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アントレプレナーシップを持った二人の“気分”を読む。 (Nipsey Hussle & JAY-Z - "What It Feels Like")

Writer: @vegashokuda

こんばんは。甜達麻のBADSAIKUSHです(違)。

米国では映画『Judas and the Black Messiah』が2月12日より公開中!ということで、同時に同作のインスパイア盤『Judas and the Black Messiah: The Inspierd Album』がリリースされています!

肝心の映画はというと、ブラックパンサー党のイリノイ州支部でチェアマンを務めたフレッド・ハンプトンに関するもののようです。これはぜひ日本でも観たいですね!

というわけで、今回はインスパイア盤に収録されている故ニプシー・ハッスル(Nipsey Hussle)とジェイ・Z(JAY-Z)の「What It Feels Like」という曲の歌詞を解読していきます。

後段でも触れますが、この曲におけるニプシーのバースは2013年、ミックステープ『Crenshaw』リリース前の時期に録られたもののようです。

今回解読する曲
Nipsey Hussle & JAY-Z - "What It Feels Like"
Prod. by Rance, 1500 or Nothin, Mike & Keys, MYGUYMARS

フック(Nipsey Hussle)

And this is what it feels like (Feels like, feels like)
And this is what it feels like (Feels like, feels like)

和訳:
こんな気分だ
こんな気分だ

1バース目(Nipsey Hussle)

Look, the only reason I survive 'cause a nigga is special, first
You get successful, then it get stressful, thirst
Niggas gon' test you, see what your texture's worth
Diamonds and pipes, one of 'em pressure bursts

和訳:
なぁ 俺が生き残る唯一の理由は まず俺が特別だから
成功するとストレスフルになり 飢え渇く
お前は試されるだろう お前がどれほどのものか
ダイヤモンドとパイプのどちらかが圧力で破裂する

【解説】

3行目の"texture"は「手触り」などの意味でよく用いられますが、ここでは「特性」「本質」といった訳が当てはまりそうです。

ダイヤモンドは地中で長い年月をかけて圧力がかかり生成される一方で、同じだけの圧力がパイプにかかれば破裂してしまいます。また、"diamond"はコカインなどのドラッグを指すこともあるため、その吸引具である"pipe"がその縁語となっています。

Street nigga, still I get checks, in spurts
I'm from Peach but before I get pressed, I murk
Better days pray for but expectin' worse
At this level, bullshit, I'm just less concerned

和訳:
ストリートの野郎 今でも俺は猛烈に稼いでる
俺はピーチからやってきたけど やられる前にやるぜ
よりよい日々を祈るけど 悪くなりそうだ
もはやクソみたいなことは気にかけないけどな

【解説】

2行目の"Peach"について解釈を何通りか考えました。

1. "Peach" = 「ジョージア州」説
米国ジョージア州はPeach Stateという別称を持つため、これを指すことが考えられます。ただ、ニプシーはご存知のとおりLAはクレンショー出身ですし、『Judas and the Black Messiah』で描かれてるフレッド・ハンプトンも出身はイリノイ州サミット、活動の拠点としていたのはシカゴのようです。アトランタ出身の誰かになりきったバースなのでしょうか?

2. "Peach" = 「いい女」説
"peach"には「素敵なプッシー」といった意味があるそうです。自らの母親を魅力的な女性だと称賛しているのかもしれません。ただ、その場合は"peach"が無冠詞単数で使われることは考えにくいですし("peach"は可算名詞)、そもそも母親を性的魅力に溢れる人だと発言することも、普通の感覚ではあまり考えられません。"peach"には他に「素敵な人」という意味もあるようなので、これを適用すれば少しは違和感が薄らぎますが、依然として無冠詞単数の謎が残ります。

3. 「ニプシー・ハッスル=桃太郎」説
現実的に考えにくいものの、こう考えれば全てがしっくりくる、というのがこの説です。ニップが自らを桃太郎になぞらえているのであれば、"I'm from Peach"はこの上なく正確な自己紹介となりますし、その場合、桃は桃でもきわめて特殊な桃から生まれているので、"Peach"と固有名詞扱いし無冠詞単数で用いていることも自然に理解できます。

他の解釈を考えついた方、ぜひコメントください。なお、2行目最後の"murk"は一般的には名詞で用いられますが、スラングとしては「叩きのめす」という動詞の意味を持ちます。「(桃のように)潰される前に俺が叩きのめしてやる」くらいの意味でしょう。

Cruisin' in the 6, lookin' at the proceeds of rap music on my wrist
Drop another mixtape, my shit boomin' out this bitch
Young Malcolm, I'm the leader of this movement out this bitch, look

和訳:
6に乗り ラップ・ミュージックの進歩を俺の手首に見ながら
またミックステープを出す 俺の曲がこの車から轟いてる
若きマルコム 俺がこのムーブメントのリーダー

【解説】

1行目の「6」ベンツのS600シリーズを指すことが多いですが、他にも
 ・ 自分のシマ(ニプシーはRollin' 60 Crips出身)
 ・ トロント(ドレイクがよく言うやつ)
などの解釈が考えられます。「手首」に巻かれるのは腕時計なので、腕時計がレベルアップするごとに自分に進歩を実感しているという意味でしょう。

2行目の「ミックステープ」は、ここでは『Crenshaw』を指すと考えられます。というのも、このバースは先述のとおり同作リリース前に録られたものだからです。ちなみに、この『Crenshaw』をニップが無料でリリースしながら100ドルでも販売し、それを本曲で共演しているジェイ・Zが100枚購入した話は有名です。

3行目の「マルコム」はもちろんマルコム・Xのことで、ニプシーは自らを偉大な歴史上の公民権運動家になぞらえています。

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