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奴隷精神からの脱却を訴える、ナズの未来志向なラップを解読する。(Nas - "Everything" feat. The-Dream & Kanye West)

Writer:@raq_reezy

カニエのプロデュースする7曲アルバムシリーズ。

ドレイクとのビーフも話題になったPusha-Tの『DAYTONA』、インタビューや炎上における伏線を回収したKanyeの『ye』、そしてKanyeとKid Cudiのコラボ作品で村上隆によるアルバムカバーも話題となった『KIDS SEE THE GHOSTS』に続いて、ひとつの目玉作品であるナズ(Nas)の『NASIR』がリリースされました。

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ナズといえば、言わずとしれたヒップホップ界の生ける伝説です。

ニューヨークのクイーンズ区で育ち、8年生で学校からドロップアウト。ドラッグの売人を経験するも、読書を通じて自学で勉強を続けたナズは、当時としては圧倒的なラップのスキルと、ストリートの様子を克明に描く能力によって、注目を浴びました。

1994年、ラージ・プロフェッサー、ピート・ロック、DJ・プレミア、Qティップといったニューヨークのトップ・プロデューサーたちがビートを提供したことでも話題となったデビュー作『Illmatic』がリリース。今でもヒップホップの名盤として語り継がれています。

それ以来、ストリートの支持を得るアルバムのリリースを繰り返し、同じくニューヨーク出身である名ライバル、ジェイZとのビーフも経て、現在でも多くのラッパーや業界人からの尊敬を集めるナズ。そんなナズを尊敬する人間は、業界人だけではなく、オバマ元大統領など幅広い世界に存在します。

今回のアルバム『Nasir』は、カニエが7曲をフルでプロデュースしており、それはオバマ元大統領とカニエとの約束だったことが、カニエのツイッターで明かされています。

さて、今回は収録曲の「Everything」を解読したいと思いますが、客演でカニエがサビなどを担当していることからも分かるように、この曲はカニエ色が強めの楽曲です。というのも、カニエが「奴隷は選択だった」発言で炎上した際にうまく自分では説明できなかった内容について、語彙力が豊富なナズが代わりにラップをしているかのような構成になっているのです。

サウンド的にも、他の楽曲が従来のナズっぽさも意識したサウンドであるのに対して、この楽曲はメロディアスでカニエっぽさを感じさせます。

カニエの創設したG.O.O.D. Musicで現在はCEOも務めるPusha-Tは、カニエが炎上した際のインタビューで、自分もその件についてカニエと意見を交換したし(Pusha-Tはカニエの論説に反対の立場を名言しています)、自分だけでなくナズもまたカニエと意見を交わしていたようだと述べています。その結果、ナズが今回のリリックを書き上げたのではないかということが想像できます。

ということで、内容を見ていきましょう。

イントロ(Kanye West & The-Dream)

You'll live and you'll learn
See 'cause you've never been the same as anyone else
Don't think the same as everyone else
You'll live and you'll learn
See you'll never conclude with anyone else
Don't think the same as everyone else

【意訳】
君は学ぶことになるだろう、君は学んでいくんだ
ほら、君は誰とも同じなんかじゃなかったんだから
みんなと同じように考えちゃダメだ
君は学ぶことになるだろう、君は学んでいくんだ
ほら、君は誰かと同じように終わるわけじゃないだろう
みんなと同じように考えちゃダメだ

まずは、最近のカニエが唱えている「Free Thinking(自由な思考)」について触れたいと思います。

カニエは、母親が亡くなったあたりから精神的に不安定な状態が続くようになり、音楽性も大きく変わりました。オピオイドという抗うつ薬の中毒になったカニエは、ツアー中に問題行動を起こすようになり、ついには精神病院への入院を余儀なくされてしまいます。

パパラッチが面白がって四六時中密着しては怒らせたりといった過去もあり、世間との距離の取り方に苦しんでいたカニエは、入院などの体験を経て、今はスマートフォンやインターネットからも少し距離をとり、自分の心の赴くままに創作活動や表現活動に打ち込もうとしています。

