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「ドラッグ・ユーザーの音楽」と呼ばれた、今のヒップホップが志向するライフスタイルとは。(Post Malone - "Rockstar" feat. 21 Savage)

ヒップホップは、常に時代の風を取り込んで、進化してきました。たとえば90年代には、マフィア映画の影響を受けたラップスタイルが流行りました。常に新しいスタイルが出て来るのもヒップホップの面白さだと思います。

そういった視点で見れば、最近のヒップホップシーンの大きな変化としては、「ドラッグ・ディーラー」としてのリアルさを訴える内容から、「ドラッグ・ユーザー」としてのライフスタイルを歌うスタイルへの移行があげられるのではないかと思います。

先日、ベテランのヒップホップMCが「ドラッグ・ディーラー」としての音楽を「ドラッグ・ユーザー」としての音楽よりも質が高いとする風潮に対して、人気の若手ラッパーである21 Savageが疑問を呈していました

その内容は以下のようなものです。

They say we make drug user music like making drug selling music is better what's the difference?

(彼らは、まるでドラッグディーラーの音楽の方が優れているというかのように、俺たちがつくっているのはドラッグユーザーの音楽に過ぎないというけれど、一体何が違うっていうんだ?)

If the message in the previous generation of rap was so good why did so many of our parents abandon us for crack? Why we still killing each other? Don’t use us as the scapegoat.Our music is a reflection of what’s going on in our community and all we doing is using our talent to escape that community.

(もしも前世代のラップのメッセージがそんなに優れてたっていうのなら、どうして多くの親世代がコカインのために俺たちを見捨てたっていうんだい?どうして俺たちは未だにお互いを殺しあってるっていうんだい?俺たちをスケープゴートに使うんじゃねえよ。俺たちの音楽は、いまの俺たちのコミュニティで起きていることを反映させたものなんだ。俺たちはそのコミュニティから、自分たちの才能を使って抜け出そうとしているだけなんだ。)

コカインのようなドラッグは商品であるため、それに手を出すというのは、ドラッグディーラーとしては二流三流でしょうから、昔のMCがドラッグユーザー音楽を下に見るのは分からないでもありません。

しかし、21 Savageが言う通り、彼らが書く歌詞には時代が反映されているはずです。そこで、今回はPost Maloneが21 Savageを客演に迎えたヒット曲"Rockstar"を参考に、今の世代がつくるヒップホップの世界観を見てみたいと思います。

サビ

そもそもロックスターというのは「ドラッグを売る側」ではなく、「ドラッグを使う側」のことが多いでしょう。そういった意味では、ロックスターにシンパシーを感じて主題として取り入れるといった面でも、世代の感覚の違いを見てとることができます。

I've been fuckin' hoes and poppin' pillies
Man, I feel just like a rockstar (star, ayy, ayy)
All my brothers got that gas
And they always be smokin' like a Rasta (-sta)

【意訳】
俺は女の子とファックして、錠剤を飲み込む。まるでロックスターの気分さ。
俺の兄弟たちは大麻を手にしてる。いつだって、まるでラスタファリアンみたいに大麻を吸ってる。

ここでは、ロックスターのライフスタイルを表す「ドラッグ&セックス&アルコール」が、Post Maloneの言い回しでリバイバルされています。

Fuckin' with me, call up on a Uzi
And show up, name them the shottas (-tas)
When my homies pull up on your block
They make that thing go grrra-ta-ta-ta (ta, pow, pow, pow, ayy, ayy)

【意訳】
俺と揉めてみろ、すぐに短機関銃UZIで蹴散らしてやる。
Shottasって名付けられるようなロイヤルな仲間たちが顔を出す。
俺の仲間たちがお前の地区に現れたときは、あいつらが銃を唸らせるぜ、グラタタタタってな。

ここは非常にギャングスタな内容となっています。全体的に混在しているようです。

UZIは短機関銃の名称です。

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機関銃なので、掃射するときは「グラタタタタ」と音が鳴るのですね。

Shottasは2002年のジャマイカの映画のタイトルで、組織犯罪を行うにあたってのロイヤリティがひとつのテーマとなっています。

gasはマリファナのスラング、ラスタファリアンはジャマイカ発祥の労働者階級による社会闘争「ラスタファリ運動」の実践者のことで、ラスタファリ運動はボブ・マーリーなどのレゲエ・ミュージシャンによって世界的に認知されました。これらは自然回帰志向の運動でもあるため、大麻は神聖な植物とされ、摂取されます。

