【無料】マフィア的な世界観のラップを大成させたJAY-Zのデビューアルバムを味わう。(JAY-Z - "Can't Knock the Hustle")【前編】

これまでは、どちらかというと新しい曲を紹介してきましたが、たまには昔の曲を解読してみたいと思います。

今回解読するのは、またまたJAY-Zになります(笑)。

ということで、JAY-Zのデビューアルバム『Reasonable Doubt』から"Can't Knock the Hustle"という曲を解読していくのですが、その前に『Reasonable Doubt』について説明したいと思います。

『Reasonable Doubt』は、1996年当時、東海岸で流行りを迎えていたMafioso Rapと呼ばれるヒップホップのサブジャンルにおける、ひとつの完成系とも言えるアルバムです。

Mafioso Rapというのは、『スカーフェイス』や『ゴッド・ファーザー』のようなマフィア映画の冷酷な世界観を持ち込んだヒップホップを言います。西海岸で隆盛していた、ギャングスタラップの1ジャンルであるG Funkと並べて語られることが多いですが、Mafioso Rapの特徴としては、クールさ、張り詰めた緊張感、ビジネス的なインテリジェンスといったものがあげられるでしょう。

Netflixに加入している方は、ぜひ『ナルコス』というドラマを見ていただければ、コカインを資金源としたマフィアたちの雰囲気が、すごく分かりやすいと思うので、暴力的な描写が苦手でなければ、ぜひ見てみてください。

今やアメリカを代表するセレブリティとなったJAY-Zですが、『Reasonable Doubt』では、特に『スカーフェイス』に影響を受けた、初期のマフィア的キャラクターを楽しむことができます。

ということで、さっそく"Can't Knock the Hustle"を読んでいきたいと思います。これは「ハッスルを止められるかってんだよ」といった意味で、この曲ではハッスルがいかに儲かってスリリングかということが表現されています。

ちなみに、Hustle(ハッスル)というのは、ドラッグを売ってお金を稼ぐ行為を言っており、JAY-Zは『スカーフェイス』のトニー・モンタナのように、もともとコカインの売人です。一言コカインの売人といっても、街角に立ってコカインを売るのではなく、上流の流通を担っていました。新しい地域を開拓して、そこを仕切っている売人に、仕入れルートとして自分たちを採用してもらい、コカインを運ぶといった川上のディールです。そういった点からも『スカーフェイス』に共感するところが多かったのでしょう。

その結果、南はバージニアから、北はニューハンプシャーまでドラッグを持ち込んでいたわけで、いかにラッパーに転身して、アメリカ国民から愛される存在になったとはいえ、捕まっていないというのは、『ナルコス』のカリ・カルテルなんかの末路を見ていると、ある意味すごいなという気もしますが。

さて、たびたび前編・後編を分けて申し訳ないのですが、今回も結構長いため、まずは前編でイントロ、1バース目、サビまで解読し、後編で2バース目と3バース目を解読します。

イントロ

イントロでは、Pain in da Assが、ラテン系の訛りを取り入れた英語で、『スカーフェイス』のあるシーンをサンプリングした語りを入れています。

Ah shit, okay, okay, alright
Big man! You wanna make some big bucks, huh?
Let's see how tough you are
You know something about cocaine? Digame!

【意訳】
ああ、オッケー、オッケー、分かったよ。
お前は大きな人間だ!たっぷりと稼ぎたいんだな、あぁ?
どのくらいお前がタフな奴かを見てみることにしよう。
コカインについては何か知ってるか?

上の動画で、トニー・モンタナ(アル・パチーノ)が小さな仕事を断った後に、もっと大きな仕事として、コロンビア人からコカインを買い付ける仕事が提案されるところから始まります。

You kidding me or what man?
There's a bunch of Colombians coming in Friday - new guys
They said they got two keys for us, openers
Pure cocaine, you tell 'em, capiche?
I want you to go over there
And if it is what they say it is, you buy it, you bring it back

【意訳】
俺をバカにしてるのか、どうなんだ?
金曜日にたくさんのコロンビア人がやってくる、新しいやつらだ。
そいつらが、俺たちのために2キロのコカインを用意したと言ってる。
純度100%のコカインだ、分かったか?
お前は、その取引現場に行って、もしもあいつらが言う通りの品物だったら、買って、持って帰ってこい。

