】
神は、俺が誰のために、そこにいたのかを知っている
神は、俺が誰に最後の一呼吸を与えるかを知っている
ママは俺に「気をつけなさい」と言っていた
俺の頭の中はゴシップを語る声でいっぱいだ

But I got mind control over my control
I lost control but knew I'd find control
I let God control what I cannot control
Can't control the tears, let 'em drop and roll

【意訳】
だけど、俺はコントロールを失い、精神を操作された。
俺はコントロールを失ったけれど、どこかで見つけるだろうと知っていた
俺がコントールできないものは、神に任せよう
涙を止めることはできないから、ただ流れるままに任せよう

*この世界の多くのことがコントロールできないことを知った後でも、コントロール出来ないことは神に任せて、自分のやるべきことをやろうと前向きに人生に取り組むリル・ウェインの姿勢が感じ取れます。

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