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Joey Bada$$の至高のバースを解読する。(XXXTENTACION - "infinity(888)" feat. Joey Bada$$)

海外のヒップホップを聞く際には、どういう内容を訴えているかというのも興味深いですが、やはり本場のヒップホップならではの、比喩が効いたパンチラインを期待して聞く向きがあります。そして、たまに本当に練りこまれたリリカルなバースに行き当たることがあります。

今回は、そんなバースが含まれている"infinity(888)"を解読したいと思います

本楽曲は、ロックやパンクのサウンドを取り込んでヒップホップを音楽的に拡張し続けている若き鬼才XXXTENTACIONと、ブルックリン出身の若き正統派Joey Bada$$という、「そこでコラボするの!?」という組み合わせで作られた曲で、XXXTENTACIONの最新アルバム「?」に収録されています。

この楽曲自体は、東海岸風の音に寄せられていて、Joey Bada$$に配慮したものと思われます。ということで、そこにスピットされるJoey Bada$$のラップが、かなり個人的にツボだったので紹介します。

それでは、内容を見ていきましょう。

イントロ(Joey Bada$$ & XXXTENTACION)

イントロは特に意味はないと思いますので、ざっくりと訳します。

—ggas will be like "Yo, these niggas is wildin' right now
Like, these niggas is really wildin', you know what I'm sayin'?"
Like, we ain't playin' with y'all niggas, man, ya heard?

【意訳】
みんな言うのは「おいおい、こいつら馬鹿騒ぎしてるぜ」ってことさ
俺たちはマジで馬鹿騒ぎしてるんだよ、意味がわかるか?
俺らは遊んでるんじゃねえってことさ、なあ、聞こえるか?

Sometimes you just gotta catch chlamydia on these niggas, G-shit

【意訳】
ときどき、クラミジアに感染しないとな。Gangものだぜ。

You know what I'm sayin'? Gonorrhea, all that shit
All of that shit
I catch all diseases in the world
So the world don't have no more diseases, you feel me?

【意訳】
俺が言ってる意味がわかるか?淋病とか、その手のもの全部だよ。全部さ。
俺は世界中の病気に掛かるんだ。そうすれば、誰もこれ以上、病気に掛からなくて済むからな。共感してくれるか?

G-shit
Yeah, yeah
P. Soul on the track

【意訳】
Gangな曲さ、そうさ、そうだ。
トラックはP.Soul。

それでは、さっそく1バース目を見てみましょう。

1バース目(Joey Bada$$)

I'm as real as they come, they feel it, get numb
You think you got a little buzz, so now you can't get stung?
I keep a razor blade tucked on me, under my tongue
Don't let me have to tell these niggas about the city I'm from

【意訳】
俺は本当にリアルなんだ、あいつら感じて、それから痺れちまう。
お前たちは、ちっぽけなバズを手にしたら、刺されないとでも思ってるのか?
俺はレーザーブレードを隠し持ってる、この舌の下にな。
いちいち俺がどの街から出てきたか、こいつらに教えさせるなよ。

1バース目の「as **** as they come」は、「本当に****だ」というイディオムですが、comeには「イく」という意味もあるので、その後ろに「あいつら感じて、それから痺れちまう」と言葉遊びを続けています。

続いて、少しバズって有名になったラッパーたちに警告を発しています。ちょっと有名になったからって、もう誰からもディスられないと思っていたら大間違いだと。Joey Bada$$は舌の中にライトセイバーのようなレーザーブレードを隠し持っていて、それで相手を刺すということで、これは攻撃的なラップをするということの比喩でしょう。ちょっぴり売れてたって、偽物だったら俺がラップで刺してやるということです。

It's Brooklyn, be the home of the hardest ever
Where them niggas don't aim, they just palm Berettas
And bomb whatever, say we don't move calmly, never
This for my niggas trapped in cells like salmonella

【意訳】
ブルックリンさ。いつまでも最もハードなやつのためのホームであってくれ。
ここの奴らはターゲットを狙いもせずに、ベレッタから弾丸をぶっ放す。
そして、どこにでも爆弾を落とすのさ。俺たちが穏便に動くことはありえない。
細胞に閉じ込められたサルモネラ菌のように、刑務所に閉じ込められてる俺の仲間たちのために歌うぜ。

