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ロジックの絶妙なバランス感覚で説かれる「生き方」を読む。(Logic - "Everybode Dies")

Writer:@raq_reezy

今回はロジックがリリースしたアルバム『YSIV』(Young Sinatra IV)から、「Everybody Dies」を和訳・解読してみたいと思います。

ロジックについては、以前ブログの方に紹介を書いているので、どんなラッパーか知りたいという方は、以下をご覧ください。

Logic(ロジック)、美しい「白鳥」になったラッパー

さて、今回の曲は「Everybody Dies」というタイトルの通り「誰もがいずれは死ぬ」ということを前提として、自分たちはどのように生きるべきなのかという点について、ロジックの視点から描かれた曲となっています。

1バース目はラップ業界に対するロジックの意見が書かれており、2バース目は今のアメリカ社会や生き方に関するロジックのメッセージが描かれています。

それでは内容を見ていきましょう。

サビ

(You are watching a master at work)
This what you all been waitin' for, ain't it?
Rap game owe me, I been waitin' for the payment
All these little rappers come and go, wonder where they went
Ten years and runnin', we came up from the basement

【意訳】
(今からマスターが仕事をします)
お前らが待ってたのはこれだろ?
ラップゲームは俺に借りがある、俺は支払いを待ってたのさ
また若いラッパーたちが現れては消える、あいつらはどこに行ったんだ?
10年も走り続けてきた、俺たちは地下から来たんだ

*サビでは、ロジックが自分をマスターとして捉えています。

音楽業界で、いろんなラッパーが現れては消えていく中で、自分が10年もキャリアを続けてきたためです。

1バース目

Grew up broke as fuck, rich folks was adjacent
Maryland, starin' out the window for motivation
I remember Lil Bobby, Lil B
Man I wish that I could be a dog in a rich family

【意訳】
俺たちは本当に貧乏だった、金持ちのやつらは隣人だった
メリーランドで、窓から外を眺めてモチベーションを高めた
思い出すぜ、小さい頃のボビー、Lil Bさ
ああ、金持ちの家庭のメンバーだったらって思うよ

*まずは、ロジックの生い立ちが歌われています。ロジックはメリーランド州で生まれ育っています。近くにはお金持ちが住んでいるけれど、自分の家は貧しいという環境で育ったようです。

そのため、窓からお金持ちの家庭を眺めては、いつか自分もお金持ちになるぞとモチベーションを高めていたのでしょう。

ボビーとは、ロジックの本名です。

Oh how nice would that shit be, my life a catastrophe
Now my shit a masterpiece, No Limit like Master P
Now I am the master, see, that's the way it has to be
My life is a movie, I'm so glad God casted me

【意訳】
ああ、そうだったら何て素晴らしいだろう、俺の人生は災害
でも、今では俺の曲はマスターピース、まるでMaster Pみたいに限界がない
今では俺はマスター、神様が俺をキャスティングしてくれたことに感謝する

*Master Pとは、1990年代から活躍するアメリカ南部出身のラッパーです。

彼は自身のレーベルを経営しており、そのレーベルが「No Limit Records」であるため、ロジックは彼の名前をドロップして、Master Pみたいに限界がない(No Limit)と歌っています。

I am not top ten, more like top three
I am not two 'cause nobody could top me
Get the pussy wet like Jodeci, you know it's me
I can't seem to put my finger on it like a rotary

【意訳】
俺はトップ10じゃない、むしろトップ3さ
俺は2番手じゃない、だって誰も俺を超えられないからな
Jodeciみたいにプッシーを濡らす、俺だって分かるはずさ
黒電話みたいに、指で押すことができない

*Jodeciは恋愛ソングをたくさん歌ったカルテットです。

But something's missin' from the game, when I'm gone, oh it's me
I feel sorry for these rappers comin' up, what was me
I just took a hiatus and wrote a novel, motherfucker
I got more verses than the Holy Bible, motherfucker

【意訳】
だけど、俺がいないと、何かがこのゲームには足りてない、ああ、俺か
上ってくるラッパーたちをかわいそうに思う、昔の俺みたいさ
活動を休止して、小説を書いていたのさ、クソ野郎
今なら聖書よりもたくさんのバースを持ってるぜ、クソ野郎

*自分がいかにラップ業界(ゲーム)にとって必要不可欠な存在であるかということを歌っています。

ちなみに、ラップジーニアスの注釈によると、聖書には23,145バース存在するそうです。

'Cause I'm sittin' on five, unreleased albums
Greatest of all time, no lyin', that's the outcome
I do it for the boom bap, the trap and the radio
Fuck a fake fan, steppin' to me, try to play me, ho

【意訳】
だって俺は5つのアルバムをリリースしていて
他にもリリースされていないアルバムがたくさん
歴代で最高のMCさ、嘘じゃないぜ、それが結果だ
俺はブーンバップのためにも、トラップのためにも、ラジオのためにもラップしたぜ
偽物のファンなんてクソ喰らえ、俺に乗っかって、俺を操ろうとして、クソが

