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スリム・シェイディを呼び起こす、エミネムの渾身のラップを読む。(Eminem - "Kamikaze")

Writer:@raq_reezy

エミネムの新作『Kamikaze』がリリースされました。

そこで、今回はそのタイトルトラックでもある"Kamikaze"を解読していきたいと思います。

さて、まずはじめに皆さまもお分りの通り、"Kamikaze"はカミカゼ特攻隊から来ています。

今回は、エミネムが他のラッパーたちに攻撃的にラップをする内容となっていますが、それがどうしてカミカゼなのかを理解するために、エミネムのキャリアを少し振り返ってみましょう。

以前、KAI-YOUさんの連載で書かせていただいた「エミネムがトランプ大統領に抗う理由 「第2の人格」で築いた名声とその代償」という記事から抜粋しながら、エミネムのキャリアを見てみたいと思います。

エミネムは、もともと「口が恐ろしく悪い白人のラッパー」としてシーンに現れました。彼は「スリム・シェイディ」というキャラクターを自分の別人格として生み出すことで、自分の鬱憤や攻撃的なブラックジョークを世に送り出すことに成功します。

エミネムは2ndアルバム『The Slim Shady LP』以降、「スリム・シェイディという間抜けなキャラクターが言っている」という“タテマエ”を得ます。

こうすることで、「硬派でリアルなものがカッコいい」という風潮のヒップホップシーンにおいて、ラップの内容を過激なフィクションに寄せることができるようになり、唯一絶対の地位を確立しました。

そして、その過激なフィクションの中にこそ郊外の白人層などが求めるユーモアの居場所があったのです。

一方で、フィクションとして歌っていたブラックジョークが、ファンの期待から徐々に過激化していく中で、エミネム自身の現実生活にも影響しはじめ、エミネムを苦しめるようになります。

エミネムは、有名人の名前をドロップして下品なジョークを繰り出すだけでなく、自身の母親を強く口撃する曲を作ったり、自身の妻であったキムを殺害するフィクションまで歌うことで、さらに人気を博していきました。しかし、その代償として母親から訴訟されたり、キムとは離婚したりと、現実生活においては不幸が続きます。

前作アルバム『Revival』では、そのような自分の現状への戸惑いと、悪口を並べるだけではなく、社会の一構成要因として自分をとらえたような、団結を美化する楽曲も収録されていました。

スリム・シェイディはエミネムをスターに押し上げた存在であると同時に、エミネムの現実生活を狂わせた存在でもあります。

エミネムからすれば、スリム・シェイディは、彼と母親や妻との間を分断させた原因そのものだったことでしょう。

その結果、自分の周りに残ったのはスリム・シェイディに共感して、さらに過激な表現を求める者たちばかり。そして、少しでも表現が丸くなると「エミネムはオワコンだ」と彼を見捨てるのだろうとすら感じていたのかもしれません。

このように、エミネムは「スリム・シェイディ」としてファンの期待に答える作品(世間から評価されやすい)と、「スリム・シェイディ」によって失った自分の平和な生活を取り戻すかのような前向きな意欲作(世間からは評価されにくい)の間を行き来するような音楽活動を行なっているのです。

そして、今回の"Kamikaze"はスリム・シェイディ色の強い楽曲です。

エミネムがスリム・シェイディを前面に押し出すということは、それが自分のプライベートな生活を不幸に導くことを分かっていながらも、口撃的な歌詞を書いているということを示しています。

これこそが「カミカゼ特攻隊」だと彼が歌う理由なのではないでしょうか。

さて、それでは歌詞の内容をみていきましょう。

イントロ

Okay, how do I say this? (fack, fack, fack)
Last year didn't work out so well for me
(fack, fack, fack) (fack last year)
2018, well (fack, fack)

【意訳】
オッケー、どう言えばいいんだろう
去年は、俺にとってあまり良い一年ではなかった
(クソ、クソ、クソ、去年とかクソ)
2018年は、まぁ(クソ、クソ)

