エンタメ業界の黒人像と現実の乖離や銃社会を歌うガンビーノを読む。(Childish Gambino - "This is America")

writer:@raq_reezy

チャイルディッシュ・ガンビーノの新作「This is America」のミュージックビデオが公開され、その衝撃的な内容が話題となっています。

YouTubeの再生回数は公開から3日で3,000万回を突破しており、注目度の高さを伺わせます。

このミュージックビデオは、ドナルド・グローヴァーが製作総指揮と主演を務める『アトランタ』というテレビドラマの映像監督を務めるヒロ・ムライ氏が撮影しています。

さて、コミカルに踊るドナルドと子どもたちが不気味なこのミュージックビデオで、ガンビーノは何を訴えようとしているのでしょうか。

さっそく内容を見ていきたいと思います。

ブリッジ(Childish Gambino, Young Thug)

この曲は明るいイントロから、楽しそうなブリッジに入るところから始まります。

ミュージックビデオでは、上半身裸のドナルド・グローヴァー(以下、ドナルド)がコミカルに踊っています。

ちなみに、説明なしに来ましたが、ドナルド・グローヴァーというのは、チャイルディッシュ・ガンビーノの本名です。チャイルディッシュ・ガンビーノは、ドナルドのラッパー名義だということです。ドナルドは、コメディアンや脚本家、俳優としてキャリアを築いた人物で、その後、音楽にも進出したため、少しややこしくなっています。

ということで、以下、ミュージシャンという意味ではガンビーノ、映像に登場している人物としてはドナルドという風に書き分けますが、同一人物であるということで、よろしくお願いします。

We just wanna party
Party just for you
We just want the money
Money just for you

【意訳】
俺たちは、ただパーティーがしたい
君のためだけに、パーティーをしたい
俺たちは、ただお金が欲しい
君のためだけに、お金が欲しい

「パーティーをしたい」、「お金が欲しい」というのは、陽気でハッピーな、エンターテインメントの世界でのステレオタイプな黒人像を象徴した表現になっています。

I know you wanna party
Party just for me
Girl, you got me dancin' (yeah, girl, you got me dancin')
Dance and shake the frame

【意訳】
君もパーティーをしたいんだろ?
俺のためだけに、パーティーをしてよ
君を見てると踊っちゃうよ(そうさ、君を見てると踊っちゃうんだ)
踊って、身体を揺らしてくれ

このように「パーティー」や「お金」といった要素が強調されていますが、これは後に現実との対比として描かれていきます。

「黒人に期待されるステレオタイプのキャラクター」をエンターテインメントとして演じることへの疑問符は、今年の4月に新作アルバム『KOD』をリリースしたJ.Coleも提示しており、近年のアメリカのコンシャスなラッパーたちにおける一つのテーマともなりつつあるようです。

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さて、最近の流行に乗るということは、現在のシーンではどういうことなのでしょうか。
それは、先ほど書いたように、世の中や社会にまじめに向き合うのではなく、ドラッグなどに溺れる様子をラップするということです。
そして、そうした音楽を求めているのは誰かといえば、それは白人の子どもたちだとJコールは見ているようです。
昔のギャングスタラップも、白人層が「黒人が演じるエンターテインメント」として消費したことで売上が伸びたという話がありますが、いつの時代も同じようなことが繰り返されるようです。
「黒人が反社会的なキャラクター像を演じること」をエンターテインメントとして白人が消費するという構造について、Jコールは見抜いているのでしょう。

さて、エンターテインメント業界の在り方を描いた陽気なブリッジが展開されてきましたが、MVでは突如ドナルドが椅子に座らされた人間を殺害する衝撃的なシーンが映ります。

テレビやYouTubeの中の世界は陽気でパーティーだらけであっても、現実を見ると銃による事件が絶えないというアメリカの現状を象徴したシーンになっています。

また、ラップ・ジーニアスでは、このシーンにおけるドナルドの姿勢は「ジャンプ・ジム・クロウ」を意識したものではないかという点も指摘されています。(真相は定かではありません)

「ジャンプ・ジム・クロウ」というのは、白人のエンターテイナーであるトーマス・D・ライス(以下、トーマス)がブラックフェイスで演じた黒人キャラクターおよび歌です。トーマスは、オハイオ州に赴いた際に現地で黒人の障がい者が踊っているのを見て「ジャンプ・ジム・クロウ」の着想を得たようです。トーマスの「ジャンプ・ジム・クロウ」の流行によって、ブラックフェイスによるエンターテインメントが世界中で頻繁に行われるようになっていきます。

ブラックフェイスは、昨年末の「ガキの使いやあらへんで」でも騒がれた話題ですが、黒人以外の人間が顔を黒く塗って、黒人を誇張して演じるというものです。

しかし、その演じ方などが人種差別的であるとして、アフリカ系アメリカ人公民権運動により終焉していきました。

ここからも、黒人を特殊なエンターテインメントのコンテンツとしてアメリカが消費しているのではないかという問題提起を読み取ることができるでしょう。

サビ(Childish Gambino)

射殺シーンで、曲調がまるっきり変わっていまいます。

先ほどまでの「陽気なエンターテインメントの世界」との対比で、現実世界のアメリカが描かれます。

This is America
Don't catch you slippin' up
Don't catch you slippin' up
Look what I'm whippin' up

【意訳】
これがアメリカだぜ
うっかりしてるなよ
うっかりしてるんじゃねえぞ
俺が何を鞭打ってるかを見てくれよ

コメディ風にドナルドが踊る後ろでは、死体が片付けられています。うっかりしていると事件に巻き込まれて死んでしまうぞと警告しています。

また、「whip up」には文字通り鞭を打つという意味の他にも、何かを起こすという意味があるようです。ガンビーノは、アメリカ社会で未だに黒人が苦しんでいる様子を「鞭を打つ」という表現で連想させると同時に、自身の曲による問題提起で世間に変化を起こそうとしているということになるのでしょう。

1バース目(Childish Gambino, Blocboy JB, Young Thug, 21 Savage)

バース部分に入ると、21 Savageを始めとした、たくさんのアーティストが参加していますが、彼らは基本的にアドリブ(「ホッ!」「イエア!」などといったガヤの意)を周囲で入れており、バースのラップ自体は全てガンビーノです。

This is America (skrrt, skrrt, woo) ayy
Don't catch you slippin' up (ayy)
Look at how I'm livin' now
Police be trippin' now (woo)ayy, ayy)

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