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母と息子のボーナスタイム

いつだって、そういうものは心の準備のないときに、ふいっとやってくる。

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我が家の寝かしつけは、時間差制だ。
1歳娘と3歳息子、体力やらなんやらをまるっと考えて試行錯誤した結果、それが現時点での最適解。

基本のフォーメーションは夫が息子担当、わたしが娘担当。
わたし達はだいたい20時を目処に、リビングの隣の寝室に行く。そして娘のにおいを胸いっぱいに吸い込みながら、おはなししたり、歌を唄ったり、ときには授乳を挟みつつ、身体をさすさすトントンしながら娘の眠りを誘う。
だけど薄暗い部屋のなかでゴロゴロしているとどうなるか、みなさんおわかりだろうか。
なんと!これが寝ちゃうのだ。
かわいい息子が布団にやってくるのも見届けず、寝ちゃうのだ。
これが小児科で夜勤をしているとき、患者さん(幼児)をトントンしているとふっとあちらの世界に趣いてしまい、ハッっと気がついたときには患者さんにそっと見守られていたという逸話をもつ、わたしの実力である(ちなみにちょっとだけヨダレも垂れてた)。
たぶん、アレよ、すべては子どものにおいに含まれてる癒し成分のせい。

そんな日々のなか、奇跡の生還を果たした時に訪れる息子との時間。これをわたしはボーナスタイムと呼んでいる。
娘が生まれて以降、なかなか取れない息子だけに集中できる貴重な時間でもあるので、本来は寝る前のルーティンとして2冊と決めている絵本も「もういっさつ!」と言われればホイホイ読んでしまう。
歯磨きはサービス過剰気味にシャコシャコ磨き、電気を消すのも神輿のごとくワッショイワッショイ抱っこしながら消す。
部屋を暗くしたらお布団にごろごろして、息子のにおいをスンスンと思う存分胸いっぱいに吸い込む。
保育所でのことやお友達のこと、最近息子がハマっているもののおはなしをしながら、頭や背中をさすさすする。
至福。至福でしかない。

近頃は『危険生物』の図鑑にハマっていて、それに出てくる生き物を家族で喩える、というのがお気入りだ。
「まころ(息子)はアオザメ、きぷく(娘)ちゃんはトラザメ、おとうちゃんはホホジロザメ、おかあちゃんはジンベイザメ」
ほうほう、なんか大きさとかも考慮してのセレクトやな?うちの子、天才かもしれへん…。
「まころはヤマカガシ、きぷくちゃんはニホンマムシ、おとうちゃんはハブ、おかあちゃんはオオアナコンダ」
うん。あれ?おかあちゃんはデカイのばっかりやな…?えっ、態度のせい…?
こんな可愛い話を聞くのも、至福。至福でしかないのだ。ニヤニヤしてしまう。…なんかデカイけど。

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先日、娘を寝かしつけたあとほどなくして、息子と夫が寝室にやってきた。
娘がぐっすり寝ついたのを確認して、息子のところへスライドする。

ひとしきり息子を吸って撫で回したあと、ふと息子に「お風呂入ってきていい?」と聞いてみる。するとあっさり「いいよ」と言うのだ。
「え…?ほんまにいいん?ひとりで寝れる?」と食い下がるわたしをよそに、「おかあちゃんおふろはいってきて!!」と半ば強引に押し出される。

束縛がツライと言いつつも、ダメって言われるのを心の底では待っている彼女の心持ちで、悶々としながらお風呂に入る。
前にもこういうシュチュエーションがあったけど、そのときは途中で「おかあちゃーん」って呼びに来てくれたやん?と思い返す。

だけど寝室に戻ると、すやすやと寝息をたてて眠る息子がいた。

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考えてみれば、普段から彼はおとうちゃんと寝ているのであって、おかあちゃんの存在が確認さえできれば大丈夫な域にまで達していたのだ。
自分が作り出した状況なのだし、眠い中無理矢理起こされることがないのはありがたい。
そして何よりも成長しているのだという証が、そこにある。

子って親の気づかないうちに、飛びたっていくもんなんだね。

ここまで読んでくれたあなたは神なのかな。