1バース目

Yeah, I'm a fuckin' kamikaze crashin' into everything
You beat me, Islamic Nazi, that means there is no such thing
I've been goin' for your jugular since Craig G "Duck Alert"
Wedgie in my underwear, the whole bed sheet and the comforter

【意訳】
そうさ、俺はカミカゼ、何にでも突撃するぜ
お前が俺に勝ったって?イスラム風ナチス、つまりそんなものはないってこと
俺はお前の喉を狙ってる、クレイグGが"Duck Alert"でラップしてからずっとさ
俺は下着だけじゃなくて、ベッドのシーツと掛け布団までケツに食い込んでるぜ

クレイグGというのは、エミネムが尊敬するラッパーの一人です。エミネムの希望で、エミネムが主演を務めた自伝的映画『8マイル』の作中で行われるラップバトルの歌詞の大部分は、クレイグGによって書かれたようです。

過去にMarley MarlというプロデューサーがクレイグGを客演に呼んだ"Duck Alert"という曲があり、ここではそれが言及されています。

Stuck up in my rectal crack, kiss my disrespectful ass
I'll ride through your cul-de-sac
Window cracked, bumpin' your reference tracks
You collaborative effort rap, I have never said his raps
Overstayed my welcome, stepped in crap
And ruined your welcome mat

【意訳】
直腸のひびに挟まって、俺の汚いケツにキスをしやがれ
お前の行き止まりを通り抜けてやる
窓はひび割れて、お前の関連トラックに衝突する
お前は協力的なラップをする、俺はあいつのラップをしたことがない
俺が歓迎する以上に居座りやがって、ひどい場所に足を踏み入れた
そうやって、玄関マットを台無しにしたんだ

先ほどからスリム・シェイディらしい、下品なリリックが並んでいます。

So spit that shit from the heart, you didn't write like you wrote it
While I teabag the microphone 'cause I go nuts on it
Like a fighter jet lined with explosives that'll strike any moment
Headed right at opponents and I'm the fuckin' pilot that flown it
I'm 'bout to—

【意訳】
だから、心からスピットしろ、お前は自分の言葉を書きとめてない
俺が狂ってマイクにキンタマを置く間
爆発物を積んだファイタージェットのように、いつでも攻撃できる
照準は敵に直で向けられていて、俺がそのパイロット
俺は今にも

昔ながらのファン向けの下品な比喩などが続く中で、この曲ではエミネムが他のラッパーに対して口撃していることが伝わってきます。

多くのラッパーが自分の心からの歌詞を書いていないという批判を行なっているようです。(アメリカのヒップホップシーンでは、マンブルラップと呼ばれるスタイルなど、若い世代の新しい音楽が流行っていますが、その内容は表面的で中身のないものが多いと、旧世代から非難されることが多くなっています。)

サビ

Smash into everyone, crash into everything
Back and I've just begun, "FACK" 2017
Fack, fack on everyone
Fack, fack on everyone
Fack, fack on everyone
I'm a Kamikaze, gonna

【意訳】
みんなに突っ込む、全てに突っ込む
俺は過去に戻って、2017年なんて"FACK"さ
全員FACKだ、全員FACKだ、全員FACKだ
俺はカミカゼ

"FACK"というのはエミネムが過去にリリースした楽曲です。

「FUCK」という言葉は放送禁止用語のため、これを「FACK」に言い換えているのです。

全ての物事に攻撃を加える意思が歌われています。

Smash into everyone, crash like an F-15
Damage already done, y'all shoulda let me be
Fack, fack on everyone
Fack, fack on everyone
Fack, fack on everyone
I'm a Kamikaze, gonna