*本作『YSIV』の前には、デビュー作『Under Pressure』から数えて、『The Incredible True Story』、『Bobby Tarantino』、『Everybody』、『Bobby Tarantino Ⅱ』と5つの作品をリリースしてきました。

また、ロジックは以前、デビュー以来、1,700の曲を製作しており、そのうちリリースされたのは150曲にすぎないとインタビューで語っています。

ロジックは、キレキレのラップから、メロディアスな歌まで、様々なスタイルで曲をつくることができるため、ブーンバップやトラップ、ラジオと、それぞれにあった楽曲をつくってきたと歌っています。

I make music for every genre, every occasion
My shit is amazin', I'm blazin', it's insane
Going crazy in the gym, going in gains
Had a lot of dark nights, but bitch I been Bane

【意訳】
俺はあらゆるジャンル、あらゆる局面のための音楽をつくる
俺の曲は驚くほど素晴らしい、俺は輝いている、ありえないほどに
ジムでめちゃくちゃトレーニングする、ウェイトをつける
暗い夜を何度も過ごした、だけど俺はバットマン映画のベーンだったのさ

*最後のラインでは言葉遊びが行われています。

「ベーン」とは、バットマンが主役の映画『The Dark Knight Rises』に登場するキャラクターです。

ロジックは、「dark nights(暗い夜)」と「Dark Knights(バットマン映画のタイトル)」をダブルミーニングにすることで、暗い夜の中で自分がバットマン映画に登場するベーンであったと表現しています。

I was born in the darkness like Rick James
Bitch, sippin' scotch with Chappelle after the Grammys
Said them countries wasn't shit holes, they prolly want to ban me
'Cause I say the shit that others won't, prolly can't stand me (uh)

【意訳】
俺はリック・ジェームズみたいに暗闇の中で生まれた
グラミーの後には、デイヴ・シャペルとスコッチを飲んだ
移民の生まれた国は便器じゃないって言ってやった
あいつらは俺を放送したくなかったんだろうな
俺は他のやつらが言わないことを言うから、誰も俺に歯向かえない

*「暗闇の中で生まれた」というのは、上述の映画内でのベーンの発言です。

また、リック・ジェームズは9種類のドラッグを服用して死亡した伝説的なファンク・ミュージシャンです。

後半部分では、ロジックのグラミー賞での件に触れています。

トランプ大統領が、「shit hole(汚い場所)から移民が入ってくるのを防がなければならない」と発言したことに抗議するスピーチをグラミー賞で行いました。

しかし、グラミー側は「shit hole」という言葉がたびたび流れるのを嫌い、ロジックのスピーチを丸ごと放送しなかったそうです。

Like these rappers claim to hate me, but they stan me
I said these rappers claim to hate me, but they motherfucking stan me
They hate what I represent, but bitch, I am me
They hate what I represent, but bitch, I am me
There's nothin' but legendary shit that be goin' on, the phenomenon

【意訳】
他のラッパーたちは俺を嫌っているというけど、実際は俺の熱狂的ファンだ
あいつらは俺を嫌ってるというけど、実際は俺の熱狂的なファンなのさ
あいつらは俺がレペゼンするものを嫌うけれど、俺は俺だ
あいつらは俺がレペゼンするものを嫌うけれど、俺は俺なんだ
ここには現在進行形の伝説があるだけさ、それが今起こっている現象さ

*「stan」というのは、エミネムが「熱狂的なファンからのストーカー染みた手紙の内容」という設定で書いた楽曲「Stan」から来ている言葉で、熱狂的なファンのことを示しています。「stan」はオクスフォード英語辞典にも収録されたことで話題になりました。

2バース目

I got my rap and I got my gat, yeah they got my back, but I won't bust back
Unless I need, this world is greed, I lead by example with ample
Education, my lyricism is here to imprison your vision
The fallacy society has rejected, I'm here to protect it

【意訳】
俺にはラップがある、俺には可能性がある
あいつらは俺を背後から襲うけれど、俺は必要なければ撃ち返したりしない
この世界は欲望にまみれてる、俺は十分な量の例をもって示す
これは教育さ、俺のリリシズムはお前のビジョンを投獄するためにある
虚偽の社会が否定したものを守るために、俺はいるんだ

*1バース目は自身の生い立ちやラップ業界への不満が多かったのですが、2バース目からは世界へのメッセージが増えています。

ロジックは多様性や平等を重視するリベラル寄りの思想を持つラッパーであり、ここでは保守的なナショナリズムへの回帰を強めるアメリカ社会へ挑むような内容が歌われています。

Everybody dies deep within this world we live in, and not everybody tries, but everybody lies
You can't take– money with you when you die so spend it and don't look back like an addict in recovery

【意訳】
俺たちが生きているこの世界でみんなが死ぬっていうのに
誰も理想のために挑もうとしない、みんな嘘をつく
死んだときに、お金を一緒に持っていくことはできないんだから
使ってしまえ、そしてリハビリ中の中毒者みたいに後ろ髪を引かれるな

