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「ビジネス」に徹する新鋭2人の姿勢を読む。(Lil Baby & Gunna - "Business Is Business")

Writer: @vegashokuda

リル・ベイビー(Lil Baby)とガナ(Gunna)がリリースしたコラボ・アルバム『Drip Harder』が人気ですね。2018/10/27付でビルボード4位を記録しており、さらなる躍進が期待されます。

リル・ベイビーとガナは、ともに(広義での)アトランタ出身のラッパーであり、それぞれ94年生まれ/93年生まれとまだ若いです。新人ラッパーということもあり、「名前は聞いたことがあるけど、よく知らない…」という方も多いかと思うので、簡単に二人について説明しておきましょう。

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Lil Baby (Image via Kulture Hub)

アトランタの人気レーベルQuality Control Music(以下"QC")と契約しているリル・ベイビーは、2017年2月にラップを始めたばかり。ミックステープ『Harder Than Hard』(2017年)収録の「My Dawg」で注目を集め、ドレイク(Drake)を客演に招いた「Yes Indeed」により一躍有名になりました。

Lil Baby - My Dawg

未だにストリートとの関わりを持つ彼ですが、QCの共同社長であるピエール・"ピー"・トーマス(Pierre "Pee" Thomas)とコーチ・K(Coach K)のガイダンスの下、アーティストとしてキャリアを重ねています。[1]

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Gunna (Image via The FADER)

一方のガナは、『Drip Harder』にも参加しているヤング・サグ(Young Thug)のレーベルYSL所属。2015年に亡くなったキース・トゥループ(Keith Troup)を通じて彼と出会い、アルバム『JEFFERY』(2016年)収録の「Floyd Mayweather」に参加しました。

Young Thug - Floyd Mayweather ft. Travis Scott, Gucci Mane & Gunna

これまでにミックステープ『Drip Season』シリーズ全3作をリリース。思春期に年上の仲間と時間を過ごすことが多かったという彼は、曲を通して人々をモチベートしたいのだと語ります。[2]

そんな二人のコラボ作である『Drip Harder』は、お気づきかもしれませんが、ガナがこれまでに『Drip Season』シリーズをリリースしてきたことと、リル・ベイビーの作品名に"hard"という単語が用いられることから、両者を組み合わせた名前になっています。アトランタの注目株2人によるフレッシュな今作は必聴です。今回は、同作に収録されている「Business Is Business」のリリックを読み解いていきましょう。

Lil Baby & Gunna - Business Is Business

イントロ

Yeah, yah
Uh
(Run that back, Turbo)
Yeah

【意訳】
イェー、ヤー
アー
(巻き戻せ、ターボ)
イェー

この曲のプロデューサーとして、『Drip Harder』のエグゼクティブ・プロデューサーも務めるターボ(Turbo)がクレジットされています。

サビ

I tote a TEC 'cause niggas be shady
And a surfboard 'cause we're really wavy
I need some love to go with this hate
Give mama a hug, we finally made it

【意訳】
いかがわしい奴が多いからTEC[-9]を持ち歩くぜ
俺らウェイヴィーだからサーフボードもな
このヘイトの中じゃ愛が無きゃやってけない
母さんにハグをする 俺ら、ついにやったんだ

いきなり「サーフボード」が出てきて何のことかと思ったら、「ウェイヴィー(wavy)だから」というのが理由らしいです。"wavy"は「波」を意味する"wave"に由来する単語ですが、「イケてる」くらいの意味で捉えればよいでしょう。

Puttin' Ms in all the Mercedes
Spend a whole M in the mall, boy you crazy
Bitches ain't shit, bet' not trust your old lady
Business is business, so you gotta pay me

【意訳】
メルセデス全部に何百万ドルも詰め込んで
100万ドルをモールで使うなんてクレイジーだな
ビッチはクソだ、昔の女なんて信じるな
ビジネスはビジネス、俺に金を払え

ガナはここで贅沢な暮らしぶりをひけらかすとともに、そうした生活を邪魔する存在に警戒するよう注意を促し、ビジネスに対するシビアな姿勢を見せています。

1バース目(ガナ)

Uh, Bentleys on Bentleys, we mob through the A
Benjis on Benjis, we stack every day
Business is business, so you gotta pay

【意訳】
ベントレーを連ねて俺らはA(=アトランタ)を走る
ベンジー(=100ドル札)にベンジー、毎日積み重ねる
ビジネスはビジネス、金を払え

おそらく「ビジネスはビジネス」という姿勢で手に入れたのであろう大金で、ガナは高級車を買い、地元アトランタを仲間と共に走り回ります。

New Lamborghinis make me wanna race
Still eat fettuccini, I'm stuck in my ways
My bed Tempur-Pedic, I fuckin' get paid
My flow a disease, kill these rappers like AIDS