そんな中で、「何が正しい、何が間違っているという世間の常識に縛られるのではなく、まずは自分の思うことを表現してみる」という「Free Thinking」と彼が呼ぶ考え方が生まれたようです。

みんなどのような思考を持つべきか、どのような感覚を持つべきかについて、教えられてしまって、自分のために自由に考えたり感じることが出来なくなってると思って。みんな「自由に感じろ」というけれど、実際に本当に自由な感覚で生きることは許可されていないと思う。
「奴隷制度は選択だった」とカニエが発言したTMZインタビューのほぼ全文翻訳。より)

そうした背景を理解すると、この部分は「Free Thinking」に触れているんだなということが分かります。

サビ(Kanye West)

If I had everything, everything
I could change anything
If I changed anything, I mean anything
I would change everything, oh yeah

【意訳】
もしも俺が全てを持っていたら、全てを持っていたなら
俺は何だって変えられるはずだ
もしも俺が何でも変えて良いなら、何だって変えて良いなら
俺は全てを変えるだろうね、そうさ

この部分は「奴隷は選択だった」というインタビューでの発言とも関連しているでしょう。

カニエは非常に未来志向な考え方を持っている人物です。

過去の歴史があったとしても、そこに縛られずに自分たちの望む未来をつくろうという考え方です。「奴隷は選択だった」という発言も、その表現方法自体はちょっと配慮が足りていないようにも思えますが、言いたいことの趣旨は、これまでの慣行に従うのではなくて自由になっていこうという内容でした。

ここでは、もしも何でも変えていいのなら、良くも悪くもカニエは全てを変えたいという野望が歌われています。

1バース目(The-Dream & Kanye West)

Dark boy, don't you cry
There's too much life left in those eyes
Don't you let that face go waterfall
And to learn to love your scars and all

【意訳】
黒い子どもたち、泣いちゃだめだ
その目の前には、まだいくらでも人生が残ってるんだから
その顔を滝に打たれたように下に向けちゃダメだ
自分の傷、そして全てを愛することを学ぶんだ

フッドで生まれた黒人の子どもはバスケットボール選手かラッパーにならなければお金持ちになれないと言われることがあります。そういう意味では、ヒップホップは、人生を逆転させる手段なのです。

しかし、バスケットボール選手やラッパーを目指さなくても、黒人の子どもたちが、白人の子どもたちと同じように教育を受けて、成りたいものに何でも成れるのが本当の意味では正しい社会の在り方です。だからこそ、成功したヒップホップのアーティストたちは地元の子どもたちの支援を行うことが多いです。

ナズもハーバード大学に名前を貸して奨学金制度を立ち上げていますし、子どもたちに何にでもなれるというメッセージを届けた「I Can」という楽曲も存在します。

Dark boy, don't you die, they're just human, let them lie
You just know your world and speak your truth
Let them come to you, for your love and your heart
See 'cause you've never been the same as anyone else

【意訳】
黒い子どもたち、死んじゃダメだよ
あいつらだって人間にすぎないのさ、嘘をつかせておけ
君は自分だけの世界を知っていて、その真実を話すんだ
あいつらから君のもとにやってくる、君の愛と心を求めて
ほら、君は誰とも同じだったことなんてないんだから

世界がどのようなものであるかということについて、大人が言うことは、一般的には正しいことが多いでしょう。しかし、「夢を実現するのは難しい」などの「一般的に正しいこと」は全ての人にあてはまるものではありません。だからこそ、自分で人生を切り開く大切さが歌われています。

Don't think the same as everyone else
This is your call, there are no wrongs
See you'll never conclude with anyone else
Don't think the same as everyone else

【意訳】
みんなと同じように考えちゃダメだよ
これは君が決めることだよ、間違いなんてないんだ
ほら、君は誰かと同じように終わるわけじゃないだろう
みんなと同じように考えちゃダメだ