Joey Bada$$の出身地はニューヨークのブルックリンです。ブルックリンは、今は亡き伝説的なラッパーであるNotorious B.I.G.や、ヒップホップの帝王として長らく君臨するJAY Zの出身地でもあります。JAY Zの代表曲「Empire State of Mind」も「Yeah, yeah I'm out that Brooklin」(意訳:そうさ、俺はあのブルックリン出身だ)で始まります。

Joeyはブルックリンがいかにハードな街なのかをレペゼンしています。どこまでが比喩で、どこまでが現実かは分かりかねますが、誰かれ構わずベレッタ銃をぶっ放し、爆弾を落とすといいます。

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また、その次のラインがめちゃくちゃ秀逸です。「cell」には「刑務所の檻」という意味の他にも「細胞」という意味があります。そこで「cell」をダブルミーニングで使っています。

一つ目の意味は、当然「刑務所の中に閉じ込められた俺の仲間たち」という意味です。二つ目の意味は「白血球などの細胞に閉じ込められたサルモネラ菌」という意味です。免疫系の細胞は、侵入者を飲み込んで分解するので、細胞に飲み込まれた菌と、刑務所に閉じ込められた仲間たちを、たったの一行で連想させています。

それだけではありません。どうして他の菌ではなく「サルモネラ菌」と敢えて比喩しているのでしょうか。そこには、サルモネラ菌の特徴があげられます。

以下、かのう歯科・小児歯科クリニックさまのサイトから引用します。

マクロファージや好中球、樹状細胞(これらは全て白血球)などの「自然免疫系」の免疫細胞は、通常、侵入者を飲み込み(食べてしまう)、白血球の細胞内部で「食胞」という小胞に侵入者を閉じ込めて、その中で強力な消化酵素を分泌して分解してしまいます。上皮細胞を突破して体内に侵入したサルモネラ菌も、もちろん、すぐに白血球たちの餌食となります。そうして「食胞」の中に閉じ込められてしまうのですが、ここでサルモネラ菌は、3型分泌装置の針を出して食胞を通して白血球に刺しこみます。そしてサルモネラ菌の遺伝子の「SPI-2」領域部分から生成されるタンパク質によって、食胞をサルモネラ菌にとって安全な環境に変えてしまうのです!!この安全な環境の中で、サルモネラ菌は増殖を開始しますつまりサルモネラ菌は、侵入してきた細菌にとっての「処刑室」とも言える白血球を、人体の他の免疫細胞からの「避難所」とし、そこで増殖することで「揺りかご」ともしてしまうのです。

サルモネラは免疫細胞に閉じ込められても、そこで分解されて消えてしまわずに、生き続けて活動をするのです。こうして、仲間たちに「サルモネラ菌のように逞しく生き抜け」というエールを送っているのです。

Look, I could do this shit with no effort
No pressure, no gimmick shit, no radio records
Just textbook rhyme style with the raw texture
Punchlines, right hooks, now that's a trifecta

【意訳】
よく見ておけ、俺は努力もせずに、これくらいのことは出来る。
プレッシャーもギミックもない。ラジオ向けの曲もなしだぜ。
教科書通りのライムスタイルをやってるだけ。
付け加えるなら、生々しい手触り、パンチライン、正しいフック。
これが三連勝単式ってやつさ。

冒頭からここまで、完璧に練りこまれた巧みなリリックを披露してきたJoey Bada$$ですが、これくらいなら簡単にできると一蹴します。

それだけではありません。Joey Bada$$はラジオ向けのポップな曲も作らずに、オールドスクールのヒップホップを変に音楽的に拡張することもせずに、成功を掴んでいるということを自信を持ってレペゼンしています。

昔ながらの教科書通りの韻の踏み方で、リアルさ・パンチライン・正しいフックを付け加えて、それだけで成功しているというのです。最近はヒップホップシーンでも様々なスタイルや音楽性が出てきている中で、自分こそが正統なやり方を継承しているMCだということを訴えています。三連勝単式とは、競艇などのギャンブルで、1着2着3着をぴったりと当てることを言います。

オルタナティブな方向に大きくヒップホップを拡張しているXXXTENTACIONのとの曲で、このラップをしてしまうところに、Joey Bada$$の自信が見え隠れします。

No more free lectures, I'm taxin' these niggas extra
This the Pro of all Eras, he's back in your sector
So, might be best to protect your neck
Or profess your debt to the god, he might bless ya