1バース目(Post Malone)

サビと1バース目はPost Maloneによって歌われています。

Post Maloneについては、いまさら解説は不要かもしれませんが、12歳から音楽活動をはじめ、メタリカなどにも影響を受けたと述べています。Wiz KhalifaやMac Millerがツイッターで言及したことで、バズを獲得し、人気ラッパーの仲間入りを果たしました。"White Iverson"や"Congradulations"などの曲がチャート入りしています。

Switch my whip, came back in black
I'm startin' sayin', "Rest in peace to Bon Scott" (Scott, ayy)
Close that door, we blowin' smoke
She ask me light a fire like I'm Morrison (-son, ayy)
Act a fool on stage
Prolly leave my fuckin' show in a cop car (car, ayy)

【意訳】
新しい車に変えて、"真っ黒で帰って来た"。
俺は「Bon Scottよ、安らかに眠れ」って言い始めるぜ。
そのドアを閉めろよ、俺たちは大麻を吸ってるんだ。
彼女が火をつけてという。まるで俺がMorrisonかのように。
ステージではバカみたいに振る舞う。
俺のショーが終わる頃には、警察の車の中かもしれないな。

whipは「車」のスラングです。

そして、「Back in Black」はロックバンドAC/DCのリードボーカルであるBon Scottが33歳で自殺したときに取り組んでいたプロジェクトの名前です。なので、次のラインではBon Scottに言及しています。

続いてのMorrisonはThe Doorsというバンドのフロントマンであり、バンドのヒット曲に「Light My Fire」という曲があります。だから、女の子が「大麻に火をつけて」とお願いしてくる様子を「まるで俺がMorrisonかのように」と表現しているわけですね!

また、Morrisonはステージ上でマスターベーションをするなどのパフォーマンスによって、何度か警察に逮捕されています。「ステージではバカみたいに振る舞う」からの部分は、そうした伝説に触れています。

ロックスターたちの物語を言葉遊びとしてリファレンスしながら、自分の豪快な人生を描くということで、なかなかのリリシストっぷりが見てとれます。

Shit was legendary
Threw a TV out the window of the Montage
Cocaine on the table, liquor pourin', don't give a damn

【意訳】
あれは伝説的だった。
モンタージュ・ホテルの窓からテレビを投げ捨てた。
テーブルの上にはコカインがあって、グラスにはアルコールを注ぐ。
しょうもないことは気にしないのさ。

モンタージュは5つ星のホテルチェーンです。そしてホテルの窓からテレビを投げ捨てるというのは、ロックスターの典型的な「ロックな振る舞い」です。

Dude, your girlfriend is a groupie, she just tryna get in
Sayin', "I'm with the band" (ayy, ayy)
Now she actin' outta pocket, tryna grab up on my pants
Hundred bitches in my trailer say they ain't got a man
And they all brought a friend (yeah, ayy, ayy, ayy)

【意訳】
おい、お前のガールフレンドはグルーピーだぜ。
「私はバンドの連れよ」って言って、ライブハウスに入ろうとしてる。
次はもうお金がないってふりをして、俺の金にたかろうとしてる。
俺のトレイラーには100人ものビッチがいて、彼氏がいないっていう。
そして、全員が友だちを連れて来た。

「I'm with the band(私はバンドの連れよ)」は、グルーピーがとにかく使いまくっていたフレーズだということです。あまりに常套句だったため、とあるグルーピーだった人物が書いた書籍のタイトルも「I'm with te band」となったほどです。

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Post Maloneは、いかにグルーピーがたくさんいるかということを歌っています。

まさに大物のロックスターなのだということでしょう。

ということで、1バース目では、Post Maloneがロックスターの物語や、ロックシーンあるあるを言葉遊びに用いながら、自分のラッパーとしての成功を描いています。

ここでは、サビのギャングスタっぽい話とは少し違って、純粋に「音楽で成功したロックスター」というカラーが全面に出ており、ハスラーミュージックとしてのヒップホップと比べると、随分とミュージシャンっぽさを感じる内容となっています。

2バース目(21 Savage)