自分の人生を自分で切り開くための第一歩は、自分で考えることです。

これまでの一般常識のとおりに考えて、これまでの一般常識のとおりに振る舞えば、問題は起きないでしょう。しかし、その結果として新しいものが世界に生まれるということはありえません。

2バース目(Nas)

ここからはナズのバースに入っていきます。

When the media slings mud, we use it to build huts
Irrefutable facts, merciful, beautiful black
Beloved brother, you fail to embarrass him, harassin' him
To my life, your life pales in comparison

【意訳】
メディアが俺たちを侮辱するとき、俺たちはそれを利用して小屋を建てる
反論できない事実、慈悲深い、美しい黒色
最愛の兄弟、お前はあいつを困らせるのに失敗した、あいつを嫌がらせた
お前の人生は、俺の人生の前では霞んで見えるぜ

ナズは、直近、元妻へ暴行していたというニュースが出回っています。また、カニエも常にメディアから問題発言や行動を叩かれています。しかし、彼らはそうしたメディアや世間からの批判を前進するためのエネルギーに変えてきました。ヒップホップ自体が、そうしたものでもあります。

So go write whatever blog, messiness is not ever the god
Do what's necessary, I'm never worried
Listen vultures, I've been shackled by Western culture
You convinced most of my people to live off emotion

【意訳】
だからブログに何でも好きに書けばいいさ、その乱雑さは神にはなり得ない
必要なことを何だってすればいい、俺はそんなことを気にもかけない
聴け、ハゲタカども、俺は西洋の文化に縛られていた
お前たちは、俺たちに感情ではなくて、理性で生きろと強要してきた

この一行目は、2Pacなどの楽曲で有名な「Only God Can Judge Me」というフレーズを彷彿とさせます。自分を裁くのは神であって、そこらのブログではないということです。

また、三行目や四行目は近代以降の理性に根ざした西洋の文化の枠組みへの疑問が呈されています。デカルトが「我思う故に我あり」といい、理性に基づいた合理的な科学の在り方を提唱して以来、西洋的な枠組みは大きく世界を変えてきました。

『サピエンス全史』という書籍では、近代科学の合理性と、資本主義の永遠の増大意欲、そしてキリスト教の無限の布教意欲が、欧米の世界進出においてバッチリと噛み合ったことが記されていますが、現在も基本的に世界はその枠組みによって回っています。

近代的な西洋の枠組みは、人類の進歩に大きく貢献したことは間違いありません。しかし、資本主義などの無限の拡大意欲は、世界中を覆い尽くしたことで、パイの奪い合いという争いを生んでいることも事実です。

そうした中で、合理性よりも感情を大切にするという考え方への揺り戻しがあるのかもしれません。

That's why we competin'
Death by the chrome barrel, forgot the secrets
My Kilimanjaro bone marrow's the deepest
You can peep at the comments, but don't fall for that
We want freedom, I'm a scholar, an almanac

【意訳】
だから俺たちは競わされているんだ
鉛の弾で命が失われる、秘密を忘れてしまった
俺のキリマンジャロの骨は骨髄の中で最も深い
コメントを覗き見てもいいけれど、そこに堕落するな
俺たちは自由がほしい、俺は学者だ、年鑑さ

合理的に、全てを数字に還元して考えるような社会においては、競争がつきものです。数字にすれば大小を比べられるからです。PV数、再生回数、ランキングの順位といった概念を考えるだけでも、いかに数字によって人間が競わされて、序列をつけられているかが見て取れます。そうした影響はストリートにもあり、お金という数字を増やすためにギャングが抗争し、命が失われていると訴えています。

ここでは、ナズもまた、カニエの意図を汲んでか、そうした社会の仕組みや、そうした枠組みに基づいて書かれるインターネット上のコメントなどから距離を取ることを勧めています。

People do anything to be involved in everything
Inclusion is a hell of a drug
Some people have everything they probably ever wanted in life
And never have enough

