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裏切りやインターネットに消耗するドレイクの気持ちを読む。(Drake - "Emotionless")

Writer:@raq_reezy

マイケル・ジャクソンを客演にクレジットした楽曲があったり、25曲入りだったりということで、様々な切り口で話題になっている、ドレイクの最新アルバム『The Scorpion』。

Apple Musicではリリース初日に1億回を超える再生回数を記録して、Apple Musicの1日における最高ストリーミング回数の記録を塗り替えました。Spotifyでもリリースから1時間で1,000万回を超える再生を記録するなど、とんでもない記録を打ち立てています。

また、今回のアルバムは先行公開されたシングルだけでプラチナム認定の条件を満たしたために、なんとリリースされた瞬間にアルバムがプラチナム認定されたということもニュースとなっていました。

さて、ドレイクといえば、ポルノスターとの間に隠し子がいることを暴露されたPusha Tとの強烈なビーフが記憶に新しいところですが、今回のアルバムには、その件について触れている「Emotionless」という楽曲があります。

そこで、今回はこの曲を解読していきたいと思います。

1バース目(ドレイク)

最初のバースは、今年Pusha Tとの間で発生したビーフを経て、書かれたものと思われます。

簡単にビーフについて触れておきます。

まず、Pusha Tというのは、カニエ・ウェストの創立したレーベルであるG.O.O.D. Musicに所属するラッパーで、現在はカニエに代わってレーベルのCEOを務めています。

また、カニエは今年に入って、自身のフルプロデュースによるアルバムを4枚出しており、そのうち1枚は自身のアルバム、残りの3作はPusha Tのアルバム、Nasのアルバム、KID CUDIとのコラボアルバムとなっています。ドレイクは、そのうちカニエのアルバムにおいて、サビのメロディラインの製作などを手伝っています。

さて、そんな中で発表されたPusha Tのアルバムにおいて、ドレイクはゴーストライターを使って歌詞を書いているなどとして、なんとPusha Tからディスられていたのです。

ヒップホップシーンにおいては、プロモーションの手段として、誰かをディスってニュースに取り上げられるという手法が用いられることもあります。

そこで、Pusha Tにもプロモーションの意図があるのだろうと想像したドレイクは、喧嘩に乗って、エンターテインメントとして盛り上げるために、ディスソングに対して、アンサーソングを返しました。アンサーソングでは、「Pusha Tのレーベルメイトであり、アルバムをプロデュースしているカニエだってゴーストライターを使ってるじゃないか」といった小憎らしい上手い返しが見られました。

そして、Pusha Tは、再度ドレイクに対してアンサーソングを返したのですが、その内容はドレイクにはポルノスターとの間に非公表の隠し子がいると口撃したり、ドレイクの過去のブラックフェイスの画像を用いて、ドレイクを人種差別主義者のように扱うような、なんともパーソナルな内容を過激に攻撃するものでした。

ドレイクは「エンターテインメントの域を超えている」として、それ以降はアンサーソングを返しませんでした。

さて、それでは歌詞の内容を見ていきましょう。

Don't link me
Don't hit me when you hear this and tell me your favorite song
Don't tell me how you knew it would be like this all along
I know the truth is you won't love me until I'm gone

【意訳】
俺に寄ってこないでくれ
このアルバムを聴いても、お気に入りの曲を伝えるために電話してこないでくれ
こんなふうになると思ってたなんて言わないでくれ
知ってるよ、どうせ俺が消えるまで、お前たちは俺のことを好きにならない

この部分は、カニエに対して歌っているのではないかと推測されています。

ドレイクはカニエの『Ye』の製作において、メロディラインを考えたりといった作業を手伝うために、当時製作が行われていたワイオミングまで赴いたにも関わらず、その後にカニエのプロデュースしたPusha Tのアルバム内でディスられたからです。

もちろんカニエとPusha Tは別人です。しかし、先ほども書いたように、Pusha Tのアルバムはカニエによるフルプロデュースでしたし、Pusha Tは、カニエが創立したG.O.O.D. MusicのCEOを現在務めているという関係性です。その中で、カニエのアルバム製作を手伝ったのに、カニエが関わっているPusha Tの作品でディスられた上に、そのビーフがドレイクのパーソナルな内容を攻撃するほどに過激化したというのは、ドレイクにとってはショックだったことでしょう。どうしてカニエは止めてくれなかったのかと。

また、ドレイクがメロディを書いて提供したカニエの楽曲「Yikes!」には、当初ドレイクの名前がクレジットされていませんでした。

こうしたことから、ドレイクはカニエに裏切られたと感じたのではないでしょうか。

And even then the thing that comes after is movin' on
I can't even capture the feeling I had at first
Meetin' all my heroes like seein' how magic works
The people I look up to are goin' from bad to worse
Their actions out of character even when they rehearse