【意訳】
全員に突っ込む、F15みたいに衝突する
ダメージはもう与えられた、俺を自由にさせてくれ
全員FACKだ、全員FACKだ、全員FACKだ
俺はカミカゼ

2バース目

I turned to rap 'cause it made me feel tough when I wasn't (wasn't)
From the moment I heard rap was cussin', I was in (was in)
Which is why I identify with the guy
Who I was invented by, Dre's Frankenstein
Energized like a nine volt, ice cold
Like Snake Eyes, twice in a row on a dice roll

【意訳】
俺がラップに向き合ったのは、自分がタフだって気分にさせてくれたからだ
ラップの悪口っぽさに触れた瞬間、俺はそれにハマってた
だから俺は自分を生み出した人間に、自分を重ね合わせた
Dr.Dreのフランケンシュタイン野郎さ
9 voltのようにエネルギーを浴びて、氷のように冷たい
まるで1のゾロ目が2回連続で出たみたいさ

ここでは、エミネムが自分がラップにハマった原点を振り返っています。

精神的に大人になったり、スリム・シェイディの代償に苦しんだ中で、大人向びた曲もつくるようになったエミネムですが、自分の原点を振り返ると「攻撃的でタフなラップが自分に勇気を与えてくれた」というのがあるので、エミネムはたびたび「スリム・シェイディ」に立ち返るのでしょう。

Dr.Dreというのは、アメリカの西海岸を代表するラッパー兼プロデューサーであり、エミネムを発掘して世に送り出した恩人です。

ここでは、Dr.Dreをエミネム(自分)という怪物を生み出したフランケンシュタイン博士に例えています。

But if the only reason I blowed is 'cause I'm white though
Why don't every other white rapper sell what I sold? (ooh)
Kamikaze pilot, I wrote my suicide note
Here come the guys in white coats tryin' to stop me
'Fore I jump behind the controls and try to fly into foes

【意訳】
だけど、もしも俺の人気が爆発した唯一の理由が白人だからって言うなら
なんで俺以外の白人のラッパーは、俺ほどの売上がないんだよ?
俺はカミカゼ特攻隊、遺書は書き残したぜ
白いコートを着たやつらが、俺を止めようと現れる
俺が操作卓の前に座って、敵に突っ込もうとする前にな

エミネムは白人だから成功したと言われることが多いアーティストでもありますが、そうした批判に対して、だったら他の白人のラッパーが自分ほど売れてないのは何故だと切り返しています。

'Cause I'm takin' y'all with me when I go cyclone
I don't think this typhoon's lettin' up any time soon, here I go
Eyes closed, blindfolded, I'm 'bout to—

【意訳】
だって、俺は自分が暴風雨になるとき
この台風は長引くだろうって思うんだ、行くぜ
目を閉じて、何も見えない、俺は今すぐに...

3バース目

I heard your freestyle on Shade 45, that shit was embarrassing
There is no way we ever air that shit again, I guarantee
That way that shit was so ass it's somethin' we wouldn't dare re-air
The shit's embarrassing as me rear-ending Tara Reid bare

【意訳】
お前がShade45で演ったフリースタイルを聞いたぜ、恥ずかしい内容だった
二度と放送されないだろうな、保証してもいいぜ
本当にクソすぎて、俺たちが二度と放送しないものだった
タラ・リードとバックでヤッてるくらい恥ずかしい内容だった

この部分は誰に向けた攻撃かはわかりませんが、フリースタイルが下手だったラッパーに対して、攻撃を加えているものと思われます。

タラ・リードは、アメリカの女優です。

画像1

In my therapy chair, my dick is the hair length of Cher
Each nut is the chair width of an acorn, stairlift beware of me
Lyrically I'm terrible, better get your lyrics prepared
Richard Ramirez is here, serial killin' every beat there is

【意訳】
俺はセラピー椅子に座っていて、俺のちんこはCherの髪くらい長い
俺のキンタマはそれぞれが団栗ほどの大きさだ、俺を持ち上げるときは気をつけろ
俺は本当にひどい、お前の歌詞を用意しておくんだな
リチャード・ラミレスがやってきたぜ、ビートを全部殺してしまう

