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鳥かごの鍵 32

離婚して1年が過ぎた。

あの白い大きな家は売って、
元旦那さんは恋人とマンションに住んでいるけど、
最近は別れ話が出ているらしい。

私は息子と郊外のマンションに引っ越して来た、
自然の多い場所で息子も気に入っている、
昔よりゲームをやる時間が減り、
外に遊びに行くことが多くなった。

私は昔の家で唯一好きだった庭がなくなり、
狭いベランダで花を育てるだけでは物足りなくて、
近所の園芸ショップで働き始めた。

昔のようにイライラして息子に八つ当たりすることもなくなり、
穏やかな日々の繰り返し。

「お母さん、いってきます!」

「いってらっしゃい、気を付けてね。」

今日も良いお天気。

私は支度をして仕事に向かう。

玄関の鍵を閉めて、自転車に乗る。

家の鍵には前の家の庭に落ちていた三日月のキーホルダーが付いている。

結局、誰が主人の浮気現場の写真を撮ったのか、
わからないままだった。

元旦那は私が興信所に頼んだと思っているようだけど、
もちろん私は頼んでいない。

私は前の大きな家に引っ越した時に、
この家に合うような、
きちんとした妻で母親にならないといけないと、
自分で自分に魔法をかけていた。

私は一生懸命、母親という型に自分をはめようと頑張っていた、
そして主人や息子にも父親なら、子供ならとそれを強要していた。

あの家での生活は窮屈だった。
自由があるようで無い、
鳥かごの中の鳥のような生活をみんなでしていた。

あの三日月の形のキーホルダーは、
鳥かごの鍵だったのかもしれない。

あの夢とキーホルダーのお陰で私は自由になれた。

月は本当のお月様で私をあの鳥かごから解放する為に夢に出て来てくれたのかもしれないと私は本気で考えていた。

今の私は大好きな草花に囲まれた仕事をしている。
仕事は大変だけど、楽しい毎日だ。

「おはようございます!」

「星野さんおはよう、丁度よかった!来たばかりで悪いんだけど、
花束の注文なんだ、今、手が離せなくて変わりにお願いしてもいい?。」

「はい、わかりました。」

「じゃお客様レジにいるからお願い!」

そう私は離婚して、
旧姓の星野の戻り、星野あかりという名前になった、
昔のアイドルみたいな名前であまり気に行っていない。

レジに行くと男の人が花を見ている。

「花束希望のお客様ですか?」と聞くと、

「はい、お願いします。」と振り向いたその男性は月だった。

つづく

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