続いて、仕事内容が告げられています。

最初の1行は映画では「コカインを知ってるか?」と問われたトニー・モンタナが「俺をバカにしてるのか?」と返しているところです。

その後の、2キロのコカインが本物かを確認した上で、買ってこいというのが、仕事内容ですね。

You can do that you make five grand
Meet them at the Bodegas, noon Friday
You get the buy money then
Oh and chico, if anything happens to the buy money
Eh, pobrecito
JAY-Z's gonna stick your heads up your asses faster than a rabbit gets fucked

【意訳】
もしそれが出来たら、5,000ドルを払ってやろう。
Bodegasで金曜日の正午に、あいつらと会え。それまでにコカインの買付金も渡す。
ああ、それから、もしその買付金を持って逃げでもしやがったら、JAY-Zは、ウサギがファックされる以上の速度で、お前の頭をお前のケツにぶちこむぜ。

ここで、脅し文句としてJAY-Zが出てきました!イントロで、JAY-Zがこのチンピラマフィアたちのボス的な立ち位置(という設定)であることが分かります。

1バース目

(Roc-A-Fella Y'all)
Yo I'm making short term goals when the weather folds
Just put away the leathers and put ice on the gold
Chilly with enough bail money to free a big willie
High stakes, I got more at stake than Philly

【意訳】
(ロカフェラだぜ、お前ら)
俺は、天気の変わり目に、短期間の目標を定める。
皮のジャケットを脱ぎ捨てて、金のネックレスの上に、ダイヤのネックレスを掛ける。
大物のドラッグディーラーを保釈できるほどの金額を稼いでも肌寒い。
一か八か、フィラデルフィアよりも稼ぎは大きい。

ここでは、状況が移り変わるときどきで、短期間の目標を定めて、稼げる分を稼ぐという、JAY-Zの現実的なスタイルが表現されています。四半期毎に数値目標を立てて達成するということで、ハスリングへのプロフェッショナル精神を感じさせます。

また、天気の変わり目というのは、コカインの売人から、ラッパーに転向するタイミングであるという意味でもあるでしょう。だから、コカインの売人時代の衣装である皮のジャケットを脱ぎ捨てて、ラッパーとしてネックレスを身につけようとしているのです。

JAY-Zがこのように新しい環境に自分を適応させようとしている理由は、コカインの売人として生きている限り、行き着く先は逮捕か死しかないと、自分で気づいているからです。コカインの売人として成り上がり、全てを手に入れても、最後は周りの人が全て不幸になり、トニー・モンタナ自身も死んでしまう『スカーフェイス』の物語や、コカイン取引によって、一時はフォーブス誌の金持ちランキングにも登場し、コロンビアの国会議員にまで登りつめたパブロ・エスコバルでさえ、1993年に警察に追い詰められて射殺されたことも、JAY-Zに与えた影響は大きいでしょう。

その心の様子は、次のフレーズである、大物のドラッグディーラー(自分)を保釈できるほどのお金を稼いでいても肌寒いという一文に見て取ることができます。パブロ・エスコバルも、警官や権力者を買収し、自分が入る刑務所も自分で特別に建設したほどお金を持っていましたが、その栄華を保つことはできませんでした。もちろん、天気の変わり目でジャケットを脱いだから肌寒いというのもあるのですが、ここには心理的な側面も表現されているといって良いでしょう。そして、このラッパーへの転向は一か八かの勝負だというわけです。

ちなみに、フィラデルフィアが何を意味しているかは分かりませんが、フィラデルフィアでのコカイン商売で稼いでいたよりも、がっつりラップで儲けるぜという意味でしょうか。また、StakeはSteak(ステーキ)と同音異義語でもあり、フィラデルフィアから広まったサンドイッチに挟まれているPhilly Steakを連想させる言葉遊びにもなっているようです。


Shopping sprees, cop in three
Deuce fever IS's fully loaded, ah, yes
Bouncing in the Lex Luger, tires smoke like Buddha

【意訳】
ドラッグを買漁る。BMW325ISは積荷で満載さ、ああそうさ。
三人の警察がやってくる前に、Lex Lugerで走り去る。
タイヤはマリファナみたいに煙をふかしてる。

