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「力」をテーマに二人のリリシストがバースを交わす【後編】 (Rapsody – Power feat. Kendrick Lamar)

writer: 奧田 翔

今回も前編に引き続き、Rapsodyの“Power”のリリックを解読していきます。

2バース目

Power up with the word
I got it from my God
He said a good shepherd don’t trip over what they heard

【意訳】
言葉でパワーアップ
神から聞いたんだ
善き羊飼いは耳にしたことで騒がないって

ここでは“heard”が「群れにする」という意味の“herd”と同じ発音であることを利用した言葉遊びが展開されています。3行目の解釈は以下の2通りです。

(1)神は人々が口にすることをいちいち気にしたりしない

“good shepherd”は直訳すれば「善き羊飼い」ですが、これが転じて善良な牧師→イエス・キリストとなります。

(2)優秀な羊飼いは群れにする羊に躓いたりしない

“good shepherd”を文字どおりに捉え、最後の単語を“herd”と捉えた場合の解釈です。

Let ‘em talk the talk until the night you choose to go and purge
I came up when the rest of you struggled and failed to flourish

【意訳】
吐き出すその夜まで奴らには喋らせておけばいい
残りの奴らが苦労して花開けないなか、私はここまできた

“purge”には「(下剤で腸を)空にする」という意味があります。思いの丈を“shit”(「ウンコ」、スラングで「曲」)にして出し尽くす、といった意味で捉えればよいでしょう。

Conversations with florist
She said I’m good as herbs
Get ‘em high, get ‘em high from the hood to the suburbs

【意訳】
花屋と話してたら
私がハーブ並みだって言ってくれた
フッドから郊外までハイにするんだ

“florist”には文字どおり「花屋」の意味もありますが、“herb”つまりウィードを扱う「売人」と考えることもできます。Rapsodyは、自らの音楽をウィードに喩え、人々を良い気分にさせると言っています。

そして、ここまでの内容を踏まえるならば、Rapsodyがこのバースで語っている「力」は、彼女をはじめとして選ばれし者たちが持つ言葉の「力」なのではないでしょうか。

No one can take your power even if a storm occurred
It ain’t man-made, but whether or not you paid don’t help or hurt
It’s a perk

【意訳】
嵐が来ようとも力は奪われない
作れるもんじゃない、お金を払ったかどうかなんて関係ない
それは特権

「力」が選ばれし者にしか手に入らないこと、そう簡単に得られるものでないことを強調しています。

Jamla Squad written on my shirt
I got a lane but all the lines around me dotted, I can merge

【意訳】
私のシャツにはJamla Squadが
私にはレーンがあるけど、身の回りの点なら全部線で結んだ

“Jamla Squad”は、Rapsodyが所属するレーベルJamla Recordsのことで、9th Wonder率いる同レーベルに所属する誇りを高らかに宣言しています。2行目は、彼女が用意されたレール以外の道も自らの手で切り拓くということでしょうか。

I can do what you can but you can’t do the same with words
As I, now watch my street cred go multiply
They say the streets respect the real ones
No one as real as I
It’s just me and young blood, this where I get all of my power

【意訳】
私にはあんたと同じことができるけど、あんたには無理
私のストリートでのプロップスが高まるのを見てな
ストリートではリアルな奴がリスペクトされるって言う
私ほどリアルなのはいない
私と若い血があるだけ、ここから私は力を手にする

この部分はありがちなセルフボーストですね。具体的にどんな意味があるのか、次以降のラインで見ていきましょう。

The night I got a chain from Mr. Flowers
I gave it back when I got done rappin; the same hour
I ain’t Five Percent, ‘less we talkin the top emcees

【意訳】
Mr. Flowers (=Jay Electronica)からチェーンを受け取った夜
私はラップが済むとそれを返した
私は上位5%のMCだけどファイブ・パーセンターじゃない

故J Dillaの42歳の誕生日を祝して行われた、2016年のDilla Weekendで、RapsodyはJay Electronicaからステージ上でチェーンを授かりました[1]。