*みんながこの世界で生まれて死んでいくのに、この世界を本当に良くしようとせずに、嘘をついて誤魔化しているとロジックは指摘します。

そして、ここからはロジックが身につけた人生に関する価値観が歌われます。まずは、お金を溜め込まずに、ある程度は使えということです。

But also don't blow it, you know it, don't be a coward, but don't be too heroic
Live your li-life to the fullest, don't push it or pull it
Don't murder others 'cause you disagree with they beliefs
We all the same underneath
I had some shit I had to get off of my chest in that first verse
But this verse come first when it comes to importance of message

【意訳】
だけど、無駄遣いはするなよ、分かってるだろ
腰抜けになるな、だけど英雄的にもなりすぎるな
自分の人生を100%で生きろ、それ以上でも以下でもなく
他人と意見が違うからって、そいつらを殺してはいけない
俺たちはみんな根本では一緒なんだ
俺は1バース目で自分のもやもやを取り除かなければいけなかった
だけど、このメッセージの重要さでいえば、この2バース目の方が重要さ

*ロジックは中庸なバランス感覚を持ったラッパーで、お金を溜め込まずに使う重要性とあわせて、無駄遣いを戒めています。また、自分の人生をどういうスタンスで生きるかという点でも、腰抜け・英雄のどちらかに偏りすぎることを否定しています。

(Do what you love, do what you love)
Do what you love, do what you- do it, do it
(Do what you love, do what you love)
Don't do it, don't do it, that's society
(don't do it, don't do it, do it, do it, do it)

【意訳】
好きなことをやれ、好きなことをやれ
好きなことをやれ、好きなことをやれ、やれよ
好きなことをやれ、好きなことをやれ
やるな、やるな、それが社会だ
やるな、やるな、やれ、やれ

*続いて、いまの社会をめちゃくちゃ分かりやすく描いています。「好きなことをやれ」と喧伝しながら、いざ動く人がいると「やるな」と言うのが、いまの現代社会ではないかと。

Break free from the cycle, don't be scared to walk like Michael on the moon
RattPack be the platoon, so much more is comin' soon
Yeah I've been goin', I'm already knowin', know Bobby been flowin'
My shit get around like a woman that's hoin'
My body been growin', my mind been growin'

【意訳】
サイクルから自由になれ、マイケルみたいに月の上を歩くことを恐れるな
RattPackから小隊へ、まだまだこれから告知があるぜ
俺は前進してきた、俺はもう知られている、俺はフロウしてきたんだ
俺の曲は、売春婦の女みたいに、色んな人間のもとを巡る
俺の体は育ってきた、俺の精神は育ってきた

*負のサイクルから抜け出そうというメッセージを送っています。重力から解き放たれて、月の上を歩くように自由に行動しようと。マイケルの比喩は当然、彼の代名詞的なダンスである「ムーンウォーク」から来ています。

RattPackはロジックが中心となっているラッパー集団です。

また、売春婦の女性がいろいろな客のもとを訪れる様子をリファレンスして、自分の曲がいろんな人間によって聞かれていると表現しています。

I'm already knowin' that I'm gon' die one day, you gon' die one day, we all 'gon die one day
God already got the date set, so live your life, live yo' life
Yeah you live it, that's a bet, 'cause if you ain't fulfilled in the end
You gon' be filled with regret, bet

【意訳】
俺は自分がいつか死ぬことをもう分かっている
お前もいつか死ぬことになるんだ、いずれ俺たちはみんな死ぬんだ
もうその日は定められている、だから自分の人生を生きろ、自分の人生を
自分の人生を生きろ、それは賭けみたいなものさ
だって、最後に自分が満たされていなければ、残りは後悔で埋まるからだ
賭けろ

*ロジックは死を意識したことで、生き方への価値観が変わったようです。

過去に鬱を患い、自殺も考えたというロジックは、その後につくった自殺防止曲の「1-800-273-8255」が自身最大のヒットとなりました。このタイトルは自殺防止ホットラインの電話番号ですが、この曲のヒットによって相談電話の件数が50%も増えたというデータもあるそうです。

誰もがいずれは死ぬのだから、人の期待に沿ったり、人からどう見られるかということを気にして生きるよりも、自分が満足する人生を生きることが大切だとロジックは訴えています。

ということで

今回は、ロジックの「Everybody Dies」を解読してみました。

ロジックはめちゃくちゃラップが上手いため、内容が分からなくても、曲として十二分にかっこいいのですが、歌詞にもロジックの魅力が詰まっています。

ロジックは、黒人と白人のハーフで、見た目は白人に近いということも影響して、黒人が中心のヒップホップ・コミュニティの中でも差別的な言動を受けたりと苦労してきた人間です。

そのため、これは個人的な私見ですが、ロジックは基本的な考え方はリベラルやヒップホップに根ざしていながらも、それを絶対視せずに、自分自身の想いや生き方を何よりも大切にするという絶妙なバランス感覚を持っている存在だと思います。

今回のロジックの歌詞からは、社会へのメッセージとあわせて、一人一人が自分を社会や組織のために犠牲にせずに、自分の人生の大切にすることを後押しするよう背中を押してくれる力強いメッセージも読み取れるのではないか。

さて、ロジックについては、以下の曲も解読しているので、よければご覧ください。

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