【意訳】
あんなことがあっても、前に進むしかないって分かっていても
俺はそのとき最初に感じた気持ちを捉えることすらできない
まるで手品の種明かしを見るように、自分のヒーローだった人たちに会う
俺が憧れていたやつらが、バッドなやつから、さらに悪いやつになっていく
あいつらはリハーサルをしたって、結局自分のキャラクター通りに動く

ドレイクは、カニエが『808 & Heartbreak』というアルバムで提示した、当時のヒップホップには珍しかった「ナイーブで内省的な内容を歌い上げる」というスタイルに影響を受けて、当初の成功を収めたアーテイストです。そのため、カニエはドレイクの憧れのアーティストであったことは想像に難くありません。

また、ドレイクは元々、Pusha Tのことも尊敬しており、Pusha Tがサインをしたマイクも持っているほどでした。

しかし、自分も成功して、実際にカニエやPusha Tと会う立場になると、手品のネタあかしを見るように、失望させられることが多いようです。

Workin' in the land of the free, the home of the brave
I gotta bring my brothers or else I feel out of place
Breakin' speed records on roads that these niggas paved
And they don't like that, it's written all on they face

【意訳】
自由の国で、勇気の源で、働いている
俺の兄弟たちを連れてこないと、居場所がないと感じてしまう
あいつらが舗装した道路で、俺は最高速度記録を打ち破る
あいつらはそれを嫌ってる、顔を見れば分かるさ

ラップゲームの中で、圧倒的な地位を築きつつあるドレイクですが、そこで彼が感じているのは孤独であることが読み取れます。

先人たちがヒップホップやラップを発明して、アメリカの音楽業界に根付かせてくれたからこそ、ドレイクは物凄い勢いで今の地位まで駆け上がることが出来たのですが、先人たちがドレイクのそんな成功を妬んで嫌うことに悩みを感じています。

I don't know how I'ma make it out of here clean
Can't even keep track of who plays for the other team
Iconic duos rip and split at the seams
Good-hearted people are takin' it to extremes

【意訳】
ここから自分を汚さずに、どうやって抜け出せるっていうんだろうか
誰が敵チームのために働いているのかも分からなくなる
象徴的なコンビは、縫い目で破れて離ればなれになる
良心的なはずの人たちが、物事を過激にしてしまう

象徴的なコンビというのは、Pusha Tの結成していた兄弟デュオ「Clipse」や、カニエとジェイZのコンビなどを指しているのではないかと推測されます。

また、Pusha Tにドレイクの隠し子などのパーソナルな情報を漏らしたのが誰かは分かりません。

世間では、その後に同じポルノスターと関係を持っていた、ドレイクとも仲の良いラッパーであるエイサップ・ロッキーではないかという噂も立ちました。(エイサップ・ロッキーはツイッターで「俺をくだらないゴシップに巻き込むな」と否定。)

普段は良心的な人たちが、ゴシップに釣られて、あることないことを発信して、ドレイクの日常を壊してしまうということを訴えています。

Leavin' me in limbo to question what I believe
Leavin' me to ask what's their motive in makin' peace
Leavin' me to not trust anybody I meet
Leavin' me to ask, is there anybody like me?

【意訳】
もう、俺は何を信じるべきか分からず、どっちつかずの状態にいる
あいつらは何をモチベーションに平和を保つのだろうと尋ねる
もう、俺は会う人間を信用することはできない
俺みたいに感じている人間がひとりでもいるんだろうかと尋ねる

様々な噂や裏切りの中で、疑心暗鬼になって消耗しているドレイクの様子が読み取れます。

2バース目(ドレイク)

Missin' out on my years
There's times when I wish I was where I was
Back when I used to wish I was here

【意訳】
昔の日々を懐かしむ
ときどき、俺が昔いた場所にいられれば良かったのにと思うことがある
昔は、俺が今いる場所にいたいと願っていたのに

世界中の注目を集めるアーティストとなったのに、ドレイクはときどき、何もなかった貧しい昔の方が良かったかもしれないと思うことさえある様子が明かされています。

Missin' out on my days
Scrollin' through life and fishin' for praise
Opinions from total strangers take me out of my ways

【意訳】
昔の日々を懐かしむ
人生をスクロールして、褒め言葉を探す
知りもしない人間の見解のせいで、俺のやり方が乱される

ドレイクもエゴサーチをしているのではないかと読み取れる部分です(笑)。SNSに毒されたライフスタイルについて触れています。

I'm tryna see who's there on the other end of the shade
Most times it's just somebody that's under-aged
That's probably just alone and afraid
And lashin' out so that someone else can feel they pain

【意訳】
インターネットの影の向こうにいるのは誰なのかと探ることがある
だいたい、向こう側にいるのは、俺よりも歳下の誰かだ
多分そいつは独りぼっちで、世界に怯えているやつさ
自分が感じている痛みを、他の誰かにも感じてほしくて暴言を吐いてるやつらさ

先ほどの続きで、ドレイクはインターネットで彼の悪口を書く人間がどんな人なのかを探るときがあると明かしています。それは、自身も闇を抱えて苦しんでいる子どもだろうというのがドレイクの結論のようです。