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Down South Noiseより

しかし、彼女はラップを終えるや否や、それを返したと言います。その理由は、チェーンのデザインにあったようです。

Jay ElectronicaがRapsodyに渡したチェーンのヘッドには、ファイヴ・パーセント・ネイションのシンボルであるユニヴァーサル・フラッグがあしらわれていました。ファイヴ・パーセント・ネイションとは、60年代半ばにイスラム系宗教団体=ネイション・オヴ・イズラムから分派独立した団体であり、黒人は最初の人類(オリジナル・マン)であり神なのだという、選民思想的な性格を有します[2]。彼女は先述の「リアルさ」を根拠にMCとしては上位5%に属すと考えるものの、ファイヴ・パーセンターではないことから、そのチェーンを返却したのだと言います。

And I’m in the top of that, the rest beneath me all cowards
When it spits, look around, it’s meteor showers
I watch the stars fall, fall, fall, yeah this what you call power

【意訳】
んで私はその頂点にいる、下の奴らはろくでなし
私がスピットすれば流星の雨
星が落ちるのが見える、これがあんたらの言うパワー

Rapsodyは、自分のラップは星の雨を降らせるほどの力を持つのだと言っています。力強い言葉ですね。

3バース目

Let’s talk about power
Let’s talk about yours and ours that paid the allowance
Let’s talk about hundred-thousand kids ravin’ and bouncin’
Cravin’ and drownin’ in words the day I pronounce it

【意訳】
力について語ろう
手当を払った君の客と俺らの客について語ろう
騒いで弾んでる10万人の子供たちについて話そう
俺が発する言葉を欲して溺れてる子供たちについて

さて、ここからKendrick Lamarのバースになりますが、2行目は“HUMBLE.”の“I remember syrup sandwiches and crime allowances”というラインを想起させます。この「手当(allowance)」が「犯罪」に対して支払われるものだとすれば、“yours”も“ours”も「ドラッグを売る相手」と考えられます。

しかし、後半を見ると、自分が影響を与えている子供たちについて触れられています。このことについてはXXL誌のインタビューでも語っていました[3]。こうした背景を踏まえると、2行目で言及されているのも、彼らの言葉に感化されるリスナーと考えることもできます。

Let’s talk about power
Let’s talk about do’ers and dont’ers
The house I built when I was homeless and sleepin’ in corners
Sharin’ Coronas and Black & Milds
Donuts in El Caminos
Talkin’ loud, scrapin’ and combin’
Residue every morning
Talk about legacy

【意訳】
力について語ろう
やる奴・やらない奴について語ろう
俺がホームレスで、街角で眠ってた時に建てた家について話そう
コロナとブラック&マイルドを分け合ってた
エルカミーノで食べたドーナツ
口はデカくてもギリギリで生活してた
毎朝残り物で凌いで
レガシーについて語った

Kendrickは、自分たちが成功する前の生活についてラップし始めます。実際、彼らが所属するレーベルTDE (Top Dawg Entertainment)のボスAnthony “Top Dawg” Tiffithは、所属アーティストたちにハングリー精神を忘れさせないため、自分の家に住まわせてハングリーな生活をさせていたそうです[4]。「やる奴・やらない奴」でいえば、Kendrickらはそんな生活を経験した前者ということなのでしょう。

ちなみに、ブラック&マイルドはリンクのとおりタバコですが、ウィードを巻くのに巻紙だけが使われるようです(同様のものとしてスウィッシャーがあります)。

画像2

Let’s talk about the life of celebrity
Verses’ integrity
Curse the first one that thirst for necessity

【意訳】
有名人の生活について語ろう
バースの誠実さは
必要に飢えた最初の奴を呪う

Kendrickの誠実なバースは、欲望に目の眩んだ有名人の生活を風刺するということでしょうか。

Searching for equity
Verses the earth that birthed us indefinitely
Verse the verse I wrote in jeopardy
Surfin’ the laws of the universe and destiny
Church and a God is all that’s ever been ‘head of me, aw

【意訳】
公正を求めて
俺らを際限なく産んだ地球を表現
危機の中で俺はバースを綴った
宇宙と運命の法則をサーフ
俺の前(頭)にあったのは教会と神だけ

サーフィンをやられたことのある方はお分かりかと思いますが、波に乗るときは、波の上ではなく前に乗ります。4行目でKendrickは、「宇宙の法則」や「運命」といったものよりも自分が前にいると言っているのかもしれません。そんな彼よりも前にあるのが「教会」と「神」で、彼の信心深さを表現しています。

Let’s talk about my power, the golden child was
Granted to be on your cameras and store counters
He’s bananas, competitive, we can dance
See the damage, no more fo’ he peed his pants