Cherはアメリカの女性歌手です。

画像2

リチャード・ラミレスというのは、実在した連続殺人犯です。

ヒップホップの世界では、ビートにバッチリとハマった素晴らしいラップをすることを「ビートを殺す」と表現しますが、エミネムがその高いスキルでビートを次々と「殺す」ので、自身を連続殺人犯に例えています。

アウトロ

Wait, wait, got the eeriest feelin'
Somethin' evil is lurkin', I'm no conspiracy theorist
But somethin' here is afoot—oh yeah, it's my dick
Get the measurin' stick (what?), twelve inches of wood

【意訳】
待て、待て、不気味な気持ちだ
邪悪な何かが漏れている、俺は陰謀論者ではないぜ
だけど、ここにある1footのもの、あ、俺のちんこか
まるで12inchの計測棒さ

Wait, but I've been goin' for your jugular since Craig G "Duck Alert"
And I've come to pay respects
'Cause if you sleep you're fucked—other words
You get laid to rest and I hope your butt is hurt
Put me on a track, I go cray on it like a color book

【意訳】
待てよ、俺はお前の喉を狙ってる、クレイグGが"Duck Alert"でラップしてからずっとさ
俺はリスペクトを払うところまで来た
だって、眠るってことはヤられるってことだ
言い換えれば、横になれば死ぬことになる
お前のケツが痛んでることを望んでるぜ
俺をトラックに乗せてくれ、俺は塗り絵みたいにめちゃくちゃになる

ここの部分は、ナズというラッパーの有名な歌詞である「眠りは死の従兄弟だ」という表現から着想を得たラインが並んでいます。

You got some views, but you're still below me
Mine are higher, so when you compare our views, you get overlooked
And I don't say the hook unless I wrote the hook
And now I'm just freestylin' in the vocal booth

【意訳】
お前はいくらか再生数があるみたいだけれど、未だに俺以下の存在だぜ
俺のはもっと高い、だから俺たちの再生数を比べたら、お前は見落とされる
俺は自分がサビを書いてなければ、サビを言わないぜ
今はボーカルブースの中でフリースタイルをしてる

ここら辺からは歌詞の通り、フリースタイルになっているようで、あまりしっかりとした内容があるわけではなさそうですが、ゴーストライターなどを使うラッパーに対して、自分でサビを書いているとマウントしているようです。

And you know I've always spoke the truth
You lyin' through your teeth so much you broke a tooth
And it ain't somethin' I need a phone to do
When I say I can't wait 'til I get a hold of you
And I don't know what I'm s'posed to do
Line up the rappers, take my pic like a photo shoot

【意訳】
知ってるだろ、俺は常に真実を話してきた
お前は歯の間から嘘をつきすぎて、歯が折れちまったようだな
俺は歌詞をメモしたスマホがなくたって、こうやってラップをするぜ
お前に飛びかかるのを待てないって俺が言うとき
俺は何をすべきかを分かってもいないんだけれど
ラッパーを一列に並べてくれ、写真を撮るみたいに、どいつから狙うかを決めてやるよ

過去にドレイクというラッパーが、ラジオでフリースタイルを披露した際に、実はスマートフォンに書かれた歌詞を読んでいたという写真がリークされたことがあります。

今回、エミネム陣営は「ドレイクをディスった訳ではない」と明らかにしていますが、最近のフリースタイルをしないラッパー全般に対して、フリースタイルのラップバトル上がりのアーティストとしてのプライドから、こうした歌詞を書いているのでしょう。

誰からでも攻撃してやるという内容で締めくくられています。

ということで

エミネムの最新作から"Kamikaze"の解読でした。

エミネムの過去のスリム・シェイディ全盛期の曲を聞いたことがない方は、ぜひ聞いてみてください。

また、一人の人間としてのエミネムが前面に出ていた前作アルバム『Revival』の楽曲なども解読しています。ぜひお読みください。

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