見出し画像

友人たちと恋人へ—スターダムにのし上がる前のJ. Coleが宛てた言葉。(J.Cole - "Hold It Down")【後編】

written by @vegashokuda

J. Coleのミクステ『The Warm Up』(2009年)に収録されている“Hold It
Down”の歌詞解読【後編】です。【前編】では1バース目とサビの歌詞を解読しました。地元で一人成功したColeを周囲が妬むなか、「青い芝」を見てきた側の人間として、彼らをエンカレッジしようとする言葉には胸を打たれますが、肝心の音源を忘れていました!

以下のYouTube動画がオフィシャルっぽいので、こちらからお聴きいただくのがよいかと思います。

また、『The Warm Up』はこちらよりストリームまたはダウンロードいただけます。“Hold It Down”以外の曲も素晴らしいので、ぜひ一度聴いてみてください。

2バース目

You was my nigga from the younger days
We grew up, I went to school, you went the other way
But still my brother man, I’m sittin’, reminiscin’ on
All of them bitches we were trippin’ over, kissin’ on

【意訳】
お前はガキの頃からマイメンだった
俺らは成長し、俺は学校へ、お前は別の道へ
それでもブラザーだぜ、俺はじっくり思い出してる
俺らが騒いでキスしてたビッチたちのことを

2バース目は、とある友人に語りかけるようなかたちで始まります。その友人は学校に進学したColeとは「別の道」に進んだようですが、「ガキの頃」は一緒に「ビッチたち」と遊ぶといった思い出を共有していたようです。

Or at the skating rink we tryna bag some new hoes
And If I need a gear, you let me hold your new clothes and vice-a- versa man
But now that life is worser, man, a nigga slow cakin’
I’m broke tryna chase a dream, you just got probation and I’m stressed

【意訳】
スケートリンクでは、俺らは新しい女を持ち帰ろうとしてた
服が必要なときにはお前が貸してくれたし、逆もまた然りだった
でも今、人生は大変になってて、俺は金を稼ぐのに苦労してる
俺は貧乏で夢を追ってて、お前は保護観察になった。俺はイライラしてる

「別の道」に進んだ友人が保護観察に付されていることが、ここで明らかになります。Coleも友人も、進む道は違いますが、それぞれのかたちで苦労を余儀なくされていることが窺えます。

Your little sister pregnant, what’s next?
Oh shit, my mama doin’ drugs, at times it’s hard to feel blessed
In this madness, I holla at my nigga in the sadness
Remember when your mama tried to beat you with that bat shit?

【意訳】
お前の妹は妊娠してるんだってな、次はどうなっちまう?
ああクソ、母さんはドラッグをやってる、時々恵まれてるなんて思えなくなる
こんな狂気の中では。俺は悲しみの中にいるマイメンに声を掛けるぜ
お前の母さんがバットでお前を殴ろうとしたの、憶えてるか?

ここでも前半2行は、Coleたちが置かれた環境の厳しさを描写しています。一方、後半2行では、友人と共に思い出を振り返り始め、場を明るくしようとしているようです。

Remember your chick Nina, man, that ass was the fattest
Remember my crush on Sabrina? Yo, she still the baddest
I’m just glad that I can holla at you, it’s been a while
And till the next time I hear from you, ay, hold it down

【意訳】
お前が付き合ってたNinaを憶えてるか? あのケツ、最高だったよな
俺が一目惚れしたSabrinaを憶えてるか? あいつは今でも最高だぜ
お前に話せて嬉しいよ、久しぶりだな
次に話せる時まで、頑張れよ

Coleと友人の思い出話が続きます。「久しぶりだな」というColeの言葉から察するに、この友人は収監されてしまい、しばらくColeと連絡が取れずにいたのでしょう。それだけに、くだらない思い出話が少しジーンとくるのは私だけではないはずです。最後にはColeから友人にエールを送るかたちでバースが締めくくられます。