【意訳】
人々は、全てに関わるために、何だってする
包摂はドラッグだ
いくらかの人々は、人生で欲したものを全て手に入れて
それでも、まだ永遠に満ち足りないだろう

Inclusion(包摂)というのは、みんなが社会の一員として生きられるように多様性を認めて、ひとつの社会に統一していこうという、アメリカ等で重要になっているひとつの概念です。

社会が分断されると争いと緊張が絶えないため、包摂はもちろん重要ですが、一つになった社会では、力が強いものが益々強くなり、力の弱いものが益々弱くなる傾向も存在します。EUでドイツが一人勝ちをして、ギリシャや南欧の国々が苦しんでいることも、そうした例のひとつでしょうし、日本という統一された国家で東京が一人勝ちして地方が苦しんでいるのも同じ構造です。

そして、ナズはここで包摂というのは、誰かの拡大意欲が裏にあるという鋭い指摘を行なっています。

先ほどのEUの例であれば、ドイツの「ヨーロッパ統一」という野望が形を変えて実現しているものという見方も可能でしょう。

そして、拡大意欲は「今よりもっと」という欲であるため、ドラッグのように永遠に満たされることがありません。

少し周りくどくなりましたが、ナズは近代以降の思考の枠組みの問題点を浮き彫りにしているのです。だからこそ、これまでの考え方を盲目的に良しとするのではなく、自分で考えることが重要なのだというメッセージでしょう。

3バース目(Nas)

From the birth of a child, the world is foul
Excursions of a searchin' child
Should learn to take nothin' personal
A parent hates to watch his baby's face
Takin' his first immunization shots, but this is great

【意訳】
子どもが生まれたときから、世界は汚れた場所だ
真実を探す子どもの小旅行
どんなことも、個人攻撃として受け取らないことを学ぶべきだ
親は、赤ん坊が初めて予防接種を受けるときの顔を見ることを嫌う
だけど、それは素晴らしいことなんだ

3バース目では、子どもたちが自由な思考を手に入れて、自分の人生を精一杯に生きられるよう、ナズが大切だと思うことが語られています。

一つ目は「親離れ」についてです。

親は、子どもが可愛いので、子どもに辛い思いをさせたくはありませんが、子どもは辛い思いや痛みを経験することを通じて、社会の過酷さへの耐性をつけて、大人になっていくのも事実です。

ナズは、そうした社会の痛みを「予防接種」にたとえています。少しづつ痛みを経験して、抵抗力をつけていくことで、もっと大きな社会の問題に立ち向かえるようになるということでしょう。

The child's introduction to suffering and pain
Understands without words
Nothin' is explained or rushed to the brain
Lookin' up at his parents' face
Like, "I thought you would protect me from this scary place?"
"Why'd you let them inject me?"

【意訳】
子どもたちを餓えや痛みへと導く
言葉がなくても、それが伝わる
脳に説明されることは何もない
親の顔を見上げて、
「この怖い場所から守ってくれると思っていたのに」って感じさ
「どうして、彼らが僕に注射するのを黙って見てるの?」ってな

飢えや痛みといった苦しみは、言葉や理性で理解するものではなく、直感で感じるものだという点からも、先ほどの合理性に偏重した近代の思考の枠組みへの懸念との関連性が読み取れます。

"Who's gonna know how these side effects is gonna affect me?"
Who knew I would grow to meet presidents that respect me?
If Starbucks is bought by Nestlé, please don't arrest me
I need to use your restroom and I ain't buy no espresso

【意訳】
「この副作用が僕にどんな影響を与えるか、誰も知らないんでしょ?」
でも、俺を尊敬する大統領と面会する未来なんて、誰が知っていただろう
もしもネスレがスターバックスを買ったなら、俺を逮捕しないでくれよ
俺がトイレを使う必要があって、エスプレッソを買わなかったとしてもな