「cop」は麻薬を買うという意味があるそうです。その前の「Shopping sprees」と、その後の「fully loaded」から類推すると、麻薬を買って、仕入れが完了した様子を表しているのでしょう。また、「cop」には警察という意味もあります。cop in threeなので、警察が三人でやってくる描写でしょう。

また、cop in threeのラインと、その次のラインの始まりのdeuce fever ISで、BMWの325ISをリファレンスしているというRAP GENIUSの解説もありました。その後の「Lex Luger」はプロレスラーの名前ですが、トヨタの高級車であるレキサスのことを言っているという解説があります。

いずれにせよ、車を仕入れた積荷(コカイン)で満載にして、警察が来る前に煙をふかして走り去っています。ちなみに、Buddah(ブッダ)は、マリファナのスラングです。

50Gs to the crap shooter.
Niggas can't fade me, chrome socks beaming
Through my peripheral I see you scheming
Stop dreaming, I leave your body steaming

【意訳】
クラップ賭博師に50ドルを渡す。
あいつらは俺を殺せない、クロムのタイヤが光り輝く。
周辺視野でも、お前の企みを見抜いてる。
夢を見るのは辞めろ、お前の体から煙を立ちのぼらせるぜ。

ボスとして立ち振る舞いながら、警戒を怠らないJay Zの立ち振る舞いが描かれています。他のことに集中していても、裏切ろうとしている人間は見抜くことができるというのです。体から煙を立ちのぼらせるというのは、撃ち殺すという意味です。ボスを裏切って頂点を取ろうなんて夢を見て企んだら、見抜いて殺すぞという話です。

Niggas is fiending, what's the meaning
I'm leaning on any nigga intervening with the sound of my money machining
My cup runneth over with hundreds

【意訳】
みんな悪魔みたいだ。それが何を意味するかって?
俺は紙幣カウンターの音と俺の間を遮る、ありとあらゆる奴らに脅しを掛ける。
100ドル札だらけで、わが心あふるるって感じさ。

money machineは、紙幣カウンターです。

上からお金を入れると、それを整えて下に出しつつ、枚数を数える機械で、『スカーフェイス』や『ナルコス』では、動いているところを見ることができます。

当時の時代背景として現金の取引が多かったというのもあるでしょうが、現金は他の決済手段と比べて、誰から誰に渡ったかが分かりにくく、一番跡がつきにくいので、マネーロンダリングにも向いています。

儲かりすぎて、100ドルが数え切れないほどに溢れている様子を表しています。

I'm one of the best niggas that done it
Six digits and running, y'all niggas don't want it
I got the Godfather flow, the Don Juan DeMarco
Swear to God, don't get it fucked up

【意訳】
俺はドラッグディールで一番成功した黒人の1人さ。
6桁で資金運転、お前たちは辞めとくのが無難だぜ。
俺はゴッドファーザーのようなフロウ。
まるで、Don Juan DeMarcoさ。
神に誓う、この成功をめちゃくちゃにはしない。

どれだけドラッグ・ディーラーとして成功していたかを語っています。
6桁ということは数千万円で、「and running」なので、数千万円単位で仕入れたり、納品したりしていたのだろうと思われます。

ゴッドファーザーとは、映画『ゴッドファーザー』の名前にもなっている通り、一つのファミリーを率いる、マフィアの大ボスのことです。

マフィアに関する映画やドラマを見ていると、ゴットファーザーまで登りつめても、最後は人生をめちゃくちゃにしてしまうことが分かります。疑心暗鬼になって仲間を殺しはじめたり、国家に目をつけられるようになったり。

しかし、JAY Zは、ラッパーに転身することで、コカインディーラーとして成り上がったこの成功を続かると宣言しています。

サビ(Mary J. Blige)

I'm taking out this time
To give you a piece of my mind
(Cause you can't knock the hustle)
Who do you think you are?
Baby one day you'll be a star

【意訳】
俺はこの時間を使って、俺の考えの一端を共有しているんだ。
(だって、ハッスルを辞められるかってんだよ!)
お前は自分を誰だと思ってるんだ?いつの日か、お前はスターになるのさ。

続きは後編で

ということで、JAY Zの1stアルバムのクールで異質な感覚は伝わりましたでしょうか。いきなりこんなキャラクターが音楽シーンに登場したら、そりゃ話題になりますよね!

続きは後編にてお送りします。お楽しみに!


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