【意訳】
無料の講習はここまで。これからは、こいつらに追加で課税するぜ。
これが全ての時代に通ずるプロ、プロ・エラだ。お前の区域に戻ってきたぜ。
お前の首を守った方が身のためだろうな。
それともお前の負い目を神に告白するんだな。
運が良ければ、神はお前を祝福してくれるかもしれない。

一行目は、ビルボード1位を獲得したPost Maloneと21 Savageの"Rockstar"でゴーストライターをして稼いだことに言及しているのかもしれません。このゴーストライティングを通じて、Joeyは250,000ドル(およそ25百万円)を最低でも稼いだとInstagramのStoriesで公開し、話題になりました。

二行目のプロ・エラ(Pro Era)はJoeyが率いる、地元ブルックリンのクリエイティブ集団です。

Joey Bada$$が戻ってきたら、偽物のラッパーたちは首を跳ねられないよう守った方がいいと警告しています。それとも、自分がやってきた偽物行為を神に告白して許しを請えと。

どうでしょう。やばすぎませんか!

解読しながらテンションがめちゃくちゃ上がってしまいました。

続いては、XXXTENTACIONのターンです。

2バース目(XXXTENTACION)

Murder these flows like I murder these hoe ass niggas
Where the fuck is your energy, bro?
Make your nigga deepthroat a Desert Eagle
If he try me like a ho, pussy boy, that's on my soul

【意訳】
弱腰のダサいやつらを葬るように、このフロウでかますぜ。
お前のエネルギーはどこにあるっていうんだよ、兄弟?
お前の仲間たちには、デザート・イーグル銃を喉の奥まで咥えさせる。
もしも俺に舐めた態度で接しやがったら、クソ野郎、俺の魂をバカにしてるってことだ。

Make my flow shapeshift, cold expression like a facelift
I could probably swing like eight grips if you talkin' all that ape shit
I'm not talkin' YMBAPE shit, but I'm bangin' on my chest, bitch
Ayy, ayy, ayy, ayy

【意訳】
俺のフロウは形を変えていく、整形した顔みたいに表情のない態度
お前らが怒りについて話してるなら、俺はエイトグリップスみたいにスイングできるだろう。
YMBAPEの話をしてるんじゃないぜ、だけど俺はゴリラみたいに胸を叩いてる、クソ野郎。

一行目ではフロウが変幻自在であることや、コールドな自分の態度について、ボーストしています。

二行目はswing like eight gripsが分からなかったのですが、apeshitは怒りを差すようです。YMBAPEはソーシャルで活動するコメディアンです。ベイプの服を着て、Supremeなど他のブランドを着る人を攻撃します。

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そんなYMBAPEのお決まりの行動が胸を叩くという行動です。これはBAPEのマークにもなっているゴリラの怒りを表す行動を真似ています。

Travelin' through the infinity, uh
You not that nigga, pretend to be, uh
All that bullshit do not get to me, uh
I am a spirit, an entity, uh

【意訳】
無限の中を旅している。お前は、自分が演じてるような人間じゃねえだろ。
そんな糞みたいなものは全て俺まで辿り着かねえんだよ。俺は精霊で実在だ。

XXXTENTACIONは、イかれたラッパーを演じているだけの人たちに向けて、自分がいかに特別な存在かをボーストしています。

You just wanna suck all my energy, uh
I am the realest since Kennedy, uh
You pussy ass niggas fuckin' suck, you sound the same
I spit the pain, that's why the young niggas feel the same
They know I bang, I pull a fuckin' pistol out the Range and act insane

【意訳】
お前らは俺のエネルギーを吸いたいだけ。
俺はケネディ以来のリアルな存在だ。
お前ら糞野郎どもはまじで糞だ。みんな同じような音がする。
俺は痛みをラップする。だから若いやつらが俺に共感してくれる。
俺がかますってことをみんな知ってる。
俺は遠くからピストルの引き金を引いて、非常識に振る舞う。

ケネディ大統領は、最もリアルな大統領として認識されているそうです。Xは自分がそれ以来のリアルな存在だと訴えています。

コーラス(XXXTENTACION & Joey Bada$$)

I spent years at the crib, so I don't feel the pain no more
I don't feel the pain no more
I gotta get it how I live, I don't feel the pain no more
I don't feel the pain no more

【意訳】
俺は何年も貧しい家で過ごした。もう痛みは感じない。もう痛みは感じない。
俺は自分で生きなきゃいけない。もう痛みは感じない。もう痛みは感じない。

以上です!

やはり、この曲はJoey Bada$$のバースが至高の一品だと思います。

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