子どもが痛みを経験することで、将来どのようになっていくかを予測することはできません。

ナズもまた、ストリートで親友を亡くすという痛みを経験しています。しかし、ドラッグの売人を経験し、ストリートの痛みを知ったからこそ、名盤『Illmatic』を生み出し、オバマ元大統領と面会するまでになったのです。

スターバックスのくだりは、スタバで友だちを待っていただけの黒人二人が警察に通報されて逮捕されたという事件からきています。ニュースの詳細はハフィントンポストの記事をご覧ください。

この事件を受けて、スターバックスは従業員の教育プログラムの見直しを行ないました。しかし、(たとえばネスレが買収するなどして)もしも経営陣が変われば、同じようなことが繰り返されるのではないかとナズは考えているようです。

Soon enough, assume the cuffs, the position
Not new to us, since back on the bus sittin'
Said "Screw that bus!" – boycotted that bus outta business
The future's us, yet every citizen's in prison

【意訳】
確証もないのに手錠をかけて
俺たちは昔からそんな立場だった。バスの後部座席に座ったときから
「あんなバスくそくらえ!」って言って、バスをボイコットしてやった
未来は俺たちのものなのに、まだみんなは檻の中にいるんだ

しかし、スターバックスにおける逮捕事件のような差別的な状況は、以前からずっと続いているものだとナズは言います。

以下、モンゴメリー・バス・ボイコット事件のWikipediaのページからの引用です。

1955年12月1日、市営バスに乗車したローザ・パークスは、白人優先席に座っていた。運転手のジェームズ・ブレイクが、後から乗車した白人のために席を空けるように指示したが、パークスはこれに従わなかった。ブレイクは警察に通報し、パークスは、運転手の座席指定に従わなかったという理由で逮捕された。

もちろん、今のアメリカのバスには人種隔離政策は存在しませんが、スターバックスの事件などを省みると、今でも似たような事件が起こっていることが分かります。

ナズは、そうした事件にセンシティブになりすぎるのではなく、痛みに抵抗をつけながら、しっかりと声をあげていくことの重要性を伝えているのでしょう。「奴隷精神」から脱却しようというメッセージであり、カニエの炎上した発言を見事にヒップホップの文脈に落としこんでいます。

4バース目(Nas)

Watch me as I walk through the folly, golly, New York to Saudi
In Italy, I'm Eduardo Wiccari
But Nasty the hustler, nasty like mustard gas, sulfur
And I could sell Alaska to Russia, no pressure

【意訳】
俺が愚かなニューヨークからサウジアラビアまで歩き抜くのを見ろ
イタリアでは、俺はエドワルド・ウィカリだ
だけど汚いハスラー、マスタードガスや硫黄みたいに汚いぜ
俺は圧力を感じない、アラスカをロシアに売り飛ばすことだってできる

ナズ(Nas)という名前は「汚い(Nasty)」から来ています。彼は自身のことを「Nasty Nas」とたびたびキャリアの初期から呼んできました。マスタードガスは毒ガスです。

アラスカはアメリカの州のひとつで、アメリカがロシアから買った土地です。北方の何もない不要な土地だと思い、ロシアは安く売り払いましたが、その後に原油が算出されました。ナズはそれをロシアに売り返すこともできるくらい自分は汚いと、Nasという名前を強調しています。

My first house, 11,000-square-feet mansion
It was a haunted by dead rich whites
Mad a nigga bought his crib to hang up pictures of black Christ
Circular driveways, black cars and black ice

【意訳】
俺の一つ目の家は、11,000平方フィートのマンションだった
そのマンションは金持ちの白人たちによって呪われていた
黒人の俺が部屋を買って、黒いキリストの絵を飾ったことに怒っていた
環状道路に黒い車、黒光りするダイヤ

ここではお金を手にして、初めての家を買ったときのことが歌われています。

白人たちが住んでいる高級マンションに、ナズが部屋を買い、黒いキリストの絵を飾ったことで、周りの住人たちが怒ったという話が明かされています。

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My second house, still in my twenties, illin' with money
Chilled through my spine, spillin' wine, it's funny
Did good for a staircase loiterer, euphoria
What you saw when you seen a teen turn to a warrior

