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ヴィンス・ステープルズの荒んだ現実主義的なリリックを読む。(Vince Staples - "Don't Get Chipped" feat. Jay Rock)

Writer:@raq_reezy

今回は、本マガジンで2回目となるアーティスト、ヴィンス・ステープルズの曲を解読していきたいと思います。

ヴィンスは、独特の機械的で無機質なチューンに、冷めたシニカルなラップを乗せる、ユニークなアーティストです。

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さて、今回解読する曲は、最新アルバム『FM!』から「Don't Get Chipped」です。

それでは、さっそく解読に入っていきましょう。

1バース目(Vince Staples)

Can't wait ’til I'm rich, I'm finna buy a whole crate of guns
For my naughty Crips, shit I really came from the slums
Time to represent, let me see you bang, where you from?
Don’t be acting spooked, I'm a troop, I don't give a fuck

【意訳】
金持ちになるのが待てないぜ、ついに一箱丸ごと銃を買ってやる
俺のイタズラ好きなクリップスのために、俺はホントにスラムから来たんだ
レペゼンする時間だぜ、撃つところを見せてくれ、お前はどこから来た?
怯えてるんじゃねえ、俺は兵隊さ、何だっていいんだ

*このバースは、ヴィンスの若い頃の観点で書かれているのではないかと推測されます。ヴィンスは、もともとギャング集団であるクリップスのメンバーでした。また、過去のインタビューでは、ギャングに入った理由も「人を殺したかったから」と発言しているなど、ヴィンスの荒んだ過去が垣間見えます。

I just wanna live it up, used to make 'em give it up
Flockin' is for hoes, I'ma take somebody soul
He don't give me what he own, now I'm getting what I’m owed
You ain’t seen me at a show? Oh, you missing out
Swear I bring the realest out
Everybody know me who's somebody to know
Watch me mind my business while I’m counting my dough
Stay away from citches who would clown me before
On the road to riches, they gon' step on your toes

【意訳】
贅沢に暮らしたいだけ、あいつらに手放させてたのさ
群れるのはダサいやつら、俺は誰かの魂を奪っちまう
あいつは俺に持ち物を寄越さない、俺は借りてたものを手に入れてる
俺をショーで見かけないって?お前が見逃してるだけさ
俺は一番リアルな奴らを連れてくると誓うぜ
俺のことを知ってる奴は、みんな俺のことを注目に値すると知ってる
俺が金を数えてるときは、俺のビジネスに集中させてくれ
以前にも俺を騙したインチキ野郎どもとは距離を置く
金持ちへの道を歩んでる、あいつらはお前の機嫌を損ねる

*ヴィンスの現実主義的な冷めた性格が見てとれます。人を騙そうとしてくる人間が多い環境では、群れるよりも、自分のリアルな仲間とだけ、ビジネスに集中して勝ち上がっていくことが大切なのでしょう。

「一番リアルな奴らを連れてくる」の「一番リアルな奴ら」とは、たとえばケンドリック・ラマーです。

Sammy told me that a change gon' come
I'm not going if my gang won't come
If you see me pull that thang, don't run
Playing ball, if I swing home run

【意訳】
サミーは言った、そのうち変化が訪れるってな
俺は、俺の仲間たちが一緒に来ないなら、行かないぜ
俺が引き金を引くところを見たら、走るんじゃないぜ
派手に遊ぶ、俺がバットを振ったらホームランさ

*Sammyとはサム・クックのことで、彼の「A Change is Gonna Come」(変化が訪れる)という曲のタイトルを引用しています。

しかし、ヴィンスは仲間たちと一緒でなければ行くつもりはないと歌っています。ヴィンスの周りはあまり変わっていないということなのかもしれません。

また、俺が引き金を引いても逃げるなよという意味の「走るんじゃないぜ」と歌っておいて、次の行では、ホームランだから走る必要がないという風にも繋げています。

サビ(Jay Rock)

サビは、ジェイ・ロックが担当しています。

ジェイ・ロックについては、本マガジンでも過去に取り上げているので、よければご覧ください。

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純朴なジェイ・ロックが示す「救済」—バイク事故を経て

I ain't on that medication
It's only money that I'm chasing, that is all
Represent my location
Don't get chipped, don't get chipped, don't get chipped

