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カップル間のすれ違いを繊細な情景描写で描いたノスタルジックな曲を解読する(Rejjie Snow & Caroline Smith - "23")

今回は、アメリカのヒップホップと少し趣向が違うラップ曲を紹介したいと思います。

ということで、今回紹介するのは、レジー・スノウ(Rejjie Snow)というラッパーです。

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Rejjie Snowの経歴を簡単に紹介します。

スノウはアイルランドのダブリン出身のアーティストです。1993年に、スノウは、ナイジェリア生まれの父親と、ジャマイカ系アイルランド人の母親の間に生まれました。

ダブリン市内の高校に進学したスノウは、演劇や体操に精を出しますが、最終学年に上がる前に大学を辞めてしまいます。それから、アメリカに場所を移し、フロリダの高校でサッカーと体操に取り組みます。

高校卒業後は、体操の奨学生として、ジョージア州の芸術大学に進学。映像とデザインを勉強します。1学期を過ごした後、彼は大学を辞めて、アイルランドに戻り、音楽のキャリアを歩み始めました。

2013年にはEP『Rejovich』がiTunesのヒップホップチャートで1位を獲得。その後も精力的な活動を続け、現在までにEPを3枚、フルアルバムを1枚、ミックステープを1枚リリースしています。

今回はアルバム『Dear Annie』から"23"を解読していきたいと思いますが、スノウの曲はアメリカ本場のハードなヒップホップと比べると、浮遊感があり、内省的でオシャレな音楽になっています。

タイラー・ザ・クリエイターなんかが好きな方は、(スノウの方がシュッとしていますが)、ぜひ聴いてみてください。

さて、今回解読していく"23"について、スノウは以下のように解説しています。

俺はこの曲では、ある世界観を捉えようとしたんだ。俺と彼女が精神的にとても幼くて、愛し合っていて、脆弱で、過ちを犯す。気分が乗ってたり、落ち込んでたりする。これはアルバムの中で、一番古い曲たちのひとつでもあるんだ。この曲はロサンゼルスで作ったんだよ。俺はこの曲を映画のワンシーンだって思えるくらいの描写にしたかった。くっきりと映像が想像できて、そこに浸ることができるような曲さ。ときにそういうのって難しいだろ。だけど、この曲だったら、映像の中に浸ることができると思うよ。

それでは、内容を見ていきましょう。

1バース目(Rejjie Snow & Caroline Smith)

この曲では、レジー・スノウとキャロライン・スミスが掛け合いでバースを進めています。

演劇をしていたスノウならではなのか、カップルの男女それぞれの視点から交互に語られていくという構成です。

I'm at home smoking weed all day
Scratch marks on my escalade
And you gotta be the antidote
I tattooed you right on my brain

【意訳】
1日中、家の中でウィードを吸ってる
俺のエスカレードには擦り傷
それから、お前はきっと解毒剤に違いない
俺は脳みそにお前のタトゥーを掘ったよ

まずはカップルの男の方が歌い出します。

エスカレードというのはキャディラックの車種です。

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直訳するとエスカレードにかすり傷が付いているということになりますが、ここは、彼女の存在が自分の心に刻まれているという比喩かもしれません。

ウィードを吸ってリラックスした状態で、彼女のことを好きだという気持ちを吐露しています。

Then why you wanna watch me drown?
Act up when I come around?
Flex up when we're making out?
Tell me how I just run you down

【意訳】
それなら、どうして私が溺れるのを見たいの?
私が近くにいると、いたずらをするの?
私といちゃつくとき、大騒ぎするの?
どうすれば落ち着くのか教えてよ

しかし、どうやら彼女の方は不満げな様子です。

スノウが曲についてのコメントでも述べていたように、お互いに幼くて、ときには感情を激しくぶつけあって喧嘩をするのかもしれません。

いじわるをせずに、また急に興奮したりせずに、もっと落ち着いてほしいと彼女は述べています。気持ちにすれ違いがあるようです。

Those lips that I kissed today
Made up but in a foreign way
Stretch marks in my favorite place
I hate love but in a crazy way