【意訳】
新しいランボルギーニで俺はレースがしたくなる
未だにフェットチーネを食べてる、これが俺のやり方
俺のベッドはテンピュール、稼ぐからな
俺のフロウは病気、このラッパーどもをエイズみたいに殺す

何かが凄いことを"ill"や"sick"などと表現することがありますが、ガナはそれを踏まえ、自らのフロウを「病気」と表現しています。なお、現在ではエイズは不治の病ではなく、コントロール可能な病気だといわれています[3]。気になる方はHIV検査を受けましょう。

Yves St. Laurent on the lens of my shades
Gunna back up, I was goin' through a phase
I doubled up and got my bitches straight
You learned how to drip from you watchin' my page

【意訳】
俺のサングラスのレンズはイヴ・サンローラン
ガナが戻ってきた 俺はあるフェイズを経験してた
2倍に成長して、女たちも無事にやってるぜ
お前らも俺を見てドリップというものを学んだろ

「イヴ・サンローラン」の頭文字を取ると"YSL"となり、ガナの所属レーベルと同じ文字になります。

「あるフェイズ(a phase)」はガナの曲名「Phase」に由来するものと思われます。

Gunna - Phase

苦境に立たされていたガナですが、その経験を糧に大きく成長して戻ってきました。また、周囲の女性の面倒も見て、「無事(straight)」にしてあげたとのことですが、ここには異性を愛する「ストレート」の意味も掛けられているように思います。つまり、ガナはレズビアンの女性をも虜にするほど魅力的だと自慢しているのです。さらに、"double up"には「二つ折りにする」といった意味もあり、これが"straight"(まっすぐな)の縁語にもなっています。

Niggas be tossin', somebody decay
Off-White'd the coupe and the inside is beige
I pop this shit like I've been doin' for ages
So many dead faces I got me a grave

【意訳】
みんながダメになり、誰かが腐る
クーペをオフホワイトに、内装はベージュに
何年もやってるみたいにこいつをやる
死んだ顔を持ちすぎてて墓を建てたみたいだ

"toss"は辞書どおり自動詞で「寝返りを打つ」の意味かもしれませんが、直後に"decay"があることから、「役立たず」を意味するスラングと捉え、さらにそれを動詞として用いていると考えました。あるいは、"tossing"と現在分詞になっていますが、本来は"tossed"と過去分詞が使われるべきであり、「放り投げられる」なのかもしれません(現在分詞と過去分詞を本来とは逆に使うことは、ラップのリリックではよくあります)。

「オフホワイト」は文字どおり色を表すほか、ブランドのOff-Whiteも掛けられているように思えます。

「死んだ顔」は紙幣のことです。

YSL, nigga say "SLATT" every day
I pop me a pill, one got stuck in my throat
This Rollie a Presi', I don't need to vote
Your ho super ready, she at my condo

YSLでは毎日"SLATT"って言う
ピルをポップし、喉に引っかかる
このローリー(=ロレックス)はプレジ(デント)、投票は必要ない
お前の女も準備万端で俺の家に居るぜ

"SLATT"は"Slime Love All The Time"の略です。ガナのメンターであるヤングがよく使う言葉です。

「プレジデント」はロレックスのデイデイトの通称です。デイデイトを身に着ける自分はプレジデント(大統領)だから、投票に行かなくてもいいというわけですね。

I stay with that 9, they should call me Marlo
I'm the greatest of all, my emoji is goat
Bouncin' my life, got my back off the rope
Too real I can't turn my back on the bros

【意訳】
俺は[TEC-]9を持ち歩く マーロと呼べ
俺は全員の中で一番偉大、俺の絵文字はヤギ
人生が弾んで俺の背中はロープを離れた
リアルすぎて、ブラザーたちに背中を向けたりしないぜ

1行目はマーロ・9という女性向けのサンダルに由来する表現のようです。

"greatest of all time"の頭文字を取ると"goat"になります。2行目はそれに由来する表現です。

3行目の「ロープ」はリングのロープですね。もう追い詰められた状況ではないということです。

2バース目

Brought out a dub and I'm ready to spend it
You dropped the ball I got it, we winnin'
Spaceship for a car that ain't rented
They know who I am, I ain't walkin' through Lenox

【意訳】
ダブを持ってきて、全部使うぜ
お前はボールを落として俺が取った、俺らの勝ち
車はスペースシップで借り物じゃねぇ
みんな俺が誰か知ってる レノックスを歩かないぜ

"dub"は数字の2を表し、またここでは文脈から金額だと推測できるのですが、具体的にいくらかは定かでありません。200ドルか、2000ドルか、はたまた2万ドルか…高額であることを祈りましょう。