【意訳】
俺は瞑想なんてしない
俺が追いかけるのはお金だけさ、それが全て
俺の地元をレペゼンする
撃たれるなよ、撃たれるんじゃねえぞ
撃たれるなよ、撃たれるんじゃねえぞ

*ここでは、ジェイ・ロックもストリートの荒んだ価値観をラップしています。瞑想は、たとえばJコールが「FRIENDS」という曲で勧めています。

Nigga, I ain't got the patience, yeah
My hustle like a mental patient, I'm tryna ball
Let me run my demonstration
Don't get chipped, don't get chipped, don't get chipped

【意訳】
俺は我慢強くないんだ、そうさ
俺は精神の安定を得るかのように稼ぎまくる、俺は派手に生きようとしてる
俺に実演を始めさせてくれ
撃たれるなよ、撃たれるんじゃねえぞ
撃たれるなよ、撃たれるんじゃねえぞ

2バース目(Vince Staples)

Everybody say it's lonely at the top
I want my homies at the top
My little homie, he got shot
And now I'm moving by my lonely with the .40 and the mop
Finna pull up early morning and somebody getting dropped

【意訳】
みんなが言う、トップに立つと孤独だってな
俺は仲間たちと一緒にトップにたどり着きたい
俺の小さな仲間は撃たれちまった
だから今では一人で孤独に、S&Wの銃に弾を込めて持ち歩く
ようやく朝を引き寄せたけど、誰かが殺される

*ここでも殺伐としたストリートのあり方が歌われています。トップは孤独だと言われているので、仲間と一緒にトップまでたどり着きたいと願いますが、仲間を亡くし、孤独に周囲を警戒して生きる様子が描かれます。

I throw a party on your block, like I'm Tommy the clown
Hundred thousand dollar car, bet you proud of me now
Took my mama out the set, house as big as my mouth
Started yelling out requests, so I shot in the crowd, pow

【意訳】
俺はお前の街区でパーティーを開催する、まるでトミー・ザ・クラウンさ
10万ドルの車、俺のことを誇りに思ってるだろ
俺のママをライブセットに連れ出した、俺の叩く大口くらい大きな家
要求ばかり叫び始めたから、俺は群衆に向かって発砲した、ポウ!

*トミー・ザ・クラウンは、90年代のコメディアン兼ダンサーです。

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*要求の多いリスナーへの不満も歌われています。この内容は次の部分にも続きます。

You a fan, I'm the man, it's a difference (It's a difference)
Stop pretending (Stop pretending)
You know you feel it (You know you feel it)
Record deal, but I did it independent (Independent)
If I peel, then somebody going missing

【意訳】
お前はファンだ、俺は男だ、その間には違いがある
ふりをするのはやめろ、お前は感じてるんだろ
レコード契約もしたけど、俺はインディペンデントさ
俺が剥いたら、誰かが失踪することになるぜ

*先ほどの観客への不満が続いています。自分はアーティストであり、相手はリスナーなのだから、その間の違いをわきまえるべきだと歌っています。インターネットやSNSによって、アーティストとリスナーの距離は近くなりましたが、その分、上から目線の意見などを投げられることも増えたのでしょうか。

Brandy told me they just wanna be down (Wanna be down)
I'm the nigga that they wanna be now (Wanna be now)
Who done did it like I did it from the hometown?
Started dead broke, but I'm on now

【意訳】
ブランディは言った、ただ落ちていきたいんだと
俺はみんなが憧れる男さ
誰が俺みたいに故郷から勝ち上がれたっていうんだ?
めちゃくちゃ貧乏だったけど、今じゃ売れっ子さ

*ブランディの曲のタイトル「I Wanna Be Down」を引用しています。

ということで

ヴィンスの「Don't Get Chipped」を解読してみました。

ダークなチューンが多いヴィンスですが、魅力的なアーティストなので、あまり聴いたことのない方は、ぜひチェックしてみてください。

それでは!

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