I always hear people complain about the place that they live
That all the people here are fake and they got nothin' to give
'Cause they been starin' at somebody else's version of shit
That makes another city seem more excitin' than it is

【意訳】
俺はいつも、みんなが自分の住んでいる場所について文句を言うのを聞く
ここら辺にいるのはフェイクなやつばかりで、何も与えないって言うのさ
それは、他人の人生ばかりを見つめているからだ
そうすると、他の街の方が随分と楽しそうに見えてしまうんだ

インターネットによって、装飾された「他人の暮らしぶり」が次々と目に入ってくるようになりました。

そうした中で、多くの人たちが、自分の人生を楽しむよりも、他人の人生を羨むような心のあり方となっていることをドレイクは指摘しています。

I know a girl whose one goal was to visit Rome
Then she finally got to Rome
And all she did was post pictures for people at home
'Cause all that mattered was impressin' everybody she's known

【意訳】
俺は、ローマに行くことを目標にしていた女の子を知っている
彼女は、ついにローマに行くことになった
だけど、彼女は地元の人々に見せるために写真をアップしてばかりだった
だって、彼女は自分を知っている人たちを感心させたかっただけなんだから

ここでは先ほどの例が示されています。

念願のローマにようやく旅行に行ったのに、ローマを存分に楽しむのではなく、インスタグラムなどでマウンティングをすることに貴重な滞在の大部分を使ってしまった女の子について歌われています。

I know another girl that's cryin' out for help
But her latest caption is "Leave me alone"
I know a girl happily married 'til she puts down her phone
I know a girl that saves pictures from places she's flown
To post later and make it look like she still on the go

【意訳】
もう一人の女の子は、いつも助けを求めていた
だけど、彼女の最新のキャプションは「私を放っておいて」だった
俺は、電話を切る瞬間までは、結婚して幸せだという女の子を知っている
俺は、旅行先の写真をアップせずにとっておく女の子を知っている
後日、投稿して、まだ旅行中のように見せかけるためにさ

ここでは、他の例が続けて歌われています。

助けを求めたり、放置を求めたりと、どちらの状況にあっても自分の人生に満足を得られずに右往左往する女の子の様子や、自分が「良い人生を送っているというアピール」に捉われている女の子の様子が歌われています。

Look at the way we live
I wasn't hidin' my kid from the world
I was hidin' the world from my kid
From empty souls who just wake up and look to debate
Until you starin' at your seed, you can never relate

【意訳】
俺たちの生き方を見てみろよ
俺は自分の子どもを世界から隠していたんじゃない
俺は世界の方を自分の子どもから隠していたんだ
朝起きて、討論のネタを探すような魂のないやつらから守るためにね
お前が自分の子どもを見つめるそのときまで、お前には分からないさ

ここでドレイクは、当初のPusha Tとのビーフの話題に立ち返り、自分の体裁のために子どもを隠していたのではなく、この病んだ世界から子どもを守るために隠していたのだと主張しています。

「朝起きて、討論のネタを探すような魂のないやつら」とは、確実にPusha Tのことでしょう。ドレイクは、Pusha Tに対して「自分の子どもがいない奴には、この気持ちは分からない」と一蹴しています。

Breakin' news in my life, I don't run to the blogs
The only ones I wanna tell are the ones I can call
They always ask, "Why let the story run if it's false?"
You know a wise man once said nothin' at all

【意訳】
俺の人生で凄いことが起こっても、俺はブログを書いたりしない
電話する仲のやつらにしか伝えたいと思わないのさ
あいつらは、いつも「もしも嘘ならどうして広まるのを黙って眺めてるんだよ?」って尋ねる
知ってるだろ、賢い人間は、昔、何も言わなかったってことを

ドレイクは、インターネット上で必死に「良い人生」をアピールをするよりも、本当に仲のいい家族や友だちと人生を本当に楽しむことの重要性を歌っています。(と解読しながら、記事を書いていて恐縮ですが笑)

I'm exhausted and drained, I can't even pretend
All these people takin' miles when you give 'em an inch
All these followers but who gon' follow me to the end?
I guess I'll make it to the end and I'ma find out then

【意訳】
俺は疲れて乾ききっている、もうフリをすることもできないよ
みんな、俺がインチをあげたら、マイルを取ろうとするんだ
たくさんのフォロワーがいるけど、どれだけが最後まで俺についてきてくれるっていうんだ
俺が最後まで走りきったら、そのときに分かるんだろう

ここでは、ドレイクが与える以上に毟り取ろうとする人たちや、一時的なフォロワーに対する不信感が歌われています。

ということで

ブレイクからおよそ10年を迎えるドレイク。

その間に「ヒップホップ業界」において、様々な裏切りや苦労を経験してきたのでしょう。

しかし、これだけの期間、シーンのトップを走り続けられるアーティストは多くありません。ドレイクは間違いなく偉大なアーティストだと言えるでしょう。

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