【意訳】
俺の二つ目の家も、20代で手に入れた、お金に狂っている時期だった
脊髄までチルして、ワインをぶちまけていた、笑えるよな
上手に階段をふらついた、ユーフォリアさ
ティーンが戦士になるのをお前たちが目撃したときのことさ

そして、ナズは2つ目の家を買ったようです。

当時はお金がたくさん舞い込んで、感覚がおかしくなっていたことが歌われています。

ティーンが戦士になった頃ということは、もしアルバムカバーについて歌っているのであれば、右上の『It Was Written』から中段左の『Nastradamus』のあたりではないでしょうか。

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Did every Fourth of July, bustin' in the sky
It was important to a guy who was mob-minded
Future Murcielago driver 'til Lambos got average on me
I started likin' the look like I ain't had no money

【意訳】
全ての7月4日を実現した、空に向けて撃つ
それは群集心理に犯された男にとって重要なことだった
未来のムルシエラゴの運転手さ、ランボルギーニが当たり前になる頃にはな
俺はお金がないような格好を好み始めた

7月4日は独立記念日です。独立記念日というのは、独立宣言を出して、イギリスから独り立ちをした日のことです。これをストリートの群集から独り立ちすることと掛けているようです。

ムルシエラゴは、ランボルギーニの種類です。ストリートでつるむだけではなく、音楽という自分の道をあゆみはじめたので、そうした未来に繋がったのでしょう。

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Yellow taxi seats over Maybach seats
Just to remind me, just to inspire me
To stay focused, it's a real sick society
Just 'cause I got your support don't mean you're buyin' me

【意訳】
マイバッハの席の上にタクシーのシートを置いた
思い返すために、インスピレーションを得るために
ここが本当に病んだ社会だということを忘れずに集中するために
俺がサポートされたからといって、お前たちが俺を買えるわけじゃない

ここでは、ナズが成功した後も、この世の中がうまくいかないことだらけだということを忘れないために、マイバッハの上にタクシーのシートを置いていたというエピソードが明かされます。(比喩かもしれませんが)

タクシーは自分のものではなく、一時的に乗るだけのものですから、自分の今の成功も一時的なものかもしれないという自身への戒めだったのでしょう。

I'm buyin' back the land owned by the slave masters
Where my ancestors lived, just to say a rapper
Made a change; the pants-sagger put plans in action
'Til they claim the Pan-African made it happen

【意訳】
俺は奴隷主から土地を買い戻す
俺たちの先祖が生きていた場所だ
ラッパーが変化を起こしたというためだけに
腰パン野郎が計画を実行する
パン・アフリカ主義がその変化を成し遂げたと言われるようになるまで

お金を使って土地を買うという話は、ジェイZも歌っていた通りです。

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アメリカでは、過去に解放された奴隷に40エーカーとラバを与えるという約束が政府によってされた後に、反故にされたという過去があります。

そのため、土地を手に入れるというのは、元奴隷だった自分たちの立場から本当の意味で成功したという意味合いを持つのではないでしょうか。

パン・アフリカ主義というのは、アフリカ大陸の住民及び、全世界に散らばったアフリカ系住民の解放及び連帯を訴えた思想です。

つまり、ここでも法制度上は奴隷から解放されて権利も平等だけれども、未だに格差や差別があるアメリカの社会において、本当の意味で奴隷精神から解放されるということが歌われているのです。

ということで

今回は、ナズの新作アルバム『Nasir』から「Everything」の解読でした。

他にも、サンプリングのループ感が中毒性を生み出している「Cops Shot the Kid」、Puff Daddyを招いて「Hate Me Now」のときのような厳かなサウンドが展開される「Not For Radio」など、注目の楽曲が収録されているので、ぜひチェックしてみてください。

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