11月くらいの朝の散歩

ゴミ捨てに寝間着のまま外に出たら、朝のひんやりとした空気と温かい陽の光が心地よい覚醒をくれたので、散歩することにした。

駅とは反対方向へ歩く。引っ越してまもないので、この方面へと歩くのは初めてだ。緩やかにカーブしている片側一車線がJRの線路と並走していることを知った。道路も線路もそのままトンネルへと入っていく。ぼくは、トンネルには向かわず、山を登ってみることにした。

山道は舗装されていて、傾斜が始まるところには大きな山門があった。寺があるらしい。とくに歩道はなく、車どうしが容易にすれ違える程度の道幅がある。道路脇まで伸びている草木もなく、手入れは行き届いているが、朝陽を受けた緑の反射がまぶしい。

それなりの坂道で、すこし息が上がる。途中、山を下ってきたひとりの女性とすれ違う。サンバイザーの下の表情は伺えないが、真っ赤な口紅が印象的だった。軽く会釈をしてみたが、気づいてもらえなかった。

傾斜はやがて平坦な空間につながり、そこで道が三方向に分かれる。ひとつは本堂への入口らしい。もうふたつは頂上につながるのだが、ひとつは歩行者用の階段で、もうひとつは車道だ。ぼくは階段を行くことにする。階段を上りはじめると、下っていく赤のアルファロメオが目の左端に入った。

山の稜線に沿って百段くらい上がると、そこには石碑があった。かつて、ある坊主が宗派争いから逃れるべく、この山へやってきたと書いてある。その坊主は山猿に誘われ、この山を登った。ぼくがいま上ってきた道は、彼の道行きと軌を一にする。

石碑の向こうは広い窪地になっている。手前には何十基もの墓があり、奥には巨大な岩窟がそびえる。墓と岩窟のあいだには、芝生がはえている。先の坊主は、あの岩窟でほとぼりが冷めるのを待ったのだという。

反対側に目を転じると、そこには海が広がっている。緩やかな湾になっている海岸には、穏やかな白波が寄せている。海沿いの車道は勢いよく流れている。30分ほどしか登っていないのに、ずいぶんと高いところまで来た。争いから逃れるわけでも、山猿に案内されるわけでもなく、寝間着姿のぼくは、なんとなく、朝の陽気に誘われて、この景色を見ていた。

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