2行目は、文字どおりの「ボール」以外に、そこから派生して、自分がいかに"ボーラー"(暮らし向きが派手な人)であるかを表しています。

「レノックス」はリンクのとおり、アトランタにあるショッピング・モールです。自分がいかに有名人になったかをこう表現しています。

It didn't take long, I ran up them racks
Bought it, ain't like it, ain't takin' it back
I shoulda played linebacker, I want a sack
I got this cheetah print all on my jacket

【意訳】
ここまで駆け上がるのに時間は掛からなかった
買って気に入らなくても戻さない
ラインバッカーをやるべきだった、サックが欲しいんだ
俺のジャケットにはガラガラチーター

3行目の「ラインバッカー」はアメリカンフットボールのポジションです。同ポジションはQB「サック」という、パスを投げる前のクォーターバックに対してタックルするプレイが求められます[4]。一方で、"sack"は「袋」、すなわち袋に入ったウィードを指すこともあります。"sack"に二重の意味を掛けたクレバーな表現です。

I got the belt and the shoes to match it
I'm from the hood, I'm keepin' my ratchet
My bitch the baddest, she ain't bougie, she ratchet
I get him flipped, then I buy him a casket

【意訳】
それに合うベルトと靴も持ってる
俺はフッド出身でラチェットにやってる
俺のビッチは最高、ブージーじゃなくてラチェット
奴を倒して棺桶を買ってやる

"ratchet"は「粗暴な」という意味の形容詞ですが、"bad"などと同様に、スラング的に良い意味で使われることがあります。一方の"bougie"は良い意味にも悪い意味にもなりえますが、共通するのはお高くとまった感じということです。ベイビーは自らの「ビッチ」を、セレブ気取りでなくゲトーのアティチュードを持った最高の女性だと評価しています。

I'm servin' real, I ain't just singin', rappin'
I got on Soldier Re's, they're classics
I got a 31 doin' gymnastics
I sold a brick, it was still in the package

【意訳】
リアルを伝えてるんだ、歌とラップだけじゃない
リー(ボック)のソルジャーを履いてる、クラシックさ
俺は31に体操をさせた
ブリックを売って、まだパケに入ってたぜ

リーボックのワークアウトは「ソルジャー」とも呼ばれ、ジュヴェナイル(Juvenile)やマニー・フレッシュ(Mannie Fresh)といった、ホット・ボーイズ(Hot Boyz)の面々の寵愛を受けたスニーカーです[5]。

「31」はおそらくのことです。銃のリボルバーが回転することを「体操」と表現しています。

「ブリック」は文字どおりレンガ状のコカインのことです。

Sixty five hundred was spent on this coat
(Got a bitch in the condo, she snortin' the coke)
I don't wanna fuck her just want the throat
I'm savin' my money, I ain't goin' broke

【意訳】
このコートに6500ドルを費やした
(家にはコカインを吸ってるビッチが居る)
彼女とはヤりたくない、ただ喉(=ディープ・スロート)が欲しい
節約してるから金欠にはならないぜ

なんと、これだけお金のことを自慢してきたのに「節約してる」のだそうです。6500ドルのコートも、ベイビーにとってはちっとも高価でないのでしょう。

Don't want no handouts, that shit ain't no joke
They listen up when I speak, I'm the pope
I'm bringin' cash, ain't payin' no notes
I got the stick just in case they want smoke

【意訳】
施しは要らねぇ、本気だぜ
俺が話すとみんな聴く、俺は法王だ
現金を持ってくぜ、手形じゃ払わない
万が一のために銃を持ってるんだ

キャッシュレス化が進む現代にあって、ベイビーは現金払いが好きなようです。おそらく、そのほうがフレックスできるからでしょう。

"stick"は「銃」です。"smoke"は「硝煙」、すなわち銃を撃った際に出る煙を表します。そのため、"smoke"1語で「殺す」という意味の動詞になったり、「死」という意味の名詞になったりします。ベイビーは誰かが自分を"smoke"しようとする場合に備え、今日も"stick"を持ち歩くのです。

ということで
リル・ベイビーとガナの「Business Is Business」のリリックを読み解いてきました。やんちゃな印象の二人ですが、意外にも練られた言葉遊びがあって面白いですね。リリックの内容だけでなく、メロディアスなラップも魅力的なので、ぜひ聴いてみてください!

[1] Who is Lil Baby? The QC artist just started rapping in February, but he's got ATL on fire
[2] Gunna wants you to go out and get it | The FADER
[3] ストップエイズ! 今は「不治の特別な病」ではなく、コントロール可能な病気です。まずは早めに「HIV検査」を | 暮らしに役立つ情報 | 政府広報オンライン
[4] 【ディフェンス編】アメフトのポジションごとの役割と適正を徹底解説 | SECOND EFFORT(セカンド エフォート )
[5] Juvenile and Mannie Fresh Relaunch Reebok “Solja” Sneaker | The FADER

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