【意訳】
俺の力について話そう、黄金の子供は
カメラや店のカウンターに収まるはずだった
奴はヤバくて競争的で俺らは踊れる
ダメージを見ろ、お漏らししたから終わりだ

ここから自分を「黄金の子供」として3人称で語り始めます。「カメラ」は防犯カメラのことを指し、犯罪者として「店のカウンター」を襲撃する様子が、防犯カメラに記録されるような人生を歩む可能性もあったことを示唆していると考えられます。

一方、4行目の“he”は普通に3人称で、Kendrickの様子を見ていた誰かが呆気にとられて失禁するということだと考えられます。

My second LP had real niggas on POTUS lawn
My seven trophies is at my Granny’s and Heaven arms
I’m in Jamaica like “wah gwaan,” my feet is out
My hair is long and patois comin’ from my mouth

【意訳】
俺の2枚目のLPはリアルな奴らを大統領の芝生に行かせた
俺の7つのトロフィーはばあちゃんと天国の腕に
俺はジャマイカで「ワーガーン」って足を出してる
髪は長くて口からはパトワが発せられる

1行目はKendrickのメジャー2作目『To Pimp A Butterfly』(以下“TPAB”)のアートワークについてです。2行目の「トロフィー」はグラミー賞のことでしょう。“wah gwaan”はパトワで“what’s going on”(どうしたんだ)の意味です。
KendrickはTPABリリース後にジャマイカを訪れており[5]、3・4行目、さらに次の2行はその時の経験にインスパイアされたものと考えることもできます。

Me, I go outdoors it’s time to bless up erryuhn’
Rude boy, me, I ain’t worry ‘bout it, fearless
I shot niggas, then shot movies ten years later
Dear God, why you show me so much favor?

【意訳】
俺は外に出て全てに恵みを授ける
ルード・ボーイのことなんて、俺は心配しない
俺は奴らを撃って10年後、それを映画にした
神様、どうしてそんなに俺によくしてくれるんだ?

“rude boy”は単に「失礼な男の子」の意味でなく、ジャマイカの言葉で「トラブルメイカー」を意味します。

3行目について、実際にKendrickが人を撃ったことがあるかは定かでありませんが、確かに彼はこれまで複数の曲で「少年時代に人を殺めた」と仄めかしています[6]。「映画」はその時の経験を克明に表現した彼の作品のことでしょう。

Amongst the haters and wickedness
Deliver this child from evil convictions and frivolous
Debates about who’s the preeminent emcee of the millennium
And it’s all for the Benjamins

【意訳】
ヘイターと邪悪さの中で
悪い信念からこの俺を生み落とすなんて
この1000年で誰がずば抜けたMCか軽率に話し合われる
それは全部ベンジャミン(お金)のため

1行目の「邪悪さ」は、アルバム『DAMN.』のテーマでもあった「邪悪さか弱さか(wickedness or weakness)」とも関連性を見せます。

And I’m all of y’all nemesis
And I’m all in all happy none of y’all can fathom who Kendrick is
The only One that ever did wrote the Book of Genesis
Motherfucker, that’s power

【意訳】
そして俺は全員の敵
ケンドリックが誰か、誰も理解できなくて嬉しいぜ
創世記を書いた唯一の奴だ
くそったれ、それが力だ

最後は力強いセルフボーストで締めてくれました。

というわけで

RapsodyとKendrick Lamarのバースを解説してきましたが、いかがだったでしょうか? リリシストと呼ばれる二人のラップだけに、解釈が難しい箇所もありますが、確実に聴く者を奮い立たせる言葉ですよね!

「ここ、こういう意味なんじゃない?」などありましたら、ぜひコメントください。

[1] Jay Electronica Gave Rapsody His Chain – Down South Noise
[2] ヒップホップとファイヴ・パーセンターズ ~Jay Zのメダリオン問題を端緒に~ 探究HIP HOP
[3] 【XXL記事和訳】Writer At War | しょたぞブログ
[4] Kendrick Lamar and Anthony 'Top Dawg' Tiffith on How They Built Hip-Hop's Greatest Indie Label | Billboard Cover | Billboard
[5] Rapper Kendrick Lamar Visits Jamaica - Jamaicans.com
[6] What if Kendrick Lamar Really Did Kill Someone? - DJBooth

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