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カニエの宗教活動と、キリスト教コミュニティへの批判を読む。(Kanye West - "Hands On" feat. Fred Hammond)

Writer:@raq_reezy

今回は、カニエ・ウエストの最新アルバム『JESUS IS KING』から、「Hands On」を解読したいと思います。


カニエといえば、過去には『Yeezus』という、自分の名前とキリストの名前を重ね合わせた造語のアルバムを出して、神にもなろうとした男。

しかし、最近は宗教団体を設立したり、音楽を通じて礼拝を行う「Sunday Service」を各地で行うなど、神を讃える活動に身を投じています。

今回のアルバムはそうした活動を通じて製作された、ゴスペルのアルバムとなっています。もちろんカニエのラップはありますので、安心してください。


『JESUS IS KING』からは、「許し」や「癒し」、「個人の魂の救済」といったところに重きをおいた、カニエなりのキリスト教の解釈が読み取れます。

個人的な解釈で単独で神と向き合って、これまでの絶望を乗り越えようとする様子は、キルケゴールの『死に至る病』の諸段階を地で行っているようでもあります。


アルバム全体を通した、ざっくりとした感想は、こちらのツイートから一連の連続ツイートを読んでみてもらえると嬉しいです。


さて、過去に世間を騒がせる言動を繰り返してきたカニエであり、このように宗教活動にもオリジナリティを持ち込むカニエなので、一部のキリスト教徒からは批判も受けているようです。

今回解読する「Hands On」には、そうしたキリスト教徒への批判も含まれています。

ということで、さっそく内容を見ていきましょう。


1バース目(Kanye West)

Cut out all the lights, He the light
Got pulled over, see the brights
What you doin' on the street at night?
Wonder if they're gonna read your rights

【意訳】
電気を全て消してくれ、神様こそが光だから
車を止めさせられた、眩しいライトが目に入る
「夜にストリートで何をしてるんだ?」
あいつらは、お前の権利を読み上げるだろうか

 *ここでは、警察に職務質問的に車を止められた黒人の様子が描かれています。

Thirteenth Amendment, three strikes
Made a left when I should've made a right
Told God last time on life
Told the devil that I'm going on a strike

【意訳】
アメリカ合衆国憲法修正第13条、三振法
左折すべき場所で、右折した
人生で最後に神様に伝えたこと
悪魔に、俺はストライキすると伝えた

*アメリカ合衆国憲法修正第13条は、奴隷制の禁止を定めたものです。一方で、三振法というのは、重罪などの経歴があれば、三度目の逮捕で軽い罪でも自動的に終身刑になるという法律です。三振法は、再犯率を下げる目的で制定された法律ですが、ちょっとした罪で終身刑になる例があり、批判されることもあります。

*ここでは、左折すべき場所で右折した程度の罪で、三振法によって終身刑になる可能性があることを、奴隷制のようだと批判しているのでしょう。

Told the devil when I see him, on sight
I've been working for you my whole life
Told the devil that I'm going on a strike
I've been working for you my whole life

【意訳】
もし一目でも見掛けたら、お前と戦うと悪魔に伝えた
これまでずっと、俺はお前のために働いてきた
悪魔に、俺はストライキすると伝えた
これまでずっと、俺はお前のために働いてきた

*カニエは、ヒップホップを「悪魔の音楽」だとして、音楽性をゴスペル寄りにしています。今回のアルバムもゴスペルのアルバムとして製作されています。

*ずっとヒップホップ(悪魔の音楽)をつくってきた(悪魔のために働いてきた)けれど、これからはそれを離れる(ストライキをする)ということですね。

Nothing worse than a hypocrite
Change, he ain't really different
He ain't even try to get permission
Ask for advice and they dissed him

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