3バース目

And these are tough times, baby, but we’ll make it through
You know I’m headed for the top, I swear I’m takin’ you
Just hold a nigga down through this bad weather
The rain fallin’, ain’t ballin’ but I have better

【意訳】
タフな日々が続くけど、俺らは切り抜けるぞ
俺はトップに向かってるんだ、君を連れてくさ
この悪天候の中でも俺に掴まっててくれ
雨が降ってて、俺は稼げてないけど、俺はもっといいものを持ってる

3バース目は恋人に宛てられたものと思われます。二人を取り巻く、これまた厳しい環境をColeは「悪天候」と表現します。「雨」こそ降れど「金」は降らないなかで、自分はお金よりももっといいものに恵まれているのだとColeは言います。

A woman with an ass and a strong mind, it's been a long time
Sometimes you on your bullshit, sometimes I’m on mine
Will I have a hard time to stay committed?
Or do I only want your voice moaning when I hit it?
Man, only God knows

【意訳】
いいケツと強い心を持った女と、長いこと付き合ってる
あるとき君はクソみたいなことに陥り、またあるときは俺がそう
俺は一途でい続けるのに苦労するかな?
それとも、俺が突くときの君の声を聞きたいだけかな?
神のみぞ知ることさ

前段でColeの言っていた「もっといいもの」が彼女です。Coleと彼女は、これまでに幾多の難局を乗り越えてきたようです。長年の交際を経て、その彼女とは現在結婚し、子宝に恵まれていますが、スターダムにのし上がる直前であった当時は、一途でい続けられるか不安を覚えていたことが窺えます。

I know deep in your heart you don’t want me to be no star though
‘Cause groupies out there every show, you scared I’m fucking every hoe
And girl, I ain’t gon’ lie and say I won’t ‘cause shit you never know
But may the Lord give me strength, I love you more than anything

【意訳】
君は心の奥底では俺にスターになってほしくないだろ
ショウのたびに現れるグルーピーと俺がヤるのを恐れて
そんなことしないなんて嘘はつかないよ、何があるか分からないから
でも神様、俺に強さをくれ、俺は君が何よりも大好きなんだ

スーパースターを待ち受けている煌びやかなステージでは、当然美しいことばかりが起こっているわけではありません。そういった裏事情を知れば、Coleにスターになってほしくないと願う彼女の気持ちも理解できるものですし、Coleも一定の理解を示します。さらに、Coleは不確かな未来について「そんなことはしない」と断言できないことを正直に語っていますが、同時に彼女を愛する気持ちが本気であることを強調しています。そして、以下のように続けます。

The future mother of my kids, the love is real
And if we ever part God forbid
I love you still, so when I'm on the road, don’t trip
You know I’m down for you, keep it tight and don’t slip
And hold it down for me

【意訳】
俺の子供たちの将来の母親、この愛はリアルなんだ
俺らが別れるようなことがあったら、神が赦さない
君を好きでい続けるから、俺がツアーのときも取り乱さないで
俺は君と添い遂げる、しっかり掴まって離さないで
俺のそばにいてくれ

ということで

2009年の、Twitterのフォロワーが502人しかいなかった頃のJ. Coleが友人と恋人に宛てた言葉を読み解いてきました。当時のColeだからこそ綴れた誠実な言葉に、心が温まりますね。そして、そんなColeがその後ラッパーとして成功を収め、彼女とも無事ゴールインして娘を授かったことを考えると、嬉しくなります。

余談ですが、2バース目に出てくる友人、『2014 Forest Hills Drive』(2014年)の“03’ Adolescence”に出てくる人と同じかな、と考えてしまいます。そして、『4 Your Eyez Only』(2016年)のJamesかなとも…。前者は国内盤が出ていますので、そちらで対訳をチェックしてみてください。後者は、宣伝になってしまい申し訳ありませんが、拙訳をお読みいただけると幸いです。

ここから先は

0字

¥ 300

「洋楽ラップを10倍楽しむマガジン」を読んでいただき、ありがとうございます! フォローやSNSでのシェアなどしていただけると、励みになります!