続いては、21 Savageのリリックも見てみたいと思います。

I've been in the Hills fuckin' superstars
Feelin' like a popstar (21, 21, 21)
Drankin' Henny, bad bitches jumpin' in the pool
And they ain't got on no bra (bra)
Hit her from the back, pullin' on her tracks
And now she screamin' out, "¡no más!" (yeah, yeah, yeah)

【意訳】
俺はヒルズで、クッソ・スーパースターになっていた。
まるでポップスターのような気分さ。
へニーを飲んで、バッドなビッチたちはプールに飛び込んでる。
彼女たちはノーブラなのさ。
バックでヤって、エクステを引っ張る。彼女は「もうダメ」って叫んでる。

21 Savageは、Santa Monica Mountainsに位置するハリウッド・ヒルズに家を買っています。このことは「Bank Account」という曲でも歌われています。その後は、自宅で派手なパーティーを催して、豪遊しているシーンが描かれています。

They like,"Savage, why you got a twelve car garage
And you only got six cars?" (21)
I ain't with the cakin', how you kiss that? (kiss that?)
Your wifey say I'm lookin' like a whole snack (big snack)
Green hundreds in my safe, I got old racks (old racks)
L.A. bitches always askin', "Where the coke at?" (21, 21)

【意訳】
あいつらは「おい、Savage、12もガレージがあるのに、車は6台しか買わないのか?」なんで言ってる。
俺は甘ったるい純愛には興味がない。それにキスできるか?
お前の奥さんも、俺はまるでお菓子みたいで食べちゃいたいって言ってるぜ。
100ドル札はたんまりと貯めてある。古い棚にたんまり札束があるのさ。
ロサンゼルスのビッチどもは、いつだって「コカインはどこ?」なんて訊いてくるんだ。

めちゃくちゃ大きな家でガレージが12台もあるそうです。友人は12台置けるんだから、もっと車を買えばいいじゃんと21 Savageに話しているのでしょう。マジレスすると、来客が来ることを考えると6台分くらいはガレージを空けておいたほうがいいんじゃないかという気はします。

Cakinは純愛のことらしいです。おそらく2016年に作詞された、この歌詞では純愛には興味がないと歌っていますが、その後、21 Savageはアンバー・ローズと交際しています。

Green Hundredsは百ドル札のことです。紙幣の色が緑がかっていることから、Greenは紙幣をも意味しています。rackは、棚という意味がありますが、札束という意味のスラングでもあります。とにかくお金があるということですね。

Livin' like a rockstar, smash out on a cop car
Sweeter than a Pop-Tart, you know you are not hard
I done made the hot chart, 'member I used to trap hard
Livin' like a rockstar, I'm livin' like a rockstar (ayy)

【意訳】
まるでロックスターのように生きている。パトカーを叩きのめす。
ポップタルトよりも甘い。お前はそんなにハードじゃねえだろ。
俺はあの熱いチャート・アクションを生み出した。
昔はドラッグをつくって売ってたことを覚えてるよな。
ロックスターのように生きている。俺はロックスターみたいに生きてるんだ。

ロックスターは権威に対して敬意を払わないため、パトカーでも叩きのめします。

ポップタルトは、ケロッグが発売している商品です。

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トラップは音楽ジャンルでもありますが、もともとはドラッグの売人が、ドラッグを精製する基地のことをトラップと呼んでいました。ここでは、21 Savageの成り上がりと、ロックスターのような今の生き様が歌われています。

ホットなチャートというのは、"Bank Account"がビルボードHOT100チャートで11位まで上り詰めたことを歌っているのでしょうか。

ということで

今回は、21 SavageやPost Maloneのリリックに焦点をあてて、今のラッパーが志向するスタイルを覗いてみました。

たしかに初期のジェイZやナズのような緊張感の張り詰めたハスラー丸出しの世界観と比べると、派手な豪遊生活の方に重きが置かれているようには思いますが、全体的に見て、これまでの一般的なヒップホップの歌詞に比べて、そんなに違いがあるという風にも思えないのですが、いかがでしょうか。

ちなみに、本題とは関係ないですが、本作のPVは歌詞の内容とは全く関係なく、ヤクザ風のアジア人とPost Maloneが日本刀で戦うという内容になっており、ちょっとエグい描写もありますが、なかなかカッコいいですよね!

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