【意訳】
今日キスしたその唇
いちゃついたけど、外国流のやり方でさ
俺の好きなところにあるストレッチマーク
俺は愛が嫌いだけれど、それは変な意味でさ

さて、ここではあまり会話が噛み合っていないようです。ウィードを1日中吸っているからでしょうか。ノスタルジックな怠惰さが垣間見えます。

Boy, you ain't gonna lay me down
Creased up in a paper crown
Peace'd up at your parents house
All day, all day

【意訳】
あなたは私を横たわらせない
紙の王冠の中でしわくちゃ
あなたの両親の家で、くつろいでるけど、距離は縮まらない
1日中、1日中

paper crownというのは、クリスマスなどでつける紙の王冠のことを指すようです。

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彼氏の実家でくつろいでいるのに、彼氏はウィードばかり吸っており、精神的な関係が深まらず、距離が縮まらないことを嘆いています。

また、「Peace'd Up」はくつろいでいる様子を表していますが、これは「Piece'd Up」とも同じ発音です。2人でくつろいでいるのに、2人はバラバラのピースに分かれているように距離が縮まらないというダブルミーニングではないでしょうか。

サビ(Rejjie Snow & Caroline Smith)

Why you gotta say mean things about me?
Why you gotta say mean things about me?
Why you gotta say mean things about me?
Why you gotta say mean things about me?

【意訳】
どうして私にいじわるなことを言うの?
どうして私にいじわるなことを言うの?
どうして私にいじわるなことを言うの?
どうして私にいじわるなことを言うの?

ここでも彼女側からの不満が歌われています。

男は、いじわるなことばかりを言ってしまうようです。

2バース目(Rejjie Snow & Caroline Smith)

Small rips on your skinny jeans
Your tattoos, I wear it on my sleeve
Your password ends in twenty-three
Not safe, no way

【意訳】
スキニーのジーンズに小さな破れ目
お前のタトゥー、俺のスリーブに着てる
お前のパスワードは23で終わる
全然安全じゃない、まったくね

ジーンズの小さな破れ目が見えるほど、物理的には近い距離にいることが、描写を通じて描かれています。映像をパッと浮かばせるような、繊細な描写力が冴えています。

スマートフォンのパスワードも見えてしまうほどに近くにいるのです。そのようなパスワードが見えてしまうところで、解除しているのを「安全じゃない」と歌っています。

ここは2人の関係が安全ではない(少しおかしい)ということも示唆しているのかもしれません。関係が万全ではなくなっているということでしょう。

You play dead like emergency
Your pants off, in your jewellery
We make up so when the choir sings
I miss us, miss we

【意訳】
お前は緊急事態みたいに死んだふりをする
ズボンを脱いで、お前の宝物の中に
俺たちは仲直りをする
合唱団が歌うとき、俺はこの関係を懐かしむ
俺たちはね

男は、仲直りをしたと思っています。

比喩表現も飛び出しており、ふわふわとした世界に浸っているようです。

Speaker blown on the driver's side
Say your tape gonna fly you high
But all I hear is some overdrive
All day, all day

【意訳】
運転席側で爆音を鳴らすスピーカー
あなたは、あなたのテープでハイになれるっていうけど
私に聴こえるのはオーバードライブだけ
1日中、1日中

しかし、ここでもコミュニケーションのすれ違いが、場面の描写を通じて、描かれています。

彼氏は運転席でミックステープを爆音で流して、「これでハイになれるんだぜ!」なんて言っています。しかし、彼女側はそれをただの騒音に感じています。

ブリッジ(Rejjie Snow & Caroline Smith)

So why-y-y can't you
Can't you lay down your arms for me?

【意訳】
どうして私のために腕をおろして降伏できないの?

自分勝手でいじわるをする彼氏と、コミュニケーションのすれ違いを嘆く彼女のカップル。

そのすれ違いは、まだ続きそうです。

繊細な描写

ということで、アメリカのハードなヒップホップとは違った、カップル間のすれ違いを繊細な情景描写で描いたレジー・スノウの"23"をお届けしました。

このマガジンでは、コンシャスな曲だったり、人種問題や格差問題などの社会的な内容を歌った楽曲の解読・紹介が多いですが、たまには趣向の違う曲の紹介も良いかなと思って、解読してみました!

これをヒップホップに分類するかは人によって意見が別れるところかもしれませんが、ノスタルジックで「映像の中に浸れる」というコメント通りの一曲ではないでしょうか。

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